□わずか十数秒の主文朗読で終了
九州で第一審の判決を不服とし、福岡高等裁判所(控訴審)で争われていた3つの基地局訴訟判決が、2009年9月に相次いで出されました。
3つの裁判とは、一つが熊本県熊本市楡木(にれのき)地区のドコモ相手の控訴審、二つが福岡県久留米市三瀦(みずま)地区のドコモ相手の控訴審、三つが熊本県熊本市御領(ごりょう)地区のKDDI相手の控訴審です。
楡木控訴審判決は2009年9月8日に、三瀦と御領の控訴審判決は2009年9月14日に出ました。
現地の報告によれば、判決裁判は、裁判長が主文「本件控訴は棄却する」の短い文章を朗読するだけで、わずか十数秒で終わったとのことです。三瀦裁判は3年半、14回も裁判が開かれたことからすると、かかわった関係者の悔しさは、十分に伝わってきます。
□原告住民の主張をことごとく斥ける
原告側は、(1)バイオイニシアティブ報告、(2)御領地区の、900人世帯を回って調査した基地局300m以内と301m以遠との住民健康比較調査結果、(3)北里研究所病院の医師による電磁波影響の診察所見、(4)EUの動向やフランスベルサイユ控訴判決、等々と現在入手できる最高レベルの材料を基にしてきました。それだけに、判決前は「必ず勝てる」と期待して臨んだにもかかわらず、判決は最初より後退した中身でした。
判決内容ですが、フランス控訴院判決については、「我が国とは異なる法体系の下での(省略)、一つの裁判所の判断に止まる」としました。
御領の健康調査については、「曝露群と非曝露群とを比較対照した分析ができていない」と調査の信用性を否定しました。
バイオイニシアティブ報告については、他の各研究論文を一からげにして「実験規模が小さく、異なる実験結果もある」と斥け、EUで評価されているバイオイニシアティブ報告を判断理由の中に一切触れていません。
電波防護指針については、電波防護指針が依拠している「ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)ガイドラインが不当であるとはいえない」とし、総務省の生体電磁環境研究推進委員会見解も、なんら精査せずに信用性があると採用しています。
日本より厳しい規制値を採用している国もあることについては、「電磁波被曝に対してどのような規制値を設定するかは、科学的研究のほか、それぞれの国における社会的、経済的、政治的等の諸条件により異なると考えられるから(省略)不当であるといえない」としています。
□国や企業に追随し正義を捨てた裁判所
「法の創造」という言葉がありますが、携帯電話基地局問題のように、過去に例がなく、健康被害が跛行的にしか出ず、将来における危険性を未然に防ぐという豊かな発想が求められる問題では、新しい観点が必要となります。今回の控訴審では、そうした先進的な判断材料を数多く提示したにもかかわらず、裁判所側は従来のからに閉じこもって怠慢な判決で逃げたという印象です。正義を捨てた判決といえます。
三瀦裁判の主任弁護士は、「本質的問題提起には目をつぶり、形式論理を示し、型どおりの同じ内容の判例を繰り返すという態度を裁判所が示し続ける限り、電磁波被害はけっして未然に防止されることはないし、次々と被害発生が繰り返されるのである。これでは『裁判所の使命』を果たしているとはとうてい評価できない。」と述べています。今後については、三瀦裁判と御領裁判は最高裁判所に上告し、楡木裁判はこの判決で確定となりました。
□引き続き支援していきましょう
三瀦裁判も御領裁判も共に今回の判決に納得せずに上告したので、引き続き支援していきましょう。
また、九州では荘園控訴審と霧島控訴審も闘われています。こちらの支援もしていきましょう。
日本の裁判は「前例踏襲主義」がはびこっていますから、簡単には勝てません。しかし逆から見れば、勝訴判決が一度出れば、それが前例となりえます。九州の裁判は厳しいことは確かですが、将来につながる重要な裁判です。