<海外情報>
(翻訳:渡海伸)
ヘンリ−・レイの画期的な業績
ワシントン大学同窓誌
COLUMUNS
2005年3月
ワシントン大学のヘンリ−・レイ(Henry Rai)とナレンドラ・シン(Narendra P Singh)は、携帯電話で使うのと同じマイクロ波が脳細胞のDNAに損傷(ダメ−ジ)を与えることを世界で最初に発表した研究者として知られる。ワシントン大学同窓誌『コラムズ(COLUMNS)』(2005年3月号)にボブ・ハリル(Bob Harril)氏がWake-up Call(意味は「関心を引き起こすできごと」)と題して、ヘンリ−・レイを取り巻く状況をまとめた文を掲載しているので紹介する。
□巨大科学の裏に潜む政治性
ヘンリ−・レイは、巨大科学の裏に潜む、政治性に襲われた恐怖経験を持っている。
1994年、レイは米国立衛生研究所(NIH)からあるメッセ−ジを受けた。当時レイは「携帯電話から出るのと同じマイクロ波電磁波の脳への影響の研究」をしていたが、その研究資金を提供していたのがNIHだった。レイとワシントン大学の同僚ナレンドラ・シンは共同研究をしていたが、電磁波が脳細胞のDNAにダメ−ジ(損傷)を与えることを示す結果をその直前に得ていた。
レイとシンのこの研究結果は“ある方面"にとって明らかに不愉快なものだった。
ある人物がNIHに「レイは研究助成金のテ−マと異なる研究をしている」とたれ込みをした。そこで、NIHはたれ込み情報が事実かどうか知ろうとした。
「このNIHの聞き込みは、私を恐怖に陥れた」とレイは述懐している。レイは、ワシントン大学で1977年に医学博士号を取っており、現在は同大の生体工学部研究教授を務めている。「私はNIHからの問い合わせで心配で夜も眠れず、まったく何をしていいかわからないほど混乱に陥った」と当時の状況を語った。
朝になって、レイはやっと落ち着きNIHにファックスで「自分の研究は助成対象の範囲内である」ことを説明した。結局、NIHはレイの説明を了解し、レイの研究の続行を保証してくれた。レイは「NIHはこの点でかなりリベラルだ。そうでなければ、科学の発展は抑えられてしまうだろうが」と語った。
しかし、この事件はその後の「ダビデとゴリアテの戦い」の始まりにすぎなかった。(訳注:“ダビデとゴリアテの戦い”は旧約聖書でユダヤ民族の英雄ダビデがペリシテ人の巨人ゴリアテを殺したという話)。その戦いとは、この地球上でもっとも利益を上げ力のある企業に急成長した携帯電話会社の発展しつつある技術に対する戦いである。
□1995年の研究発表
公然たる論争は、『生体電磁気学』誌(Bioelectromagnetics)1995年号にレイとシンが研究結果を発表した時に始まる。レイとシンは、米国政府基準では「安全」だとされているレベルのマイクロ波を、たった2時間ラットの脳細胞に照射しただけで、DNAダメ−ジが増大することを発見した。
二人の研究の背景にある考えは比較的シンプルなものだ。それは携帯電話と同じマイクロ波をラットに浴びせる、そしてDNAがダメ−ジを受けるかどうかを、ラットの脳細胞で調べるというものだ。このダメ−ジは気になる。というのは、DNAは身体の遺伝情報を運ぶが、それが電磁波で壊されることになる、もしDNAの修復がきちんとなされないと、ダメ−ジは突然変異につながり、がん発生につながるからだ。
この研究が初めて発表された時、携帯電話会社の広報担当は「この研究はあまり信用できるものではない。理由は、使った周波数が携帯電話周波数とまったく同じではないし、出力も違うからだ」と反論した。
この反論に対し、レイは「それはそのとおりだ」と答えた。しかし、一つの周波数で起こった生体効果(影響)は別の周波数でも起こること、そしてレイの実験での出力は実際の携帯電話の出力より低いレベルであったことは、携帯電話から出る電磁波と潜在的に関係するのではないかとレイは答えた。
□1998年にレイは携帯電話で再現した
携帯電話会社はレイとシンの研究結果を非難し続けた。ワシントンDCにある企業連合の携帯電話会社連盟(CTIA)広報責任者ジョ−・ファ−レン(Joe Farren)は、「CTIAは携帯電話研究資金として年間100万ドル(約1億8百万円)提供している。私たちは科学を尊重している。最新の科学は携帯電話と健康リスクの関係はないとしている」と語った。ファ−レンがレイの研究の技術的誤りを指摘できるのは、レイとシンの研究についての正確な再現実験を誰もしなかったからだ。
