<海外情報>

(翻訳:TOKAI)

フランスで携帯電話と基地局の規制法案が提出される

 欧州の中でもロシアと並んで電磁波問題に関心が高いフランスでは、様々な予防方 策が自治体レベルで論議されたり実施化されている。たとえばパリ市の基地局電磁波 基準は「2V/m」(電界強度)で、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイ ドライン値「58V/m」より29倍も厳しい。そのフランス国会で携帯電話と基地局 に関して画期的内容の法案が2005年7月13日に議員立法案で提出された。  以下、その提出趣旨説明と法案を紹介する。


議員立法案「携帯電話基地局と携帯電話に関する電磁波リスク規制に関する法案」

(法案提出日 2005年7月13日)

<法案提出議員>
Jean−Pierre BRARD
Christian DECOCQ
Joel GIRAUD
Pierre GOLDBERG
Nathalie KOSCIUSKO−MORIZET
Nicolas PERRUCHOT
Chantral ROBIN−RODRIGO

<法 案 提 出 理 由>

 みなさん!
 携帯電話はまだ開発されて間がない技術です。初めて認可されたのは1991年で、社会的に普及したのは1990年代後半でしかありません。この普及は一つには果敢な宣伝、特に若い層にタ−ゲットを絞った宣伝が効果を発揮しました。今日、約4千万人のフランス人が携帯電話を持つほどにすごいスピ−ドで普及しました。

 携帯電話は、地上に設置されるアンテナネットワ−クによって通信が可能な技術です。送受信用のための携帯電話アンテナは建物の屋上や地方の村々に一つ、また一つと次々と造られました。現在、公式に把握されている基地局の数はフランス全国で3万5千基から4万基の間に達しています。しかし概算ではあってもこの数の持つ意味は重大です。これらの基地局は環境的配慮は無視した、ひたすら効率とコスト優先の結果だからです。国民の多くは、住んでいる家の窓やテラスから数メ−トルから数十メ−トルの所に基地局の鉄塔を見るでしょう。居住する部屋のすぐ上にアンテナが建っている人もいることでしょう。 すべての基地局は、携帯電話に関して健康との関係は斟酌されず、ほとんど規制がないまま建設が認可されたている。そのため、欧州議会によって出された「2002年5月3日指令」で、こうした規制なく基地局が造られる現状は、健康を保護する観点から問題であると強く批判された。そして同指令では、欧州勧告に基づき電磁波の公衆曝露を制限するよう求めている。(1999年 Taminoレポ−ト)

 基地局周辺住民の反対はますます増加している。しばしば反対運動の先頭に市長自らが立っている地域もある。だからといって、反対のための有効な手段はないのだが。結局、市長たちが反対するのは、一つには彼らの良心に基づくものであり、もう一つは基地局が建設される地域とされない地域があり住民たちが不平等に扱われていることに対する不満が市長として理解できるからだ。その点、パリ市民は他の自治体より厳しい電磁波基準をパリ市が採用しているため、他の自治体より電磁波被曝が少なく恵まれている。したがって、国が法律を制定し統一した防護基準をつくることが、フランス国民の地域間格差を解消し平等性を確保することを可能にする。

 こうした住民の反対運動こそが電磁波に対する健康問題の重要性を浮かび上がらせる。また、住民運動の高まりこそが、携帯電話技術の開発にあたって市民たちの生活スタイルと健康を十分配慮するよう仕向けることにつながるといえよう。

 この法案の目的は、地方の環境保護と民主主義の問題(地域が自主的に物事を決めること)、あるいは基地局周辺住民の健康問題や利害と携帯電話使用者側の利便性、といった様々な問題を同時に対応できるようにすることにある。だから、都市化問題・ビル共同所有問題・通信技術問題・とりわけ健康問題、など広範で複雑な領域に関わる問題である。この法案の都市に関わる部分として次の3つの課題が考慮される。一つは都市における自然環境保護の問題、二つが地域選出代表(市長とか)の力の問題、三つが情報と透明性の問題である。

