スイス連邦政府公衆衛生局の携帯電話に関する勧告・見解およびカナダ・トレント大学研究者の意見
<スイス連邦政府公衆衛生局(FOPH)の携帯電話に関する勧告・見解>
携帯電話
携帯電話(セルラーとかセルフォンと言う)は、基地局ネットワークを通じて、どこからでも通話が可能である。情報は、高周波電磁場を使って、携帯電話から基地局に送信されたり、逆に基地局から携帯電話に送信される。放射線強度は、発生源つまり携帯電話のアンテナ近くで、最大となる。放射線(電磁波)は携帯電話を使っている時だけ強く、使っていない時は弱い。携帯電話から離れると、放射線はただちに減衰する。
通話中の放射線の曝露強度は、様々な要因で決まる。
- 通話状態が悪い時より良いときの方が、携帯電話の放射線は少ない。通話状態の良し悪しに関しては、例えば屋内より屋外のほうが良く、また基地局に近いほうが良い。通話状態の良し悪しは、携帯電話のディスプレイ画面のバーの数でも示される。
- 通話中の頭部への放射線吸収割合は携帯電話の機種によって異なる。放射線吸収割合は特異吸収率(SAR)と呼ばれている。SARは低ければ低いほど、身体に吸収される放射線量は低くなる。あなたの携帯電話のSAR値は説明書に書いてあるし、インターネットでも出ている。SAR値の低い携帯電話には、特別に保証されたラベルが付いている。(ラベル「TCO01」はSARが0.8W/kg以下であり、ラベル「ブルーエンジェルはSARが0.6W/kg以下である)。
携帯電話から出る放射線が、健康に有害かどうかは不明である。脳機能や脳腫瘍の発生への携帯電話放射線の影響は、現在のところ調査段階にある。
インターフォン研究
2010年5月に発表された、脳腫瘍と携帯電話使用に関わるインターフォン研究では、通常の携帯電話使用及び10年以上の携帯電話使用においては、リスク増大は見られなかった。携帯電話のヘビーユーザー(10年以上の使用で、さらに1日に30分以上使用の場合)については、脳腫瘍の発症リスクが増大した。データ収集と研究デザインにおける種々の不確実さ(信頼性の欠如)により、明確な結論には至らない。また、携帯電話使用と脳腫瘍の関係には、因果関係があるとは判断できない。それ故に、頭部への放射線曝露を最小化するために、FOPHは以下のような勧告を行う。
間接的な影響
ペースメーカーのような、常時作動する医療埋め込み機器は、携帯電話の電磁波により(誤作動のようなマイナスの)影響を受ける可能性がある。
運転中に携帯電話を使用すると、道路上で起こることに対して、運転手の注意をそらすおそれがあり、交通事故を起こすリスクを増大させる。
勧告
- 車の運転中は携帯電話を使ってはならない。例え、ハンズフリーキットを使ったとしても絶対に行わない。
- 低出力のブルートゥース装置が装備されたワイヤレス・ハンズフリーシステム(ヘッドフォンやヘンドセット)は、頭部への放射線曝露を減らす。
- 携帯電話を購入する際は、低いSARの機種に選ぶべきである。
- 携帯電話で通話する場合は短めにするか、テキストメッセージ(訳注:電子メール)にすること。この勧告は特に子どもと青少年に対するものである。
- 可能ならば、信号品質(通話状態)が良好な時だけ、携帯電話を使うようにする。
- 放射線シールドなど、放射線曝露を抑える機能をもつ“電磁波保護”装置には注意する。そのような装置は通信接続状態を悪化させるので、携帯電話はより強い出力で電磁波を発信し、送受信するからである。
- 埋め込み型医療機器を付けた人は、どのような時でも、少なくても30センチメートルは、携帯電話を装置から離すべきである。
基地局
基地局からの放射線に関する詳細な情報は、連邦政府の環境FOEN部局か州の担当部局から入手できる。
詳細情報
1、 技術データ
GSM(欧州デジタル移動通信システム)は、デジタル型携帯電話による、通話やメールの統一標準プロトコル(規格)である。携帯電話はデータ送信やインターネット閲覧にも使用する。GPRS(汎用パケット無線システム)やEdge(国際的規模の高速データ通信)は高速でデータ通信を可能とさせるGSMの発展型である。UMTS(国際携帯電話システム)は次世代型(第三世代型)の携帯電話システムで、GSMより高速のデータ通信が行え、より品質が良くマルチメディアサービスが可能だ。また、それだけでなく通常の通話やテキストメッセージ(メール=SMS)も可能である。中期的には、UMTSがGSMに取って代わるであろう。
