リニア中央新幹線計画説明会を聞いて
報告者:電磁波問題市民研究会・事務局長
2012年9月20日(木)午後4時〜6時半に、東京都千代田区の東商ホールで、(リニア)中央新幹線計画に関する説明会が開催されました。会場には400名の参加者がありましたが、約1時間にわたるJR東海の説明が終わった段階で、ぞろぞろ席を立ち帰る人が多くいました。企業動員で参加した会社員が多いことがわかります。このような動員型の説明会をすることは、主催側の自信の無さを表しています。
肝心なことは何も言わない説明会
壇上には大型スクリーンが設置され、脇にJR東海の幹部が7人並びました。まずはじめに、JR東海の推進副本部長が型通りのあいさつ。つぎに、東京所長なる肩書を持つ、部長級の人が、「中央新幹線計画の説明」「超伝導リニアについて」「最近の状況について」を1時間にわたってレクチャーしました。最後に、1時間半に及ぶ質疑応答という日程でした。
まずもって驚いたのは、仕掛けは物々しいのに、配られた資料はほんの少しだったことです。大型スクリーンで説明された内容の資料はなく、受付で「後でいいからもらえないか」と食い下がりましたが、「ありません」の答えしか返ってきませんでした。
1時間のレクチャーにしても、1時間半の質疑応答にしても、たとえば、リニア列車内の磁場の値とか、国民は本当にリニア鉄道を求めているのかといった肝心な疑問には、答えようとしません。拍子抜けの説明会でした。
アクセスの悪さとトンネルだらけ
説明で疑問を感じたのは、東京―名古屋間を先行実施するといいますが、始発駅は東京駅ではなく、品川の地下駅なのです。東北新幹線や新潟新幹線で東京駅に着いて、名古屋方面に行きたい人は、東京―品川間を在来線で乗り継がねばなりません。まして、京都や大阪にまで行きたい人は、さらに名古屋で在来新幹線に乗り換えねばなりません。このアクセスの悪さは異常です。しかも中央新幹線は中央アルプスを横断するルートですから、在来線との接続が極端に悪いのです。こんなルートで、集客は確保されるのでしょうか。
さらに、山間部を通るため、ほとんどの区間が40メートル以上の大深度トンネル走行です。車窓の景色を楽しむ余裕はありません。今回は、東京都民が対象だったためか、品川駅を出発して、東京都から川崎市に入り、もう一度東京都(町田市等)に入りますが、その間すべて地上は走らずトンネルだけのモグラ列車です。
大震災を契機にますます必要と
「新幹線、そんなに急いでどこへ行く」という有名な川柳がありますが、東海道新幹線の他に、東京―名古屋―大阪の大動脈を二重系化する必要が本当にあるのでしょうか。川崎沿線の住民アンケートでほとんどの人が、リニア鉄道の必要性を感じないと答えたそうです。東北大震災の教訓として、東海道新幹線がマヒしても別ルートがあれば助かるからというのが、JR東海の二重系化必要の論拠です。しかし、リニアが災害に強いなんてことを、真剣に考えている国民は何人いるのでしょうか。
もし災害が起こり、大深度のトンネル内でリニア列車が止まった場合、車いすの人や身体が不自由な人が、安全に地上まで脱出できる保障はありません。列車には少数の乗務員しか乗っていません。乗客同士で助け合って欲しいとJR東海は説明していましたが、深いトンネル内では不安が先行するでしょう。パニックをどう防ぐかで乗客は手一杯なはずです。新幹線なら地上を走っているからまだしも、閉鎖的なトンネル内で通常の助け合いを求める神経に驚きます。
コスト計算がいい加減
リニア中央新幹線の建設には、東京―名古屋間で5兆円、東京―大阪間で9兆円と見積られています。その全額を国費を得ることはせずに、JR東海の自前資金で賄うとしています。これを1km当たりに換算すると200億円です。これは駅設置等費用も含めた金額です。しかし、東京の地下鉄新線(池袋―渋谷)は1km当たり276億円であり、リニアより4割増しですし、つくばエクスプレスの秋葉原―東京は1km当たり500億円かかります。大深度地下で特殊なリニア方式を使う中央新幹線は、明らかに低すぎる見積もり額です。
最大の問題点は電磁波問題
リニア鉄道の最大の問題点は、電磁波による健康影響です。超伝導リニア車内での乗客への影響、それ以上に乗務員や売り子の影響は深刻になるでしょう。ところが、資料では、線路脇4メートル地点と高架下8メートル地点で、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドラインを6分の1下回っているから安全というだけです。ICNIRPは刺激作用しか考慮しておらず、その甘さが批判されている値です。一番肝心な列車内の値を出すべきです。
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