Q;送電線の地下埋設化を海外では住民たちが要求していますが、必ずしも地下化が良いとは言えないという意見を聞いたことがあるのですが。
A;送電線の地下埋設化の最大のメリットは景観の確保です。それと地上送電線の周辺は地価が下がりますから、その点で不動産業者も嫌がります。もう一つの送電線の問題は健康障害を引き起こす電磁波問題です。地上送電線の場合、高圧になればなるほど送電線は地上からの高さを高くする必要があります。高圧になればなるほど地上での電磁波被曝量が強まるためそれを少しでも低減するため高くするのです。具体的には支柱鉄塔を高いものにします。しかし高くするにも限界があります。景観を一層損ねますし電磁波もゼロにはなりません。渡り鳥への影響も懸念されます。そこで、景観問題と電磁波問題の同時解決策として地下埋設化が浮上します。しかし地下埋設化にも問題があります。日本のように地下埋設化を低コストで済まそうとすると、地表に近いところに送電線が埋設されがちです。こうなると見た目はいいですが地表の電磁波被曝量は地上線より強まってしまいます。これではかえって健康障害の面からは地上線より問題だといえます。
そこでスウェ−デンなど環境先進国では景観と安全性を同時に解決するため、地下30メ−トル以上に送電線を埋設します。共同地下溝(ガス・下水道等)の埋設するのです。さらに地電流化を防ぐため、金属管に油を入れてその中に三相交流送電線を3本に分け金属被膜して通します。三相交流とは電線を3本、等間隔に置くとお互い電磁波は反発し相殺効果が出るのです。この方法ですと地表で電磁波はほぼゼロになると言われています。当研究会が送電線地下埋設化を支持する場合は、こうした措置を前提としています。
Q;しかし地下埋設化は膨大なコストがかかり、電力会社は抵抗するので現実性に欠けるのではないですか。
A;全国すべての送電線を地下埋設しろと言っているのではありません。スウェ−デンのように送電線から人家や学校を150メ−トル以上とか離すとかの措置もありえます。そもそも米国や英国では送電線の周辺は電力会社が買い占めなるべく家が建たないようにしています。日本の電力会社は地域独占会社で住民の生活や安全への配慮を軽視ないし無視して送電線敷設をすすめてきたのです。それでいて電力料金は欧米に比べて大変高いのです。そのカネで安全性が保障されていない原発建設等に使われてきたのですからなおさら問題です。
米国で「磁場2〜3ミリガウス規制」を発動したら電力会社の負担は30兆円以上になると試算されています。しかし効率性と安全性を秤にかけたら安全性を優先するのが環境の世紀といわれる21世紀の価値判断になると言えましょう。
そしてなによりも、新潟県の柏崎で原発をつくり東京で電力を消費するから大送電線網が必要なのであって、そうした生産地−消費地の分離でなく、ロ−カル分散エネルギ−の発想で、小さな地域単位で風力・太陽光・地熱・波力等の自然エネルギ−利用する方式に転換を図ったり、いまのような「熱・電分離」でなく「熱電一体(コ−ジェネレ−ション)」にすればエネルギ−効率は2.5倍アップします。またバイオマスや燃料電池の開発利用もそう遠くはないでしょう。
送電線の地下埋設化の要求や家の近くの配電線やトランスの移設の要求が強まれば強まるほど、こうした電磁波被曝を低減し、長期的なコスト効率も良い新しいシステムへの移行も早まるのです。電力会社は強大で“不滅”に見えるかもしれませんが、米国では電力会社は約二千あります。日本が異常なのです。