国立環境研究所公開シンポジウム「生活環境中の電磁界リスクとガバナンスについて」

日本でWHOの専門家会議がもたれたため、カイフェッツやア−ルボムら参加。

□乃木坂で250名参加
 国立環境研究所と科学技術振興事業団共催で9月15日、東京・港区ホテルハ−トイン乃木坂(健保会館)で「生活環境中の電磁界リスクとガバナンスについて」題する公開シンポジウムが開催されました。
 シンポにはWHO(世界保健機関)専門官リ−カ・カイフェッツ(Leeka Kheifets)やスウェ−デン国立カロリンスカ研究所のアンダ−ス・ア−ルボム(Anders Ahlbom)ら世界的なメンバ−が参加しました。

□つくば市で専門家会議
 9月16日〜18日の3日間、茨城県つくば市の国際会議場でWHO国際電磁波プロジャクトの「電磁波発がんリスク評価」専門家会議がクロ−ズドで開かれるのを機したのと、今回日本が小児がんの全国疫学調査を実施したこともあり公開シンポジウムは開催されました。会場には一般参加者を中心に約250名が参加しました。

□日本の疫学調査を初めて世界に公表
 3ヵ年計画、経費約7億2千万円かけて実施された日本初の電磁波全国疫学調査は国内で6月に公表されましたが、WHOつまり世界に向けて発表されたのはこの日が初めてです。年内にも発表される環境保健基準ドラフトに向けたWHOの動きと連動した動きです。


<公開シンポジウムのプログラム>

(配付資料より抜粋)

公開シンポジウムヘのご案内

テーマ:生活環境中の電磁界リスクとガバナンスについて

[主催]

(独)国立環境研究所、環境リスクのガバナンス・プロジェクト(筑波大学)

日時:平成15年9月15日(月曜、敬老の日)13:00−17:00
場所:ホテルはあといん乃木坂(健保会館)フルールの間(地下1階)
都内港医南青山1丁自24−4
千代田線乃木坂駅4番出口、地下連絡あり

13:00 開会 総合司会 兜真徳 (独)国立環境研究所
      開会挨拶 西岡秀三(独)国立環境研究所

13:15-14:40 座長 秋棄澄伯 鹿児島大学
◆電磁界と小児がんの疫学研究
(1)小児白血病の疫学調査のプール分析
  アンダース・オルボーン(Anders Ahlbom) カロリンスカ研究所
(2)我が国の小児がんの疫学調査結果概要−小児白血病について
  兜真徳 (独)国立環境研究所
(3)我が因の小児がんの疫学調査結果概要−小児脳腫瘍について
  斎藤友博 国立成育医療センター

14:40-15:00 休憩

15:00-17:00 座長 山口直人 東京女子医科大学
◆WHOのリスク評価とマネジメントの考え方
リーカ・カイフェッツ(Leeka Kheifets),WHO専門官
◆パネルディスカッション
(パネラー)上記発表者の他、Christopher Portier (NIEHS, USA), John Swanson (National Grid Transco, UK), Abdelmonem A. Afifi (UCLA, USA), Bill Kaune (EMF Consultant, USA). Emilie van Deventer (WHO)の各氏にも、ご質問があれば対応をお願いします。

17:00 閉会挨拶 池田三郎筑波大学

17:15 閉会


<公開シンポジウムの内容>

プ−ル分析と日本の疫学研究結果はほぼ同じとなった

専門家会議への反映はあるのか?

