映画『靖国』の上映を、世論の力で支えよう!
自民党国粋派議員による、表現の自由への攻撃を許すな!
是非映画を観て、議論を巻き起こそう!

 映画『靖国 YASUKUNI』の上映を、世論の力で支え、実現させなければならない。一時は一部をのぞいて全国の映画館が上映を取りやめるという事態にまで発展したが、言論・出版界などが危機感を表明し、マスコミも自粛の動きを批判的に取り上げたことなどから、上映運動が急速に広まっている。配給元のナインエンタテインメントと配給協力のアルゴ・ピクチャーズは4月4日、「東京の1館をはじめ北海道から沖縄まで20館で、順次公開されることが決定した」と発表した。だが、4月14日には、5月からの全国順次公開に向けて各劇場と調整中であるとし、妨害を考慮して劇場名なども明かしていない。異常事態である。日本の民主主義が問われている。11日には、靖国神社自身が「事実を誤認させるような映像」があるなどと一部映像の削除を求めた。まだまだ予断を許さない。上映を実現させるために、市民が声を上げていかなければならない。そして、皆がこの映画を観、議論を巻き起こさなければならない。
※3月中旬時点で、東京4個所、大阪1か所での上映が決まっていたが、3月18日に東京・新宿の「バルト9」が4月12日からの上映中止を発表した。その後、東京の4映画館と大阪の1映画館(シネマート心斎橋)が相次いで上映中止を発表した。いずれも、「客の安全性を考慮した結果」であると説明している。さらに、この映画の核心部分として登場する刀匠が、3月までは監督を激励していたにもかかわらず、自民党議員の電話の後で翻意し自らの場面のカットを申し入れるという事態にまで発展した。
 この映画は、在日中国人である李纓(リ・イン)監督による異色のドキュメンタリーであり、今年の香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞している。とりわけ敗戦記念日の靖国神社の情景をナレーションなしで淡々と映したものが、それ自身靖国神社が異様な空間であることを浮きだたせるという。靖国神社は先の抗議で、どこが事実誤認かは語っていない。彼らが、この映画が反日的、批判的と感じたのだとしたら、それは事実のみが語る重みである。彼らは「靖国」そのものを聖域化し、批判的な言動を自粛するような雰囲気を作り上げることを狙っているのだ。

 ことの発端は、昨年暮れあたりから右翼系週刊誌がこの映画を反日映画であるとやり玉に上げ始めたことである。しかし、事態が大きく動いたのは、自民党の国粋派議員たちが、映画『靖国』に文化庁の外郭団体である「日本芸術文化振興会」から750万円の助成金が出ていることを問題視しだしてからである。この動きの中心にいたのが稲田朋美衆議院議員(自民党)である。稲田議員は、国粋派議員として有名をはせており、超党派の国粋議員の集まりである「日本会議国会議員懇談会」の事務局次長であり、自身も「伝統と創造の会」を組織して会長に納まっている。また小泉元首相の靖国神社参拝の違法性を問う裁判で、弁護士として被告側弁護人に名を連ねていた筋金入りの国粋派である。
 稲田議員らは、映画『靖国』に対する助成は不当として文化庁にねじ込み、「その不当性を吟味する」ことを目的に、国会議員を対象とする試写会を行うことを文化庁に要求した。「日本芸術文化振興会」は独自の基準、独自の判断で助成金の支出を決定しており、稲田議員からの申し出は、文化行政に対する露骨な政治介入以外の何物でもない。従って文化庁はこれをきっぱりと拒否すべきであった。しかるに文化庁は、稲田議員らの介入に動揺し、同映画の宣伝・配給会社である「アルゴピクチャーズ」に試写会の実施を持ちかけたほか、上映日・上映館などの情報を稲田議員たちに教えるなど、まったく誤った対応を行った。
 これに味をしめた稲田議員たちは、40名規模の国会議員だけを対象とした試写会を実現させ、@映画は政治性を持っている、A監督を始め製作に多くの中国人がかかわっており、日本映画とは言えない、などとして「日本芸術文化振興会」からの援助金は不当であるという主張を一層声高に叫び、文化庁に対する圧力を強めていった。この動きと連動して、ネット右翼のサイトには、映画『靖国』と文化庁を罵倒する声が続々と掲載され始めた。「またやったか文化庁! 反日目的の映画に奨励金授与」「そういう金があるなら、水島総の『南京の真実』にこそ使われるべき」「中身は見ていないので何ともいえませんが、中国人が中立の立場で映画が撮れるのでしょうか。ナンセンスです」「渡辺大臣、文化庁をさっさと潰してください」、等々。
 このような状況の中で、上映中止を決定する映画館が相次いだ。渋谷のQ―AXシネマの場合、「特定の団体からの具体的圧力はないが、お客様の安全を最大限考慮しなければならない」との釈明を行ったが、「会場周辺での右翼の抗議行動が確認されている」と幾つかのマスコミは伝えている。今回の上映中止が、稲田議員など国粋派議員が先導し、ネット右翼や従来右翼が合流して映画館に圧力を掛けた結果であることは疑う余地がない。去る2月には、日教組の全国教研集会が、やはり右翼の圧力に屈したプリンスホテル側の違法な契約破棄によって中止に追い込まれた。今日、わが国の言論・表現の自由が、重大な危機に晒されている。
 右翼の圧力に屈したり、迎合したりしているホテルや映画館は、もちろん非難されて然るべきである。しかし、何よりも批判・糾弾されるべきは、かかる風潮を造り出し煽り立てている自民党国粋派議員たちであり、それを傍観あるいは間接支援している政府と行政諸機関である。福田首相、町村幹事長、渡海文科相は、異口同音に「もし圧力によって中止されたとするならば、遺憾なことだ」とうそぶいている。しかし事前検閲や刀匠への介入まで行って派手に言論の自由を踏みにじり続ける自民党議員に対しては指一本触れようとはしない。
 反戦ビラをポストに投げ入れただけで不法侵入罪で逮捕する一方、右翼が拡声器でがなり立て通行を妨害しても知らぬ顔。これが日本の警察の実態であり、日本の民主主義の現実だ。だからこそ、「右翼に目を付けられるような催しには会場を貸さない」という風潮が定着することを、断じて阻止しなければならない。草の根民主主義の運動が、今こそもとめられている。右翼の上映妨害による言論の自由への攻撃に対しては、みんながこの映画を観ることで反撃しなければならない。そして、映画が描く靖国についての議論をまきおこそう。


2008年4月15日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局