表1 GSMとUMTSの比較
|
GSM
| UMTS
|
送信周波数(MHz) |
900/1800
|
2100 |
---|
ピーク出力(mW) |
2000/1000
|
125−250
|
最大出力(mW)
| 240/120 |
125−250
|
---|
パワー管理(Hz)
| 1−2 |
1500 |
---|
パルス反応周波数(Hz)
| 217 |
現行基準(パルスでない) |
---|
遊休状態送信パルス
| 12−240 |
5−720(普通は33) |
---|
ネットワーク・セル(繋がっていない状態)
携帯電話(移動通信)ネットワークは、地域的セル(区分け)で分割されている。一つのセルの中には、携帯電話が無線でコンタクトできるように一つの基地局が設けられている。一つのセル内では複数の通話が同時に可能であり、都市部の基地局はセル内の通話数が多いので、地方の基地局より数多く建設する必要がある。小範囲規模のセル(すなわち町や市の)の基地局は、広範囲規模のセル(すなわち地方の)用の基地局より、出力は小さいのが通常である。
GSM:一つの基地局を介して、複数の携帯電話が同時にアクセスする時は、時間分割する。そのために、放射線はパルス化される。受信するときは、別の周波数に飛ばされる。複数のセルはグループ化される。一つのセル群から他のセル群に移動する場合は、現在繋がっている基地局と携帯電話は一時的に非接続となった後、新しいセル群と接続する必要がある。携帯電話を使用していない時、すなわち遊休状態においても、携帯電話は基地局からの情報は受信し続けるため、その携帯電話がどのネットワークセル内にいるのか把握されている。携帯電話が新しいセル内に入るとすぐに、その新しい基地局で登録されている短い信号を携帯電話自身が送信する。そうでない場合でも、12分から240分ごとに、携帯電話から短い信号が送信される。その間隔は携帯会社によって違う。
UTMS:基地局を通じて同時に通話する複数の携帯電話は、時間分割ではなく、コード分割方式で行われる。携帯電話は通話中(接続中)は、連続的に放射線を出している。その時の放射線はパルス化されていない。UMTSセルが最少接続出力の時は、最も良い状態の能力で稼働している場合である。この時の基地局は、エリアの外側の携帯電話とは接続しない(なぜならば、外側のエリアは高い出力で送信しないと放射線が届かないからだ)。その外側のエリアの携帯電話には、別のセルの放射線がカバーする。セルの範囲は送信データ量によって決まるので、範囲は様々である。携帯電話は、同時にいくつかの基地局に登録されているので、セルを変わる時(移動する時)に登録するかしないかの判断をする必要はない。GSMと同じで、携帯電話は常時登録されているのであり、それは遊休状態(電話を使用していない時)でも登録されているのである。
出力
ピーク出力であるか最大出力もしくは実出力であるかを区別するのは重要である。ピーク出力とは、携帯電話が最大出力レベルにあることを示している。最大出力とは、平均的な時間経過において、ネットワーク内で最大出力レベルにあることを示している。現在出力は最大出力より通常は低い。携帯電話は、基地局と接続している無線状態が良好な時は、かなり低い出力で稼働している。基地局の出力レベルは、携帯電話が送信で使用している出力で大きさが決まる。
GSM:ピーク出力は1ワットか2ワットである(表1参照)。携帯電話は通話時間の8分の1(訳者注:時間分割)で送信し(表1参照)、しかも26パルスごとにオミット(省く)するので、最大出力は一回につき120ミリワットあるいは240ミリワットである。GPRS(汎用パケット無線システム)やEdge(国際的規模の高速データ通信)を使ってデータを搬送するための最大出力は、0.5−1.0ワットである。それは、そのデータ通信が、現在の携帯電話において、通話時間の1/4〜1/2で搬送できるからだ。データ通信は1000倍に圧縮できるので、1秒につき1〜2回の接続で十分なのである。出力をさらに減らすには、DTX(discontinuous transmission=非連続伝送)を使えば、およそ半分になる。DTXは話をしている間のポーズ(休み)の時間でもデータを搬送できるからだ。
