平成11年(ワ)第15638号 損害賠償請求事件
原告高賓珠ほか(合計9名) / 被告 国
判決期日 平成!4年10月15日 午後!時15分
判 決 要 旨
第1 主文
1 原告らの公式謝罪請求に係る訴えを却下する。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 事案の概要
本件は,台湾に住む9名の女性が,第二次世界大戦中,旧日本軍によって,台湾内又はその他の地域に
「(従軍)慰安婦」として連行され,監禁された状況で組織的,継続的に性行為を強要されたことなどによって,
多大な精神的損害等を被ったとして,被告に対し,損害賠償及び公式の謝罪を求めた事案である。
第3 請求
1 被告は,原告らに対し,各1000万円及びこれに対する平成11年8月10日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
2 被告は,原告らに,対し,公式に謝罪せよ。
第4 争点の概要
1 国際法に基づく損害賠償請求権等の存否
2 民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権等の存否
3 国家賠償法に基づく損害賠償請求権等の存否
第5 当裁判所の判断
1 国際法に基づく損害賠償請求権等の存否について
国際法は,国家間の権利義務を規律する法であるから,国際法違反行為に対しては,被害者の属する
国家が外交保護権を行使して加害国に対して損害賠償等を求める方法によって,間接的に被害の救
済を図ることが予定されている。
したがって,被害者個人が,国際法に基づき,加害国に対して被害回復措置を求めることができるの
は,そのことを規定した条約又は国際慣習法が存在する場合に限られる。
原告らの主張する国際法(奴隷禁止条約,強制労働条約,婦女売買禁止条約,通常戦争犯罪及び
「人道に対する罪」)は,違反行為があった場合に,被害者個人に,加害国に対し,直接に損害賠償等を
請求する権利を付与しているものではない。
国家責任解除義務,ユス・コーゲンス違反に基づく請求についても,これらの効果として,被害者個人に
,加害国に対して,直接に損害賠償等を請求する権利が付与されるものではない。
したがって,原告らの国際法に基づく請求は理由がない。
2 民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権等の存否について
原告らの主張する不法行為は,国家賠償法施行以前の公権力の行使による損害であるが,これにつ
いては,当時,国の賠償責任を認める法律が存在しなかったことから,国の不法行為責任を追及すること
はできないと解される(いわゆる「国家無答責の法理」)。
また,仮に,被告の不法行為責任が成立するとしても,原告らの請求権は,民法724条後段の規定(20年
間の除斥期間の経過)により消滅している。
したがって,原告らの民法上の不法行為に基づく請求は理由がない。
3 国家賠償法に基づく損害賠償請求権等の存否について
国会議員の立法行為(立法不作為を含む)は,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにも
かかわらず国会があえて当該立法を行うというような例外的な場合でないかぎり,国家賠償法1条1項の
規定の適用上,違法の評価を受けるものではないが,「従軍慰安婦」の被害者に対する被害救済立法を
なすべき義務は,憲法の条項及びその解釈上,一義的に明らかなものとはいえない。
また,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して
負担する職務上の法的義務に違背して損害を加えたときに賠償責任を負担させるものであるが,原告ら
が主張する国際法上の国家責任としての責任者処罰義務は,加害国の被害者の属する国家に対する国
際法上の義務であって,被害者個人に対して負担する義務ではないから,国家賠償法1条1項にいう違法
には当たらない。
したがって,原告らの国家賠償法に基づく請求は理由がない。
4 結 論
原告らの請求のうち,公式謝罪請求については,請求の趣旨としての特定を欠くため不適法であるから
これを却下し,損害賠償請求については,日本国内法及び現行の国際法の下では,理由がないからこれを
棄却する。