小泉の軍国主義化・反動化の中で、敗戦60年と正面から向き合う 「アジアを共に生きるための戦後60年集会」が600人を越える市民が参加して大阪・中之島公会堂で開催された。この集会は、各国から戦争・植民地支配の被害者を迎え全国各地で開かれた一連の「アジア・太平洋地域の戦争犠牲者に思いを馳せ、心に刻む集会」の最後の集会であった。 大阪の集会は敗戦60周年という節目にあたるだけでなく、小泉首相と自民党の靖国、教科書、イラク派兵などの攻撃と闘い、被害者裁判などさまざまな課題に取り組む市民運動の力を結集し13団体が実行委員会を結成して開催された。 今年の8月15日が敗戦60周年にあたりながら、小泉と自民党がアジア諸国に対して開き直って靖国参拝=戦争無反省の傲慢を押しつけようとし、日本の主なメディアが日本の加害や加害責任を取り上げず、小泉の靖国参拝で憤激を強めるアジア諸国に対する侵略と植民地支配の被害の問題をほとんど取り上げないという許し難い態度をとった中で、過去の日本の責任と現在の靖国・教科書問題、イラク派兵の責任を正面から取り上げる画期的な集会であった。 集会は例年とは異なり、午前中は全体集会で各国代表からの問題提起、午後からはテーマ毎に6つの分科会に分かれて報告委や討論が行われた。 1.「今と未来のための戦後責任」 2.「靖国・教科書・歴史認識を考える」 3.「イラク人ジャーナリストが語る占領の実態と人々の生活」 4.「大阪空襲と重慶を結ぶ」 5.「若者たちの『しゃべり場』」 6.「コンサート・アジアは友達」 被害問題にこだわることを通じて加害問題に取り組む 午前中の全体会では実行委員長の佐治孝典さんが「非戦平和、基本的人権、主権在民など5つの原則を小泉首相はこの4年間で、平和・外交の良い面を抹殺してきた。今日の日本の民衆はなめられている。あらゆる機会にNO!とはっきり言うべきだ」と力強く挨拶した。 問題提起の最初にたった内海愛子さんは「アジアに共に生きるために具体的に話したい」と切り出し、フィリピン戦の生存者で米軍に投降した小島さんの例を挙げ「捕虜になれば靖国に行けない、『靖国であおう』は死を強要するものだと話した。またBC級戦犯になった松浦さんの例をあげ、彼は大東亜共栄圏とは何かを見せつけられつくづくいやになった。1948年に占領下で釈放されたが、再軍備との引き替えの釈放を拒否したと話した。フィリピン、連合国の捕虜は30%が死んだ(ナチスでさえ4%)、台湾人、朝鮮人軍人・軍属も切り捨てた、南方でも240万人の遺骨のうち半分は放置されている。これらは靖国で口を封じられたのではないか。アジアと共に生きるには自分の肉親の悲劇にこだわり、被害者意識にもっともっとこだわること。そこから加害が見えてくる。それらを「知るには100年を要する」(鶴見俊介)、その作業を新しい日本を作り直す一歩にしなければならないと提起した。 重慶大爆撃の被害者が日本で証言するのは初めて。大阪大空襲の被害者と交流 中国からは重慶無差別爆撃の研究者である牟之先さんが話した。1938〜43年の日本軍の重慶大爆撃で2万3600人の市民が犠牲になった。日本軍が無差別爆撃によって中国国民政府と中国人民の抗日運動の志気を挫こうとしたこと、恐怖爆撃、市民に対する無差別爆撃の始まりであると述べた。牟さんは5月の二日間で4531人が爆死した、映画館の爆撃で202人が殺されたと、いかに徹底的で無差別の破壊が行われ広範な市民が犠牲になったのかを具体的に証言した。 彼はサッカーのアジアカップでの日本人観客に対する行為に歴史的根拠があることを理解して欲しい、日本の右傾化問題、教科書問題は傷口に塩を塗り込むようなやり方なのだと話した。なお、重慶大爆撃の被害について日本国内に直接具体的な形で報告されたのは今回が初めてのことである。 この日は午後から重慶爆撃の被害者と大阪大空襲の被害者の交流も行われた。大阪大空襲の被害者は日本の一般市民、重慶爆撃の被害者も中国の一般市民、共に苦しんだのは民衆であった。天皇制日本軍国主義による侵略戦争の犠牲者であった。この2つの被害者が互いに戦争の悲惨さ、残忍さを告発し、もう二度と繰り返してはならないとする思いを語り合うことは、特別に意義のあることであった。 