<第1回>2003.11.7(483号)
電磁波にはどんな害があり、どうすれば防げるのか。電磁波問題の第一人者、荻野晃也さんの連載です。
携帯電話や家電など、身の回りにあふれる電化製品は、私たちの生活を便利にしました。その一方で、それらが発する電磁波による健康への影響が、新しい21世紀型公害として注目されています。
今年の2月、ルクセンブルクで開かれた電磁波についての国際会議(世界保健機関〔WHO〕などが主催)で、研究者たちはWH○に対して「電磁波に予防原則の適用を求める決議」を採択しました。
予防原則とは、「危険性が証明されるまでは安全と考える」のではなく、「深刻な影響があり得る場合は、科学的に不確実性が残っていても対策を取ろう」という考え方です。21世紀、さらには今後1000年にも及ぶ環境思想の最重要キーワードとして登場してきた思想です。
酸性雨、地球温暖化、オゾンホール、環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)にBSE(牛海綿状脳症)と、「後戻りができなくなるような危険」に直面した20世紀が残した貴重な教訓です。ミレニアムの2000年2月には、欧州連合(EU)委員会が「環境問題に関しては予防原則を基本とする」との方針を決めています。
1000年間は人間の40世代に相当します。私たちの世代が子どもの遺伝子に消えない傷をつけたと仮定すると、その子どもが大人になって2人の子どもを生み、その孫がさらに2人ずつの子どもを生めば……まったくの単純計算ですが、1000年後には「2の40乗」にまで「遺伝子の傷」が広がることになります。いまの世界人口の約150倍です。
WHOが会議の決議をどうと扱うか、現段階ではまだはっきりしませんが、冒頭の講演でWHOの電磁波研究の責任者であるレパコリ博士は「予防原則を適応すべきかどうかを議論する段階ではなく、どのように適応すべきかが問題だ」と述べたそうです。電磁波の影響は自明の理というわけです。
WHOは2001年10月、国際ガン研究機関IRACの決定を受け、「超低周波の電磁場(波)」を「人間に発ガンの可能性あり」という「2Bグループ」に指定しています。「1グループ:発ガン性がある」から、「3グループ:分類できない」、「4グループ:おそらく発ガン性はない」の分類があるのですが、2Bは「2A:可能性が高い」に次ぐ分類です。
WHOはまた、「4ミリガウス以上では小児白血病が二倍に増加」している可能性も認め、各国に「予防的対策」を求めました。
その後、英国・放射線防護局は、小児白血病に加えてALS病(筋萎縮性側素硬化症)をも「可能性がある(2B)に指定、さらに、2002年10月に発表されたカリフォルニア州保健局・電磁場プロジェクトの最終報吉書は、9年余の研究の成果として白血病を「2B〜1」に、大人脳腫瘍、ALS病、流産を「2B」に分類したのです。
いまから約100年前、営業用に直流電気を使っていた発明王エジソンは、「身体深くまで電流の侵入する交流電気は危険だ」として交流電気を使用する弟子テスラらに大反対しました。そのことを証明するため、エジソンは多くの動物を実験で殺し、ついには電気イスまで発明しでしまったのです。しかし効率のよい交流電気派に負け、破産して悲惨な晩年だったのですが、その問題が形を変えて電磁波問題として再登場しているともいえるでしよう。
電磁波とは、太陽光線の仲間で、エネルギーの高いガンマ線・エックス線などの放射線から約10億ヘルツの携帯電話や、50/60ヘルツの超低周波までをいいます。電灯や無線などで生活が便利になった代償に、私たちは電磁波を日常的に浴ぴることになってしまったのです。
20世紀は、放射線の発見から核兵器という悪魔の技術の獲得まで、物理帯国主義の時代だったといわれています。そして、水銀やカドミウムや環境ホルモンなどの化学公害に加え、物理公害が大きな問題になった世紀でした。その一つである電磁波が「身の回りに充満」していることの危倹に、人々はようやく気づいてきたのです。
<第2回>2003.11.14(484号)
