<海外情報>
TOTAL HEALTH
Vol.28, No.1, 2006
(抄訳:TOKAI)
以下はワシントンD.Cで活動するNPO「科学・公共政策研究所」の所長ジョ−ジ・カルロ博士に対し、フリ−ライタ−のマイケル・フォスバ−グ氏が行なったインタビュ−記事である。カルロ博士は電磁波の健康影響に関して世界的な専門家の一人として知られている人物だ。カルロ博士は『携帯電話−無線時代の見えざる害』をマ−チン・シュラムと共著で出した。また、携帯電話と安全性に関する世界最大の研究を行なった研究所の所長であった過去でも知られている。
<マイケル>カルロ博士、あなたが所長をしている「科学・公共政策研究所」と携帯電話の危険性について、どういう関係なのかをまず知りたい。
<カルロ>科学と政治の間に不一致がある公衆衛生問題を扱うフォ−ラムとして、「科学・公共政策研究所」は1990年代前半にオ−プンした。具体的には、私たち研究所は「シリコン豊胸移植問題」「最終処分場問題」、また最近では「携帯電話リスク問題」といった諸問題に、何年にもわたって研究してきた。2002年には、「無線の安全性に関わるイニシアティブ計画」を作成し、携帯電話の危険性を研究してきた。特に携帯電話の健康障害問題を監視してきた。
<マイケル>
「無線の安全性に関わるイニシアティブ計画」は、今でもあるのか。
<カルロ>はい。この計画の参加メンバ−は現在6千人以上いて、毎週メンバ−は増えている。この「計画」の中心的活動は、「携帯電話は安全なのか否かの問題」と「問題の解決方法は何か」について利用者(メンバ−)に情報提供することだ。私たちに寄せられる、健康問題への不安に関する情報は、携帯電話利用者に起こっている健康問題に関する、世界中の「ポストマ−ケット調査」に基づいている。
<マイケル>政府や携帯電話会社は、そうした追跡調査はしていないのか。
<カルロ>彼らは追跡調査をしていない。本来はすべきなのだが。携帯電話会社や政府は、携帯電話と病気の因果関係は証拠がないと主張する。それでいて、携帯電話利用者の病気に関するモニタ−はしていない。問題を調べていないだけでなく、数すら知らない。これでどうして、問題があるとかないとか言えるのだろうか。私が1990年代に行なった2800万ドル(約31億円)の研究(この研究は携帯電話会社が出資し政府間の公式のワ−キンンググル−プが調査した)に基づいて、私たちは「携帯電話の健康問題は1998年にさかのぼって調査を行なうべきだ」と勧告した。しかし、携帯電話会社も政府も、利用者を守る対策は絶対に行なわなかった。私はこれは許しがたいことだと思っている。
<マイケル>どうして、政府は何年にもわたって、携帯電話の危険性について世間に何も言わず、沈黙を続けているのか。
<カルロ>携帯電話会社は、携帯電話の安全性に関する問題が政治化しないように、有効な手を打っている。つまり、この問題を隠すために政治的圧力をかけている。そのため、政府内の規制関係者は口をつぐんでいる。携帯電話利用者を守ろうとはしていない。米食品医薬品局(訳注:日本の厚生省にあたる)は、携帯電話会社に規制を加えようとしない(説明すらしない)。環境保護庁(EPA)が携帯問題にタッチできないように、無線通信関係予算をカットされてしまた。この無線通信関係予算を連邦通信委員会(FCC)が担当するようになったため、FCCが通信業界の財政パ−トナ−として動きやすくなったのである。実際、携帯電話リスクに対して、米国では規制がなされていない。携帯電話利用者はリスク保護について何も知らされていない。「無線の安全性に関わるイニシアティブ計画」は、このような状況下で携帯電話の安全な使い方をメンバ−に知らせる役割をしている。
<マイケル>「無線の安全性に関わるイニシアティブ計画」の実際の役割についてお話してもらいたい。
<カルロ>一つは、携帯電話の問題点について最新情報を利用者に提供している。二つに、携帯電話の使用で健康障害のおそれがあると考えているが、携帯電話会社は安全だと言っている。そのため、携帯電話会社にだまされないようにするため、批判的に防護製品を評価して情報を提供する。私たちは専用のウェブサイトをもっているが、そこで、携帯電話や他の電磁波発生源は健康問題と関係ありと考えている人たちに、「具体的な症状を登録するよう」よびかけている。この登録デ−タは、今後の研究に役立つ。もちろん、このデ−タは秘密保護されるが、プライバシ−に配慮した上でなら、他の人に役に立つ。登録上のデ−タ数が多いと、問題解決のために、政府や州の政策担当者に影響を与え得るようなフォ−ラムになる。
