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また教科書に墨を塗らせたいのか
全教科で「愛国心教育」を強要する新学習指導要領改訂案
3月16日までに文科省に削除要求を!

(2008.2.24) 英語教員(和歌山)

 小中学校の学習指導要領改訂案が2月15日、文部科学省より発表された。授業時間数の増加による「ゆとり教育」からの転換などがマスコミを賑わしているが、きわめて危険な方針が盛り込まれていることを指摘したい。全教科での「愛国心教育」の強要である。
 小中とも道徳の時間のみならず、国語、社会、数学(算数)、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭、外国語、総合的な学習の時間、特別活動といった学校の教育活動全体で「日本人としての自覚をもって国を愛し、国家の発展に努める」ことや「奉仕の精神をもって、公共の福祉と社会の発展に努める」ことを教えさせようとしているのである。
 各教科の規定の末尾にある「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」には次のように書かれている(外国語科を例にとるが、科目名以外はまったく同じ規定である)。
「第1章総則の第1の2及び第3章道徳の第1に示す道徳教育の目標に基づき,道徳の時間などとの関連を考慮しながら,第3章道徳の第2に示す内容について,外国語科の特質に応じて適切な指導をすること。」
 官僚的でわかりにくい表現だが、「第3章道徳の第2に示す内容」とは国家が定めた24項目の徳目である。その中に前述のような滅私奉公や愛国心教育が盛り込まれているのである。

 愛国心教育は何を招いたか
 「道徳」の内容は国家や教科書が一律に定めるべきではなく、過去には「愛国心」の名の下に国家と国民を誤らせた。外国語科では教科書を通じて以下のような道徳を説いていた(1944年刊行の準国定教科書『英語2』から)。

(中学用)My parents always say that all Japanese boys are to become brave and strong soldiers in future. So I will try to do my best to train myself through military training.(両親はいつも、日本男児は将来みな勇敢で強い兵士になれと言います。それで、僕は軍事教練を通じて精一杯、自分を鍛錬したいと思います。)

(中学用)Our principal told us that we should think of our soldiers and sailors at the front and do our best.(校長先生は僕らに、戦場にいる陸海軍兵士のことを思い、全力を尽くすよう訓示されました。)

(高等女学校用) Our country, Nippon, is in Asia, and is the strongest in the world.(中略)Our language will be used more and more in the Greater East Asia.(わが国日本はアジアにあり、世界で最も強い国であります。日本語は大東亜共栄圏でますます使われていくでしょう。)

 敗戦とともに、これらの教材は「墨ぬり」され、教えることを禁じられた。わずか2年間で「道徳」の基準が180度転換したのである。国家は無謬ではありえず、普遍妥当な道徳的正義などない。したがって、国家が定めた愛国心のような道徳内容を各教科に入れることは、戦前のように学校教育を通じて国民を「教化」(洗脳)させかねない危険な誤りである。しかも、他の部分で定めている「多様なものの見方や考え方を理解し,公正な判断力を養い豊かな心情を育てる」と矛盾する。もとより、各教科の教員は道徳教育の専門家ではない。

 新教育基本法すら逸脱
 新教育基本法に愛国心条項があるのだから仕方がない、という考えは誤りである。今回の指導要領改訂案は、強行採決された新教育基本法すら大幅に逸脱している。教基法では「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」とある。つまり、公明党の同意を得るために「(伝統と文化をはぐくんできた)我が国と郷土」との表現を用いることで、「国」に統治機構の意味を含まないことを明確にした。後半でも「他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」との文言で、国粋主義に歯止めをかけている。
 しかし、指導要領改訂案はこうした歯止めをすべて取り払い、「日本人としての自覚をもって国を愛し,国家の発展に努めるとともに,優れた伝統の継承と新しい文化の創造に貢献する。」と書かれているのである。滅私奉公と愛国精神の国家イデオロギーを総がかりで子どもに注入し、どこに導こうというのか。教科書を「教化」書に変え、次には何を狙うのか。
 安倍内閣の下で、新教育基本法とともに憲法改変の国民投票法が強行採決された。戦争のできる国家体制にするためには、憲法9条の歯止めを取り去るだけでなく、戦地に行く人間を作らなければならない。そのためには2つの条件がいる。格差拡大による生活困窮者の創出と、滅私奉公と愛国精神を注入された無批判な国民の育成である。前者の格差はすでに進行している。今回の指導要領改訂案は、後者の洗脳教育のためである。原案の段階で道徳の規定そのものと、各教科の「指導計画の作成と内容の取扱い」の道徳内容の指導を定めた部分を削除させなければならない。
 事態は急を要する。周囲に呼びかけ、3月16日の締切までに文科省に改訂意見(パブリック・コメント)を送ろう。


文部科学省への意見(パブリック・コメント)の送り方

 指導要領改訂案の本文その他関係資料は、
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/080216.htm
 改訂案への意見(パブリック・コメント)募集は、http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/02/08021505.htm
・意見募集期間は2008(平成20)年3月16日(日曜日)必着。
・意見提出方法は、電子メール(kyokyo@mext.go.jp)、FAX(03-6734-3734)、郵送は〒100-8959 東京都千代田区霞が関3-2-2 文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室宛。
・「意見公募要領」を熟読のこと。たとえばメールのタイトルは:「学校教育法施行規則の一部を改正する省令案について」、「幼稚園教育要領案について」、「小学校学習指導要領案について」、「中学校学習指導要領案ついて」のいずれかを明記。1メール1意見、1枚1意見の原則で、複数の論点について意見を送る場合には、論点ごとに別に送る。