文明の発展とともに、生活の周りを埋めていく電気製品。
だが、便利さと引き換えに、そこに新たな危険が生じている。
それは、われわれの健康を脅かす電磁波の恐怖だった!
「高圧送電線や電気製品から出る超低周波の電磁波(平均磁界0.4マイクロテスラ以上)が及ぶ環境では子供の白血病の発症率が2倍以上になる、という調査結果が、国立環境研究所などによる初の全国疫学調査の中間解析の結果で出ていることがわかった。電磁波と発症の因果関係は明確ではないが、世界保健機関(WHO)などは昨年、電磁波で小児白血病の発症が倍増するという同じ結果を発表している。今後、日本でも欧米並みの電磁波低減対策を求める声が出る可能性もある・・・」(8月24日付「朝日新聞」より)なんと白血病の発症率が2倍以上に!
これまでモヤモヤとした形でしか語られてこなかった電磁波の恐怖が、ついに白日の下にさらされた。電磁波が人体に及ぼす恐るべき影響が、科学的な数値として認められたのである。
しかも、その数値は、わが国の公的な機関によって認められたものだということに注目してほしい。これまで、電磁波が人体に及ぼす影響については、言を左右にして口を濁しつづけてきた国が、ここに至ってついにその危険性を認めたという事実は限りなく重いといわざるをえない。
だが−−この調査結果がスムーズに、すなわち国民の健康の安全を願って積極的に公表されたものなのかというと、どうも違っているようなのである。
「これは朝日新聞の見事なスクープなんです。というのも、科学技術庁(現・文部科学省)は1999年度から2001年度の3年間に調査を終了していたのに、結果をすぐ発表しなかったんですよ」意外な事実を語ってくれたのは、電磁波問題市民研究会事務局長の大久保貞利氏だ。
「もともと日本は電磁波に関する疫学調査はやりたくなかったんです。ちゃんとした数字は出したくない。というのも、これまで国は電磁波が健康へ影響を及ぼすことをずっと否定してきたという経緯があるからです。これが事実だとすれば、なんともやりきれない気分に陥ってしまう。私たちの健康に重大な影響のある事実さえも、国民の目から隠そうというのか。国や官僚の隠蔽体質は、そこまで根が深いものなのか・・・。
しかしWHO(世界保健機構)が国際的な調査の一貫として日本に勧告を出してきたので、しぶしぶやらざるをえなかった。
で、仕方なく調査してみると、案の定、白血病のリスクが2倍になるという恐ろしい数字が出てきた。こいつはマズイ、と(苦笑)。
実際、中間解析結果なら、もっと早く発表できたはずです。それなのに国は怠ってきました。8月24日に朝日がスクープ記事を出すまで、私たちも知らされることはなかったわけですから」
●テレビ=1メートルの距離で2.3ミリガウス
●電子レンジ=50センチの距離で14.6ミリガウス
●電磁調理器=30センチの距離で29.3ミリガウス
●パソコン=50センチの距離で1.9ミリガウス
●電気毛布=密着状態で7.7ミリガウス
●蛍光灯=15センチの距離て16ミリガウス
もちろんメーカーや機種、さらには計測器によっても値は大きく変動するので、あくまでも参考例として見てほしいのだが、いずれにしてもこれらの数値を見る限り、4ミリガウス前後の電磁波など、私たちは日常的に浴びているということになる。
にもかかわらず−−4ミリガウスという微弱なレベルの電磁波で発ガンリスクが2倍以上になると、国立環境研究所はいう。これは、ある意味べらぼうな数字である。そんな極端な調査報告が本当に信用できるものなのだろうか?
