<海外情報>

マイクロ・ウェーブ・ニュース
2006年11月13日
(抄訳;TOKAI)

WHO・EMFプロジェクト責任者レパチョリが電力会社のコンサルタントに

以前から企業寄りと言われて来たが無節操すぎると批判

□電力会社コンサルタントに転身
 WHO(世界保健機関)国際EMFプロジェクトの最高責任者を10年以上にわたって務めてきたマイク(マイケル)・レパチョリ(Mike Repacholi)は、2006年6月にWHOを辞めたが、数か月後には電力会社のコンサルタントの仕事についた。この会社は「CL&P」(コネチカット電気&電力株式会社)で、ノースイースト電力会社とユナイテッド・イルミネイティング(UI)株式会社の合同子会社であり、コネチカット州送電線用地建設審議会(Siting Council)に厳しいEMF曝露基準を適用しないようにするための要員として、レパチョリを雇ったのである。
 現在、この用地建設審議会は州のEMF政策を改訂中である。昨年、CL&Pはグラジエンド社のピーター・バルバーグ(Peter Valberg)を独自のコンサルタントとしてすでに雇っていた。バルバーグの役目はEMF健康調査の現況を検討することにある。1月に提出されたバルバーグの報告書は、 一般人よりセンシティブと思われている子供であっても影響がない値として「百ミリガウスのスクリーニング・レベル」を提案している。

□州見解より甘いスクリーニングレベル
 コネチカット州政府公衆衛生課(DPH)はバルバーグの見解と違って、3〜4ミリガウスの磁場でも小児白血病リスクが生じるとする疫学調査を基に、「6〜10ミリガウス」を基準にしたいと考えている。
 そのためDPHはバルバーグ報告書を厳しく批判している。5月31日の用地建設審議会への提案で、DHCは「病気を引き起こすミリガウス磁場」はどの程度なのかを示す科学的根拠をもった勧告を行なった。その勧告からすれば、バルバーグの提案した百ミリガウスでは子供を守ることはできない、とDHCは考えている。

□レパチョリの役割はバルバーグへの支援
 電力会社はバルバーグを支持し、DHCに反対するための詳細な意見書を作成するためにレパチョリを雇った。レパチョリがまとめた意見書は、10月26日に用地建設審議会に提出された。同じ日に、CL&PとUIの二つの電力会社は、レパチョリがWHO国際EMFプロジェクトで自ら作成に関与した政策に、DPHが従うよう仕向けるために会議を設定した。レパチョリが直接関与したWHOの政策とは、たとえば子供に継続して833ミリガウスまで電磁波を浴びても影響ないとするICNIRP(国電離放射線)のガイドラインを守れ、といった内容を含む政策だ。

□御用コンサルタントの手口
 このレパチョリがまとめた意見書は、まだ未発表のWHO報告書を電力会社の利益のために引用したり、かつ不正確に使用している、として今批判されている。
 ある人は「これはWHOでの彼の活動の継続だ」とみている。どういうことかと言うと、レパチョリは公衆衛生のための公金を使って携帯会社や電力会社のためになるような活動をしているとしばしば非難されてきたが、今回もそれと同じだというのだ。
 また別の人は「彼に役割の最後の仕事として、今回のコンサルタントの仕事がある」とみている。電力会社や携帯会社は国際EMFプロジェクトに財政的援助を行なってきた。レパチョリは企業の金を使ってWHOで企業が有利になるような政策づくりをしたきたが、そのWHOの政策に使った資料を今回の彼の意見書で使っただけだというのだ。
 DPH(コネチカット州公衆衛生課)は、電磁波(EMF)の小児白血病リスクは深刻だと考えている。そのため、DPHは用地建設審議会で「疫学調査結果は軽視できない」と主張した。
 しかしバルバーグとレパチョリはDPHとは異なった解釈をしている。二人とも疫学調査結果を否定はしないが軽視する。具体的に言うと、バルバーグは疫学証拠を取り上げる時はいつでも「証拠は弱い(weak)」と表現する。また「磁場は因果関係を証明する因子には使えない」と批判する。
 レパチョリはもっとひどく、「疫学証拠は“とても弱い”(very weak)」と表現する。そして「百ミリガウスというスクリーニングレベルは、子供にとっても大人になっても十分に安全な値だ」と述べている。
 バルバーグとレパチョリは最近、新しくWHO国際EMFプロジェクトの最高責任者になったエミリー・バン・デベンター(Emilie van Deventer) と一緒に「高周波の健康影響」に関する共同論文を発表した。この論文は別の企業コンサルタントの方法にならって、研究結果を意図的に選択して引用する方法をとっている。具体的に言うと、携帯電話と脳腫瘍の関係を調査するWHO委嘱の「インターフォン研究」の研究結果をレビューする時は、脳腫瘍リスクがあるような研究結果は取り上げない。つまり、10年以上携帯電話を使用すると聴神経腫瘍が有意に増加するという研究(カロリンスカ研究)は取り上げないようにする。こうして携帯電話を長期間使用する問題は無視するのだ。

