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                  「国民基金」を拒否する 

              −−必要なのは尊厳であって、ほどこしではない−−

                                
                           頼采兒(台北市婦女救援社会福利事業基金会 「慰安婦」問題担当)


「女性のためのアジア平和国民基金」(国民基金)は1995年に成立して以来、さまざまな手段で被害者に「慰撫金」を受けとらせるべく説得してきました。「国民基金」から派遣された人々は、被害者の国、被害者当人たちとその支援団体と接触し、説得活動を展開しました。1996年には「国民基金」の代表が台湾にやってき
て、台北市婦女救援社会福利事業基金会(Taipei Women's Rescue Foundation) (以下、婦援会)を訪れ、慰撫金の給付への協力を要請しましたが、婦援会は、「国民基金」は日本政府がその法的責任を『私的な取引』にしようとしているとして受けいれず、罪と責任を逃れるために「国民基金」をつくった日本政府を糾弾しました。

                 うわべはていねいな広告で攻略し、
               被害者に対しては決して気持ちを寄せない

「国民基金」は、1997年5月、1998年2月、1999年3月、2002年2月に台湾の新聞に広告を出しました。その内容は、前職、現職の日本の首相と、カンパをしてくれた日本の市民の誠意のあふれた言葉とともに、被害者たちが「慰撫金」を受けとっても、日本政府に賠償を要求する権利は損なわれないと公言しています。その意図するところは、日本政府が道義的責任だけを表明し、罪に対する国家責任を直視しようとしない態度が明々白々です。

日本政府は、1993年に韓国政府に送った報告の中で、アジアの女性を強制的に徴用して軍慰安婦にしたことを認め、数度にわたり謝罪をしていますが、一貫して問題を解決する具体的な行動にはいたりません。1996年2月、日本政府は国連人権委員会の建議を受け入れないとの声明を出しました。同年4月、わが国の国会議員148名が連署し、日本の首相に国連報告の建議を受け入れるよう要求しましたが、日本政府はなんの反応も示さず、責任逃避の意図は明らかでした。1996年12月、わが国の国会議員は再度日本の衆参両議院に書簡を送り、慰安婦問題解決の法律を制定するよう、強く日本に要求しました。

多くの歳月をかけて成果の得られなかった「国民基金」は、被害者とその社会に、デマをまき散らし、その目的を達成しようとしました。たとえば、台湾では、すでに十人の被害者が「国民基金」の金を受けとっている、婦援会は台湾の被害者の孤独と貧困をかえりみず、被害者が金を受け取るのを阻止している、TWRFは被害者に圧力をかけて、慰問金を受けとらせない、等々です。彼らはさらに、ある台湾の弁護士事務所に慰撫金の受取手続きを手伝わせています。台湾社会では、まだこの問題の根本が理解できず、なぜ「国民基金」を拒否するのかわからず、「国民基金」の広告の影響を受けて、被害者たちが「国民基金」の補償を受けることをむやみに咎めるわけにはいかないと思っている一部のひとたちもいます。


                   慰安婦50年の悲しい広告


さらに多くの誤解を避ける為に、婦援会は短編テレビ番組を制作しました。これは現台北市長・馬英九、王清峰弁護士と、ほかに1人の国会議員が出演し、当時の日本軍が台湾の少女をどのように騙して連れていき、軍隊の性奴隷として悲惨な目に合わせたか、50年以上たった今になって、日本政府は「国民基金」をかりて、責任を逃れようとしていることを説明しました。この番組で多くの台湾人がこの問題を認識し、史実を理解しました。同時に婦援会は新聞に『慰安婦50年の悲しみ』という広告を出しました。ここでは被害者たちが「恥ずかしくて話すこともできず、結婚もできず、子供も産めず、忘れられなくて眠れない」と、生涯で受けた最大の苦痛を語っています。二度と踏みにじられたくはないのです。被害者たちは声をそろえていいます−−わたしたちは乞食ではない、日本政府は民間の金でわたしたちを騙そうとしている、これは無責任な行為だ、あの時は区役所に徴用されたから、行かないわけにはいかなかった、だから日本政府が責任をとってこそ、わたしたちは名誉と尊厳を取り戻すことができるのだ、と。


                   婦援会と阿媽(おばあちゃん)の奮闘


婦援会が堅持しているのは日本政府が日本軍の非人道的侵害を受けたアジアの無辜の女性たちに、法的および人道的責任を負うべきで、日本の民間基金で日本政府の罪を覆い隠してはならないということです。当時、20万近いアジアの女性を軍隊の性奴隷としたこと、これは人権侵害の戦争犯罪行為であり、国際人権法にも違反すると
いう事実を、日本政府は正視すべきです。わたしたちは、正義が通らないことを容赦できませんし、また歴史が同じことを繰り返すことも願いません! 婦援会は1999年7月に、日本政府を被告として提訴しました。3年来13回の口頭弁論を経て、まだ判決はくだっていません。

台湾の阿媽はきっぱりといいます−−必要なのは尊厳であって、ほどこしではない、「国民基金」はお断りだ、と! 婦援会は阿媽たちの立場を支持します。とはいえ阿媽たちの貧しい生活を見るに忍ばず、各界に阿媽たちへの支援を呼びかけています。台湾人は、台湾の阿媽たちが「国民基金」を拒否した精神に深く感動し、婦援会が1997年7月におこなった募金会では、こころよく寄付をしてくれました。わたしたちはこの寄付金を「国民基金」の代わりに被害者に平均して分けました。また台湾政府に働きかけて、阿媽一人ひとりに50万元(日本円200万円)を支給させ、さらに毎月1万5000元の生活補助費用ならびに医療補助と心身のケアーの提供を受けることになりました。婦援会は、たゆみなくこの責任を果たしてきました。

日本政府に謝罪と賠償を促すべく、婦援会は、アジアの国々の被害者とその支援団体と協力し、共同行動をとり、この国際的に瞠目されている未解決な問題が一刻も早く解決するよう、日本政府に圧力をかけてきました。年老いた被害者たちの無念をはらし、怨恨と悔しさをぬぐい去ってあげたいのです。台湾政府とTWRFは、永遠に阿媽
たちといっしょに、日本政府の正式謝罪と賠償を要求する努力をつづけます。決して放棄することなく、決して妥協せず、「国民基金」の今後の展開と行動を注視しつづけます。
(2002年4月5日 4・5緊急集会「実現しよう!! 謝罪と賠償」での発言)