「テレビを離れて見る」のは、なにも視力のためだけではありません。被曝を避けるためにも効果的てす。
電磁波にはいろいろ種類があり、ラジオやテレビ、携帯電話などの情報通信に便われる電波もその一種です。電磁波のなかで特に問題なのが、多くの家電製品に便われる低周波と、携帯電話などに便われる高周波のマイクロ波です。その中間にあるラジオ波やテレビ波も放送アンテナ周辺では問題になりますが、家庭に届くときは微弱になっていますからあまり心配されていません。
低周波の電磁波の及ぶ範囲を電場(界)/磁場(界)というのですが、電場についての影響研究が少ないこともあって、いまのところは磁場の方が危険性が高いと考えられています。この磁場の強度は「ミリガウス(mG)」、または「マイクロ・テスラ」で表されます(10mG=1マイクロ・テスラ)。被曝度が強く、被曝時間が長くなるほど危険性が高まると考えられていたのですが、最近になって、細胞分裂の盛んな細胞では、短時間でも強い被曝が影響する可能性も指摘されています。
地磁気(地球の磁場)は500mG程度、メモ止めなどに使用するマグネットは10万mGもの強さですが、これらは時間変化しないような静磁場です。生物は静磁場のもとで進化してきましたから、静磁場に順応できる生物が生き残ってきたとも考えられています。
現在問題になっているのは、電化製品に使用される、いわゆる交流の電気から漏洩してくる「変化する磁場」で、数mG程度の強度のものです。
テレビの前面は1メートルも難れれば1mG以下に低減しますし、近くでは強い低周波発生源でもある電子レンジは、2メートル離れればだいたい2mG以下になるでしょう。
一方、IHクッキング・ヒーター(電磁調理器)はご30センチメートル程度にまで近づいて使用しますから、50mG前後の被曝をすることになります。電気毛布は密着して使用しますから数十mGはあるでしょうが、最近では低減化された製品が出回っていて、よく売れているようです。それでも長時間の使用や妊婦・子どもの使用は避けてほしいと思います。
意外と高いのが蛍光灯で、蛍光灯からの紫外線の危険性も懸念され、欧米の学校などでは使われなくなってきています。教室では、天井からよりも床(下の階の天井にある蛍光灯)からの被爆が高いので、「シールド・コンクリートの使用で低減化できるでしょう」と、米国カリフォルニア州の報告書(昨年10月)に書かれていましたが、日本の無関心さには驚くばかりです。
その報吉書は、16mG以上の短時間の日常的被曝であっても、「初期流産が5.7倍に増加する」という研究があることで有名になりました。日常的とは、朝夕にIHクッキング・ヒーターを使用したり、電車通勤で被曝したりする場合に相当します。磁場強度は使用する電流に比例しますので、大型の電化製品ではなく、小型で効率のよい物を選ぶようにしたいものです。
「携帯電話の使用者には、頭痛などが多い」とい、論文はいくつも発表されていますが、「脳腫瘍が多い」とのスウェーデンからの報告を、英国BBC放送などが大きく取り上げ(1995年5月)、欧米で大問題になりました。同様の研究が2000年、2001年にも発表されていますが、「脳腫瘍と無関係」との研究もあり論争中です。また、マイクロ波を使用する「レーダー速度計が睾丸ガンの原因だ」とする警察官を中心とした訴訟や、「携帯電話で脳腫瘍になった」との訴訟も欧米では多いのです。放送タワー周辺での「小児ガンなどの増加」を示す疫学研究も9件ありますし、昨年は携帯電話タワー周辺での「睡眠障害の増加」を示す研究も発表されています。
最近、ロシアの非電離放射線防護委員会が携帯電話について、「子ども/妊婦/てんがん患者の使用禁止」や、3分間以上/使用後15分間の再使用の禁止」を勧告しました。
いま私が一番心配しているのは、「脳への悪影響」と「胎児への悪影響」です。いずれにしろ、低周波も高周波も、安全性が確かめられていなかったことが明らかになってきたのです。
<第3回>2003.11.21(485号)
電磁波の影響は複雑そのもの。多くの「電磁波の危険性」、どう評価しますか?
