宮城県延岡市のKDDI携帯基地局操業停止裁判の判決


<裁判の結果について>

解説者:電磁波問題市民研究会・事務局長

被害者の声に背を向けた判決
 全国の基地局問題に取り組む住民たちから注目されていた、宮崎県延岡市の基地局訴訟で、2012年10月17日、宮崎地方裁判所延岡支部は、住民の操業差止請求を棄却する、不当な判決を出しました。電磁波問題市民研究会はこの判決に対し、後掲の通り声明を出しました。

「ノセボ効果」とはひどい
 判決は、症状は被害者のうそとは考えらず、基地局稼働後に発生したと認めています。それでいて、基地局電磁波との因果関係は認めないとしています。その理由づけとして、電磁波を受けているという、思い込みが症状を引き起こす「ノセボ効果」や、反対運動で症状意識が増幅された可能性があるとしています。ノセボ効果とは、偽薬でも効くと思いこむと効いてしまう「プラセーボ効果」のように、思い込みが症状を引き起こす効果のことです。反対運動が症状を増幅させたというに至っては、なにをかいわんやです。症状を訴える人が先に多く出たにもかかわらず、KDDIが誠意もって対応しないから、住民たちは提訴せざるをえなかったのです。その逆ではありません。

住民たちは控訴
 裁判官たちは、現地聞き取り調査もしました。それでもなお、このような不当判決を下したのは、基地局被害を認め操業停止判決を出した場合、国内外への影響を考え、その影響の大きさにたじろぎ、臆病になったためです。被害の事実に目をつぶり、自らの保身に走った判決です。
 2012年10月29日、住民原告と原告弁護団は、福岡高等裁判所宮崎支部に、判決を不服として控訴しました。被害者たちの苦しさを思うと、胸が痛みます。裁判所は逆に、基地局と症状は関係ないことを、科学的に立証すべきです。

<原告団の声明>

平成24年10月29日
原告団長・岡田澄太

 大貫町の住民は、この6年間、KDDI携帯基地局からの電磁波によって耳鳴り、肩こりや鼻血等の健康被害に苦しんできました。この間、住民一丸となって、あらゆる方策を講じて基地局の撤去を求めてきましたが実現に至らず、やむを得ず平成21年12月、裁判を起こしたのです。
 宮崎地方裁判所延岡支部は、最後の手段としてすがるような気持ちで起こした裁判の判決において、(1)本件基地局周辺には他に電磁波の発生源はなく、電磁波を発しているのは専ら本件基地局であること、(2)原告を含めて40人余りの住民が、基地局設置後に発生した健康被害を訴えていること、(3)各々が述べるとおりの症状が発生していること、(4)その症状は耳鳴り、頭痛、肩こり、鼻血、めまいなどが共通していることなどを認めながら、そのことから直ちに、それが電磁波による健康被害であると認定することはできないとして原告の請求を棄却しました。
 裁判官は、判決に当たって徹底的な真相の究明、当事者を思いやる心が求められているにもかかわらず、この判決にはそのかけらもありません。
 太田敬司裁判長以下3人の裁判官は社会の秩序を維持する重大な責務を担う「法の番人」としての矜持は持っていないのでしょうか。
 私たちは、時にはやけっぱちになったり諦めの言葉を発しようとする原告や住民を「裁判官は絶対に私たちの苦しい気持ちを分かってくれるはず」と励ましながら、3年間、裁判を続けてきましたが、その判決はわずか5秒で終わる、声も出ないほどのあっけないものでした。
 今日で苦しい日々は終わると考えていたのに、まだまだゴールの見えない、ゴールがないかもしれない苦しい毎日が続くと思うとやり切れない思いでいっぱいになります。判決直後、住民の一人が「家で待つ母ちゃんに何と言えばいいの、今日で楽になるからねと言って出てきたのに」というつぶやきに涙しました。
 私たちは、健康被害を認めながら「被害者を思う気持ち」を持とうとしない裁判官に対して激しい憤りを感じるとともに、今も、電磁波という「見えないムチ」で住民を日夜、たたき続けているKDDIを許すことはできないとして、控訴することを決めました。
 私は陳述でKDDIの行っている行為は犯罪そのものであり、KDDIは刑事事件の被告人として裁かれるべきであるといいました。今もその考えは変わっていません。私たち住民は今、民事事件の原告として、多大な時間と労力そして金銭的負担、精神的負担を強いられながら、そして電磁波による健康被害を受けながら、被告と対峠させられています。
 しかしながら、このような国民の生命に関わる問題については、国民の健康と安全を守る国の責務として国が行うべきことです。年間売上高3兆5千億円、営業利益5千億円になろうとする日本を代表する大企業と、力も組織もない住民を民事事件として法廷で争わせる日本の法律、裁判制度はフェアーではないのです。
 私たち大貫町の住民は電磁波という見えないムチに日夜、たたかれ続けて6年になります。もう限界です。
 私たちに何の責任があるのでしょうか。
 私たちに何の落ち度があるというのでしょうか。
 なぜ、たった1本の携帯基地局でこんな苦しみを私たちは受けなければならないのでしょうか。
 幼い子供がいる夫婦がいます。この夫婦が倒れたら幼い子供はどうやって生きていくのでしょうか。親の介護もしなければなりません。自分の生活も維持しなければなりません。このままでは仕事が続けることができない体となり、収入が途絶えてしまいます。不動産を処分しようとしても誰も買ってくれません。
 私たちはどうやって生きていけばよいのですか。
 私たちを助けてください。
 控訴審では私たちの「助けてください」という思いが伝わることを固く信じます。

