多くの評論家は、原子力の根本問題がいまだに未解決であるため、それが世界的市場競争の場では深刻な障害となり続けるだろうと考えている。アメリカのエネルギー産業分析コンサルタントのケン・シルバースタイン(Ken Silberstein) はこういう。「エネルギー産業内の規制廃止、市場、政策の不確実性のため、新しく原子力発電所を建設する余裕のある電力会社は一つもない。スタンダード・ア ンド・プアーズ(Standard & Poors)が出版したレポートはこの障壁を明確にしている。例えば、建設の遅れで発生するコストは、莫大な金額を未来のプロジェク トに加算することになる。レポートによると、それは銀行側のリスクも増やすことになる。新しい資本を引きつけるためには、未来の発展にはリスクはない、も しくは、エネルギー法案がそのリスクを和らげることができると証明しなければならない。」スタンダード・アンド・プアーズの分析者でレポートの著者であるピーター・リグビー(Peter Rigby)はこういう。「原子力産業の遺産であるコストの増大、技術的困難さ、厄介な政治的、法律的失策、その上、競争又はテロの懸念により新たに加えられたリスクを考えると、ローンを保証する連邦政府にしてみてさえ、リスクが高すぎてそれを克服することはできないだろう。」
特に、アメリカ合衆国では、原子力産業は生き残るために自らの問題を隠蔽しようと試みたが、それも効き目がないようだ。「今日のアメリカ政治の現実から考えると、これから長い間この国に原子力発電所を新しく建設するということは有り得ない、という結論にいたるだろう。」とブッシュ大統領の前国務省長官、ジェームス・べーカー(James Baker)は言う。フランスの行政分析家であり、エネルギー及び一次資源の地理学センター (CGEMP)長官であるジーン・マリー・シェバリアー(Jean Marie Chevalier)もべーカーの見解を支持している。「ジョージ・ブッシュ大統領は”原子力発電は復活されるべきだ”、と言いたければいつでも言える。しかし、投資家にはそんな気は毛頭なしだろう。なぜなら、今日原子力発電は、資本投資を要求するためには膨大な不利を抱え、しかも建設に時間がかかるからだ。7年か8年後発電所が完成した暁に電力市場がどのようになっているか、誰も知るよしもない。従って、金融投資機関も、銀行も現在とても原子力には手を出したがらない状態である。」実は、銀行の原子力に対する消極性は今に始まったことではない。例えば、世界銀行は原子力発電所に融資したことはないし、その投資リスク分析を変えようとし た形跡もない。多くの原子力楽観主義者が原子力の復活を願っているアジアでさえ、アジア発展銀行は原子力プロジェクトに融資していない。
原子力ロビーによって演じられた大部分の楽観主義はレトリックにすぎない。「過去数十年で初めての原子力発電所を建設する希望」と題したニューヨークタイムスの記事が、以下の様にまとめられているのは皮肉である。「米国最大規模の原子力発電所有会社2社と原子炉製造業2社を含む企業は、何を、どこに建設するのか明らかにしていない。実は彼らは建設するという言質すらも与えていないのだ。しかし彼らは、建設許可を得るために何億もの大金を費やすことに同意し、11月に既に提案済みの、何億もの大金を連邦政府から受け取ることを期待している。そのお金は新世代原子炉の計画作業をするのに必要であり、その様な発電所にかかる確実な予算案を立てるのに費やされる。」
しかし、超原発支持派のブッシュ政権でさえその様なお金を快く払ってはいいないようである。アメリカエネルギー省
(DoE)は2005年、「原子力2010プログラム」で原子力産業が要求している60から80億の予算を、47%の 10億に削減している。2004年2月10日の国の議会聴問会で、エネルギー省の代表者は、予算削減は、新しい発電所建設において、原子力業界がいかに「より積極的に」プログラムに取り組むかという見解が、原子力業界側から不足していたためだと示唆した。ニューヨークタイムスは正しかったようだ。
国際エネルギー業界は全体的にまだ原子力発電に対してきわめて懐疑的である。イタリアの巨大石油ガス会社ENIの副社長のレオナルド・マウゲー (Leonardo Maugeri)はニューズウィークにこう書いた。「多くのエネルギー産業の人は原子力発電が解決策だと考えている。しかし、彼らはコスト競争力の間違った分析を 頼りにそういっているにすぎない。核廃棄物に関する政治的懸念を全く無視したとしても、原子力発電によって得られるエネルギーの本当の価格を計算するのは 困難である。原子力発電所を閉鎖するのには新しく建設するのと同じくらいコストがかかる。だから今、原発会社は現在計画されている発電所の閉鎖を遅らせよ うと議員に圧力をかけているのだ。」
原子力産業の全体的な戦略はきわめてハッキリしている。短期的、中期的な原子力産業の復活の見通しがないため、全く新しい世代の原子力発電所に希望を託している。新しい世代とは、いわゆる第IV世代の原子炉である。サイズ的(10-200MWe)にも投資額的にも大幅に小さく、建設時間が短いためにより柔軟な問題解決が可能であり、装荷する核物質が少なく受動的安全装置のためにリスクは低下する。その間にも、原子力事業者は発電所の寿命をできるだけのばし、原子力の未来の神話を守ろうと必死である。
OECDの国際エネルギー機構(IEA)による2004年エネルギー政策概観で、 政府によるエネルギー調査と発展(R&D)予算案をこう分析している。「ここ数年、再生可能エネルギー技術とエネルギーの効率化を支援することが、実施されたあ るいは計画中の法令の大半を占めている。逆に、気候変動という観点からは魅力的だが、原子力に対しての支援は比較的少数に留まっている。政府のR&D予算案に おいては、核分裂に最大の予算が割り当てられているが、1980年初期頃から見ると、化石燃料と核分裂は大幅に予算が削減されている。」世界的なエネルギー 供給において重要性が限られていることを考えると、核エネルギー(核融合と核分裂)はいまだに実に膨大なR&D予算を吸い取っているのである。1991年から 2001年の間に、26カ国のOECD加盟国が使ったエネルギーR&D予算8.76兆ドルの半分が、原子力研究に費やされたのである。
2003年の世界エネルギー見通しでIEAは既に以下のように述べている。「公衆からの反対運動、核廃棄物の問題、核拡散に対する懸念、原子力の経済性の問題などが原因で、電力生産における原子力のエネルギー使用の割合は、世界の殆どの地域で減少の道をたどると予測される。世界的な発電量における原子力が占める割合は2001年に19%だったのに比べ、2025年には12%まで減少するだろう。」2004年版の世界エネルギー見通しでも、「原子力発電はそれが抱える困難な問題のために他の発電技術と競争できない」ので、「減少傾向はずっと続くだろう」と予測している。2002年から2030年までに原子力発電が13%増える(新しく原子力発電に踏み出す国がないという想定で)という、新しい"アルターナティブ(もう一つの)"なシナリオにおいてさえ、2003年の核 エネルギーが世界の一次エネルギー市場で占める割合は5%にすぎない。さらに、その"オルターナティブ"なシナリオによる二酸化炭素排出削減はわずか10%に すぎない。二酸化炭素排出削減の大半はエネルギー効率法案からくるのである。
「核の復活」の兆しはまだまだ見えない。 |