二つのコップに、水と氷を同じ重さだけ入れて電子レンジで1分間チンしてみてください。水の方は60度近くになりますが、氷はまったく変化しません。同じH2Oでありながら、電子レンジのマイクロ波は水にだけ吸収されるのです。これは、電磁波の影響が大変複雑であることを示す一例です。
人間の身体でも、水分が多く、冷却機能の弱い睾丸や膜などがまず影響を受けると考えられています。熱に弱い脳もそうです。胎児に与える影響が特に心配されるのも、大人に比べて水分が多く、細胞分裂が盛んだからです。胎児は水分が90〜95%、赤ちやんは約80%ですが、大人は50%。その大人が緩い電磁波の規制値を作っているのです。
電磁波被曝によって鶏卵や線虫の卵が死ぬという研究や生殖作用と深いかかわりがあるカルシウムやホルモンなどへの影響に関する研究が多く発表されています。その一つ、高周波を低周波で変調(混ぜること)させると鶏の脳細胞からカルシウム・イオンが漏洩するという研究が1975年に公表されました。カルシウム・イオンは神経伝達や生殖、生物時計にも関係すると考えられています。その後の研究で、「イオン・チャンネル」と呼ばれる細胞表面の穴が、周波数や強度により影響を受ける可能性が指摘されています。細胞内のイオンは、この穴を通して濃度変化をしているのですから、どんな影響が出ているのでしょうか。
1997年12月に起こった、アニメ番組の映像で気分が悪くなったというポケモン事件や、最近話題のテレビやゲームなどの脳への影響は、電磁波被曝と脳との関係を示す現象であると思います。脳内ホルモンであるメラトニンも電磁波と関係が深いことが明らかになってきました。メラトニンは、抗酸化・抗ガン作用があるホルモンで、生物時計などの生命の維持に重要な役割をはたしています。低周波被曝でメラトニンの分泌が低下することが発ガンの原因、との仮説が現在もっとも有力です。今年6月、文部科学省から「4ミリガウス以上の被曝で、小見急性リンパ性白血病が4.73倍、小児脳腫瘍が10.6倍になった」という、日本で進められていた疫学研究の詳細が発表されました。電磁波の被曝で小児白血病が増加することは、ほぼ「間違いない」段階になっているのです。
うつ伏せに寝かすのが悪いといわれている乳幼児突然死症候群(SIDS)にも電磁波原因説があります。SIDSの誘因は身体を暖めることであるという報告があり、マイクロ波の電子レンジ効果といってもよい熱効果が原因かもしれません。
携帯電話の害についての研究も増えています。携帯電話の電磁波を2時間照射すると、若いラットの脳の神経細胞が崩れるという論文が、今年6月に米国立環境健康研究所が発行している雑誌に掲載されました。血液脳関門(BBB)という脳へ送られる血液を生成する器官の機能が崩れるのが原因らしいですが、旧郵政省の「生体電磁環境推進研究委員会」(委員長=上野照剛・東大教授)は1999年9月、「(電磁波は)BBBの機能には障害を与えない」という報告書を発表しています。私の知る限りこの報告は欧米の雑誌には引用されていませんので、正式な学術論文とはいえないようです。安全宣伝のためだけに、そのような研究が行なわれているのではないでしょうか。
細胞には温度に対応する「温度受容体」があり、携帯電話の電磁波被曝で熱探知タンパク質が変化し、あたかも大きな熱変化を受けたかのように作動したというポメライ論文(英国)が、2000年に著名な科学雑誌『ネーチャー』に発表されて話題になりました。最近では、子どもに多いアトピー性皮膚炎が携帯電話の電磁波被曝で悪化するという世界で最初の論文が、木俣肇博士によって昨年、今年と続けて発表されており、電磁波被曝が免疫系に悪影響をおよぼす証拠ではないかと、私の不安は増すばかりです。
しかし、これらは、電磁波利用重視の風潮の中で無視されているように思います。大人の金儲けの影に隠れて、子どもたちに危険性がしわ寄せされているのではないでしょうか。
<第4回>2003.11.28(486号)
米国ては不注意事故の30%が携帯電話が原因とか。それは、ただの「不注意」ではないかもしれません。
