東京スカイツリーへの移転で大規模な受信障害
報告者:新東京タワー(東京スカイツリー)を考える会共同代表・網代太郎
2012年10月28日付毎日新聞報道によると、在京テレビキー局6社(NHKと民放)の電波送信所を東京タワーから東京スカイツリーへ移転させることが、当初予定の2013年1月から大きくずれ込む見通しとなりました。東京スカイツリーから電波を出した場合の電波障害対策に時間がかかるためとのことで、「スカイツリーはそもそも不要な物であり、スカイツリー移転により受信環境改善どころか、かえって受信障害が発生する」という、同会の当初からの主張の正しさが、改めて裏付けられました。
対策に最大100億円
報道によると、2012年7月から、6社が共同で東京スカイツリーから試験電波を出して受信状態のサンプル調査を始めたところ、電波が強すぎることやアンテナの向きが原因で、全く映らない世帯が、方角や地域に関係なく見つかったとのことです。NHKのある幹部は「2013年1月の移転は無理。アナログ放送と並行した地デジ化とは異なり、今回は一夜で行うため、それまでに難視聴世帯対策を完了する必要がある。2013年5月までに解決したいが、莫大な追加費用がかかる」と述べているといいます。さらに、「東京スカイツリーの電波障害対策には最大で100億円かかる」と2012年11月2日付毎日新聞が報道しました。
影響出ないと言っていた総務省
東京タワーから東京スカイツリーへ電波送信所を移す場合、電波のビル陰の方角が変わることによる新たな電波障害地域の発生や、視聴者がアンテナの向きを変える必要性、他の電波との混信の恐れなどが、当初から指摘されていました。
総務省は在京テレビキー局6社に対して2007年12月、新タワー移転に伴う影響の内容、規模及び程度や、それらへの対応策などについて翌年4月までに回答するよう求めました。
6社は連名により、2008年4月と7月に総務省へ回答書を提出し、これらを踏まえて総務省の奥放送技術課長は2009年1月に開かれた地上デジタル放送についての審議会で、「現時点においては視聴者への影響はほとんどないのではないかという見方である」と述べました。
影響ありの情報を隠す
本当にそうなのかを確認するために、筆者は総務省に対し、6社による回答文書などの開示を請求しました。しかし、文書の大部分は「当該法人の内部情報であり、公にすることにより、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため」などの理由により、不開示となりました。
納得できなかったので、2009年に情報不開示決定への異議を申し立て、情報公開・個人情報保護審査会で審議されました。テレビ各社はそれぞれ、審査会に情報不開示を求める意見書を提出し、その意見書には以下の通り書かれていました。
「(筆者が開示を求めた)提出資料には、2008年4月及び7月段階で暫定的に実施したシミュレーション検討による予測値を元に作成しています。(略)今後の検討制度の向上や受信対策技術の具体化・効率化等により、2008年4月段階の発生予測と2012年の新タワーへの移転の(ママ)伴い生じる受信件数や規模には相当の乖離があると考えています。(略)(当該資料が)公表されますと多くの受信者等に無用の混乱を与えることにもなりかねません」(株式会社テレビ朝日提出の意見書)
すなわち、筆者に開示された資料の墨塗りの下に “受信障害などがそれなりの規模で発生する”ことが記載されていることを、テレビ各社自らが事実上認めたのです。にもかかわらず、総務省課長は「視聴者への影響はほとんどない」と公の場で明言しました。情報を隠したうえでウソをつくのは、原発事故の時と変わらない、日本の官庁の体質です。
本当にテレビ局側が費用負担するのか
最大100億円の受信対策費用は、在京テレビキー局6社が負担するとされています。テレビ局の都合で移転するのだから、それは当然です。しかし、受信障害が発生したときに、その対策費の全額または一部を東京スカイツリー側が負担するという密約を6社と結んでいるのではないかと筆者は疑っています。6社は東京スカイツリーと契約を結ぶまで、東京タワーにとどまるか、東京スカイツリーへ移転するかを両天秤にかけ、スカイツリー側(東武鉄道)と予定より長い期間交渉していました。東武が放送局を誘致するために、相当な譲歩をしたのではないでしょうか。
もし密約があるとすれば、東武グループの出費がかさむことにより、その影響で、鉄道の安全対策などに十分な費用が回らなくなったり、また、収益増を図って東京スカイツリータウンによる観光客や買い物客の“囲い込み”を、ますます強める恐れもあるのではないかと懸念しています。
なお、6社で構成する東京スカイツリー移行推進センターのウェブサイトに、試験電波送信スケジュールなどの情報が示されています。
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