<海外情報>
ヌ・クワン−フング教授(マレ−シア)
マレ−シアの首都クアラルンプ−ルにあるマレ−シア大学放射線科ヌ・クワン−フング教授(Ng・Kwan-Hoong)名で発行された小冊子が電磁波問題市民研究会の会員から送られてきました。ヌ教授はマレ−シア政府の各種委員会のメンバ−であり、WHOや医学・物理学関係の国際団体のメンバ−でもある、いわばマレ−シアを代表する科学者です。Q;携帯電話基地局建設場所を決めるにあたって消費者(市民)は何かできるのか?
したがって『電磁波・携帯電話・基地局と健康問題』と題されたこの小冊子はマレ−シア政府見解と言っていいほど権威のあるものと受け取っていいものです。
小冊子は全体で20ペ−ジのもので、マレ−シア国民に理解されやすいように1問1答形式で構成されていますので一部紹介します。マレ−シアの権威ある学者が書いたものであるため、全体ト−ンは国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の見解を踏襲していますが、いくつかの点で日本政府よりすすんでいます。
<電磁波問題市民研究会のコメント>
この観点が日本の携帯会社や行政には欠けている。立地にふさわしいか否かを事前にみんなで論議するのは民主主義のイロハであろう。日本の環境感覚レベルはこれよりずっと低いことがわかる。
Q;マレ−シア政府の現在の見解はどのようなものか?
A;保健省は1996年に携帯電話技術が引き起こす健康問題を研究するため、省庁合同特別科学委員会を設置した。そこでの結論は、通常被曝するレベルの電磁波で有害な健康影響は起こすことを示す不確定の科学的証拠がある、というものであった。この結論は世界の科学界や医学界の研究結果と同様な内容である。省庁合同特別科学委員会はその後も定期的に状況を監視し政府に勧告を継続して行なっている。
<電磁波問題市民研究会のコメント>
日本の総務省の見解は「影響ありという確たる証拠はない」としているが、マレーシア政府見解は「有害な健康影響を起こすことを示す不確定な科学的証拠がある」として“証拠はあるがそれは確定したものではない"としている。これがWHOを含めた世界的見解である。「ヒトへの発癌リスク2B」というのも証拠はあるが確定したものでない、というランクなのである。日本の総務省見解は本質を微妙にそらす言い回しなのである。
Q;高周波電磁波(RF放射線)の影響とはなにか?
A;高周波電磁波(RF放射線)は体温度の増加をもたらす細胞加熱作用を引き起こす。これは熱作用と呼ばれている。体には温度を一定に調節する機能がある。しかし高周波電磁波被曝量が過度になると、体はこの調節機能が働かなくなる。
熱作用以外に高周波電磁波が原因で起こる他の作用については論議がされている。だがまだ証拠は確立されていない。科学界や国際組織はこの熱作用以外の電磁波作用に関して理解を深めるためもっと研究が必要であると認識している。現段階では、高周波電磁波が原因で起こる健康影響を証明する科学的証拠は不十分で不確定である。
<電磁波問題市民研究会のコメント>
電磁波の非熱作用の存在がまさに国際論争の的なのであるが、総務省見解だと「非熱効果(非熱作用と同じこと)を含めて健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められない」と切り捨ててしまう。しかしこの小冊子では「熱作用以外の作用が論議されていること。結論を出すためにはもっと研究が必要なこと。証拠はあるが不十分で不確定であること。」と正しく紹介されている。
Q;携帯電話システムは安全なのか?がんやその他の病気の原因となるうるのか?
A;いくつかの研究で高周波電磁波とがんの関係が調査された。現在までのところ研究結果は結論に達していない。いくつかの実験データでは、特定の条件下で動物のがん発達と電磁波被曝の間に関係性ありと示唆しているものがあるが、それらの研究結果には再現性がない。
事実、他の研究ではがんとの因果関係を示す証拠が見出されていないし別の条件下でも証拠が見出されていない。この問題を解決するために、現在いくつかの研究所でさらに研究が進められている。
最近、基地局や携帯電話からの高周波電磁波による健康影響の存在を主張する研究発表や見解が出たり、人々の不安がそれにともなって存在するため、携帯電話使用による健康影響研究を促進するよう、多くの研究組織に刺激が与えられている。
現在までのところ、携帯電話システムががんを引き起こしたり、頭痛・めまい・記憶喪失・先天性欠損症など様々な健康障害の原因であることを証明する科学的証拠は不確定な段階である。
<電磁波問題市民研究会のコメント>
マレーシアでは基地局や携帯電話が頭痛・めまい・記憶喪失・先天性欠損症等の原因ではないか、とする研究結果や見解が出ていて人々が不安を抱いていることがここでわかる。日本より電磁波問題が人々の間に知られていることが予想される。日本ほど基地局の問題点が知られていない国は、先進国ではあまりない。
Q;携帯電話から出る高周波電磁波被曝を少なくするためにはどんな方法をとればいいのか?
