原子力安全委員会、原子力施設等防災専部会では7回にわたったヨウ素検討会のまとめを「原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について」として報告しました。
詳細は http://nsc.jst.go.jp/senmon/shidai/senkaisi_kensaku_f.htm で見ることが出来ます。
またこの報告書に対する意見募集を行い、寄せられた意見とそれに対する回答もこのページに公開されています。
2回から6回の検討会の傍聴記録は原問研のページに記載されていますのでご参照下さい。
ここでは報告書の重要なポイントと一般的な知識をQ&A方式でまとめてみましたので参考にしてください。なお注は私たちの意見です。
Q1)なぜヨウ素剤を飲むの?
A: 原子力施設に事故が起こった場合、いろいろな放射性物質が施設から放
出されます。放射性ヨウ素もその中の一つです。
放出された放射性ヨウ素は、呼吸や食物とともに体の中に取り込まれ、甲状腺に集まります。そのため甲状腺がんの原因になるおそれがあります。これに対し、前もってヨウ素剤を飲んでおけば、放射性ヨウ素が甲状腺に集まることを防ぎ尿や便から排出されて、発がんの危険性(リスク)を低減することが出来ます。
Q2)どのような場合にヨウ素剤をくばるの?
事故の規模などから計算して、甲状腺の被曝線量が100mSv(ミリシーベルト)をこえると予測されたときにくばられます。(単位については最後にまとめて説明があります)
Q3)大気中の放射性ヨウ素をはかる方法は?
第3回ヨウ素剤検討会の資料によれば以下の通りです。
1分間に50リットル程度を吸引するローボリュームエアサンプラにダスト用ろ紙と活性炭カートリッジと取り付け、10分間吸引する。ダスト用ろ紙と活性炭カートリッジをポリ袋に入れ、NaIサーベイメータの検出部を密着させて測定する。測定時間は数分。
Q4)100mSvの被曝を受けるのは大気中にどのくらいの放射性ヨウ素があるの?
大気中の放射性ヨウ素が4,200Bq(べくレム)/m3の場合24時間その空気を吸入することによって小児甲状腺は被曝線量が100mSvとなると予測されます。
注1: チェルノブイリ事故で甲状腺がんになったのは主に子供でしたから、子供には予測被曝線量が低い場合でもヨウ素剤を与える方が望ましいのです。しかし、このような議論は検討会の中でされたにもかかわらず、最後の報告書からは姿を消しました。
注2: 小児が甲状腺癌になりやすいことを考慮してベルギーでは、0から19歳までの若年者、妊婦、授乳婦は10mSv、オーストラリア(0から16歳、妊婦、授乳婦)、ドイツ(0から45歳)、アメリカ(0から18歳、妊婦、授乳婦)では50mSvを越えると予測されたときにヨウ素剤を服用します。WHOも若年者に対しては、予測線量が10mSvを越える場合に服用することを推奨しています。
注3: 各国のヨウ素剤を配布する予測線量、配布場所などに関しては原問研のページにまとめてあります。
Q5)ヨウ素剤はどこでくばるの?
ヨウ素剤の配布は各避難所などで行われます。
注1:布場所などの詳細は地方によって事情が異なりますから、一様ではない可能性があります。保健所などに問い合わせておくと良いでしょう。
注2:常時に、あらかじめ各家庭に配ることはしないと決められました。
Q6)ヨウ素剤はいつ飲むのが効果的?
ヨウ素剤は放射性ヨウ素が体内に取り込まれる以前、または直後に服用するのが効果的です。この時期に飲めば甲状腺にたまる放射性ヨウ素の90%以上を抑えますが、放射性ヨウ素が摂取された後4時間以内では抑制効果が50%に落ち、6時間以降であれば効果は激減します。
放射性ヨウ素は呼吸により気管支や肺から、また口から入ったものは消化管から吸収され血液の中に入ります。このように取り込まれた放射性ヨウ素の10から30%は、24時間以内に甲状腺に集まり、残りの大部分は尿から排出されます。
Q7)ヨウ素剤は何回のむの?
服用回数は1回とされました。それ以上服用することが必要と予測される
ときには避難を優先するそうです。
注:原発震災などで避難が出来なくなった場合等は考慮されていません。また事故の規模もチェルノブイリ級の事故は原子炉の設計が異なるなどの理由を挙げて、日本では起こりえないとしています。
Q8)飲むヨウ素剤の量はどれくらい?
ヨウ素剤を飲む量は以下のように年齢によって異なります。
年齢 ヨウ素量 ヨウ化カリウム量
新生児 12.5mg 16.3mg
生後1ヶ月から3歳未満 25mg 32.5mg
3歳以上13歳未満 38mg 50mg
13歳以上40歳未満 76mg 100mg
40歳以上は投与しない
・新生児から3歳未満の小児についてはヨウ化カリウムの粉末を水に溶解して与えます。ヨウ化カリウムは湿気を吸いやすく、またいったん水に溶かしてしまうと不安定になりますので、水溶液の状態で長く保存することは出来ません。
・現在あるヨウ素剤はヨウ素量38mg、ヨウ化カリウム量50mgを含む丸薬1種類なので、当面これを使用するそうです。従って
・ 3歳以上13歳までは丸薬を1錠(ヨウ素量38mg)
・13歳以上の場合は丸薬を2錠(ヨウ素量76mg)
注:ヨウ化カリウムの製剤で30mg以上服用すれば、放射性ヨウ素が甲状腺へ集まるのを95%抑制することができるという実験結果を根拠にしています。
・ 40歳以上にヨウ素剤を投与しないのは、放射性ヨウ素によって甲状腺癌の発生率が増加しないためと説明しています。
Q9)ヨウ素を含む食品を食べると効果があるの?