1998年にレイとシンは普通の携帯電話を使って同様の実験をしたが、いくつかのケ−スで電磁波による生物学的ダメ−ジが起こることを発見した。最近、欧州の7ヵ国の研究グル−プが行なった研究(訳注:REFLEX研究)で、携帯電話電磁波がDNA損傷(ダメ−ジ)を起こすと発表した。
レイは、携帯電話とDNAダメ−ジの関係において“根拠のある答はない”と発言した初めての人物だが、携帯電話の安全性について懸念すべき理由があるので、もっと研究されねばならないと語っている。
そのことはともかく、レイは「私たちの研究は“貶めようとするキャンペ−ン”の格好の対象となってきた」と述懐する。
以下がその例だ。
●米携帯電話会社モトロ−ラが1990年代に出した内部文書では、「レイの研究と組織をあげて闘う計画」があった。
●カリフォルニアの科学者がレイの研究を支持する研究結果を発表したとたん、彼は研究資金を失い、その分野の研究から手を引くことになった。
●ある時、企業拠出研究資金のうち2500万ドル(約27億円)の管理をまかされたグル−プ責任者が、ワシントン大学学長リチャ−ド・マコ−ミックにメモを渡した。そのメモは「レイとシンを解雇するように」という内容だった。
●この分野の科学的研究調査のための連邦政府資金は干し上がっており、代わりに企業からの資金しかない。レイらに言わせれば、そうした資金は制限が多く、自由な科学的研究を許さない。
□携帯産業は「科学と政治と金がすべて」
携帯電話は潜在的問題性が大きいし、かつ大きな利益を生み出すツ−ルでもある。コンサルタント会社「Deloitte & Touche」によると、携帯市場は地球規模であり今年末までで加入者は20億人に達するという。マイクロウェ−ブ紙編集長スレシンは「企業規模は数千億ドルに達する」と言う。スレシンは20年以上も電磁波問題の裏表を追ってきた人物だ。スレシンはこう語った。「携帯電話を支えているのは科学と政治と金でありそれがすべてであり“社会的必要性”は二の次だ。レイとシンはこの“科学と政治と金”というシステムに逆らう勇気を持っていた。そしてそのために犠牲となった」。
この記事を書くにあたって、何人かの企業関係者に「レイの研究とそれを取り巻く論争」について質問したが、誰一人答えてくれなかった。別の企業関係者たちは、レイとシンの独創的な研究や関連する論争等を詳しくは知らなかった。その人たちは「もう10年も前のことだ」と言い、レイとシンの研究は「研究の主流から外れている」ととらえている。その「主流」とは「携帯電話は安全である」とする研究のことだ。
□デジタル波は生物への影響力が強い
今年(2005年)1月、『Consumer Reports』誌の副編集長デイビッド・ハイムは『ウォ−ルストリ−ト・ジャ−ナル』で「最近の研究で“有害だ”とするものがあるが、割引いて受けとめる必要がある。それらの研究が古いアナログ型携帯電話に基づくものだからだ。アナログ型の電磁波の波形は間断のない一様なものだが、新しいデジタル型携帯電話はパルス波で送られ、強度はアナログ型より小さい。アナログ型はかなり出力が大きいし、出力パタ−ンも違っている」と書いている。
これに対し『マイクロウェ−ブ』編集長スレシンは「パルス電磁波は、一様なアナログ電磁波より、生物への影響は強いと見られている。デジタル波(訳注:パルス波と同意)が生物学的に活発に作用することを示す、多くの研究結果がある。この点で、アナログより出力が弱いことが、生物学的に活発に作用する力を埋め合わされることができると言える人はいない」と見解を述べた。
レイは眼鏡をかけていて控え目にソフトに話す。それでいてユ−モアのセンスを持っている。ある全国テレビのレポ−タ−のインタビュ−に、彼は無表情でこう答えた。「私の研究のもっとも難しいところは、ラット(ねずみ)に実際に携帯電話を使わせることができないことです」。そして、彼自身が現在でも続いている大論争の中心にいることに驚くと語っている。「私は自分の研究をひたすら進めている一研究者にすぎません」と彼は語る。ただその研究内容が偶然に社会的に注目され影響をもち論争を引き起こすものであったことはよくわかっている。
□レイの経歴
レイは香港で生まれた。学位(生理学)はカナダ・モントリオ−ルのマクギル大学で得た。マクギル大学卒業後、大学院生としてシアトルのワシントン大学に入学した。ここでレイは生理学の博士号を得て、Akira Horitaと薬理学の分野で共同研究に従事した。レイのこの最初の研究は、脳内でのアルコ−ルの影響に関するものだった。彼はまた統合失調病を扱う新しい複合的研究にも関わった。