 数多い携帯電話中継基地局の周辺で発生している景観問題は、住民たちの反発を無視して建てられた結果起きているのだが、基本的な基地局問題の一つである。電磁波が健康に影響するかしないかというまだ不確実な問題はさておき、景観上の問題は現実の問題として存在する。あなたが住もうとしている場所で、居住する家の窓やテラスからどんなものが見えるかということはとても重要な問題だ。自分の身の回りの環境を害する要因は、個人の生活と安穏権への侵害になる。そのことは、家庭生活の根幹に関わる日常生活へのもっとも重大な侵害なのである。「家庭生活の根幹」とは言い換えれば、もっとも基本的な生活ベ−スと言ってもいいし、平和でのどかな癒しの場と言ってもいい。

 一軒家にせよ集合住宅にせよ、居宅に近くに基地局のようなものがあれば、資産価値は下落する。そのため、基地局問題は日常生活への影響だけでなく、不動産の転売にも影響を与える問題なのである。

 フランスは、2000年10月20日にイタリア・フィレンチェで開催された欧州議会で署名された18ヵ国による「欧州田園会議」の調印国である。この欧州田園会議では、「地方に住む人たちは文化的・経済的・社会的な計画に積極的に参画することを求めていく会議である。地方の人たちがそうした計画に参加することは、都市の生活の質にとっても地方の生活の質にとっても重要な要素である」と明記している。

 同様にその会議でまとめれた文書では、「個人と社会の幸福、およびそうした幸福を守っていくこと、維持していくこと、作り上げていくこと、は基本的なことであり、それは誰でもが有する権利であり責任である」とも明記している。とりわけ、「地方における問題を、過去の問題だとか、エリ−トや一部の専門家の問題のように取り扱ってはならない」と明記していることも付け加えておく。

 今回の法案は、こうした「欧州田園会議」で指摘された厳しい観点を取り入れている。環境保護に配慮して、すでに現行の諸規制の中にもこうした厳しい観点はいくつか入っている。たとえば、携帯電話の使用や基地局建設を制限したり規制する区域等に関するガイドラインに加えて、携帯電話に使用について環境保護の観点から言及しているガイドラインも存在している。

 郵便通信法45−1条は、「施設および設備の設置の際は、環境・美観・私有財産と公有財産への侵害を最小限に留めること、に配慮して行なう」よう規定している。

 率直に言うと、ガイドラインの中身はあいまいな内容であり、規制も弱く、解釈もどうにでもとれるものである。

 基地局に関する都市部の規制の改正は、規制が有効に機能するような解釈が明確な内容にすべきである。そして、住宅地域に基地局を建てる場合は法にのっとった依頼が必要だし、自治体首長や基地局周辺住民には特別な依頼が必要とすべきだ。

 基地局について、現行の行政機関の認可に関する権限ははっきり言ってほとんどない。だから、私たちは建物の建築許可に必要な方法を基地局にも適用するよう提案している。建物の建築許可と同様にすれば、基地局の高さや性状に関係なく許可は義務化する。また、どこに基地局が建設されるか、あるいは、設置場所を変更するかについても行政機関に権限が生じる。

 このように基地局に関して行政権限が発揮できるようになれば、行政区域の安全や住民たちの安全を守るために市長が関与できるような権限と責任が発揮できる。今日、公衆衛生(人々が安全に生活できるように保健・衛生面で活動すること)の問題は、この法案でも極めて重要な課題であることは間違いない。そのため、緊急な方策が必要である。基地局周辺の多くの住民は、彼らの家や職場に近くに突然、基地局が建てられるので不満を抱くのである。学校や保育園の近くに基地局が建てれば、親たちは心配する。

 こうした住民たちの不安は、非電離放射線(低周波・高周波に関わらず)の健康影響に関する相当数の研究結果からもたらされている。携帯電話から出る電磁波は、事実、高周波と極低周波が織り交ざったものだ。現在、極低周波(300ヘルツ以下)はかなりな年数論議された結果、2002年6月にWHOが「ヒトへの発がんの可能性あり」と分類した。

 政府等の公式機関の報告が、基地局周辺の住民のリスクがある、とは断定していないのは事実である。公式機関の報告は携帯電話自体の健康影響についても極めて慎重なとらえ方をしている。しかしながら、公式機関の報告以外の報告書は、携帯電話や基地局の健康影響についての分析や研究結果で「影響あり」としている。最近の研究は「影響あり」であることをさらに認めているように見える。基地局周辺の住民への電磁波影響に関する研究の一つが、オランダ政府の依頼で行なわれた研究結果で、わずか「0.7ボルト/メートル」の電磁波を45分浴びただけで人の器官に異常がもたらされていることを明らかにした。しかも、欧州統一規格携帯電話システム(UMTS=事務局注;第3世代携帯電話)の周波数で健康影響は早く、明確に出た。このオランダの調査の後、スウェ−デンの研究結果が出て、「10年以上携帯電話を使用すると聴神経腫瘍リスクが4倍になる」ことを明らかにした。