韓国の民衆がなぜ「つくる会」教科書を批判するのか。つくる会教科書−靖国参拝−有事法制=“朝鮮半島有事”はつながっている 韓国からは「アジアの平和と歴史教育連帯(旧日本の教科書をただす運動本部)」初代事務局長の張信さんがこられた。植民地解放60周年、教科書問題について訴えた。特に、なぜ韓国の民衆が、日本の教科書検定に関心を寄せ、批判するのか。彼はこの理由について丁寧に答えた。キーワードは「ブッシュ」と「小泉」と「有事法制」である。 彼は「我々が教科書に“介入”して何を得たいのかはっきり見てほしい。」として、大要次のような説明をした。「10年前なら“朝鮮半島有事”と言えば、北から南への侵攻だった。」「ところが今は全く違う。“朝鮮半島有事”と言えば、ブッシュによる北への攻撃なのだ。」「しかもイラクへの攻撃を見るならば、ブッシュの対応は非常に危険だ。韓国民衆の危機感は非常に強い。」「アフガン侵攻、イラク侵攻は他人事ではなかった。」「ところが日本は、ブッシュに加担し、あっという間に有事法制まで成立させた。」「有事法制の“有事”とはまさに“朝鮮半島有事”のこと。」「小泉政府は、ブッシュと結託して朝鮮半島で戦争を起こすために有事法制を強行したとしか考えられない。」「そしてその小泉政府は、かつての侵略戦争と植民地支配を美化し正当化するために、靖国参拝を強行し、つくる会教科書を合格させた。」「日本の軍人が再び朝鮮半島に出兵することは絶対に許せない。」 彼はつくる会教科書について続けて言う。「新しい独立国がなぜ独立したのか書かれていない。植民地の収奪は、家族の中で伝えられてきた。供出、物資の統制、徴兵や徴用は苦難だった。(つくる会教科書は)この傷に塩を塗りつける行為だ。」「つくる会教科書は戦争できる国を志向している。戦争に盲目的に亡くなった人に忠誠心を強要している」。つくる会の教科書の採択率が、もし20〜40%になれば共存関係ではいかなくなる。韓日民衆の連帯した力でつくる会教科書を不採択にさせよう、と力強く訴えた。 イラクのジャーナリストが「ファルージャの大虐殺」を映像を交えて告発 イラクからは、バグダット在住イラク人ジャーナリストのイサム・ラシード・アブドゥル・ラハマンさんがイラクの現状について報告した。午前の一般講演では、イラク問題を自分の問題として考えて欲しい。今、この瞬間にも人々が殺され、拘束されている。私の住んでるアーザメイアでも親戚6人が数日前に米軍に拘束された。子どもの熱冷ましの水もなく、医者に連れて行くこともできないのだ。罪のない子供たちが劣化ウラン弾で殺されている、と訴えた。そして米軍によるイラク侵略と占領による市民の被害の映像で訴えた。 午後に開かれた「イラク人ジャーナリストが語る占領の実態と人々の生活」分科会では、イサム・ラシードさんが自分の撮影した映像「ファルージャからの証言 」を上映しながらファルージャの大虐殺について詳しく報告した。会場の参加者は、ファルージャ侵攻が市民に対する戦争そのものであり、米兵が歓声を上げながらマシンガンでイラク市民を撃っていること、その下でイラクの女性や子ども、一般市民が逃げまどい、攻撃で負傷してもどこにも逃げるところがない深刻な現状に衝撃を受けた。 多くの市民、幼児を連れた親、子どもが自宅で、路上で殺され、死体を犬が食っている様がスクリーンに映された。また、ラシードさんがインタビューした避難民の証言から、米兵がイラク市民を戦車で踏みつけ殺したこと、避難するとき連れてこられなかった赤ん坊が爆撃で家ごとつぶされたこと、畑に投下されたクラスター爆弾の不発弾で耕作できなくしていることが語られた。 またラシードさんは、ガソリンスタンドに6〜13時間も給油で待たされている現状、停電や断水が全く改善されないことなど市民生活がめちゃくちゃになっていること、1日平均6〜10人の劣化ウラン弾で被害を受けた子供たちが病院に通院していることなどを報告した。 質疑応答の中では、米兵について、彼がインタビューした米兵が「イラク解放だと思って来たが、イラクに入ると上官から手を挙げない者、白旗あげない者は殺してもよいと命令された」、「母親にイラクに来て人を殺しているだけだ、子供も助けていない、米に帰りたい」と話していた事などを紹介した。 