A;もしあなたがリスクの回避に関心があるならば、高周波電磁波被曝を最小化するのに役立つかんたんな方法がいくつかあるので紹介しよう。
電磁波被曝を多く受けるか少なく受けるかのキーポイントは被曝時間である。携帯電話使用時間を短くすればするほどあなたの被曝量は少なくなる。また、電磁波被曝量は携帯電話から距離が離れれば劇的に少なくなるので、電磁波発生源とあなたの体の距離を離すため、ハンズフリーキットを使うとか、リモートアンテナと繋がった携帯電話を使うと良い。
もう一度言うが、科学的データでは携帯電話が有害であるとは立証されていない。しかしながらあなたが携帯電話から出る電磁波を心配するならば、携帯電話の電磁波被曝を減らすために以上述べた方法を採ることができるのである。
<電磁波問題市民研究会のコメント>
権威ある人がこのように携帯電話の電磁波を減らすために「時間を短くしろ」「距離をとれ」と言えば、いかに「まだリスクの立証はされていない」とはいえ人々は注意を払うであろう。残念ながら日本では政府の政策に影響を与えるような学者・研究者でこのような前向きな意見を発表する人はいるのだろうか。
Q;子どもたちが携帯電話を使うことでなにかアドバイスはあるか?
A;子どもや十代の若者を含めて、携帯電話を使うことが危険だとする科学的証拠は出ていない。もしあなたが高周波電磁波被曝を低減したいと望むならば、前述した低減策を子どもや十代の若者にも採用したらいい。携帯電話を使う時間を短くしたり、電磁波発生源を体から離すことで、電磁波被曝量は減る。
英国政府は2000年12月に、予防原則として子どもの携帯電話使用を制限する勧告を行なった。しかし英国政府は携帯電話を使うことが脳腫瘍やその他の健康障害の原因であるという証拠はない、としている。
英国スチュワート報告は次のように述べている。
「携帯電話を使うことで健康に悪影響があるということは、現在公式には認められてはいない。しかし子どもは神経組織が発達途上であり、頭の細胞は大人よりエネルギーを吸収しやすい。また大人より人生を長く生きる分、子どもたちはより多くの被曝量を受ける。その分子どもたちは大人より影響を受けやすいのだ。したがって予防的措置の観点からして、不必要な通話のために子どもたちが携帯電話を安易に使うのは抑制すべきだ、と私たちは信じる。私たちはまた、携帯電話業界が子どもたちが携帯電話を使わないよう販売自重するよう勧告する。」
<電磁波問題市民研究会のコメント>
日本では子ども向けに平気で携帯電話を販売している。マレーシアは「携帯電話が有害であるとする証拠はない」としつつ、英国の例をあげてさりげなく子どもの携帯電話使用を牽制している。
Q;それでも、みんなが(電磁波を)心配するのはなぜなんでしょうか?
A;リスクの存在に気づくような健康問題の恐れがある時はいつでも、人々が心配するのはいわば当然なことだ。そして電磁波と健康問題に関する数多くの報道等が混乱と不確かさに拍車をかけている。2〜3年前に、携帯電話電磁波ががんを誘発したり、DNAにダメージを与える可能性を示した動物実験が行なわれた。同じような結果の研究が報告される一方で、それを上回る数で高周波電磁波は無害であると示唆する動物実験も行なわれたのであるが(それは伝わりにくい)。
二つ目に言えることは、科学が、あるものについて絶対に安全で無害であると証明することは不可能だということだ。そして科学者は大衆が望むような“絶対に”保証できるといった言葉はめったに使わないのである。
3つ目に言えることは、人の生活において健康不安は大きな比重をもつが、一度でも携帯電話が危険なものと疑われたとたん、多くの人たちは自分の愛する人の死や病気の原因が携帯電話と結びついていると考えていく傾向がある。たとえそのような結びつける証拠が不確実なものであっても、それと逆の研究結果を多く示したところで疑念の払拭はそうかんたんではない。
現在、政府が公認する専門家で、テレビ塔やマイクロ波を発信するアンテナが白血病と関係しているとみている人はいない。以前存在したどんなに小さな証拠もいまでは批判されつぶされている。それなのに多くの国で、テレビ塔やその他のマイクロ波アンテナ鉄塔の建設を止めようという反対運動がいまだに続いている。
1960年代は、カラーテレビから出るエックス線に多くの人が疑いの目を持ち、不当な懸念を抱いた。1980年代は、コンピュータ端末機から出る電磁波が流産や異常分娩やその他の健康障害と関係しているという誤った認識を、多くの人がもった。それらの考えはいまでも消えずに蒸し返される。そして1990年代、インターネット時代を迎え、インターネット中毒という新たな心配を専門家たちは抱き始めている。
<電磁波問題市民研究会のコメント>
小冊子の執筆者・ヌ教授はマレーシア政府の政策に影響を与えるエスタブリッシュメントの一人である。このQ&A項目では彼の立場が色濃く出ているといえよう。彼は「電磁波の心配する考えは証拠がなくすべて論破された」と見ているが、それならなぜ「多くの国で鉄塔反対運動が継続して(ongoing)起こっている」のであろうか。いくら政府側なり産業界が“安全性”力説しても、電磁波の懸念を払拭する証拠が彼らから提出されないからなのだ。