海外情報
マイクロウェーブ・ニュース
2002年11〜12月号より
(抄訳 TOKAI)
□24万V送電線から108mの距離
カナダ西部に位置するアルバ−タ州の州都エドモントン市でカトリック学校の建設について市当局は「学校建設予定地は高圧送電線から近い」ことを理由に中止とする決定を行なった。
エドモントン市区分開発上告課(SDAB)は、11月8日、カトリック学校の建設予定地は「24万Vの高圧送電線から108メ−トルの距離にあり子どもの安全環境確保が十分でない」と建設中止の判断をしたのだが、2001年の段階では建設を許可していた。したがって一度出した決定をひっくり返したことになる。SDABが中止とした根拠は「小児白血病に関係する磁場レベルは2ミリガウス以上の曝露ということは立証されている。建設予定地で2ミリガウスが計測された。」ことにある。
□学校理事者側は「安全」と主張
この決定に対し、エドモントンカトリック学校(ECS)側は「私たちが相談した専門家は皆EMF(電磁場)と小児白血病に関連はないと言っていたし、私たちが調査した研究もEMFと小児白血病は関連はないとしており、健康リスクはないと考えている」と保護者への11月21付けの通知で述べている。ECSは80以上のロ−カル学校を経営しているが、この市当局の中止決定を不服とし法廷で争うことにしている。
□カリフォルニア州EMF計画も影響
SDABが今回決定変更したのは、2001年6月にIARC(国際がん研究機関)がEMFを「ヒトに対して発がん可能性あり(2B)」と分類したことと、2002年10月初めにカリフォルニア州EMF計画の最終報告書が発表されたが計画に関与した3人の科学者(ニュ−トラ・デルピッツォ・リ−)の決定に影響を受けたため、としている。(会報18号15ペ−ジ参照)。さらにエドモントン市健康部局の責任者は「(電磁波の健康へ影響が)科学的に確定していないことを考慮して、慎重なる回避が必要と判断した」と語った。
□反対派リ−ダ−の母親は1ミリガウスを主張
建設予定のカトリック学校に通うことになる3人の子の母であるリ−サ・エイムヨッテ(Lisa Amyotte)が反対派リ−ダ−であるが、10月24日開催されたSDAB公聴会で「学校は磁場1ミリガウスを越えた所に建てるべきでないし、ほとんどの家の中で電磁場は1ミリガウス以下である。1990年代以降、スウェ−デンでは電力送電線の近くに学校を建設しないよう勧告している。」と調査デ−タを示しながら主張した。
エイムヨッテは、エドモントン公共健康ケアシステムを管理するキャピタル・ヘルスの医師ジェラルド・プレディ(Grald Predy)から「慎重なる回避」を提唱する手紙が来ていることを公聴会で紹介した。またエイムヨッテの要請で、デイビッド・カ−ペンタ−、デニス・ヘンショ−、アンソニ−・ミラ−、ダニエル・ワ−テンバ−グといった錚々たる科学者たちが「電力線近くに学校はつくらないよう」市当局に警告を書いて寄こした。(下記を参照)
□学校側コンサルタントは反論
ECS側のコンサルタントは、バンク−バ−にある「ブリティッシュ・コロンビアがんエイジェンシ−」のメアリ−・マクブライド(Mary McBride)である。マグブライドはSDABに対し「電力線の近くに学校を建設しても健康リスクは生じないし、電力線近くの学校を建設することがマイケル・レパチョリを責任者とするWHO国際EMFプロジェクトのいう“慎重なる回避”とは矛盾しない」と語った。
彼女はマイクロ・ウェーブ・ニュースのインタビュ−で「科学的証拠はEMFに対する慎重なる回避政策を正当化していない、と私は考えている」と語った。政策を必要とするほどの健康リスクを示す電磁場のタイプはまだない、というのが彼女の意見だ。
□マグブライドの主張の矛盾点
しかしマグブライドのこの考えはWHO国際EMFプロジェクトの政策とは矛盾しているようだ。
マイケル・レパチョリは予防基準の導入には強く反対しているが、彼もWHO国際EMFプロジェクトもともに慎重なる回避は支持している。2001年10月に出たWHOのファクトシ−トでは、「電力線を設置する時は、設置する側が電磁波曝露量の低減の方法を考慮すべきだ」と述べている。
マグブライドはまたEMFは多くのリスクをもつとしたカリフォルニア州EMF計画の報告書結論も軽視している。『エドモントン・ジャ−ナル』(10月29日付け)のイビュ−で彼女は「カリフォルニア州EMF計画報告書は論文審査を経ていない」と発言している。
これに対し報告書の責任者であるレイモンド・ニュ−トラ(Raymond Neutra)は「報告書は最近の他のEMFリスク評価よりももっと厳しくかつもっとオ−プンなレビュ−(論文審査を含む評価)を受けている。」と強くマグブライドの考えに反論した。
□当初は70mの所に建てる計画だった
現在の学校予定地は送電線から108メートルの距離だが、当初は送電線から70メートルの所に建てる計画だった。しかし、市が所有する電力会社EPCORが磁場を計測したら4.5ミリガウスあったので変更したのだ。他にも学校や遊び場・スポ−ツ場が同じような所に計画されている。
『エドモントン・ジャ−ナル』の社説はこの問題で論争が展開されているうちに社説の立場が変わっていった。5月25日段階では「子どもの安全に対するEMFへの懸念を支持する有効な証拠などない」と社説で掲げていたが、10月15日の社説では「EMFの健康影響をもっと知るまでは、有害の可能性のあるEMFの曝露量を最小限にするため、送電線は新しく建てる建物から十分距離をとるべきだ。」と書いた。
親たちが建設許可を出すのは延期すべきだと訴えていたにもかかわらず、ECS側は660万カナダドル(450万米ドル=5億4千万円)の予算で、400人収容する学校建設を開始していた。
<電磁波問題市民研究会のコメント:予防基準と慎重なる回避は別
で、基準までつくらず実施するのが慎重
なる回避です。>
<エドモントン市当局への「慎重なる回避支持」の意見>
○「電磁場を曝露されることでなにか特別な健康影響結果を100%証明するようなことはめったにない。したがって特定のレベルで証明ができるということはたしかに存在しない。しかし磁場が小児白血病の原因であるという証拠は十分に強いもので、私の意見としては故意に子どもたちを電磁場の害にさらすこと(権限)は無責任だし、法的にも結果に責任を負ってしかるべきだ。」
デイビッド・カ−ペンタ−(David Carpenter)ニュ−ヨ−ク州立大学公衆衛生学校(アルバニ−)SDABへの10月1日の手紙
○「基本的に、新しい建物とりわけ学校は高圧送電線の近くに建てるべきでない。」
デニス・ヘンショ−(Denis Henshaw)英国ブリストル大学SDABへの10月3日の手紙
○「私は電力線の近くに学校を建設しないようにさせるため、あなた方があらゆる手段をとるよう求めます。」
アンソニ−・ミラ−(Anthony Miller)カナダ・トロント大学名誉教授。ドイツがん研究センタ−(ハイデルベルグ)市当局への12月3日の手紙
○「私は、デ−タや研究に基づき、電力線は小児白血病リスクを増大するということを強く支持する。あなた方はこのような電力線の近くに学校を建設するという選択によって何人かにがんを生じるか、それともなにも起こらないか、いうことについて責任を負う用意があるのですか?」
ダニエル・ワ−テンバ−グ(Daniel Wartenberg)環境職業健康科学研究所(米ニュ−ジャ−ジ−州ピスカタウェイ)SDABへの10月24日の手紙