驚異的な早さで携帯電話が普及し、住宅街に電波塔が乱立している。だが、人体への影響について問題はないのか。横浜駅からJR根岸線で約20分。洋光台駅と港南台駅のほぼ中間に広がる丘陵地帯。付近には氷取沢市民の森などもあり、横浜市民の憩いの場として古くから親しまれている。
横浜の小さな住宅地で多発するガンと白血病。恐怖に脅える住民たちの声を聞いた。「我々は電磁波に殺される!」
杉田台や洋光台周辺の住民を、さらに不安にさせているのがNTTドコモの鉄塔建設計画だ。NTTドコモが市民の森近くの緑地2530平方メートルを造成し、高さが80メートルで、直径1.2メートルのパラボラアンテナが最大38個付く携帯電話用の巨大鉄塔(無線中継所)と400平方メートルの電力室の建設を計画している。建設予定地は、建設省の緊急避難用の電波塔に隣接する円海山(153メートル)の麓、氷取沢にある。これが完成すれば、合計7基目の電波塔となる。
周辺住民はこの計画を知った4月、「氷取沢自然を愛する会」(小栗正義会長)を発足、反対運動に立ち上がった。反対の理由は「電磁波についての安全性が立証されていない」「すでにこの地区にはいくつもの鉄塔が建設されており、第1種風致地区に指定されるほど広大な森の景観が破壊される」などだ。
すでに3000人の住民の反対署名を横浜市に提出したほか、郵政省、県、建設省などにも電磁波の危険性を訴え、鉄塔建設計画の中止を要望してきた。NTTドコモとの住民説明会もこれまで3回行ったが、ドコモ側は、
「電磁波に問題はない。世の中に100%安全なものなどない。水道の水を飲み続けたってガンになる」
「住民の同意が得られなくても建設はする」
「建設予定地は見通しがよいことと、ほかの電波の干渉を受けないので建築に最適」
「電波の強さは社外秘」
などと回答。計画は変更しない構えだ。
「氷取沢自然を愛する会」では、こう批判する。
「NTTドコモの担当者は、設計図も社外秘ということで見せようとしません。それどころか、この一帯はもう十分に電磁波が飛び交っているから、<あと1基増えても、どうってことはない>というような、とんでもないことを言う。9月10日の建設省の説明では、建設予定地に隣接する建設省の鉄塔から発せられている電磁波の強さは、イギリスの安全基準の約400倍となっています。新たな鉄塔ができ、これ以上、電磁波が上乗せさせられたら、大変なことになってしまいますよ」(小栗正義会長)
今年の5月11日、イギリス政府の諮問で携帯電話が健康に及ぼす影響を調査していた専門委員会は、携帯電話の電磁波が健康に悪影響を与える可能性もあるとして、子供が不必要に利用しないことを求める報告書を公表した。そのなかで0.001マイクロワット/平方メートル以下でなければ安全でないという基準を打ち出した。そして7月には、16歳以下の子供に緊急時を除いて携帯電話を使用させないように、との指導がイギリス政府から通達されたのだった。
「氷取沢自然を愛する会」のメンバーてある総合病院勤務の山下昇医師(45歳・男性・仮名)は、こう言う。
「ドコモは、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が、電磁枝の安全性には問題ないと断言していると言っていますが、ICNIRPは<電磁波は人体に影響はない>なんて言ってません。電磁波について疫学研究や動物実験のデータが不足しているというのは、国際的な常識であり、それは、ドコモが持ち出しているICNIRPのガイドラインにも書かれていることてす。とくに、長期間浴びた場合の研究データはほとんどない。ICNIRPはこの非常に限られたデータしかない現段階において、ガンなど、体に悪影響を及ぼすという確信の持てる証拠(影響を示唆するものはいくつかある)はなかったと言っているのであり、<電磁波が安全だ>とはひと言も言ってないんです!」
昨年、米国・環境衛生科学研究所(NIEHS)が、「ラピッド計画」の最終報告書を発表した。それは米国議会の要請を受けて約5年間にわたり、送電線などからの電磁波の人体への影響を調査していたものだ。
「報告書の結論には<実際に生活している>場所での被曝に関して、無視できない、いくつかの一致性が見られるとし、『2つのガンの場合に相関が見られ、小児白血病と職業人の慢性リンパ性白血病である』『被曝が白血病の原因になるかもしれないとの弱い科学的証拠があることから、被暖が完全に安全だと認めることはできない』とあります」(前出・荻野博士)
日本でもようやく昨年8月から、科学技術庁が全国的な電磁波の健康への影響を調べる疫学調査を開始した。少なくともその結果が出るまで、新規の電波塔の建設は凍結すべきである。でなければ、何のための調査か。
住民でもある山下昇医師は、長期間被暖した場合の恐ろしさについて、こう言う。「私たちの肉体には約60兆個の細胞がありますが、そのうち、たった1個の細胞がガン化し、無制限に増殖し、人を死に至らしめます。その1個の組胞が検査で見つかる大きさになるのに、約10年かかるのです。つまり鉄塔を建て、電磁波の発ガン性が明らかになるのは10年後になるわけです。それをじっと待つことができますか。また現在、まだ自分では知らずに前ガン細胞を持っている人にとって、電磁波は最後の一撃になる可能性があります」
本田さんの調査でも、杉田台住宅でガンで死亡した人は、子供のころから住んでいて、結婚した後も、そのまま住み続けている人ばかりなのである。
大阪の門真市古川町では、過去13年間て死亡した160人のうち82人がガン、そのうち18人が血液のガンといわれる白血病で死亡している。ガンの発生率は全国平均の20倍、白血病に至ってはなんと全国平均の100倍という異常な高さである。
これは、町に張りめぐらされた高圧送電線の影響と見られているという。
次の犠牲者は誰か。
「電磁波の恐怖」は横浜・洋光台だけの問題ではなく、今後、全国に広がる可能性もある。速やかな調査が必要だ。