<マイケル>前から聞きたかったのだが、どういう仕組みで携帯電話は通話できるのだろうか。
<カルロ>携帯電話というのは、数マイル離れた所にいても、中継基地局に音声情報を無線波信号で送る仕組みだ。距離をカバ−するため、基地局から遠いと信号を送るための出力は強くなる。それは、携帯電話も基地局も共に電磁波発生源なので、バ−スト(噴出)するように出力される。出力が強まると電磁波量は強まり、それだけ危険も大きくなる。あなたの携帯電話内の出力バ−(powerbar)から、どれほどの電磁波が発射されるかは、「バ−の数が少ないほど、電磁波量は大きくなる」関係にある。
<マイケル>通話時間を短くすることで、電磁波量は減らせるのか。
<カルロ>必ずしもそうとは言えない。通話時間の長さとか通話回数より、基地局との関連の方が影響は大きく、どこの場所で携帯電話を使っているのかの方が、電磁波量は影響される。だから、1分通話を10回するのと10分間通話を1回するのと、健康上どちらがいいかと聞かれても、電磁波量が場所によってわからないので、実際にはわからない。問題解決のための決まった行動形態はないので、答えも簡単ではないのだ。
<マイケル>携帯電話電磁波を浴びることで、何が起こるのだろうか。
<カルロ>第一に、携帯電話電磁波は二つのタイプの電磁波が懸念されている。近傍界電磁波と遠方界電磁波だ。近傍界電磁波は携帯電話のアンテナから6インチ(15センチ)身体内に侵入する。アンテナが頭部にあると脳内に侵入する。腰部にあればヒップの平骨の血液をつくる部分に侵入する。近傍界電磁波は羽状に周囲に広がり、身体に備わった自然の防御システムに襲いかかる。この近傍界電磁波は、血液脳関門(BBB)を通過して細胞機能障害や遺伝子損傷やDNA修復過程への干渉を引き起こすことを、私たちは知っている。こうした近傍界電磁波による生物学的影響により、脳腫瘍や子供の学習障害(LD)などを引き起こされる。
<マイケル>あなたが先程言った、遠方界電磁波とはどんなものか。
<カルロ>この遠方界電磁波の影響は小さいが、対象は多くの人に及ぶ。影響は小さいといっても、じわじわととしたもので、時間とともの累積する。バックグラウウンド(基礎環境)としての電磁波レベルは、この10年間でものすごく増えた。このバックグラウンド電磁波レベルの増大には、携帯電話が大きく関わっている。危険性につながるメカニズムとしてあげられるのは、人間の生体電磁場への干渉だ。生体電磁場とは、生体の代謝作用の際に使うエネルギ−の総量と考えていい。私たちの生体電磁場は、健康と生命維持にとって大きな要因なのである。ところが、増大する人工的電磁波(EMF)量は、私たちの生体エネルギ−に匹敵するほどになっている。このことは、私たちの生理学上のプロセスに、障害を生じさせることにつながる。時を経るにつれて、この人工EMFが増大するという状況悪化は、子供の落ち着きのなさ、注意欠陥行動、免疫低下反応等、様々な症状を引き起こしている。ある一部の人は、EMFを浴びると過度に反応してしまう。この電磁波過敏症は、世界中に広がっている。しかも、状況は今後ますます悪い方向に向かっている。
<マイケル>結局どうすべきか。
<カルロ>このままでは、20年後に、携帯電話や各種無線装置から出る電磁波のため、健康に重大な影響が出るであろう、と私たちはみている。特に、脳がん・その他の脳腫瘍・目のがん・遺伝子損傷・脳の病気・行動面や学習面の問題、が心配である。「無線の安全性に関わるイニシアティブ計画」は、子供への影響を最重点課題としてとらえている。子供たちは、一生で携帯電話を使う期間がそれだけ長いのと、夢中になって携帯電話を過度に使う傾向があることだ。さらに、子供は細胞が成長過程にあるため、生体組織や器官が大人よりダメ−ジを受けやすい、という研究もある。成人に対する携帯電話利用疫学調査では、携帯電話を10年以上使用し、かつ月に五百分間近く使う人は、脳がんのリスクが2倍になるとしている。また、ニュ−ヨ−クのバファロ−で昨年実施した研究によると、10代で月に200分間近く使うと、がんリスクが成人に比べ5倍以上になる、としている。こうした調査を考慮すれば、若い人が一生涯携帯電話を使った後に何が起こるか、誰にも予測はつかない。現在あるデ−タに基づく推測では、不吉なものになる。