<延岡携帯電話基地局撤去裁判の控訴に当たって>

平成24年10月29日
延岡携帯基地局撤去訴訟弁護団

 平成24年10月17日、宮崎地方裁判所延岡支部において、被告KDDIを相手にした携帯電話基地局撤去を求める裁判について、原告らの請求を棄却する判決が出された。
 この地裁判決は不当であるので、本日、控訴した。
 我々は、平成21年12月16日に提訴してから、原告及びその周辺住民の電磁波による健康被害を中心に被害立証を行ってきた。原告意見陳述、連日にわたる原告本人尋問、現場での進行協議期日、荻野証人尋問、宮田証人の書面による尋問、新城証人尋問などを行ってきた。原告らの健康被害が現れてきた経緯とその被害が深刻であること、多くの周辺住民にも健康被害が生じていること、国際的な調査で示された電磁波症候群と同様な症状であること、他の地域でも同様な健康被害が生じていること、健康被害が他覚的検査で裏付けられていることなどの間接事実を積み重ねてきた。
 そして、裁判所が、基地局設置後、原告らに次々と健康被害が発生してきたことは認めており、その点は評価するものである。
 しかしながら、裁判所の認定でも、欧州評議会議員会議(PACE)の勧告値の44倍もの高い数値が延岡で計測されていながら、また、環境医学の分野で先進的な研究をしている学者の知見も出されていながら、原告らの被害の具体的状況を目の当たりにしながら、裁判所は、思い込みや心理的なものとの立証がなされたわけでもなく、その可能性を指摘するだけで、電磁波と健康被害との因果関係を否定したことは、到底、納得できないものである。
 このような裁判所の姿勢は、事実から目を背け、被害を直視せず、司法の役割を放棄するものとして、断固、容認することはできない。
 日本では、公害事件、薬害事件などから多くの教訓を得てきたはずである。最近では原発訴訟の経緯で、司法の役割が果たされてきたのか裁判所の姿勢が問われている時代である。
 福岡高等裁判所宮崎支部において、今後も裁判は継続していくことになるが、裁判所には、事実を直視し、司法の役割を果たす審理をしていただき、一日も早く住民たちが元の平穏な生活に戻れるように、審理していただきたく切に希望する次第である。

