紹介 石川真生『沖縄ソウル』 太田出版2000円+税 |
沖縄の写真家、石川真生さんが、自叙伝を出しました。
49歳で、二度目のがん手術を受けて人工肛門を付けることになってしまった彼女。5年以内の生存率は6割という診断を受けましたが、抗がん剤治療を断って、今も取材に駆け回り、新たな恋を求めています。「やる気と生きざまは二〇歳の若者にも負けない自信がある」と豪語する彼女の、人生に対するオプティミスムに接すると、自分自身の中からもそういうものが湧き出てくるような気がしてきます。
一九五三年に生まれた彼女は、「アメリカ統治下の宙ぶらりんな沖縄で、高校までの多感な時代を過ごし」ました。復帰運動のシンボルであった日の丸を奨励した教師が、いつの間にか、その理由を告げないまま、日の丸を否定しました。そこで感じた疑問は、のちに、日の丸での自己表現をする人々を撮り続ける執念にも似た原動力へとつながります。
復帰前夜の激動の時代、米軍基地存続を認める沖縄返還協定に反対するデモや集会が連日のようにありました。そんな中、デモ隊の一部が火炎瓶を投げ、機動隊員が死んでしまいます。その様子を目の当たりにした彼女は、運動家にはなれない、しかし、この「燃える島、沖縄」を何かで表現したい、という思いを募らせました。その表現手段を彼女は見つけました。それが写真でした。
以後、彼女は、様々な沖縄を撮り続けました。キャンプハンセンの黒人兵と女たち、陽気でしたたかなフィリピーナ、無邪気で無骨な沖仲士、沖縄庶民の理屈抜きの単純明快な笑いを演じる沖縄芝居の役者、反自衛隊の立場を鮮明にしながら取材する彼女にちらりと素顔を見せる自衛隊員たち・・・ すべてに、先入観を持たずに彼女自身が自分の目と耳で確かめた対象が、人間に対する限りない愛情を持って写し出されています。
表現者としての自分を確立する過程での「写真の怖さ」も赤裸々に述べています。彼女は、写真で人を傷つけるという行為をしてしまった事の重大さに打ちのめされます。そうした体験をも包み隠さず述べる彼女の勇気もまた、この著書の魅力になっていると思います。
「告知された直後は怖くて怖くてしかたなかったけれど」、今は「いつ死んでもいいように最低限これとこれだけはやろう。こういうことで気を遣うのはもうやめよう」と決め、自分自身をさらけ出しながら、今日も彼女は写真を撮り続けています。
2002年8月4日
木村奈保子