今年10月末で、PHSを含めた携帯電話の出荷台数は全国で8492万台、普及率は66.1%になりました。普及率が高まるにつれて、携帯電話を使用しながらの運転が目につくようになりました。
その姿を見るたびに「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」という、以前話題になった交通標語を思い出します。携帯電話のからむ交通事故は、欧米では大きな問題になっているのですが、この日本で話題になっていないのはなぜでしょうか。
携帯電話便月中の事故が急増している米国などでは、「携帯電話は酔っぱらい運転より危険性が高い」といわれています。携帯電話をよく使用する人は交通事故を起こしやすいとか、通話を終えた後であっても、事故が増加しているとかの研究があります。電磁波の影響で携帯愛好者の「認識力、判断力が異常となる」とのランブル報告(1999年)もあります。話題になっている「ゲーム脳」や「テレビ脳」の場合のように、判断力が低下しているのかもしれません。
不注意事故の30%が携帯電話にからんでいるといわれるニューヨーク州は、一昨年2月、運転中の携帯電話使用を禁止する法律を率先してつくり、違反者に罰金を科しています。カリフォルニア州の最近の報告でも約10%を占めているそうで、携帯電話を使用することで起こる事故が多いことは確かでしょう。
全米自動車協会は、携帯電話にからむ事故は「1995〜1999年の平均で、全事故の1.5%」と発表しています。ここ5年間で、携帯便用事故が10倍以上に増加したとのノース・カロライナ州の調査もあります。昨年12月には、運転中の携帯使用で「年間で死者2600人、重傷33万人、軽傷24万人、物損被害150万件」になるというハーバード大学リスク分析センターのコーエン報告が発表されました。被害総額は430億ドルと推定され、死亡りスクは、100万人当たり平均13人に相当するそうです。
英国も今年12月から使用が禁止され、反則金の最高額は約50万円で、逮捕もあるそうです。
特に問題なのは、若者たちの交通事故の増加です。米国の交通事故の6.8%が20歳以下の若者で、死亡割合は14.3%にもなっているのだそうです。ニュージャージー州とメーン州は若者たちの交通事故を減らすため、21歳以下の運転者の携帯使用を禁止しており、その動きは他州にも広がりつつあります。
日本では30歳以下の独身の若者の95%が携帯を待っている(昨年5月内閣府の調査)そうですから、なおさら交通事故が心配になります。
日本も1999年10月に交通法親で、携帯電話が規制されました。しかし、日本の規制は「運転中の使用禁止」ではなく、「携帯電話を便用して、交通の危険を生じさせた場合」に罰則を科せることになっています。違反点は2点、反則金も普通乗用車で9000円でしかありません。そして、事散を起こした場合にのみ「更に業務上過失致死傷」という刑が加重されるのです。つまり、「事故さえ起こさなければ、飲酒運転のような違反ではない」のです。
1997年の調査では、事故件数78万件のうち携帯電話による事故が2297件(0.29%)だったのが、規制施行後には事故件数・負傷者数とも半減した(つまり、0.15%で米国の10分の1)と警察庁は一昨年1月に発表しています。
しかし、警察庁は、「半減した」後の携帯使用の全国事故統計を取っていないらしいのです。これでは、携帯電話に対する批判が生じないように、産業界に協力していると批判されても仕方がないのではないでしょうが。「飲酒運転より危険性が高い」のですから、きちんと調査し、違反点数も飲酒運転以上に、厳しく取り締まるべきです。
高速道路の事故多発地帯には高圧送電線が通っている場所が多いという報告があったことを思い出すにつけ、携帯電話による事故の増加が心配になります。
いずれにしろ、欧米と異なり、この日本では、電磁波間題に関しではこのような秘密主義が多すぎるように思います。
<第5回>2003.12.5(487号)
低周波磁場の基準値を超えた商品が、堂々と発売されている日本。その基準値自体も「問題」なのですが・・・。