ヨウ素は海産物特にコンブに多く含まれています。コンブ乾燥重量100gあたりには100から300mgのヨウ素が含まれています。しかしコンブを食べることによって短時間に大量のヨウ素を体内に取り入れることは難しいようです。
各家庭にあるヨウ素を含むうがい薬や外用薬を飲むことについて。
これは、安全性が確認されていませんし、ヨウ素含有量が少ないため、放射性ヨウ素が甲状腺に集まるのを防ぐ効果は少ないそうです。従って服用してはいけないと指導しています。
Q10)ヨウ素剤を服用することによる副作用について。
主なものは甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症などです。
注1: ヨウ素剤服用による副作用は非常に希です。国際原子力機関(IAEA)の資料では、一日あたり300mg(ここで決められた服用量の4倍から8倍量)のヨウ素を服用した場合でも100万人から1000万人に一人の確率で皮膚のかゆみや赤斑、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症などの副作用がでるとしています。死亡する確率は10億分の1だそうです。
これに対しチェルノブイリ事故により15歳以下で被曝した人が生涯をとおして甲状腺がんになるリスクは1x10?5/mSvと計算されています。ポーランドで小児甲1050万人にヨウ素剤を与えて副作用がないと計算されたことから、ヨウ素剤の副作用がでるリスクは1000万分の1以下と考えられます。放射性ヨウ素による発がんのリスクが1000万分の1になる線量は10μSv(マイクロシーベルト)程度です。従って、ヨウ素剤の副作用と放射性ヨウ素被曝によりがんになるリスクが釣り合うのは10μSv以下になります。ヨウ素剤を配布する基準はこの値から実に1万倍の線量に設定されているのです。
注2: 本来ヨウ素というものは人間の生命にとって無くてはならない甲状腺ホルモンを作るために必須の元素です。生体にヨウ素に対する拒否反応がある方が生命にとって危険であると考えられます。
ヨウ素検討会ではQ7)の答えで述べた量を1回服用させるだけですが、この希な副作用を非常に重視し、検討を重ねたことになります。これは基本的には望ましい姿勢だと思われます。原子力施設の事故想定に対してもこのくらい慎重に安全側にシフトした考え方を採用して欲しいです。そうでなければ、住民に原子力施設の事故に対する不安を与えないために基準値を高く設定したと勘ぐられることになります。
Q11)なぜ、小児は放射性ヨウ素によってがんになりやすいの?
小児は成長が盛んなために代謝も盛んです。甲状腺の細胞も盛んに分裂しています。本来放射線による傷害を受けやすいのは盛んに分裂している細胞です。代謝が盛んだということは甲状腺ホルモンの産生も高く、従ってヨウ素を沢山取り込むのです。その結果、放射性ヨウ素を多く取り込んでしまうことになり、放射線によって遺伝子に傷がつき後にがんになる危険性が高まるのです。
Q12)ヨウ素剤を服用させない方がよいと考えられた疾患は?
ヨウ素過敏症(ヨウ素を含む造影剤過敏症、低補体性血管炎、ジューリン
グ疱疹状皮膚炎、甲状腺機能異常症等です。
これらの疾患を抱えている人は医師に相談し、普段からどうすればよいか
を考えておきましょう。
Q13)どんな放射能でもヨウ素剤で取り込みを予防できるの?
ヨウ素剤によって体の中に取り込む放射能を少なくできるのは放射性
ヨウ素だけです。ほかの放射性物質、放射線に対しては、全く効果はありませんs。
参考のために
行政がヨウ素剤の家庭配布をしないと決めたため、いざというときに手元にヨウ素剤が無い事もあり得ます。特に原発立地県に住んでいて、19歳以下の子供がいる家庭では行政をうごかすなどしてヨウ素剤を手元に置いておく方が安心です。不安な方は、同じような不安を持つ人と話し合い共同でヨウ素剤を買い求め用意しておくと良いでしょう。
ヨウ素剤は、決められた量を1回服用する場合あまり心配ありませんが、長期間連続服用しますと、甲状腺機能亢進症や、甲状腺機能低下症などを引き起こすおそれがありますので注意が必要です。
コンブなどから十分なヨウ素を取り入れることは出来ないといっていますが、手元にヨウ素剤がなければ、コンブを食べないよりは食べた方が少しでも危険を軽減できるのではないでしょうか。
放射線の単位の説明
グレイ(Gy):物質1kgにつき1ジュール(J)エネルギーが与えられた時の吸収線量を1Gyという。
シーベルト(Sv):同じ1Gyでも中性子線とX線とでは人体に与える障害の程度が異なる。その違いを考慮して被曝の効果をあらわす量を実行線量と言い、Svであらわす。
X線、ガンマ線などでは1Gy=1Svと考えて良い。
中性子線、アルファ線などでは1Gy=5ないし20Svとなる。
1Sv=1000mSv、
1mSv=1000マイクロSv
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