 このスウェ−デンの研究はWHO(世界保健機関)が各国に呼び掛けて実施している共同研究の一つとして取り組まれている研究だ。さらにその後、欧州REFLEX研究計画の研究結果が出た。REFLEX研究は欧州7ヵ国12研究グル−プによる研究だが、携帯電話電磁波がDNA構造に影響を与えることを明確に確認した。これらの研究結果に加えて、ドイツの医師たちが行なった基地局周辺住民に対する健康アンケ−ト調査は、基地局周辺ではがん発生率が高い、と結論づけた。これら4つの研究(オランダ・スウェ−デン・REFLEX・ドイツ)は、英国のスチュワ−ト教授がリ−ダ−となってつくられた委員会の勧告や調査の具体化につながる研究である。この英国政府公認のスチュワ−ト委員会は携帯電話に関して予防原則を適用するよう政府等の公式機関に求めた。特に若い人と携帯基地局についての予防原則適用の必要性を求めた。

 今回の法案の条文を見ることで、予防原則はどういう所で提供すべきかについて、人々ははっきり認識するであろう。予防原則の在り方については、科学界の中枢で論争中である。人々の健康を守る方策がとられる前に、科学的に確定していなくても、国会議員が予防原則を取り入れる責任がある。このことは、憲法に書かれている環境憲章に沿うものである。環境憲章は条文1で、「人は、健康を維持するために健全な環境を享受する権利を有する」と明示している。

 携帯電話を全面的に放棄するか否かというが問題ではないことは明白である。問題は、無秩序な科学技術の開発を避けることであり、そうした無秩序な科学技術の開発が今後大きな健康問題を起こすかもしれないので留意しようということだ。そして、多くの科学者が発信している警戒信号や住民たちの健康不安に注意を払わなかった結果、後悔するようなことにならないようにすべきだ、ということである。

 この法案趣意書は、以下のことを指摘している。
 つまり、この法案の目的は人々の選択権を守ることに通じる法案なのである。

<議 員 立 法 法 案>

第1章「電磁波制限について」

第1条:携帯電話通信ネットワ−ク設備と基地局からの電磁波量は「0.6ボルト/メートル」を上限とする。(訳注:電力密度換算0.0955マイクロW/cm2」)

第2章「携帯電話基地局について」

第2条:住宅や要注意施設(sensitive buildings)から300メ−トル以内に、第1条で規定する施設・設備は建設してはならない。都市部や特定された地域では、要注意施設から100メ−トル以内に上記施設・設備は建設してはならない。「要注意施設」には、学校・学校関連施設・保育園・病院・老人ホ−ムを含む。

第3条:非電離放射線を出すすべての新技術応用物は、人間の健康と環境になんらかの影響が懸念されるので、注意を払わらなければならない。なによりも、その内容を掲示・表示されねばならない。

第4条:「第3世代」といわれる携帯電話システム(UMTS)の影響結果については、稼働3年後に議会に報告せねばならない。

第5条:第4条の「議会への報告」のための研究は、新技術によって利益を得る会社から独立した科学者チ−ムによって編成される。科学者チ−ムのメンバ−の選出にあたっては、今後10年間、利益を得る会社の関係する研究を部分的といえども関わらないことが条件である。また利益を得る会社から金を受けていないことも条件である。さらに、今後10年間、同様に通信関係の仕事に加わらないことも条件に入る。

第6条:第1条で規定する施設・設備が原因で害や病気が起こる場合は、第9条で規定する委員会において出された意見を受けた後、国の保健衛生省庁は市長や健康問題の専門家に情報等を提供せねばならない。

第7条:周波数や電波を管理する国の省庁は、第1条で規定する施設・設備の設置場所や出力・電磁波発生量を公表し、市長や自治体首長に毎年マップ化して情報提供せねばならない。場所や出力等をマップ化(地図化)したものに、さらに設置年月日・設備の技術的物理的特徴点・最新の管理点検した年月日を載せなければならない。