□兜真徳さんがシンポ開催趣旨説明
 9月16日(月)、ホテルはあといん乃木坂で開催されたシンポジウムはWHO日本代表で日本の疫学調査の責任者である兜真徳さん(国立環境研究所)のあいさつで始まった。
 「WHO国際電磁波プロジェクトは1996年に開始されている。明日から3日間、つくば市でプロジェクト専門家会議が開かれる。一方、日本ではJST(科学技術振興事業団)が環境・技術リスクのガバナンス(管理)の国際比較を研究しており、昨年は食品安全リスクを対象とし今年は電磁波の健康リスクを対象としている。こうしたことから今回の公開シンポが企画された。

□ア−ルボム博士がプ−ル分析の報告
 「電磁界と小児がんの疫学研究」のテ−マで、一番目にスウェ−デン国立カロリンスカ研究所のアンダ−ス・ア−ルボム(Anders Ahlbom=オルボ−ンが正式な発音)博士が「小児白血病の疫学調査のプ−ル分析」を報告した。
 「電磁波と小児がんの最初の疫学研究は1979年に(ワルトハイマ-らによって)発表された。その後、約20の小児がん疫学研究が行なわれた。電磁波と健康の関係は小児がん・成人がん以外でも心筋梗塞・神経症・うつ病・自殺・電磁波過敏症・疲労・頭痛等と広い。」
 「曝露と影響の関係をみる方法も初期のワイヤ−コ−ド方式から家と電力線との距離やスポット測定、推定値方式、24時間/48時間測定など改善されている。また交絡因子や選択バイアスなどデ−タの信頼性確保のための妨害要因の除去の方法なども改善されてきている。」
 「しかし0.4μT(マイクロテスラ)=4mG(ミリガウス)以上のような高曝露例はどの疫学研究でも少ない。たとえば英国の研究では一例もなかった。そこで過去実施された疫学研究を集めその生デ−タまで遡りあたかも一つの研究のように解析するのがプ−ル分析である。私たちは9つの質の高い過去の疫学研究でプ−ル分析をした。症例数は3247例、対照数は10400例を使った。その結果は表1と表2のとおりで0.4μT以上でである。表3のように小児白血病の相対リスクは2.00倍、95%信頼区間は1.27−3.13で有意である。」
 「プ−ル分析の結論は小児白血病と極低周波磁場の関係は強く偶然性では説明できない。(つまり関係がある)」
 「WHOは私たちのプ−ル分析ともう一つ同じく2000年に発表された米国のグリ−ンランドらのプ−ル分析を採用している。グリ−ンランドらのは12の代表的な疫学研究を基にしたプ−ル分析だ。その内容は表3のとおりである。表3のように、グリ−ンランドらの分析では、2〜3mG(0.2〜0.3μT)段階で有意にリスクが上がり、3mG(0.3μT)以上で小児白血病の相対リスクが有意で2倍となる。」
 「こうした結果を踏まえ、IARC(国際がん研究所)が2001年6月に極低周波磁場を発がんリスク2Bに決定した。」
 「今後は日本の疫学調査、あるいは今週にも発表予定の英国の疫学調査等も参考にして、健康リスクの対応は図られていくであろう。」

<注>WHOは磁場の単位をμT=マイクロテスラで統一しているが、米国ではmG=ミリガウスが中心である。したがってア−ルボムの研究はμT、グリ−ンランドの研究はmGの単位で表される)

□兜さんが日本の疫学調査結果を発表
 2番目に「我が国の小児がんの疫学調査結果概要−小児白血病について」兜真徳・国立環境研究所首席研究官が詳しく報告した。世界へ向けての発表は今回が初めてである。表4に新しい資料を掲載する。

□斎藤さんが小児脳腫瘍の結果を発表
 3番目の「我が国の小児がんの疫学調査結果概要−小児脳腫瘍について」として斎藤友博・国立成育医療センタ−環境疫学研究室長が今回の日本の疫学調査結果の中の小児脳腫瘍の部分を報告した。
 兜さんと斎藤さんの発表内容つまり日本の全国疫学調査は前号でお知らせしたので割愛する。斎藤さんの発表のうち参考になった資料の一つを表5に掲載する。小児白血病全体では0.4μT以上でリスクは2.63倍(0.77−8.96)で95%信頼区間は有意ではないが、急性リンパ性白血病は0.4μT以上でリスク4.73倍、小児脳腫瘍に至っては、0.4μT以上でリスクが10.6倍で、ともに95%信頼区間をクリアし有意であった。この事実をWHOのメンバ−はどう受けとったであろうか。