また、「米軍が居なくなると内戦になるのではないかと言われるが」との質問に、イラクではスンニ派とシーア派の対立はもともと少なかった。宗教対立ばかり煽っているいるのは米であること。外出禁止令の下でスンニ派を暗殺しシーア派の地域に放置してシーア派の仕業に見せかけたり、逆をしたりする武装グループが暗躍している。米軍が彼らの行動を黙認しているとしか思えない。 また「現在進行中の憲法作成について」聞かれ、「イラクは世界最古のハムラビ法典を作った国です、米に憲法を作ってもらわなくてもよい」と批判し、占領軍が撤退したあとでイラク人は自分の憲法を作っていくと話した。 「自衛隊について」聞かれて、自衛隊員は米軍に加担する軍服を脱いでイラクに来て欲しい、それならば歓迎する、軍隊はいらないと答えた。 またラシードさんはハナさんら「イラクの女性意志委員会」の全占領軍撤退の運動の様子を紹介した。占領下のイラクで著名人、文化人を含む2000名の署名(自衛隊を含む全占領軍の撤退)を集め日本に持ってきたことが報告された。映像の中でハナさんが「イラクは国民の時代になった。自分たちのことは国民が決める」と言っていたのが印象的だった。 分科会の最後に、「自衛隊を含む占領軍の撤退署名」連絡会から、イラクでのハナさんたちの署名活動と連帯して日本国内でも12600名の署名を集めて国会に提出したこと、ハナさんたちの署名は次の国会に提出し自衛隊の撤退を更に働きかけたいとの表明があった。会場ではファルージャ市民の救援活動を続けるハナさんたちへのカンパが集められラシードさんに託された。 ※なお、ラシードさんが持ってこられた「ファルージャからの証言」という映像をご覧になりたい方は署名事務局までご連絡ください。CD−R版[パソコンでしか見られません]で33分、2000円 (署名事務局 e-mail: stopuswar@jca.apc.org) 2005年8月15日(月) 10:00〜18:30 中之島中央公会堂 地下鉄御堂筋線「淀屋橋」下車1番出口から徒歩約5分 京阪電鉄「淀屋橋」下車徒歩約5分
■ 資料代:1,500円 (前売1,000円、学生・高校生半額)
1. 午前の部:各国からの提案 10:00-12:30 ●内海愛子さん 「日本とアジアは戦後60年をどう迎えるか」 1941年生まれ。日本人としてアジアの戦争被害者問題にもっとも早くから調査を手がけてきた研究上の第一人者。日本を含むアジア各地域の複雑、多様な戦争被害について広く研究してきた。現在、アジア太平洋資料センター理事。 ●王康(ワンカン)さん 「重慶の「反日」と日本による爆撃の記憶」 1949年重慶生まれ。1995年に「重慶大爆撃」の研究を開始。展示、映像、会議などを通して国際的な無差別爆撃に反対する活動を提唱している人文学者。重慶陪都文化研究センター主任、重慶爆撃訴訟原告団顧問。 ●張信(チャンシン)さん 「韓国社会は「つくる会」教科書をどう見ているか」 1968年馬山生まれ。「アジアの平和と歴史教科書連帯」(旧・日本の教科書を正す運動本部)の初代事務局長。現在は延世大学で博士論文を執筆するかたわら、同会の政策局長として活躍中。ソウル在住。 ●イサム・ラシード・アブドゥル・ラハマンさん 「軍事占領下のイラクはどこへ向かうか」 1973年生まれ。カメラマンとして2004年4月のファルージャ攻撃の様子や、その後の難民の状況を取材。米軍に逮捕されて刑務所に収監された体験ももつ。自衛隊を含む占領軍の撤退を求め活動している。バグダッド在住。 2. 沈黙の時 12:10-12:30 ●詩の朗読と音楽 ●不戦の誓い 3. 午後の部:分科会 13:00-16:45 ●若者たちの「しゃべり場」 なんでも言おう!なんでも聞こう!10代、20代ようこそ! 歴史認識といわれもピンとはきませんか? 私達が生まれる前に何があったのでしょうか? 何を教えられてきたのでしょうか? 戦後60年という意味は何でしょう? 日本人も、在日も、韓国・中国の留学生たちもこの場で出会い、率直に話をしましょう。 言いたい、知りたい、聞きたい人はぜひ!