兜真徳さんを悼む

 国立環境研究所上級主席研究員であり、国際保健機関(WHO)国際EMFプロジェクト日本代表でもある、兜真徳(かぶと・みちのり)さんが、2006年10月10日に悪性リンパ腫でお亡くなりになりました。兜さんは、WHO国際EMFプロジェクトの発足(1996年)当時から、大久保千代次さんと二人で日本代表を務めてこられたのです。
□きちんと正論を話す人
 兜さんの人柄をあらわすエピソードを紹介します。
 千葉県佐倉市の間野台小学校前に東京電力が変電所を建設する計画に対し、小学校の保護者を中心に反対運動が起こり、1997年11月3日に間野台小学校体育館で住民たちが兜さんを招いて講演会を開いた時、たんたんとお話をされたのですが、内容は鋭かったです。「WHOがまとめた疫学調査によれば、電磁波の発がん性は約1.8倍である。これに対しダイオキシンの発がん性は、約1.6倍である。ダイオキシンと比較しても電磁波のリスクは見劣しない」と指摘されました。科学者として硬骨漢であることが感じられました。

□最大の功績は初の全国疫学調査
 兜さんの最大の功績は、1999年度〜2001年度までの3年間の歳月と7億2125億円かけて実施された、日本初の電磁波全国疫学調査です。正式名は「生活環境中電磁界による小児の健康リスクに関する研究」であり、文部科学省が研究費を出した研究です。この研究は、WHOから「日本とイタリアで大規模な極低周波の疫学調査をしてもらいたい」と依頼を受けて、実施したのです。この調査には、国立環境研究所・国立がんセンタ−研究所・東京女子医大・自治医科大・国立小児病院・鹿児島大・富山薬科大・産業医科大・徳島大の9機関が協力して行なったものですが、別名「兜研究」といわれるほど、兜さんの果たした功績が大きい研究です。

□世界に誇れる研究
 この研究は、2000年1月〜2002年3月までの実質2年3ヵ月で、発生した初発の小児白血病患者1439例をリストアップし、訪問面接調査を行ったり、子供部屋を1週間連続測定したりして、最終的には、症例312例、対照603例を集めた大規模なものでした。その数は、英国NRPB(英国放射線防護局)の全国調査、米国NCI(国立がん研究所)の調査に次ぐ世界で3番目の規模の調査でした。また子供部屋の1週間連続測定は世界最長であり、精度も世界トップレベルの調査です。
 その結果、小児急性リンパ性白血病が4ミリガウスで4.73倍、小児脳腫瘍が同10.6倍で有意と出ました。小児白血病全体では同2.63倍ですが、これは有意ではありませんでした。

□文部科学省の過小評価
 この研究に対し、2003年3月5日に最終報告が出る直前の同年1月28日に、文部科学省は「平成14年度科学技術振興調整費中間・事後評価報告書」で兜研究を評価a,b,cランクの最低である「オールc」とし、同様な研究には金を出さないことにしました。「オールc」の理由は、(1)症例数が少なすぎるので健康リスク評価として不適切、(2)交絡要因の関与が不明等疫学上の問題点がある、(3)国際的な評価(海外論文誌掲載等)の成果がない、等を挙げています。しかし、この評価した14名のメンバーには、兜研究の評価が出来る疫学研究の専門家は全くおりません。
 2006年8月には、専門誌「国際がんジャーナル」誌に兜論文は掲載されましたし、規模や精度の確かさはWHOでも評価されているのです。
 日本の誇る疫学専門家を失ったことは誠に残念です。


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