電磁波については、1979年のワルトハイマー論文(米国)をきっかけに、まず低周波の危険性が話題になりました。しかし1987年、世界保健機関(WHO)が、危険性を示す疫学研究を無視し、「5〜50ガウス(G)の間には危険性を示唆する報告もある」が、「50G(5万ミリガウス=mG)以下であれば問題はないだろう」という趣旨の「クライテリア69」を発表し、論争になりました。
日本では1990年前後にようやく電磁波被曝が問題となってきました。しかし、送電線建設反対運動に電磁波問題が含まれるようになると、電力会社はこぞってWHOの「5万mG以下では問題ない」をお墨付きとして大々的に利用し始めたのです。
その頃欧米では、コンピューター用ビデオ・ディスプレイ端末(VDT)を操作する女性に、流産や”奇”形児の出産が増加しているとの報告が問題になっていました。これを受けて、1990年にスウェーデンは、「MPR‐II」というVDT規制を実施したのです。
この規制値に適合する商品はごくわずかしかなかったので、世界中のメーカーが急いで対策をとり始め、日本電子工業振興協会(JEIDA、2000年よりJEITA)も1993年、「規制値」を発表しました。しかし、これが適用されたのは輸出用だけで、国内向けは1998年から実施という国民無視のやり方でした。
この規制は「VDTの全面50センチ」では、「5Hz(ヘルツ)〜2kHz(キロヘルツ)の周波数で2.5mG以下」「2kHz〜400kHzでは0.25mG以下」という内容です。しかし、そのような規制値をつくり、実施しているはずのメーカー自身が、それを大幅に超える商品を販売しているのです。
たとえば「IHクッキング・ヒーター(電磁調理器)」は、50/100Hz、20〜28kHzの周波数ともに、上面50センチの平均で約15mG、上面30センチの平均で約45mGにもなります。
日本の低周波磁場に関する規制値は「JEIDA規制」だけでしたし、独自に研究して採択したはずですから、自主規制値とはいえメーカーはこれに従うべきです。また、電力会社の方は、2000年を過ぎても「WHOの基準値5万mGよりも低いから安全だ」と相変わらず宣伝しているのですから本当に驚いてしまいます。
高周波の笈制が問題になったのも1990年代初めからで、携帯電話の増加がきっかけです。携帯電話と同じマイクロ波を使用する電子レンジの電力密度は、通商産業省(現経済産業省)によって前面5センチで1000μW/cm2(一平方センチの平面を通過する電力量=マイクロワット)まで許容されています。
ところが最近、総務省は電子レンジと同じ周波数をほかの商品にも使用させ始めているので、これでは私たちは電子レンジに加えて、2000μW/cm2まで被曝させられることになります。健康に関係の深いこうした規制は、本来、厚生労働省か環境省がすべきですが、両省とも電磁波には無関係なのです。
総務省の規制値は、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が、1998年に発表したガイドラインの参考レベルより緩くなっています。このガイドラインはもともと、長期的影響が確定していないという理由で短期影響のみを考慮し、熱上昇効果以外は考えなくてもよいという大前提で作られており、たとえば携帯タワーでは、600〜1000μW/cm2といった高い規制値になっています。
このようなレベルでは「安全性が保たれない」と思う国や自治体は、予防原則の立場で次々と厳しい値を決めています。オーストリアの環境都市、ザルツブルクは、実質的に0.1μW/cm2としました。この値は、レンガ造りの家の中ではその10分の1の0.01μW/cm2になるとみて決められたようです。また、EU(欧州連合)委員会内のST0A委員会は携帯タワーに対して0.01μW/cm2を提言しています。その値は、実に日本の規制値の「10万分の1」です。日本は木造家屋が多いので、欧米の基準よりもむしろ厳しくしなくてはならないはずです。
<第6回>2003.12.12(488号)
電磁波漏洩の少ない商品が多い欧米に比ベ、日本はまだまだ。私たち消費者ができることは?