転機は1979年に訪れた。無線波物理学分野のパイオニアであるワシントン大のビル・ガイ(Bill Guy)名誉教授が、海軍研究の研究助成金でマイクロ波の研究を行なうという機会をレイに与えた。
こうしてレイは、Horitaと共に、マイクロ波が薬物と相互作用するかどうか、また人間の学習能力にマイクロ波は影響するのかどうかを、初めて調べることになった。そうした時、具体的には1990年代の前半にシンがシアトルに来た。そしてレイにシンが手掛けてきた研究に加わるよう誘った。
レイは当時を思い出してこう言った。「シンはDNA損傷問題の専門家だった。そのレイが研究に加わらないかと誘ってきたのだ。もちろんOKさと私は答えたよ」。
□シンは彗星分析法の第1人者
ナレンドラ・P・シンは「彗星分析法(comet assay)」と呼ばれる、DNA分析に関しての世界最先端専門家の一人である。この分析法は、ダメ−ジを受けた細胞の外見から名付けられた。
最初には、細胞はゲル(訳注:ゼリ−状のもの)状の中で流動的であり、“溶解された(lysed)”状態というか穴があいた状態だ。そのような状態の細胞内に電流が走ることで、螺旋状のDNAが壊れる。そして壊れたDNAの破片は帯電する。そのため電流がそれらDNA破片をゲル内で移動させるように働く。その結果として破片が彗星のように尾を引くような外見になる。尾が長いほどダメ−ジは大きい。
シンのこの実験をもとに、レイはマイクロ波がどのようにDNAに影響するのか確かめようとした。レイとシンは、低レベルのマイクロ波を2時間照射したラットと照射しないラットを比較してみた。その結果、マイクロ波を浴びたラットは浴びないラットより、脳細胞の一本鎖DNAが30%多くダメ−ジを受けた。
□モトロ−ラの黒い動き
その後、レイとシンは追跡研究用資金の工面に時間が割かれ、しばらく研究する余裕がなかった。モトロ−ラの内部文書(後になって明るみに出たものだが)によれば、モトロ−ラは、このレイの研究結果による携帯電話会社のダメ−ジを最小にするために、この頃から様々な工作を行いだした。
モトロ−ラの内部メモや1994年12月13日付の方針書(案)に中で、「レイ−シン事件のための作戦をどのように進めていくか」が書かれている。たとえばレイの研究の弱点を指摘する専門家のリスト作成や、一般の人に携帯電話は安心して使えるものだと説くような専門家リストをつくったりしている。すなわち、1995年にレイとシンが研究内容を発表する前の段階から、モトロ−ラは作戦を練っていたということだ。
それから2年後、レイは無線技術研究所(WTR)から研究資金を得た。WTRは携帯電話会社連盟(CTIA)が作った研究団体で、携帯企業の出す研究調査資金2500万ドル(約27億5千万円)を管理し、同時に、自らも追跡研究を行なう。企業の息のかかった団体だけに、資金提供の条件は厳しい。その条件の厳しさについて、1999年の『マイクロウェ−ブ・ニュ−ス』で、レイとシンは彼等自身の経験を書いている。それは、研究手順や研究プロセスを逐一チェックする異常ぶりで、二人は「要は疑り深い」のだと表現した。「私たちは約20年間、様々な機関から資金を得て研究してきたが、WTRの研究契約ほど、取り決めが厳しいのはなかった」と二人は語っている。
□二人の曝露にジョ−ジ・カルロは怒る
レイとシンが『マイクロウェ−ブ・ニュ−ス』にWTRの研究契約の厳しさを書いたことに対し、WTR所長ジョ−ジ・カルロ(George Carlo)は、二人が勤めるワシントン大学学長リチャ−ド・マコ−ミックに「レイとシンの『マイクロウェ−ブ・ニュ−スに載せた内容はWTRへの中傷であり、それ以外にも過去数年間にわたって二人は私たちに中傷的なふるまいを行なった」と6ペ−ジにわたる抗議文を送り付けた。この文書は、レイとシンを大学の研究計画からはずすよう要求しており、「法的手段も辞さない」という脅しで終わっている。
このカルロの文書に対する副学長スティ−ブン・オルスウァングの返事は「大学は論理的でアカデミックな論議は奨励するが、けんか(dispute)の類の話に介入する気はない」というものだった。