□カイフェッツの見解を注目したが・・・
 小休憩の後、注目のリ−カ・カイフェッツ(Leeka Kheifets)WHO専門官が登場し「WHOのリスク評価とマネジメントの考え方」について報告した。
 WHOの電磁波プロジェクトの責任者は降り今後はUCLA(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)で研究活動に入るが、今年2月のルクセンブルグ会議で「予防原則適用について」の文書を自ら書き提案した本人である。WHOのジュネ−ブ本部常駐職は辞したが引き続き専門官として国際電磁波プロジェクトには関わる。その彼女がどのような発言をするか関心があったが、とおり一辺の内容であった。
 「1996年からWHOが進めている国際電磁波プロジェクトは10ヵ年計画で高周波と極低周波のリスク評価を行なうのが目的であるが、今日はそのうちの極低周波リスク評価について報告する。このプロジェクトには世界で60ヵ国以上が参加しているが中にはナイジェリアのように電気があまり発達していない国もある。しかしIARCやICNIRPやECなど他の国際的機関とも連携してこのプロジェクトは進められている。」
 「電磁波の環境リスクはどのように捉えるのかというと、表(表6)のように環境リスクと環境への人々の認識、それのリスク管理がお互いに関連しあってこそ可能なことであることはいうまでもありません。リスク評価には証拠が大事ですし、リスク認識は人々のこの問題への関心や懸念に応える上で不可欠ですし、リスク管理は政策として実現されねば意味がありません。」
 「リスク評価は“環境保健基準”としていまWHOとして取り組んでいます。そのためのプロセスとしてIARC(国際がん研究所)の2Bの評価もあったのです。環境保健基準は極低周波については2003年〜2004年をめざし順調に準備はすすんでいる。日本の疫学調査はそれに貢献するものであろう。」
 「いまWHOとしては予防原則の枠組みづくりをすすめている。リスクには既知のものと不確実なものがある。そのためリスク評価は完全にはできない。しかし不確実だからといって否定することはできない。そこで利害関係者を入れてワ−クショップで討論しリスク管理の在り方を模索するのが予防原則の枠組みづくりということだ。」
 「ふつうのリスク評価と予防的なリスク評価と分ける考え方も有効だ。選択肢評価、規制、基準値設定、等課題は多い。多くの人の意見を聞くことも大事なのでぜひ多くの意見をWHOに寄せて欲しい。」

□接触電流派も登場
 その他数名が発言したがその中でビル・カウネ(Bill Kaune)の話はある面で興味を引いた。カウネは米国でコンサルタントを職業としているが、彼は接触電流(contact current)について述べた。接触電流説は、EPRI(電力研究所)がとくに主張している説で、白血病やその他の病気の原因は送配電線や電気器具から出る電磁波ではなく、家電の配線をする際のア−スのつけ方の具合で居住者に接触電流が流れこれが病気の原因となるのではないか、というものだ。一人だけプログラムにない人(ガ−ヘン・アラメサイ?)も発言したが、この人はEPRIの人で同じく接触電流を調べる必要があると述べていた。
 電磁波の人体への影響のメカニズムがまだ確定していない以上、様々な学説が登場するのは自由だがEPRIの人やコンサルタント氏を見ているとどうしても「御用学者」に見えてくるがこれは“偏見”なのでしょうか。
 リ−カ・カイフェッツ、アンダ−ス・ア−ルボム、クリストファ−・ポ−ティエ(Christopher Portier=NIEHSの環境毒物学者)といった錚々たるメンバ−が日本に来日し公開シンポをしているのにこれを書かないマスメディア。どーゆーわけなのでしょう。


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