今ここで話しましょう! ●今と未来のための戦後責任 昨年韓国国会で成立した日帝強占下強制動員被害真相究明法に基づいて、今年2月から日本の植民地支配下の「従軍慰安婦」・強制連行被害者等の被害申告の受付が開始されました。この「真相究明」の意義と、それに応えて日本の私たちが果たすべき「今と未来のための戦後責任」とは何か? 韓国と日本の中心メンバーを招き、ともに考えます。 ●靖国・教科書・歴史認識を考える パネルディスカッション「靖国と歴史認識〜アジアをともに生きるために」を中心に、韓国と中国からのゲスト、そして日本で運動をやっている人たちが討論します。ビジュアルな情勢報告と素人コメントを織り込んで小泉首相に文句も言います。日韓共同映像プロジェクト「あんにょん・サヨナラ」(キム・ティル監督)の上映会を冒頭に予定しています。 ●イラク人ジャーナリストが語る占領の実態と人びとの生活 本企画では、バグダッド在住の若手ジャーナリストを招き、彼が取材し、また体験した被占領下イラクの現在を、映像を交えながら語っていただきます。イラク人自身の声を通して、自衛隊派遣をしている日本を含めた世界のあり方を見つめ直し、占領と戦争を終わらせるために私たちに何ができるのか、ともに考えたいと思います。 ●大阪大空襲と重慶をむすぶ 約15,000人の死者を出した大阪大空襲については今年大きく取り上げられています。しかし、その出発となった重慶大空襲について私たちはほとんど知りません。そしてその深い関係も。大阪大空襲の研究者・小山仁示関西大学名誉教授と被災者の方の証言、重慶空襲の研究者・潘洵西南師範大学教授と被災者の方の証言などで日中のシンポジウムを行います。 ●コンサート アジアは友達 お互いの音楽で心をひとつにしましょう!(14:00〜16:45) 明日の私たちの歩み方をアジアの人々と一緒に見つけ出す一歩となるように、誰でも気軽に参加できる企画を考えました。みんなで楽しみましょう。 第1部・アジアの歌声 花は土に咲くキャラバン隊他、各国の歌声を! 第2部・海勢頭豊さん、沖縄の心を歌う! 4. 分科会報告と交流会 17:00-18:30
アジアを共に生きるために
2005年6月25日
今年は戦後60年の節目の年にあたります。戦争の被害を受けて、日本を含むアジア各地に生存している被害者が、活動の余力を残して迎える最後の10年目です。テレビや新聞で、この夏に向けてさまざまな企画が進んでいることはご存じのことでしょう。今年を、改めて戦争を考えなおすよい機会にしたいと思います。 また今年は、中国にとっては「抗日戦争勝利60年」にあたります。韓国・「北朝鮮」にとっては「解放60周年」であり、そこへ日本による朝鮮植民地支配の出発となった日韓協約(第2次、乙巳条約)100年、日韓条約締結40年が重なります。アジアの人々にとってもこの年は、日本との関係をいっそう深め、友好関係を温めたいという期待の年です。 しかし残念ながら、今年に入って、靖国神社、教科書問題、竹島(独身)領有権などをめぐって、深刻な対立が日本と韓国・中国の間に生じています。昨年からの「韓流」ブームも、2008年北京オリンピックに向けて期待されている盛り上がりも、一気に壊しかねないような危険なムードが、一部に起こっています。 でも、確認したいことは、日本人は、韓国や中国の人々と仲良くできて初めて幸せでいられること、互いの生活や文化、経済活動を交流させて、真の意味で豊かになることができるということです。そして、それはまた、韓国や中国の人々にとっても同じことです。互いのこの関係をしっかり確認できれば、ともに隣人として誠実に向かい合い、間違ったことは正し、謝り、一緒に心を通わせてこのアジアを共に生きるために、もっと努力しなければならないことに気づきます。それは、日本が今、白衛隊を派遣しているイラクの人々との間でもなすべき課題です。 この「戦後60年8月」を機に、これまで歴史認識や戦後補償問題にかかわってきた多くの近畿にある平和・市民団体が協力し、アジアで共に生きるための戦後60年集会を開催することになりました。若い人からお年寄りまで参加できる楽しくわかりやすい企画を皆で考えました。 アジアで互いが笑顔を交わしてつき合える関係を、この集会での出会いと体験を通して創りあげましょう。多数の参加をお待ちしています。 |