<マイケル>もしそんなに携帯電話が大問題ならば、どうして誰も問題にしないのだろうか。
<カルロ>問題の一つは、通信産業が製品をより安全なものに努力しないことがある。もう一つの問題点は、国際的科学研究会議(訳注:WHOやICNIRPなど)の研究結果やメディアにまで通信産業がコントロ−ルし、携帯電話の危険性が大衆に知らされないようにしていることだ。携帯電話会社が、研究結果について、テレビ・新聞等の報道メディアに、ウソの情報が流れるように細工したケ−スも何回かある。また、携帯電話会社は、ディズニ−社のようなパ−トナ−に、子供に携帯電話を売るよう、積極的に働きかけている。特に8歳〜12歳を市場タ−ゲットにしている。この世代は“tweeners"と呼ばれ、携帯電話を欲しがり、実際に持つと夢中になって使う。これはタバコにおける現象と似ている。携帯電話利用者、特に、若い利用者が安全性を無視したこうした動きは、グロテスクですらある。
<マイケル>だとすると、政府は危険から携帯電話利用者を守るべきではないのか。
<カルロ>そのとおりだ。米国以外のいくつかの国では、市民や携帯電話利用者を守るための対策を行なっている。しかし、携帯電話会社側の抵抗行動のため、対策は遅れており規制も小さい。ここ米国では、何もなされていない。金銭面の流れをみれば、どうして政府が弱腰なのか、その理由がはっきりわかる。米国にしても欧州にしても、政府は、通信周波数を民間企業に売却することで、数十億ドル(数千億円)得ている。1990年代後半に、周波数売却オ−クションで得られた歳入金と携帯電話利用者からの得た税収等の歳入金は政府を骨抜きにし、携帯電話産業に妥協的にふるまうように仕向けた。携帯電話会社の莫大な収入利益のおかげで、政府自身の収入も恩恵を受けた。こうして、携帯電話利用者の安全を守ろうとする様々な規制策は、政府の政治的財政的利益とは反する、という関係ができあがった。
<マイケル>あなたの話はあまり愉快な話ではない。携帯電話の危険性から身を守りたと考える人へのアドバイスはないか。
<カルロ>一番大事なことは、携帯電話は安全なものではないことを、利用者は認識することだ。通信業界も政府機関も、率先して保護策を講じようとはしない。だから、携帯電話の安全性に疑問を感じている人は、個人として身を守る以外にない。「無線の安全性に関わるイニシアティブ計画」を通じて、私たちは、携帯電話利用者が携帯電話の安全問題に関心を持つよう、情報を提供し続けている。しかし、問題解決は簡単ではない。解決のための特効薬は無い。だから、保護がなぜ必要かの根拠となる、新しい研究結果に気づくことが大切なのだ。また同時に、「身を守るために役立つ製品」と宣伝されている多くの製品が、偽物だと気づくことも大切なのだ。そして、何が効果があり何が効果がなくて悪いものかを気づくように、利用者を教育していくことも大切なのだ。
<マイケル>どんなものが効果あるのか。
<カルロ>携帯電話にとって、最も効果ある防止策は「ハンズフリ−・ヘッドセット」である。これは、近傍界電磁波の被曝位置をズラすことで、被曝量を減らす効果がある。私は、エアチュ−ブヘッドセットを個人的には使っている。エアチュ−ブでなくコ−ドでつながったヘッドセットだと、ヘッドセットがアンテナのようにふるまい、頭部に周囲にある遠方界電磁波をひきつけてしまう。エアチュ−ブだとそのリスクが減る。スピ−カ−のついた携帯電話も、同様に、電磁波軽減に役立つ。スピ−カ−があるため、携帯電話を使用する時、6〜8インチ(15〜20センチ)以上、身体から離すことが可能になるからだ。米軍や民間企業の科学者が、合同で開発したノイズ対策技術がある。近傍界と遠方界の電磁波を両方とも考慮し、生物学的影響を有効に除外しようという技術で、もうすぐ利用化されるであろう。直接的対策でなく、一般的な発生源からの生理学上の影響をなくすことに主眼を置く、2次的防止策もある。それらは、携帯電話に付属としてある「アフタ−・マ−ケット・アクセサリ−」として利用されている。最後に言いたいのは、携帯電話利用者は、自らの健康を守るため、電磁波の影響を減らすためのどんな手段でもいいから、したほうが良いということに気づいてほしい。