<海外情報>

スウェーデンの事務系労働組合連合が携帯電話電磁波基準の設定を準備中

マイクロウェ-ブニュ-ス2000年11・12月号より
(抄訳・TOKAI)

ガイドラインはVDTの規制基準から
 スウェ−デンのホワイトカラ−(事務系)労働者の労働組合連合組織(TCO)が携帯電話からの放射線(電磁波)基準を提案しようとしている。
 TCOはVDT(パソコンやワ−プロなど画面をもつコンピュ−タ機器)から出る電磁波の規制基準を設けたことで世界的に知られている。そのTCOが今度は携帯電話でも同じように防護基準を設ける、とTCOの啓発部門の責任者ヤン・ル−ドリング(Jan Rudling)が明らかにした。

米国より厳しい基準値となるであろう
 TCOはSAR[末尾の事務局注を参照のこと]の基準値はまだ明らかにしていないが、米国SAR基準値(組織1g当たり平均1.6W/s)やICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)の基準値(組織10g当たり平均2.0W/s)より厳しいSAR基準値になるであろう。
 「米国や欧州の基準値よりはるかに低いものとなる」とシカゴにあるTCO情報センタ−のクレア・ホビ−(Clare Hobby)は断言した。そして市場に出回っている携帯電話のSAR値が厳しいのから甘いのまで様々であることをホビ−は指摘した。

VDTとケ−タイの違いはどこか
 VDTと携帯電話の大きな違いは、VDTは副次的に放射線(電磁波)が出るもので原則的にはゼロ基準値にすることが可能である。これに対し無線電話は信号波を放射しなければ機能しないことである。そのため「TCOは厳しい基準値を求めるが、無線電話の機能の効力を危うくすることまでは望んでいない」とホビ−は答えた。
 TCOはSAR値の計測方法についても決めるであろう。CENELECやIEEE(米国電気電子技術者協会)も計測方法を決めているので。「どんな計測のための実施要綱を使うとしても、行政や企業から独立した研究所が、TCOの評価を得 るため、携帯電話の測定するであろう」とホビ−は語った。

TCOのVDT基準の経過
 VDTに対するTCO規制基準は1992年に初めて出た。これは、VDT端末機からの放射線(電磁波)が健康に悪影響するのではと考えられる科学的な不確定要素の存在や人々の広範な不安が広まったためである。この基準づくりはTCOのル−ドリングの前任者であったパ−・エリック・ボイビ−(Per Eric Boivie)の発案だった。
 ボイビ−は1990年に出たスウェ−デンのVDTガイドラインである「MPR−U」の策定に中心的な役割を果たした人物である。「MPR−U」は事実上、世界標準の基準になった。
 「MPR−U」をコンピュ−タメ−カ−が厳密に守るようにするため、ボイビ−は「人体への安全な」数値よりむしろ「実行可能な」数値になるような「MPR−U」数値基準を要求した。(つまり「安全」な厳しい数値をつくってもメ−カ−が達成できなければ意味がないので、メ−カ−が技術的に到達可能な数値を要求した)。
 しかし一方で、ボイビ−はVDTから出る電磁波は少なければ少ない程いいと考えていたので、国内一般の基準である「MPR−U」より明確に厳しいTCO基準を作るよう導いたのである。TCOは1995年と1999年に基準値を改訂した。

TCO基準も世界に広まっている
 「MPR−U」もTCOも共に強制基準でなく自主的基準であるが、コンピュ−タメ−カ−は無視できない。TCOには150万人の労働者が加盟しているがその多くは政府に雇われている。そしてVDTの国内市場の多くを占めているのが政府だ。
 今日、欧州で売られるVDTの50%〜60%、そして米国で売られるVDTの35%〜40%はTCOの基準保証がついている、とル−ドリングは語った。TCO保証のないVDTも「MPR−U」の基準はクリアしている。

携帯電話のTCO基準もうまくいくか
 「TCOが設定する携帯電話の新しいガイドライン値もVDTでの成功と同じようにうまくいく」とボイビ−は語った。現在ボイビ−はストックホルムで労働健康コンサルタントをしている。
 TCO啓発部は携帯電話の新しい基準の草案を2000年12月初めに完成させる予定である。その後、携帯電話メ−カ−など利害関係者の意見を聞くことになる。そのうえで、2001年3月22日〜28日にドイツのハノ−バ−で開催されるIT貿易ショ−「CeBIT」で公表する段取りである。
 VDTでのTCO基準と同じく、携帯電話の基準でもSAR値だけでなくエネルギ−効率、人間工学手順、再生資源化率についても基準として入るであろう。
 「携帯電話へのTCOの関心は強まっている。それは職場での携帯電話普及が爆発的にすすんでいるからだ。携帯電話を仕事上のツ−ルとしている労働者の数は急速に増えている」とル−ドリングは語った。


<SARについて(事務局注)>
 Specific Abosorption Rate の略語で、 「特異吸収比」と日本語に翻訳している。 電磁波の生体に対する吸収率である。特に、携帯電話は頭部に密着して使用するのでこのSAR値が重要になる。高周波はホットスポット効果(熱集中効果)があるため電磁波の吸収量を単位体重当たり(例えば生体組織1gまたは10g)で吸収する熱量(W=ワット)で表す。
 SARは対象の物体によって吸収量は異なる(大人とこども、男と女、個々の頭の形でも異なる)ので、実際の測定はかなり困難である。組織1g当たりの値の方が、組織10g当たりより正確と言われており、「局所ピ−ク」より「局所平均SAR」の方が厳しいが、日本の郵政省は「組織10g当たり」と「局所平均SAR」を採用している。


会報第8号インデックスページに戻る