いや、実は恐ろしいことに、世界的に見れば、これはごく当たり前の数字だったのである。
今回の報道で大きな話題になったのは、これまで危険性を認めようとしなかったわが国でさえ、認めざるをえないところまできてしまったということにすぎない。
「4ミリガウス=危険領域」というのは、すでに世界の常識だったからである。
再び大久保氏に話を伺う。
「今回の4ミリガウスで発ガンリスクが2倍という数値はかなり信用できるものだと思います。というのも、昨年の3月に英国の放射線防護局(NRPB)が同じような専門委員会を設け、同じような調査を行ったのですが、そのときの結論が、奇しくも今回と同じ4ミリガウスで発ガンリスクが2倍という数字でした」しかも、この調査委員会のチーフとして腕を振るったのば、リチャード・ドール博士。疫学調査においては文句なしに世界一の権威として認められている人物だ。
「このドール博士の調査結果を受けて、WHOの下部機関である国際ガン研究機関(IARC)は、2001年6月に、極低周波電磁波の危険ランクを2B(発ガン可能性あり)というランクに位置づけました。しかもこの決定は参加国10カ国21名の専門家、全員一致で決められたのてす」ちなみに、2Bより上のランクにはPCBやホルムアルデヒドなどの2A、ダイオキシンやアスベストなどの1が並ぶ。
「社会に与えたインパクトという意味では、有名な「メドウ通りの災厄」事件が大きかったのではないでしようか」と語るのは医学博士の中原英臣教授である。
「この事件は、米コネチカット州ギルフォードという町のメドウ通りに住んでいた17歳の少女が、ある日突然、脳腫瘍で倒れたことから始まります。しかし、少女を襲ったこの悲劇も、実はさらなる恐るべき災厄の前触れでしかなかったのです・・・」中原教授の説明によれば、そのときからメドウ通りに暮らす人々に、次々と悪夢のような事件が降りかかかる。
「この異常事態に着目したのが、世界で初めてアスベスト公害を告発したことで有名なジャーナリストのポール・ブロダー氏でした。彼はメドウ通りにある変電所と高圧送電線に疑いの目を向けます。ちょうどそれ以前から変電所にかかる電圧が急激に高まっていたのです。ブローダーはメドウ通りの電磁波を測定してみました。その結果、なんと驚くべきことに、そこでは20〜100ミりガウスもの強い電磁波が測定されたのです」ポール・ブローダーは自ら調査した結果を「メドウ通りの災厄」というタイトルの長い記事にまとめ、1990年7月の「ニューヨーカー」誌に発表した。
「問題は目に視えない危険が増えているということです。最近では、変電所は地下に設置されるケースが多いからです。実際、東京23区内では40パーセントの変電所が地下に設置されているのです。電磁波は地面やコンクリートを通り抜けていきますから、私たちは知らないうちに、地面の下から相当な電磁波を被爆している可能性があるというわけです」中原教授によれば、最近では、寺院や教会の下に変電所が建設されるケースも増えているという。等価交換て、地上の建物を建て直す代わりに、地下に変電所をつくらせてもらうというケースだ。
<中継基地局からの電磁波規制と高周波の規制値について>
スイス:4.2マイクロW/cm2(電力密度)または4.0V/m(電場強度)
イタリア:10マイクロW/cm2(ただし自治体は2.5マイクロW/cm2
ロシア:2.4マイクロW/cm2または3.0V/m
中国:6.611W/cm2または5.0V/m
ICNIRPl:450マイクロW/cm2
日本:1ミリW/cm2(1000マイクロW/cm2)
ザルツブルク:0.1マイクロW/cm2(オーストリア;提案中)
フオローゲン州:0.001マイクロW/cm2(オーストラリア;提案中)
携帯電話の電波による電磁波については、各国が規制を設けている.注目してほしいのは、日本におけ
る基準数値の甘さだ。見て明らかなように、ひと桁どころか、単位そのものが異なっていることがわかる。
私たちは常に、これだけ強い電磁波にさらされているのだ。
<主な家電の電磁波の強さ>
エアコン:20ミリガウス
カラーテレビ:20ミリガウス
電子レンジ:200ミリガウス
携帯電話:200ミリガウス
ヘアドライヤー:70ミリガウス
ビデオ:6ミリガウス
掃除機:200ミリガウス
ホットカーペット:30ミリガウス
電気こたつ:100ミリガウス
ある計測による、おもな家電の
電磁波の強さ。文中でも触れてい
るように、測定状況によって数値
は異なるので、あくまでも目安と
して見てもらいたい。しかし、家
庭のなかで無数の電磁波が飛び交
っていることは間違いないのだ。