□世界初のリニアモーターカー実用線
2002年に、上海市内と浦東国際空港間約30qを結ぶ、世界初のリニアモ−タ−カ−実用線が開通しました。ドイツのリニアモ−タ−カ−技術を採用したもので、日本のリニア式より磁場発生力が少ないことを売り物にして、最高時速450qで営業する、この磁気浮上式高速リニアモ−タ−カ−は「上海リニア」と呼ばれています。
□その延伸計画が槍玉にあがった
杭州を含む浙江省(せっこうしょう)当局は、海万博の開催に併せ、上海市と杭州を結ぶリニアモ−タ−カ−新線の延伸を、2010年に着工する計画を発表しました。ところが、磁場による健康被害などを懸念する沿線住民が反発し、激しい反対デモを起こしました。この反対運動の激しさに押されて、もう一方の当事者である上海市当局は、浙江省とは別に環境影響評価報告書を作成し、「まだ騒音や景観悪化などリニアモ−タ−カ−には解決しなければならない問題点がいくつかあり、検証の段階にある」とし、慎重な姿勢を示し始めました。そのため、当初の2010年工事着工という計画は暗礁にのりあげました。
□異例の強い反対運動
共産党の強い支配体制下の中国社会では、当局の決定には服従するのが当然ですのに、新線沿線住民たちの反対運動は大規模でかつ激しいものです。リニアモ−タ−カ−への懸念が強いことを物語っています。これまでも、河川中央に予定していた路線を川岸にずらしたり、トンネル方式を採用したり、住宅地から遠ざけたりと、当局は計画に変更したり懐柔したりしてきましたが、電磁波や騒音や景観悪化を問題にする住民の声を、押さえつけることはできませんでした。
上海市当局が今回住民の声に譲歩した背景には、昨年10月に開催された中国共産党大会で、党指導部が環境重視を打ち出したことに無縁ではありません。北京オリンピックを翌年に控えた共産党大会としては、環境重視を掲げなければ国際的に孤立せざるをえないというお家の事情もあったのです。
□開発をとるか環境をとるか
総延長約199qで、上海〜杭州間は約164qです。
当初の計画では、2010年着工し2014年完成の予定で、今年中にも新線建設事務所を設置する手はずでした。総投資額は3300億円(220億元)という大規模な計画です。計画推進に熱心な浙江省の思惑は、リニアモ−タ−カ−路線導入により上海経済圏と直結したいというわけです。
しかし、健康被害を心配する住民たちからすれば、路線が長ければ長いほど悪影響の範囲もそれだけ広がると否定的にとらえたのです。まさに、開発か環境かが問われる試金石といえます。
□日本のリニアだって問題だ
他方、日本では、JR東海がリニア中央新幹線の営業運転開始を、2025年に東京〜名古屋間で目指すとしています。
時速500qで東京〜名古屋間を40分で結ぶため、現在の山梨実験線を2013年度までに延伸させ、営業路線に転用させる計画です。総事業費5兆1千億円という、気の遠くなるような計画です。リ−マン・ブラザ−スが破綻し、日本の国債も天文学的数字に達し、世界経済が大幅に減速化している時代に、そんな夢想が実現するというのでしょうか。そのころには、電磁波に対する世論が変化して、そんなに危険な列車は乗りたくないとなるかもしれません。