□レパチョリ意見書にWHO関係者も批判
 レパチョリは電力会社に有利になるように、WHOがまだ未発表な「環境健康(保健)基準」(EHC)の報告書の中に載る研究結果を彼の意見書に勝手に引用した。この報告書は2005年10月にジュネーブで開催された会合で出された20人の専門家がまとめた草案段階の報告書だ。最終報告書は数か月前(2006年夏頃)にまとめられたがまだWHOは公表していない。
 この報告書の作業部会の責任者であるクリス・ポーティエ(Chris Portier)は、レパチョリは作業部会の結論を正しく捉えていないと語っている。「レパチョリは報告書の内容からそれたり、時には間違って捉えている」とポーティエは語った。彼はNIEHS(米国国立環境衛生科学研究所)のリスク評価部門の共同責任者である。
 ポーティエはレパチョリ批判のための具体例を2〜3挙げた。レパチョリは「WHOのEHC(環境健康基準)作成作業部会は“疫学研究証拠は基準の根拠には使えない”というものだ」と彼の意見書で述べている。これに対し、ポーティエは「そんな結論はばかげている。なぜなら疫学研究証拠は基準の根拠として使えるからだ」と批判した。また、レパチョリの意見書で「WHOの作業部会は、1998年のICNIRPガイドラインは電磁波の影響から健康を守るのに十分な内容だ」としている。これに対し、ポーティエは「これは言い過ぎだ。1998年のICNIRPのガイドラインは急性影響への対処であって、慢性影響を含むすべての電磁波影響まで保護するものではない」と批判した。
 EHC(環境健康基準)の検討に関してWHOが報告書等で記述するやり方は、断定的でなくいろいろな意見・立場を含んだ書き方をとっている。ところが、レパチョリはWHO時代、EHCの会合に8人のオブザーバーを喚んだが8人全員電力会社関係の人間だった。その会合の前にも「エクスポネント・ビル・ベイリー」という電力会社CL&P/UIのコンサルタントの見解を、要請していた。

□どこまでも企業寄りのレパチョリ
 レパチョリは別の未発表のWHO報告書を電力会社のための使ったことでも批判されている。用地計画審議会に提出した彼の意見書の中に「科学的不確実分野における公衆衛生政策を選択する際のフレームワーク」のコピーを添付資料として使ったことで、カール・ブラックマン、マーチン・ブランク、デイビッド・カーペンター、オージェ・ヨハンソン、シンディ・セイジらは迷惑している。このWHOの5人のメンバーは、このレパチョリの意見書が用地計画審議会で使われず撤回されるようにポーティエが影響力を行使するよう求める手紙をポーティエに出した。
 このフレームワークづくりにはいろいろエピソードがある。レパチョリは彼のWHO内のアシスタント役であるリーカ・カイフェッツ(Leeka Kheifets)と一緒にこのフレームワークをつくった。リーカはEPRI(電力研究所)で以前働いていた。EPRIはカリフォルニア州パロアルト市にある電力会社の研究機関だ。そして彼女は現在WHOを辞め、大学で研究生活しているがその研究費用はEPRIが出している。
 WHOがEMFに関し予防原則を出そうとしたが、突然方針を変更し予防原則を取り下げた直後にこのフレームワークをレパチョリとリーカが書いたのだ。2003年前半にブリュッセルで開かれた会合で「予防」(precaution)のための方針が一度は出されようとした後に、レパチョリはその方針を変更させた。そしてその「予防」のための方針に変えてレパチョリとリーカ・カイフェッツは「不確実な健康リスク(なにも電磁波に限らないが)すべてに適応するような方法としての“フレームワーク”」を作り出したのだ。
 しかし、EHC(環境健康基準)報告書同様、この「フレームワーク」報告書もまだ草案段階で、レパチョリがWHOを辞める段階では正式な報告書として完成していない。

<電磁波問題市民研究会の解説>
久しぶりに、『マイクロ・ウェーブ・ニュース』のスレシン編集長が、舌鋒鋭くレパチョリを批判する見解を出した。オーストラリア出身のマイケル・レパチョリは、WHO国際EMFプロジェクトの立ち上げ時(1996年)から最高責任者を務めていたが、在任中から企業よりの姿勢が批判されていた。彼は2006年6月にWHOを退職したが、今回批判されているように、電力会社のコンサルタントになって“本領”を発揮して、電力会社のために臆面もなく奉仕している。しかも、WHOでも未発表の報告書を電力会社のために引用し、元の仲間からもヒンシュクを買っているという。WHOは、曲がりなりにも公的性格を持つ機関であるので、たとえ研究資金・活動資金を企業から受けていても、奉仕する相手は一般民衆でなくてはならない。こうした公的機関への援助金のあり方は、金は出しても口は出さないのが当然である。そんな機関の一部門の長であったならば、最低3〜5年は関係する企業に入らないのが“筋”ではないだろうか。世界銀行にしてもIMF(国際通貨基金)にしても、そのバックでロックフェラー財閥やモルガン財閥等が自分たちの手足として、こうした機関を使っているという話は聞こえてくる。こういう例を見せられると「WHO、お前もか」と言いたくなる。しかし、クリストファー・ポーティエやカール・ブラックマンの動きをみていると、誠実派も存在しているのも事実だ。日本においても、兜真徳氏(故人)も確実に誠実派だった。民衆が監視し続けることが大事だ。


会報第44号インデックスページに戻る