□はじめは「魔法の物質」と絶賛された
アスベスト禍に多くの日本人が不安を抱いている。アスベストは石綿(せきめん)ともいい、天然に存在する鉱物資源である。アスベストの特性は耐熱性にすぐれ、繊維状で加工しやすく、電気絶縁性があり、酸アルカリにも強く安定性がある。それでいて安価で“安全”なため「魔法の物質」「奇跡の鉱物」ともてはやされ、19世紀後半から大量に使用された。最盛期には3千種類以上の用途があった。
しかし「安定性がある」ということはいつまでも分解されないことを意味し、いったんアスベストを吸入した人は悪性中皮腫や肺がんで死に至る健康障害を引き起こす危険性をもつことが、やがてわかってきた。疾病発症までに長い潜伏期間があるため「静かな時限爆弾」とおそれられているが、そう認識されるまでに「便利だから」と大量に使われてしまった。
今回の大騒ぎはクボタが6月末に労働者や周辺住民の被害を公表し、それに引きずられ関連企業が次々と被害を公表したため火がついた。前から支援団体や労組・市民から被害実態の公表を迫られた末の結末だ。
ILO(国際労働機関)はアスベストのうち毒性の強い青石綿を1986年に使用禁止にしたが、日本政府ははじめ禁止に反対し、1995年になってようやく青石綿の禁止に乗り出した。「企業への影響を考慮」するというこの国の体質が対策を遅れさせた。欧州ではその後青石綿に限らずアスベストの全面禁止ないし原則禁止に踏み切る国が相次いだ。日本はこの全面禁止の措置でも遅れをとった。そして今回の大騒ぎにつながった。
□電磁波でも日本は欧州より遅れている
欧米では「電磁波は第2のアスベスト」と以前から言われていた。電磁波過敏症の人を除いて、多くの人には電磁波はアスベストと同じく「目に見えない、匂わない、感じない」。それでいて一定の潜伏期間後健康障害を引き起こす所が似ている。
欧州では電磁波問題への関心が高く、スイスやイタリアでは予防原則に立った基準値が導入されているし、イギリスやフランス等も「16歳未満の携帯電話使用抑制」等を政府が勧告している。しかし日本政府はまったく対策をとろうとしない。「第2のアスベスト」で泣くのは結局私たち国民だ。