<トレント大学准教授マグダ・ハバス博士の意見>
2011年1月27日に、スイス連邦政府公衆衛生局(FOPH)は、携帯電話に関する勧告・見解を発表したが、それについての私(訳注:マグダ・ハバス博士)の意見を述べたい。
FOPHの勧告内容は以下である。
- 車の運転中は絶対に携帯電話を使わない。例え、ハンズフリーキットでも使ってはならない。
- 低出力のブルートゥース装置を付けた、(ヘッドフォンやハンドセットのような)ワイヤレスタイプのハンズフリーシステムは、頭部への放射線曝露量は少ないので、使用するのは悪くない。
- 携帯電話を買う時は、その携帯電話のSAR(電磁波エネルギー吸収率)の低いものを確かめて選ぶべきだ。
- 携帯電話を使う際は、使用時間を短くするか、あるいはテキストメッセージ(訳注:携帯メール)のどちらかにすべきだ。特に子どもや青少年はこのことを遵守すべきだ。
- 可能ならば、通信状態が良好な時だけ、携帯電話を使うべきだ。
- 放射線曝露を制限する放射線シールドや同様の“電磁波保護”を謳った製品には気を付けるべきだ。なぜならば、そのような物は通信状態を悪化させるために、携帯電話がつながろうとして、かえってより強い出力(したがってより強い電磁波)を出すためだ。
- 埋め込め式の医療機器を付けている人は、装置から携帯電話を少なくても30センチは常に離すべきだ。
携帯電話に関するウェブサイトを見る時は、この勧告が掲載されているスイス政府のウェブサイトをクリックすべきだ。なぜならば、この勧告はとても良い内容だからだ。たとえブルートゥースのような装置であっても、電磁波曝露は依然として高い。
世界中の政府健康部門の情報提供と違って、スイス政府公衆衛生局(FOPH)の携帯電話通信方法に関する技術データ・曝露測定・健康影響・法的規制・関連文献、等について、詳しい内容を提供している。
驚いたことに、データを搬送するために使われるマイクロ波だけでく、いろんな機種の携帯電話表側の磁場についても、スイス政府のこのウェブサイトでは情報提供している。ちなみに、5機種の携帯電話の表側の磁場は、83ミリガウス〜193ミリガウスが測定されている。携帯電話裏側の磁場の値はもっと高く、最大で758ミリガウスにまで達する。
ICNIRPは国際非電離放射線防護委員会の略称だが、メンバーは放射線の安全なガイドラインのための世界的基準値を設定する。提案された磁場ガイドラインは、周波数毎に設定されている。驚くことに、各国政府が資金提供した研究では、テストされたGSM携帯電話が中間周波数において、ICNIRPガイドライン値を超えてしまった。マイクロテスラからミリガウスに換算するには10倍すればいい。すなわち、6マイクロテスラは60ミリガウスである。
携帯電話の使用や乱用による有な害影響と何か?
携帯電話の安全な使い方に関する、スイス政府の勧告は一方で賞賛に値するが(ただし、走行中の車内での携帯電話は決して使うべきでない)、しかしながら、健康影響に関する解説の中には改善されるべき余地がいくつかあると、私は感じている。
FOPH(スイス連邦政府公衆衛生局)は、ホルモン系や免疫系システム、脳活動、認識や刺激プロセス、マイクロ波の聴覚影響、心臓血管システム、安寧、睡眠、成人と子どもの脳腫瘍、成人のそれ以外の腫瘍、注意力欠損障害、精子、医療インプラント機器や自動車事故への干渉、等と携帯電話の関係について言及している。
しかし、この部分を読むと、携帯電話使用に関する勧告の積極面と有害な影響を慎重に評価している面との間に、連携が欠けているように感じる。携帯電話の有害な影響を否定する理由として、結論がほとんど出ていないことや、証拠が散発的、もしくは証拠に一貫性がないことをあげている。それにもかかわらず、公衆に対して放射線(電磁波)曝露を最小にすべきだと強く勧告するのであろうか。例えば、マイクロ波の聴覚への影響は問題ないと、FOPHは言及しているが、これは正しくないと私は考えている。そこには、ICNIRPの傾向とFOPHが別行動は取りたくないという感じが見えてくる。
すなわち、私の意見としては、このFOPHのサイトは完ぺきではないが、スイス政府が電磁波の研究に資金提供している点と、携帯電話の安全な使い方に関する勧告をしている点は賞賛したい。
[会報第69号インデックスページに戻る]