IARC報告に関連する情報


記者発表とワーキンググループのメンバー数が違う

 世界保健機構(WHO)国際がん研究機関(IARC)が、2011年5月21日発表のプレスリリースでは、IARCのワーキンググループ(作業部会)メンバーは、14ヶ国・31人となっています。ところが、ランセット・オンコロジー2011年7月1日号に発表されたのは、14ヶ国・30人となっています。後者の人数が正しいのですが、前者の発表におけるズサンさには驚きます。このワーキンググループに参加した、京都大学教授・宮越順二氏が言うには、「会議がすべて終了してすぐに、テレビニュースで記者発表内容が報じられていたので驚いた」(総務省第6回生体電磁環境検討会・2011・7・22発言)です。早ければ内容が間違っていても良いとは言えないでしょう。

山口教授の御用学者ぶり

ランセット・オンコロジー2011年7月1日号に発表では、日本の研究が携帯電話を当てている側にできる神経膠腫のリスクが増加するという、それなりの証拠があると紹介しており、2B(発がん可能性あり)を支持する根拠に使われています。この日本の研究とは、2010年11月に発表された東京女子医大医師らの研究グループの疫学研究のことで、1日20分以上携帯電話を使うと聴神経腫が有意に増加するというのが結論です。しかも、疫学研究には常にバイアス(偏り)を考慮しなければならないが、携帯電話の使用が聴神経腫瘍のリスクを増大させる可能性があり、そうしたバイアス(発見バイアスや思い出しバイアス)でリスク増大をすべて説明するという結論には至らないと、科学者らしく慎重な言い回しながらリスク増大を認めています。だからこそ、IARCも2Bの根拠として採用したのです。ところが、2011年7月22日に開かれた、総務省第6回生体電磁環境検討会では、この研究の中心メンバーである山口直人東京女子医大教授は、「真のリスクを反映するとしても、診断5年前には腫瘍が既に存在しており、携帯電話による通話は腫瘍の発生に直接は影響しない可能性が高いのではないか」と否定的にまとめました。

2Bはコーヒーと同じ程度という意見について

電力会社・携帯電話会社・御用学者等が、次のように吹聴しています。「2Bというのは、可能性があるかも知れない程度で、コーヒーも2Bの分類に入っている」。この意見を聞くと、コーヒー程度なら、それほど心配ないのではと思うかもしれません。ところが、IARCのヒトへの発がんリスクランク表は、ハザード(危険や危険をもたらす因子)のランクであって、リスク評価とは全く別です。科学的証拠に基づいて、その因子がどの程度のハザードかを評価したもので、リスク評価とは別です。
コーヒーが2Bである理由は、膀胱がんの可能性があるからです。すなわち、コーヒーのリスク評価と電磁波のリスク評価は同じではありません。ハザードは同程度でも、子どもはコーヒーをほとんど飲みません。また、コーヒーは飲まないという選択もできます。しかし、電磁波は大人も子どもも関係なく被曝します。さらに、携帯電話は使用の選択はできるし、幼児は使いません。それに比べて、基地局は、24時間365日にわたり、乳児だろうと胎児だろうと、電磁波を曝露します。。コーヒーと同じ程度という意見が間違いであることは明らかです。

総務省の説明会は電磁波安全宣言に終始

 2011年8月1日に墨田区KFCホールで開かれた、総務省主催の電波の安全性に関する説明会の副題は、国際がん研究機関の電波の発がん性評価が中心です。高周波電磁波2B(発がん可能性あり)の報道発表に、総務省が危機意識を募らせていることが明らかです。
 電磁波の安全を吹聴する講師を総動員した説明会で、会場からの質問はシャットアウトです。傍聴席には、業界の職員が動員されており、原子力発電所の説明会とあまり違いない「やらせ」と言えます。電磁波の健康影響を危惧する、学者・研究者・運動家・市民を講師としないのは、リスクコミュニケーションの推進を推奨し、利害関係者の同席を促しているWHOの見解に反しています。原子力発電所の問題に良く似ており、このような業界癒着の姿勢が、結局は行政不信や電磁波の不安をあおるのです。税金の無駄遣いです。総務省に抗議の声を上げましょう。


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