昨年10一月、米国カリフォルニア州保健局が、9年の歳月と700万ドルをかけた研究を終え、電磁場プロジェクトの最終報告書を発表しました。そこには、電磁波を低減するための投資額と、それによって救われる人命の数字などとともに、学校現場での低減方法などがくわしく書かれていました。
たとえば教室で電磁波が一番強いのは床で、原因は下の階の教室の天井に取り付けられている蛍光灯なのだそうです。その対策例として「コンクリートに遮蔽材を入れるのが望ましい」と書かれています。また、IT教育室では、電磁波の強いVDT(コンピューター用ビデオ・ディスプレイ端末)のお尻が頭に近付くかないように「円陣になるように配置するのが望ましい」との図までありました。この報告書を作成した委員のきめ細やかさには驚きます。
欧米では、電磁波漏洩の少ない家電製品が出回っていますが、日本ではほとんどありません。最近になって、低減化電気毛布が売れ始め、既存のメーカーが困っているとか。しかし、「この製品は低減化していますか」と聞かない限り、販売員も低減化商品を売りたがらないようです。メーカーも販売店も「電磁波は心配いらない」という建前を守っているからでしょうか。電磁波潟湖の少ないスウェーデンの家電製品を大々的に輸入・販売するような勇気ある商社や生協は出てこないものでしょうか。
携帯電話のマイクロ波に関しても同じことがいえると思います。国の規制値以下は、すべて「安全である」から、「頭の吸収量の表示は不必要だ」と総務省の役人はいったそうです。欧米では「頭の吸収量」が製品に表示されていますから、被曝を心配する人は低減化した携帯電話を選択することができるのです。
昨年12月、ドイツ環境省は「クリスマスに子どもに携帯電話をプレゼントするのなら、青い天使マーク(安全マーク)のついたものにする」よう勧告しました。ドイツでは、規制値の約3分の1以下の電磁波吸収量の携帯にはこのマークがつくことになっていて、そのような携帯は15%もあるのだそうです。業界が反対しているのに官庁の方が強行しているわけで、日本の逆ともいえます。産官学が協力して「国民の健康を守る」のが原則のはずですが、少なくとも日本の電磁波問題に関しては、それはまったくウソだといえます。そのような状況のもとでどうすれば私たちは「身を守る」ことができるのでしょうか。そこで、私は以下の5つの方法を挙げたいと思います。
(1)測定をして現状を把握する
(2)発生強度の弱い製品を選ぶ
(3)人との距離を難す
(4)使用時間を短くする
(5)遮蔽を考える
さらに、電力線(送電線や配電線)や携帯基地局アンテナを民家から遠ざけることも重要です。
また、高周波を遮蔽できる窓ガラス、カーテン、壁紙などは入手することができます。低周波の磁場遮蔽は困難ですが、配電線を三つ編状に捻り配線にしたり、接近させてロの字状の角に配線することによって低減化することも可能です。
いずれにしろ、最大の問題点は、どうしたら被曝強度を低減化できるかということです。そのためには「強度を測定する」必要がありますが、日本製の簡便な測定器は、まったくといっていいほど製造されていません。私たちも10年以上前、開発を試みたのですが、モデルまでできたのに、なぜか最終段階でことわられました。それが日本の業界の実情です。とにかく、外国製の測定器を購入して身のまわりの電磁波強度を測定し、被曝量を低減する努力なしには、自分の身は守れません。
米国では、ケネディ大統領の教書である、有名な「消費著の権利憲章」が法制化されていて、消費者には「安全である権利」「知らされる権利」「選択できる権利」「意見を反映される権利」があるのですが、残念ながら、日本の消費者には認められていません。政治の貧困でもありますが、私には、市民の意識にも問題があるように思えてなりません。消費者の立場に立った信頼できるメーカーを育てることを、消費著も真剣に考える必要があります。
<第7回>2003.12.19(489号)
自然界にない電磁波をつくり、被曝している私たち。安全性を問い直してみませんか。今週で最終回てす。