レイとシンは、企業資金による研究結果の追跡調査を望んだが、企業側は二人以外の研究者を望んだ。モトロ−ラは、カリフォルニア州ロマリンダの退役軍人運営医療センタ−(在郷軍人局医療センタ−)の研究所の研究者ジェリ−・フィリップス(Jerry Phillips)に研究を依頼した。フィリップスは電磁波の生体影響を研究していて、彼の所属する研究所は、モトロ−ラの研究を以前していた。なによりもフィリップス自身がこの研究に関心があり、彼が資金を得て研究することになった。
□モトロ−ラが期待した研究だったが
フィリップスはシアトルのワシントン大学に人を派遣し、彗星分析法を学ばせた。そして、携帯電話が使う周波数で、実験室の動物に実際に照射して変化をみた。そこでわかったことは「あるレベルの照射でDNAダメ−ジは増加し、別のレベルの照射では逆にダメ−ジは減った」ということだ。
フィリップスは「この結果は別にどうってことはない。これは化学物質でも起こることだ。一つの段階で一つのことが起こり、それより高いか低いかで反対の現象が起こる。この場合、もう少しDNAダメ−ジが出ると、修復メカニズムにまで影響が出たであろう。そして、修復がされると網状組織細胞の減少が起こるであろう。しかし、もし修復メカニズムを機能させないとすれば、網状組織細胞は増加するであろう。デ−タに基づいて言えば、修復メカニズムを観察する必要があると私はモトロ−ラに伝えた」と語った。
モトロ−ラはフィリップスの研究に不満だった。モトロ−ラはフィリップスに「フィリップスの研究結果を発表する予定はない。もっと研究が必要なのでそのための研究資金は提供する」と見解を伝えてきた。これに対しフィリップスは「お金をもらえるのはありがたいが、私の研究は一応一段落ついた。私としては次の段階の研究に移りたい」とモトロ−ラに伝え、彼の研究結果を1998年に発表した。ところが研究結果を発表するやいなや、モトロ−ラはフィリップスへの資金提供を打ち切った。
その後、セントルイスの別の研究グル−プが企業資金をもらって研究しているが、うまくいっていない。レイとフィリップスによれば、その研究グル−プはDNAダメ−ジを測定する別の技術導入するなど、違った研究スタイルで研究を行なっているという。
フィリップスは「その研究グル−プは、レイや私がしてきた研究を適切に再現することはやっていない」と語った。
□米国以外で研究は進んでいる
話はかわるが、レイの研究の後10年以上経った最近になって、携帯電話電磁波の影響を詳しく調べる研究が、米国以外の国で、資金が提供されて研究が進められている。
2004年秋、『エピデミオロジ−』誌で(訳注:本誌の名前 Epidemiology は「疫学」を意味する)、スウェ−デンの研究グル−プが研究結果を発表した。その内容は「携帯電話を当てている側の頭部に、がんではないが珍しい型の脳腫瘍が増加している」というものだ(訳注:カロリンスカ研究所報告のこと)。
2004年12月には、EU7ヵ国の12研究グル−プによる、4年間かけた徹底した研究が発表された。この研究はレフレックス(REFLEX)研究と言われるが、実験室内の携帯電話電磁波を浴びたヒトと動物の細胞内に、DNA損傷がはっきり増加したという研究結果が示されている。「携帯電話使用について警告する」までの根拠はないが、さらに突っ込んだ研究が必要だ、と従事した研究者たちは語り、携帯電話使用に用心が必要だとしている。
英国に本部を置いている携帯電話企業連盟のスポ−クスマンは、「レフレックス研究は最終結論でなく“予備段階”のもので、これをもってデ−タの結論を導くことはできない」と語った。
2000年に、ウィリアム・スチュワ−ト(William Stewart)卿を座長とする英国の携帯電話問題専門家委員会は、科学的デ−タが出そろうまでは予防的立場が必要だとする報告を発表した。今年つまり2005年1月、スチュワ−ト卿は再び「子供たちはしばらく携帯電話を使うな」と警告を出した。(訳注:英国NRPB報告)
企業側スポ−クスマンのファ−レンは、企業擁護の立場から「公式に採用されている予防方策はいずれも科学を根拠にしていない。大部分の研究は携帯電話電磁波と健康影響の関係を示す証拠はない」と語った。
レイは言う。「ファ−レンの見解が間違いだとは言わない。しかし、科学という場合、これまで出た科学的結果をどのように取り上げるかという力点の置き方で、結果は変わってくる」。
レイによれば「携帯電話電磁波の生体影響をみる研究はこれまでに約200ある。携帯電話電磁波は生体影響があるという側と生体影響はないとする側、どちらもそれなりの研究蓄積があり、50対50である。それはそれで(安全とは言えないので)警戒するに値する」となる。「しかし、それだけではない」とレイは続ける。
