シンポジウム「身の回りの電磁波とその問題」

日本弁護士連合会主催で画期的な内容

□満員の大会場
 2010年4月10日の午後に、4時間をかけて、日本弁護士連合会主催のシンポジウムが、弁護士会館で開催されました。参加者は291名で、広い会場は人で埋めつくされました。電磁波問題は日本社会ではマイナ−視されているにもかかわらず、このように多くの人が参加したことは、日弁連の今後の取り組みに大いに影響すると思われます。

□多彩なパネリスト
 シンポジウムの前半には、それぞれの立場からの事例報告や講演が行なわれ、後半には、パネルディスカッションとして討議するという形で行われました。
 今回のシンポジウムが画期的だったのは、一つは参加者が約三百名と多かったこと、もう一つは大久保千代次氏と本堂毅氏という、スタンスが明確に違う科学者が一同に会したこと、さらに、基地局電磁波被害者や電磁波過敏症の人が報告したので、抽象的な議論にならなかったことにあります。特に、大久保氏と本堂氏の白熱したやりとりは圧巻でした。

□深刻な電磁波被害の事例
 初めに、電磁波過敏症で苦しんでいる鎌倉市在住者が報告されました。死のうと思ったほど症状は厳しいが、さらに、それを理解する社会環境がこの日本にはまだ無いことを、切々と訴えられました。
 次に、東北大学の本堂毅氏が講演しました。同氏の話で注目されたのは、自由エネルギ−で、以下のように説明されました。「電磁波を議論する時、電磁波エネルギ−を熱エネルギ−と同一視した議論が少なくない。電磁波は物体に吸収されると熱になる。しかし、熱をもった物体から電磁波が発生することはない。もしあったら、熱燗の近くはあつくて近付けないはずだ。つまり、電磁波は熱作用(熱エネルギ−効果)を持つがそれだけではない。そのため、電磁波は、同じ発熱エネルギ−を持つ電球などよりも、一般に生体影響は大きい」。つまり、電磁波の影響を熱エネルギ−だけで考えるのは本質ではないと本堂毅氏は語ったのです。
3番目は大久保千代次氏の話です。電磁界情報センタ−所長で、電磁波は限りなく白に近い灰色だと主張する人です。同氏はWHOの環境クライテリア等を紹介し、科学は因果関係が大事でリスク評価は科学的に行なわれるべきだと、持論を展開しました。
4番目は東海大学教授の坂部貢氏です。過敏症治療の第一人者です。同氏は「医学領域から環境健康影響を見ると、物理的影響、生物学的影響、化学的影響、心理的社会的影響と様々あり、それがいろいろ複合的に健康に影響する。電磁波は物理的影響の範囲に入るが、社会的心理的ストレスも影響するし、化学物質の影響と複合して影響するなど、いろいろな要素がからむ中で電磁波過敏症は発症する。電磁波の健康影響は細胞レベルから個体レベルまであり、その対応やケアも単純ではない」と語りました。

□良く出来ている資料
 シンポジウムの後半の初めは、日弁連公害対策・環境保全委員会委員による講演です。日弁連が作成した資料集の説明でしたが、(1)問題提起、(2)日本の状況、(3)自治体の動き、(4)諸外国の状況、(5)予防的取り組みへの模索、という5章92ぺ−ジから成る資料集は大変に良く出来ています。
 後半の2番目は、沖縄の医師の体験が話されました。マンションの最上階に住んでいて、基地局から出る電磁波の影響により、5人の家族全員が健康被害にあったのです。同医師は分子生物学者でしたが、電磁波被害を契機に臨床医になり、この問題に全面的に取り組んでいます。
 後半の最後は、VOC−電磁波対策研究会・代表による報告です。同氏は過敏症患者で、主宰する研究会が実施した電磁波過敏症アンケ−トを軸に、電磁波過敏症とは何か、諸外国では過敏症にどのように対応しているか、治療対策として患者たちはどのようなことをしているか、救済のために何が必要か、について語りました。

□因果関係論者と予防原則論者の違い
 パネルディスカッションは、本堂毅氏と大久保千代次氏の登壇で注目されました。
 大久保千代次氏は、科学は因果関係の解明があってこそ成立すると主張します。本堂毅氏は、科学には限界があり、どこまでいっても解明到達は容易でなく、だからこそ科学はあると主張し、因果関係はまだ明確に解明・確定していなくても現実に健康被害は起きていると語ります。
  「予防原則をどう考えるか」と司会に振り向けられて、大久保千代次氏が語ったのは「50倍の安全率」です。これは、環境問題に取り組んでいる人ならわかりますが、予防原則とはまったく違う概念で、会場からは失笑がもれました。大久保千代次氏ほどの人が、こんな初歩的な違いを知らないはずが無く、明らかに議論から逃げた言い訳です。
 電磁波に予防原則を適用すべきだと、参加者に認識させた有意義なシンポジウムでした。


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