今年の夏、各紙に「電磁波過敏症」のことが初めて大きく紹介されました。携帯電話で脳内血流が低下することが明らかになり、それが電磁波過敏症の原因の一つではないかというのです。化学物質過敏症に関しては、ようやく日本でも規制され始めていますが、電磁波は厚生労働省、環境省の管轄に含まれていないそうですから、今後どのように取り扱われるでしょうか。
電磁波による影響の研究には、経済産業省や総務省が費用を出しているようです。しかし、私からみて、どちらも「電磁波推進派」、少なくとも「利害関係から独立した研究機関」とは思えないところでばかり行なわれていることが多いのです。こういう研究は、資金を提供したところから、どれだけ独立して研究が行なわれるがが重要な問題になります。この10月10日、総務省の生体電磁環境研究推進委員会(委員長は上野照剛・東京大学教授)から「携帯電話の電磁波は安全」との発表がありました。どこが中心になってどのように研究されたのか、実験メンバーさえまったくわかりません。委員会の偉い先生方が決めているのだから、とにかく「信用しなさい」というわけです。メディアはそのまま総務省のいいなりに報道しました。
しかし、同じ案件ではわずか50匹ずつのラットの実験で、どうして「影響がなかった」といえるのでしょう。その上、被曝しなかったラットも被曝したラットも、どちらも大多数が死亡しています。差が出なくても不思議ではないのです。一連の実験結果から「危険だ」といえる点も多いのですが、委員会はアレコレ理由をつけて「影響がない」という結論を誘導したとしか恩えません。
一方、国立環境研究所が中心となって行なった「電磁場被曝と小児ガン」研究は、今年6月に「危険だ」との結果を発表しましたが、それに対して「期待がはずれた」側は研究に最低評価を下し、「信用できない」研究としてほうむりさったと私は考えています。世界中で行なわれていた疫学研究結果を追認し、さらに貴重な新事実を明らかにした優れた研究だったのですが、多くのメディアもその結果を報道しませんでした。
12月からは一部地域で地上デジタル放送が始まりました。その電磁波の影響を日本はどこまで真面自に研究しているでしょうか。膨大な利益を上げているはずの関連企業が、安全性の研究にどれだけ投資しているかを示す資料を私は見たことがありません。「国にまかせている」というのならば、まさに責任放棄です。生物は進化の過程で自然界の電磁波を利用し、それに順応してきたはずです。ところが、人間は利用することばかりに熱心で、ついに自然界に存在しないデジタル波やパルス波まで使い始めているのです。
「個体発生は系統発生を繰り返す」というテーゼ(命題)があります。たとえば海で発生した生物が陸ヘ上陸したことを、哺乳類は胎内を海として再経験しているというのです。電磁波には静磁気からγ(ガンマ)線までありますが、その中間の太陽光線を利用して進化してきた人類が一部紫外線の増加におののいているのも進化過程で経験がない環境変化に対応できないためです。核問題も医療X線も地球温暖北も、この電磁波も、「地球環境問題」なのです。
WHO(世界保健機関)の新しいクライテリア(環境健康規準)が、「予防原則」と「電磁波過敏症」にどう対応するかに注目が集まっています。低周波に関するクライテリアの発表は、延期されて来年になりました。高周波のクライテリアは2006年に発表の予定ですが延びることでしょう。一方で電磁波利用は拡大するばかりです。規準は「リスク(危険)とベネフィット(便益)のバランスで決まる傾向があります。遅れるほど基準は甘くなるでしょう。
私たちは、便利で楽しい生活に酔いしれていてよいのでしょうか。電磁波問題は、そのことを根底から問いかけているのではないでしょうか。長引く不景気のためもあってか、安全/環境問題への熱気が弱くなってきているように思います。こんな時こそ、1000年、万年のスケールで、人類の未来を考える必要があるのではないでしょうか。(おわり)