第8条:町当局や少なくとも利害関係がある団体は、施設や設備の設置場所がどこに許可されるかについての決定に関与する。設置場所が決定する前の段階で、環境保護団体や第9条で規定する委員会および住民は、決定事項に対する質問をすることができる。このことについて、同様な手段で少なくても3年毎に内容を再検討することができる。

第9条:基地局計画を監視検討する委員会が、地域毎・部門毎に設置される。メンバ−は、住民団体から選出された人や携帯会社の代表や環境保護団体や国の健康関係省庁関係者から構成される。委員の目的は、第1条で規定する施設・設備と関連する規則を遵守したり、検討することである。また、第2条で規定する場所で「電磁波密度」を測定したりして常に警戒を怠らないようにするのが委員会の目的である。委員会で作成した報告書や意見は、地方議会や関係する町の団体に提出することが義務づけられる。

第10条:賃貸アパ−トや宿泊施設について、第1条で規定する施設・設備の設置や変更がある際は、居住者には事前に文書で通知がなされる。もし、その事前連絡がない場合は、オ−ナ−や携帯電話会社に対し基地局のキャンセルを申し出ることができる。

第11条:第1条で規定する施設・設備は、許可がなければ建設できない。

第12条:第1条で規定する施設・設備のリ−ス期間は3年を限度とする。リ−ス契約には、施設・設備の正確な設置場所・技術的物理的特徴点について取り決めがなされねばならない。

第13条:共同住宅において、第1条で規定する施設・設備に関するリ−ス契約の更新や変更の最終決定は「全員一致」のル−ルで提出される。
第14条:第1条で規定する施設・設備が設置される建物内の居住者は、その建物の全体あるいは一部がオ−ナ−によって売却またはレンタルされる時は、その旨事前に告知される権利を有する。

第3章 携帯電話について

第15条:携帯電話には「SAR(熱吸収比)という欠点がある」ことをフランス語でわかりやすく明示されねばならない。その理由は、携帯電話を長く使用することによる健康への影響を制限するためである。

第16条:携帯電話の扱い指示書や包装パッケ−ジには、「携帯電話を使いすぎるとリスクが生じる」とわかりやすく明示せねばならない。

第17条:携帯電話に対する不適切な広告や「使用禁止」のような広告は禁止される。

第18条:教育省と社会安全省は、携帯電話は健康リスクが懸念されること、特に子供の健康リスクが懸念されることを伝えるため、定期的にキャンペ−ンを行なうこと。

第19条:小学校と中学校では携帯電話使用を禁止とする。

第20条:幼児向けの携帯電話は、製造も輸入も販売も全面的に禁止する。



[電磁波問題市民研究会の解説]

□フランスはイギリス以上に電磁波とくに携帯電話と基地局にの電磁波問題で関心が高く、イギリスの「スチュワ−ト委員会報告」(2000年発表)より厳しい「ツミロ−報告」が出ている。

□「携帯電話と携帯電話基地局に関わる規制法案」は3章・20条から成っている。法案の目玉の一つは「電界強度0.6ボルト/メートル」規制だ。これは電力密度に換算すると「0.0955マイクロW/cm2」で、オ−ストリアのザルツブルグ州(市)基準値「0.1マイクロW/cm2」とほぼ同じ値である。ちなみに日本の総務省電波防護指針値「10000マイクロW/cm2」の1万分の1以下だ。電磁波の熱作用を基にしている日本の基準値に対し、ザルツブルグやフランスの議員立法は電磁波の非熱作用を基にしている。そのためこの差が生まれる。

□面白いのは、一方で子供や幼児への携帯電話使用は禁じる(19条、20条)が、他方で根拠なく「携帯電話は危険だから一切禁止しろ」といった広告はしてはいけない(17条)と釘をさしている。ここらへんは大人の対応といえよう。

□どこに基地局があるかを地図(マップ)化して公表しろとか、借家主は貸家人に基地局設置や変更について説明しろ、といった具合に規定している。このことは欧州の一部地域で既に実現しているが、法律に明記している所にこの法案の良さがある。

□あくまで議員立法法案であり、必ずしも可決にむすびつくわけではないが、こうした内容の法案が提出されることで国民の関心が醸成される意義がある。


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