原子力発電の無い日本をめざして
東日本震災の2大被害は、津波と福島第一原子力発電所事故です。津波に関しては天災の部分が大きいと言えましょう。しかし原子力発電所事故は明らかに人災です。原子力発電所事故について「想定外」という言葉がよく使われますが、最初が福島原子力発電所での事故だったことは想定外と言えなくはありません。ほとんどの反原発市民運動団体や専門家は、大事故は浜岡原子力発電所でまず最初に起こるであろうと想定していたからです。しかし、原子力発電は人間が制御できるものではありません。核廃棄物を完全に処理できないことでもあきらかです。よく言われるように、原子力発電所は「トイレのないマンション」なのです。
さらに、原子力発電所事故は広義の電磁波問題であるのです。原子力発電所事故や核爆発でアルファ線、ベータ線、ガンマー線、中性子線が出ますが、そのなかのガンマー線は電離放射線であり、まぎれもない電磁波なのです。電磁波問題市民研究会としては、原子力発電所事故問題を、系統的に取り扱っていきます。
福島第一原子力発電所事故はチェルノブイリ事故(レベル7)を超える可能性の高い大事故です
今回の福島第一原子力発電所の事故は、東日本大震災が起こった2011年3月11日に起こりました。事故当初、国の機関である原子力安全・保安院と原子力安全委員会は、事故はレベル4と発表しました。国際原子力機関(IAEA)と経済協力開発機構(OECD)の原子力機関は、共同で国際原子力事象評価尺度を定めています。レベルは0から7まであり、1〜3は異常事象、4〜7を事故と位置づけています。ちなみにレベル4が茨城県東海
村で起こったJCO事故(1999年)です。レベル5は米国ペンシルバニア州で起こったスリーマイル島事故(1979年)、レベル6は大事故、そして最高レベル7がソ連のチェルノブイリ事故(1986年)です。
日本国政府は、一番レベルの低い4の事故と発表したのです。その後、3月18日にレベル5、つまりスリーマイル島事故と同レベルとし、事故から1カ月経った4月12日になって、最悪のレベル7と発表しました。しかしその段階でも、放射線物質の放射量はチェルノブイリ原子力発電所事故の約10分の1と、あくまでも低く見せようとしています。
しかし、チェルノブイリ事故は、爆発した時には低出力での実験中に起こったものです。しかも、爆発したのはひとつの原子炉だけです。それに比べて、福島第一原子力発電所事故は、1〜3号機は全出力で稼働中でした。また、4号機は休止中でありましたが、使用済み燃料棒が破損しました。すなわち、同時に4つの原子炉で事故は発生したのです。しかも、事故後3カ月経った5月12日になって、東京電力はようやく1号機のメルトダウン(炉心溶融)を認め、その後、2号機と3号機でもメルトダウンを認めたのです。
ここまでくれば、東京電力が4月17日に発表した工程表(事故の収束に向けた計画日程)で示すような、6〜9ヶ月で収束できると思う人は、ほとんどいないでしょう。そうなれば、チェルノブイリの約10分の1であっても、事故後10ヶ月後にはチェルノブイリと並ぶでしょうし、その後も続けば、チェルノブイリを超えることは不可避です。
事故原因は「想定外」と言えるのか
今回の事故原因について、東京電力や原子力安全・保安院は、マグニチュード9.0という未曽有の大地震と津波により起こった想定外の事故だ。運転中の1〜3号機はすべて予定通り自動停止したが、非常用のディーゼル発電機が津波をかぶり動かなくなったためトラブルが次々と発生した。4号機は運転をしていなかったが、使用済み燃料棒を冷却しているプールへの水を供給する非常用電源が動かなくなったため、水が蒸発し事故が起こったと説明しています。
しかし、全ての電源が失われた場合のシュミレーションについては、1981〜82に米国の研究機関(オークリッジ国立研究機関)が実施し、報告書を米原子力規制委員会(NRC)に提出しています。この報告書の研究モデルは、福島第一原子力発電所と同じ、ゼネラルエレクトリック社の沸騰水型マークT原子炉炉です。そのシュミレーションによれば、非常用ディーゼル発電機を含む全電源が喪失すれば、停電4時間後に燃料露出し、5時間半後に燃料が485度に達し水素が発生、6時間後に燃料溶融(メルトダウン)開始、7時間後に圧力容器下部損傷、8時間半後に格納容器損傷が起こるとしています。そのために、全電源喪失の場合を想定して、特別な非常用バッテリーを用意すべきと提言しています。
今回の事故は決して想定外ではなく、全電源喪失を想定した対策は金がかかるとして、全く対策しなかった、東京電力の怠慢にあるのです。福島第一原子力発電所の生みの親である、東京電力の元副社長豊田正敏氏が「東京電力の失敗は安全よりコストとメンツを優先してきた結果だ」(週刊現代2011年5月28日号)と述懐しています。