□どこが金を出した研究なのか
レイは言う。「200もある研究を誰が資金提供したのか、という観点で分ければ数字の見方は変わってくる。企業が金を出していない研究を調べると4つのうち3つが生体影響あり、となる。反対に企業資金による研究に絞ると生体影響ありは4分の1になってしまう」。
「問題は企業とくっつかない研究資金は、いまの米国には無い」とレイは語る。レイはただ一人、企業の金を受け取ることを拒否している。「私がなぜ企業研究資金を拒否するのかというと、企業研究資金はあまりにも条件が多いからだ。よくタバコ会社の例が出されるが、携帯電話会社と電磁波研究の関係でも全く同じことが起こっている。きつねにニワトリ小屋を見せたらどうなるか。きつねはニワトリを食べるに決まっている。(そんな危険な研究はできない)。FDA(訳注:米国食品医薬品局であり、日本の厚生省に相当する)が携帯電話電磁波研究を管理しているが、研究資金は企業が出している」とレイは強調する。
マイクロウェ-ブニュ-ス(MWN)編集長のスレシンは(Slesin)は、政府資金がなぜ使えないかというと「それは姿勢の問題にある」と考えている。スレシンの意見は以下だ。
「電離放射線を研究している多くの科学者は、(非電離放射線である)電磁波はあまりにもパワ−が弱く、効果(生体影響)が無いと思っており、そういう科学者たちはこう言う。『電離放射線が悪いことは知っているし、イオンはもっとよく反応する。それは間違いなくがんにつながる悪いものだ』。電離放射線を研究している人間からすると、EMF(電磁波)は97ポンド(50キログラム)以下の病弱者に見え、すなわち、何か他に影響を与える能力はないものに見えてしまう」。
しかし、ヘンリ−・レイが発表したような内容、つまりとても微弱な電磁波が生体影響を引き起こすことを知ってしまった時、どうしてこんな微弱な電磁波でこんな変化が生まれたのかという疑問を問わなくてはならなくなる。しかし、米国の政府や企業等の姿勢が変わらないかぎり、研究資金はもらえないので、結果として、多くの米国の科学者は利用な可能な研究資金を求めて海外に行くか、別の分野に行くかしかなくなる。
□真の研究者をスポイルする体制
レイの場合、彼は他の研究目標を探すことにした。マラリアの治療として使えるヨモギ(artemisinin)の一種の研究をしている。この方面は資金がけっこうある。レイの研究からは、有力な抗がん物質の見込みがあると期待されている。昨年の後半、ワシントン大学は人間に試す計画として、中国の製薬会社にレイの研究をライセンス供与することにした。成功すれば市場に出すためだ。
一方、フィリップスに関しては、研究者である妻も一緒に研究から去った。現在、夫妻はコロラドスプリングスに住んでいて、そこで科学カリキュラムを発展させる会社で働いている。「私は研究機会を失ったことを後悔している。いま二人は、無線周波数電磁波が生体組織にどのような影響を与えるかについて、基本的な理解を得るためのポジションに立っている」とフィリップスは語った。
□“不確実な海”の中で
MWNのスレシンによれば、電磁波の生体影響はどうしても解明したい課題である。しかし、現在確立した解明理論は存在しない。もし、もうわかっているという人がいるならば、スレシンはそんなものは信用するなと警告している。「私たちはいま“不確実な海”を泳いでいる」とスレシンは表現する。
そして、日毎に不確実から確実の方向に向かいつつある。レイはこう結んだ。「私たちは生活圏の電磁環境を基本的に変えつつある。具体的には、まもなくすべての都市はオンラインでつながり、どこでもラップトップ型パソコンでインタ−ネットへアクセスできるようになるであろう。そのことは、24時間のあいだ電磁波に曝されることを意味する。その影響がどう出るかはわからないが、やがて社会的に良い悪いが結果として表れるであろう」。
それはともかく、自分の考えが心配しすぎで誤ったものであってほしいと、レイは望んでいる。レイは携帯電話を使わないが、家族にはヘッドホンを使うように言っている。携帯電話電磁波問題は克服できない問題とレイは捉えていないで、慎重に扱えば克服できると考えている。巧みに管理すれば克服できなくはない。そのためにはデ−タを調べて問題を認めるべきであり、そうでないと、10年後・15年後に何かが起こるであろう。
[会報第37号インデックスページに戻る]