<ノセボ効果と反対運動に関して>

平成24年10月29日
原告団長・岡田澄太

 判決理由として「電磁波を受けていると思うことが症状の出現の引き金に十分なり得るというノセボ効果」や「反対運動を通じて、電磁波の健康被害の不安を意識したことや、被告の対応に対して憤りを感じたことにより、症状に関する意識が主観的に増幅されていき、重くとらえるようになった者がいる可能性がある。」と述べている。 (ノセボ効果について)
 大貫町では基地局建設以来、200人を超える住民が耳鳴り、肩こり、鼻血や睡眠障害に苦しみ、被害者の中には小さな子供もいます。中には「もう死にたい」という人もおり、ここには住めないと言って転居した家族もいます。また本件基地局の隣のアパートに住む人は基地局が設置されていることすら知らなかったにもかかわらず異常な肩こりや鼻血に悩まされていた事実もあり、このことは原告外でありながら本人が陳述書を提出しています。
 このような事実を前にして、基地局周辺の200人を越える住民に発生している異常な症状の原因が「ノセボ効果」からくるものと結論付けられるものではないことは明白です。

(反対運動について)
 大貫町の反対運動は、基地局が建設されてから住民に健康被害が発生したことで、それを憂う区長を中心として住民が一つにまとまり基地局撤去運動をすすめてきたものです。
 この住民による撤去運動が、あたかも健康被害の発症の源の一つとの決めつけは断じて許すことができません。
 この判決理由は住民による埠車上財産を携帯基地局からの電磁波被害から守ろうとする純粋な運動を冒涜し抑圧しそして蹂躙するものであって、全国の基地局撤去運動をゆがめることにもなり決して許されるものでありません。
 裁判官は、なぜ大貫町住民が自治会の区長を中心にして結束して裁判まで起こすほどの基地局撤去運動をせざるを得ないのかという現実に目をそらしています。
 撤去活動の経験もましてや裁判の経験もない普通の住民が起こした裁判の基因について、真撃に向き合い真実を直視すべきです。

<延岡不当判決への声明>

2012年11月25日
電磁波問題市民研究会

 2012年10月17日、宮崎地裁延岡支部は延岡市大貫町の住民がKDDIを相手取り携帯電話基地局の操業差止めを求めた訴訟で、住民原告請求を棄却する判決を行った。
 延岡の基地局裁判は、基地局から発信される電磁波により周辺住民に健康被害が出ていることを争う日本で初めての裁判であり、その判決は全国の基地局反対運動に取り組む住民たちから注目されてきた。
 しかるに判決は、基地局設置後に住民の訴える耳鳴りや頭痛、鼻血などの症状が実際に出ていることは認めておきながら、その原因が基地局の電磁波かどうかは現時点で科学的な裏付けがない、として住民の請求を棄却した。
 症状があるのにそれが基地局電磁波と関係するとは限らない理由として、判決は「電磁波を受けていると思うことが症状の出現の引き金に十分なりうるというノセボ効果」や「反対運動を通じて、電磁波の健康被害の不安を意識したことや、被告の対応に対して憤りを感じたことにより、症状に関する意識が主観的に増幅されていき、重くとらえるようになった者がいる可能性がある」としている。つまり、思い込みや反対運動により症状意識が主観的に増幅されたため、というのである。
 原告側は、具体的な原告意見陳述、医師証人の書面尋問、延岡で起こっている症例は国際的な調査で示された症候群と同様であること、等々証拠を積み重ねて来た。ところが判決は、反対に「思いつき」であることの立証はしないで判決を下した。
 このことは、原告弁護団長がコメントしているように「原告の請求を認めた場合の国内外への影響を裁判官を考慮し、“結果の重大さ”におびえた結果」であり、臆病な判決以外のなにものでもない。
 原告側は10月29日、福岡高裁宮崎支部に控訴した。
 私たち電磁波問題市民研究会は、全国の仲間とともに原告たちの勇気ある、そして正義の闘いを全面的に支援する。


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