<海外情報>
(翻訳:大久保貞利)
【概観】
様々な種類の電磁波曝露による健康影響について多くの国で人々が不安を感じている現状に対応するため、1996年5月、世界保健機関(WHO)は電磁波の環境影響と健康の関係を明らかにするための国際プロジェクト、つまり「国際EMFプロジェクト」を設立した。
「国際EMFプロジェクト」は最新知識の提供と主要な国際的機関・各国機関・研究所のもつ能力を提供してもらうことで、0〜300ギガヘルツ(ギガ=10億)周波数帯の静電磁場と変動電磁場の健康リスク評価に関して、科学的に信頼のおける勧告を行なうことを目的にしている。
「国際EMFプロジェクト」は科学的文献を信頼性・独立性をもって論文審査できるよう便宜を図る。「国際EMFプロジェクト」が行なう対象を以下列挙する。
IAC(国際諮問委員会)
国際EMFプロジェクトの全体を監督する機関で、国際機関・独立研究所・各国政府の代表たちで構成される。IACは年1回開催される。
国際EMFプロジェクトはこれまで11年間にわたって様々な研究計画や活動を展開してきたが、健康リスク評価は2008年に終える予定だ。
1.1 構成員
国際EMFプロジェクトはWHOに加盟している国に門戸が開放されている。現在60ヵ国が関係している。この1年以内にギリシャ原子力委員会があらたにIACのメンバ−に加わった。
1.2 協力機関
国際EMFプロジェクトと協力関係にある機関は2タイプに分類される。国際機関と共同センタ−の2タイプだ。
《国際機関》
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)・IARC(国際がん研究機関)・UNEP(国連環境計画)・ILO(国際労働機関)・EC(欧州連合)・ITU(国際通信連盟)・IEC(国際電子標準化委員会)・NATO(北大西洋条約機構)・IEEE(米国電気電子技術者協会)
《共同センタ−》
ブルック空軍基地(米国・テキサス州)・ARPANSA(オ−ストラリア放射線防護・核安全庁)・BfS(ドイツ放射線防護局)・FDA(米国食品医薬品局)・カロリンスカ研究所(スウェ−デン)・国立環境研究所(日本)・NIEHS(米国国立環境衛生科学研究所)・NIOSH(米国国立労働安全衛生研究所)・HPA(英国健康保護庁)・オタワ大学健康リスク評価マクロ−リンセンタ−(カナダ)
1.3 事務局
国際EMFプロジェクトは、WHO「人間環境保護局」(PHE)内の放射線・環境衛生部門(RAD)に属する。
事務局は以下の6人で構成されている。
【リスク評価(アセスメント)】
国際EMFプロジェクトの主要な目的は、0ヘルツ〜300ギガヘルツ(ギガ=10億)周波数帯電磁波の健康リスク(health risk)を評価(assess)することにある。そのためのキ−となる具体的目標は以下だ。
2.1 健康リスク評価
(静電磁場)
静電磁場の「環境健康基準」(EHC)は、2004年12月にジュネ−ブで開催された作業部会の会合で検討された。そして「WHO静電磁場環境健康基準232」として2006年3月に発表された。ウェブでも見られる。そして文書はフランス語・スペイン語・ロシア語にも翻訳されている。
(極低周波電磁波)
極低周波(1ヘルツ〜100kヘルツ)の環境健康基準に関する研究のうち、研究の多くは50・60ヘルツの商用周波数磁場に集中している。そして2〜3の研究は商用周波数電場を対象としている。さらにMRI(磁気共鳴画像診断装置)やVDU(パソコン等)やテレビで使われる3〜30キロヘルツの転換変化磁場(switched gradient magnetic field)に関する研究も多い。極低周波電磁波の「環境健康基準」(EHC)は病気等のカテゴリ−毎に扱いを分けている。神経退化障害・心臓欠陥障害・小児白血病・防護方策、といった風に草案を書くため専門家作業部会も分かれている。
極低周波電磁波の健康リスク評価のための作業部会は2005年10月3日〜7日、ジュネ−ブのWHOで開催された。その時の議長は米国NIEHSのクリス・ポ−ティだった。この次の極低周波電磁波「環境健康基準」(EHC)草案は、リチャ−ド・ソ−ンダ−スとエリック・バン・ロンゲン他が参加して作られる。極低周波電磁波「環境健康基準」(EHC)の最終草案作成のためのコメント募集は2006年6月に行なわれ、最終文書は2006年末に発表される予定だ。
(高周波電磁波)
高周波(RF=radio frequency)電磁波の健康リスク評価に関する文書草案が現在作成の方向で進められている。予備的検討はICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)で行なわれている。その後英国の「健康保護庁放射線防護局」(HPA-RPD=前英国放射線防護局)でさらに検討を加えたのち、2008年の早い時期にWHO高周波作業部会で集中した検討と最終評価をして「環境健康基準」(EHC)として完成させる。そのためには「インタ−フォン研究」や他のECが出資している研究やIARC(国際がん研究機関)の発がんリスク等がどう進められるかにかかっている。
2.2 科学的検討(レビュ−)
(WHOワ−クショップ)
2・3 研究協力
(研究デ−タベ−スづくり)
(研究会議の開催)
(資金提供機関との協力)
【リスク管理】
国際EMFプロジェクトの主要なリスク管理(risk management)は以下だ。
3・1 基準フレ−ムワ−ク
国際EMFプロジェクトは科学的根拠をもつしっかりした基準をつくるためのフレ−ムワ−ク(骨組み)を開発している。国際基準づくりとしてはICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)があるが、いくつかの国ではICNIRPとは別のその国独自の基準づくりをしている。そこでWHOとしても電磁波の新しい基準づくりに役立てられるようにフレ−ムワ−クを提供しようと考えている。
3・2 法制化モデル
国際EMFプロジェクトは加盟各国の国民を保護するための電磁波に関する法整備が整ていない国をアシストするために、参考となるような法律・条例・規則等のモデル案を提供する。モデル案についてはウェブで参照できる。
(以下5章まであるが省略)