世界保健機関インターフォン研究について

□インターフォン研究とは
 WHO(世界保健機関)国際EMFプロジェクトでは、携帯電話使用と発がんリスク(とりわけ脳腫瘍)評価のために、IARC(国際がん研究機関)が中心に13ヵ国が協力して、大規模な疫学調査を進めている。この国際共同症例対照研究をインターフォン研究(INTERPHONE STUDY)という。
 13ヵ国とは、英国・ドイツ・フランス・カナダ・イタリア・日本・オーストラリア・ニュージーランド・イスラエル・デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フィンランドである。インターフォン研究計画は、2009年に発表が予定されている、高周波の環境健康基準(EHC)を創るための研究である。

□1月と2月に相次いで発表
 すでに、デンマーク(2004年)、スウェーデン(2004年と2005年)、英国(2006年)、ドイツ(2006年)と研究報告が出され、2007年中にすべての研究報告が出される予定である。そうした中で、デンマーク・フィンランド・ノルウェー・スウェーデンの北欧4ヵ国と英国の5ヵ国共同研究が2007年1月21日に発表され、日本の総務省も2007年2月21日に研究を発表した。

□総務省の発表内容
 「総務省は、生体電磁環境研究推進委員会(委員長:上野照剛九州大学特任教授)において、平成12年から携帯電話の使用と脳腫瘍の一症例である聴覚神経鞘腫(ちょうしんけいしょうしゅ)との関連性に関する疫学調査を行なってきました。その結果、両者の間における有意な関連性は認められませんでした。」という、A4版7枚の報道資料を2月21日に総務省は発表した。
 聴覚神経鞘腫(ちょうしんけいしょうしゅ)は耳の奥の聴神経を被う鞘のようなシュワン細胞にでる良性腫瘍で、脳腫瘍の10%を占める腫瘍である。「良性」とはいっても、症状としては難聴、耳鳴り、運動神経障害等を起こす、浸潤しない脳腫瘍だ。

<欧州5ヵ国インターフォン研究結果>
(2007年1月21日発表)
実施国:イギリス・デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの5ヵ国
症例名:神経膠腫(グリオーム)
症例(ケース)数:1521人
対照(コントロール)数:3301人
携帯電話10年以上使用症例数:143人
研究結果:携帯電話を10年以上使用すると脳腫瘍の1種で脳腫瘍の30%を占める神経膠腫(グリオーム)が約40%増大。使用年月の長いほど発症リスクも増大。

<日本のインターフォン研究結果>
総務省生体電磁環境研究推進委員会研究
(2007年2月21日発表)
症例名:聴神経鞘腫
症例(ケース)数:97人
対照数(コントロール)数:330人
携帯電話10年以上使用症例数:1人
研究結果:携帯電話使用と聴神経鞘腫との間に有意な関連性は認められない。
□総務省研究の問題点
 これまでに発表されたインターフォン研究結果では、デンマークのみ「10年以上使用も含み、脳腫瘍(聴神経鞘腫)との影響はなし」の結果だったが、残るスウェーデン(聴神経鞘腫と神経膠腫の2種類)、英国(神経膠腫)、ドイツ(神経膠腫)では、いずれも「10年以上携帯電話使用すると脳腫瘍が有意に増加する」であった。神経膠腫(しんけいこうしゅ)は脳腫瘍の30%を占める腫瘍で、神経細胞を支えるグリア細胞にできる腫瘍で悪性のケースが多い腫瘍だ。
 今回の総務省研究の最大の問題点は、いま世界で注目されている「携帯電話の長期間使用とくに10年以上使用の場合」の脳腫瘍発生リスクに応える疫学調査になっていないことだ。研究報告は「諸外国では、10年以上の長期使用者のリスクが分析されていますが、我が国では10年以上の定常使用者は非常に稀で1症例(1.0%)及び8対照(2.4%)のみでしたので」と記述している。
 生体電磁環境研究推進委員会のメンバーは、電磁波の熱作用を重視する人が多く、はじめから“影響なし”という結果を想定した研究ではないかと批判したくなる。科学的研究結果だというのならば、使用期間が10年以上の人を対象にした研究をすぐに行って、疑念を払拭すべきだ。
 第二の問題点は、電話による調査であることだ。スウェーデンの国立カロリンスカ研究所が2004年に行った研究では、面接調査を実施している。

□いまや疫学調査重視の時代
 今回、WHOの要請ではあるが、総務省が疫学調査を実施したことは評価したいが、調査方法が問題である。
 WHOのIARC(国際がん研究機関)の「ヒトに対する発がん性分類の概要」によれば、発がん性分類の指標としては、疫学研究(調査)、動物実験、細胞実験の3つのうち、疫学研究がもっとも重要な指標であることを示している。これが世界に見方だ。
 ところが日本では、動物実験や細胞実験が疫学研究より相変わらず重視されている。インターフォン研究で疫学研究の実施を要請されなければ、今回も日本政府は無視していたであろう。
 今後は、下記のような、基地局周辺の大規模な疫学調査を実施すべきである。また、極低周波に関連して、家庭電器製品使用に関する疫学調査に日本政府は乗り出すべきだ。
<基地局周辺住民の調査研究>
(フランス国立応用科学研究所 2003年4月)
基地局から300m以上離れている住民との比較
10メートル以内: 吐き気・食欲不振・視覚障害
100メートル以内:癇癪・うつ症状・性欲減退
200メートル以内:頭痛・睡眠障害・不快感
200〜300メートル:疲労感

□調査研究の独立性と公開性の確保
 さらに、企業や行政から調査研究メンバーが独立した「英国独立専門家研究委員会」ような組織とすることや、研究内容等を情報公開の対象とすることが必要だ。日本の研究調査メンバーは政府のお気に入りに偏っているし、市民への公開性が不十分だ。


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