国連保健機関(WHO)勧告:環境保健基準をどうみるか

□12年かかったクライテリア策定
 WHOの極低周波電磁波の環境保健基準(Enviromental Health Criteria=EHC)が2007年6月28日に発表された。WHO内に「国際EMFプロジェクト」が設置されたのは1996年である。当初は5年計画で2000年に新しい極低周波のクライテリア(基準)を出すわけだった。ところが発足後に携帯電話が爆発的に普及したため、極低周波だけでなく高周波にもクライテリアを出そうとなり、5年延長し10年計画となり、2005年に極低周波と高周波の両方のクライテリアを出す計画に変更された。
 しかし、計画は予定どおりに進まず、極低周波は2年遅れて今回発表され、高周波はさらに遅れて「2008年から2009年に発表」となっている。だがどうみても高周波の2008年発表はないであろう。

□きっかけは何か
 極低周波電磁波の人体への影響の歴史は長い。エジソンの電灯発明にまで、ざっと百年以上もさかのぼる。「送電線の周辺で健康被害が起こる」という噂は相当以前からあった。それが噂でなく実証したのが、1979年のワルトハイマー疫学調査である。米国コロラド州デンバーで、配電線やトランスの周辺で小児白血病が多発することを立証した、世界初の疫学論文だ。
 その後、長い論争を経て、1992年にスウェーデンのカロリンスカ研究所のアールボムとフェイチングらが大規模疫学調査を発表した。これが「カロリンスカ報告」である。高圧送電線から出る、わずか0.2ミリガウスの磁場で小児白血病リスクが2.7倍になり、0.3ミリガウスで同3.8倍になると発表された。しかも、スウェーデン政府は、1995年にこのカロリンスカ報告を基に、いわゆる「慎重なる回避政策」を実行に移した。送電線の近くに住宅は建てないという政策である。このスウェーデン政府の政策やスウェーデン・ノルウェー・デンマーク合同のノルディック報告がきっかけで世界的に電磁波への関心が高まり、1996年に、WHO内に国際EMFプロジェクトが設立されたのである。

□5万ミリガウスが安全とは言えなくなった
 長い間、日本の電力会社は「5万ミリガウスまでは安全だとWHOは言っている」と主張してきた。これはWHOが1987年に出したクライテリア69であり、「50ガウス(5万ミリガウス)までは生体への影響は確認できない」と言っていることを金科玉条にして言っているものである。しかし、WHOは「この報告は専門家グループの見解で必ずしもWHOの決定ではない」としており、長く国際EMFプロジェクト責任者だったレパチョリ博士も「WHOの見解ではない」と明言しているものである。
 今回の環境保健基準では「0.3〜0.4マイクロテスラ(3〜4ミリガウス)で、小児白血病リスクは約2倍になるいう疫学調査を支持する」としている。

□疫学と慢性影響(非熱作用)について
 環境保健基準は「慢性影響」について「低度(約0.3〜0.4マイクロテスラ)の電力周波数磁場を慢性的に曝露すると、健康リスクが生じるという科学的証拠は、小児白血病発症リスクが増大するとした疫学研究(調査)に基づいている」としている。WHOは、ヒトへの発がんリスク指標として、動物実験や細胞実験より疫学調査を重視している。また、慢性影響とは、急性影響である熱作用でも刺激作用でもなく、非熱作用による影響をさしている。この部分はとても重要な指摘である。

□完全無視は日本の恥さらし
 今回の環境保健基準について、地方紙の多くは1面トップ記事で大きく扱った。ところが、全国紙である朝日新聞と読売新聞は完全無視した。毎日新聞と日本経済新聞は小さい報道をした。この事実を見ると、日本の全国紙に相当な“報道管制”を敷かれているのを感じる。地方紙は共同通信配信記事のため、似たような記事になっている。
 スポンサーへの配慮かもしれないが、「社会の木鐸」として警鐘を鳴らす役割が新聞にはあるはずなのに、これでは自己否定である。


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