さらに今非常に心配されているのが3号機です。
3号機はプルサーマル方式原子炉です。1号機と2号機は通常のウランを燃料にした原子炉ですが、3号機はプルトニウムとウランと混ぜた、MOX(モックス)燃料を使っています。この方式を東京電力はプルサーマルと言っています。プルトニウムの利用は危険が伴うため、米国では20年前から利用計画を中止しています。最初に水素爆発したのは1号機ですが、水素爆発はススを発生しないため白い煙になるのです。ところが、3号機の爆発は赤い炎とともに黒っぽい灰色の煙が見られました。この事実は、水素以外の物質が一緒に発火したことが考えられる(石川正純北大教授・文芸春秋5月特別号)ということを意味します。福島第一原子力発電所を上空から見ると1号機と4号機に比べて、3号機の建屋損傷が激しいことがわかります。MOX燃料を使用していただけに、この3号機の損傷はとても心配です。
一説によれば、地震だけで原子炉の配管が損傷していたともいわれますが、東京電力が資料を出さないので不明です。
制度的な問題として、原子力発電所産業の推進が資源エネルギー庁であり、規制するのが原子力安全・保安院ですが、双方が同じ経済産業省に所属していることです。しかも、両機関の間では、人事交流があたりまえのように行われているのですから、規制などできるはずがありません。今回の事故を契機に原子力安全・保安院は解組すべきです。
原子力発電所がなくても停電なしで夏は過ごせます
原子力発電所は危険な側面はあるが、さりとて全電力の4分の1から3分の1を原子力に依存している現実をみれば、脱原発とか反原発といっても無理ではないか、という有力な意見があります。この背景には、3月に行われた計画停電の影響力あります。またテレビや新聞や雑誌などメディアでも繰り返し報道されていることが影響を与えています。
しかし8年前、原子力発電所が首都圏で停止されても、計画停電が行われなかったことを思い出してください。2003年4月15日、東京電力は所有する17ヶ所の原子力発電所をすべて止めました。理由は、原子力発電所の検査記録数値を改ざんした事実が発覚したからです。だがその時、首都圏は計画停電されませんでした。今回の事故は3月で時期的にも8年前とそう違いません。計画停電は原発がなかったら大変だと思わせる「計略停電」だと批判されるゆえんです。
上記を数字で検証します。事故前、東京電力の発電設備能力は6400万kW以上ありましたが、点検等の理由から能力すべて使えるわけではなく、実供給力は約5200万kWでした。震災によって3100万kWまで下がってしまいましたが、震災1カ月で火力発電所の復旧等で約4000万kWまで回復しました。しかし、夏ではないので、これは停電する必要は無く「計画節電」で乗りきれる範囲です。大きな工場や事業所やアミューズメントパークでは、2000万kWをはるかに超える電力を消費します。これら大口電力消費事業体は3000ヶ所ほどありますが、これだけで全体の電力消費の3分の1を消費します。ここにきめ細かな計画節電を要請すれば、計画停電は回避できるのです。またそのほうが事業体も歓迎します。(停電の方がずっと大きな損失を生じるからです)。東京電力管轄下での最大需要は6147万kW(2008年8月)でした。東京電力では震災の影響と景気低迷のため、この夏の最大電力需要を約5500万kWと予測しています。東京電力は、これまで休止していた火力発電所の整備により、すでに予測した最大電力需要に見合う供給能力を回復しつつあります。
私たちは、今回の原子力発電所事故を契機に電力に過剰に依存する生活スタイルを改めることが必要です。そして、自然エネルギーへの転換を真剣に考える絶好のチャンスとしてとらえるべきではないでしょうか。
オール電化などを徹底的に見直す絶好の機会です
もはや、電気のこぎりでバターを切るような、無駄な浪費生活はやめるべきです。
IH調理器は電気製品の中でも最も電力を消費します。オール電化は原子力発電所で夜間に余る電力を使うために設置するのです。オール電化住宅は原子力発電所2基分に相当します。このような過剰電力を消費するためのリニアモーターカーなどは、電力の無駄使いを推進するものです。
自然エネルギー(風力・太陽光・地熱・波力等)には、電磁波対策を施していないものもありますから、その対策はとらさねばなりませんが。
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