6月11日の党首討論での首相答弁を批判する−−−−−−−−−
小泉首相に問う。イラク戦争支持の唯一の根拠=大量破壊兵器保有を断定した証拠を今すぐ示せ


■「大量破壊兵器」問題での言い逃れをゆるさない
 6月11日、与野党の党首討論が行われ、小泉首相のイラク戦争支持と「イラク人道復興支援特別措置法」(イラク特措法)の根拠である「大量破壊兵器」の保有の証拠について議論が闘わされた。首相の答弁は、詭弁やはぐらかし、ウソやすり替えに終始した。「世論は間違い」とまで言い切り、何の罪もない多数の子どもたちを含む数万人を殺しまくった無法な侵略戦争を強硬に支持した一国の首相として許し難い態度である。

 「フセイン大統領が見つかっていないから、大統領は存在しなかったといえるか」というような人をバカにしたようなふざけた答弁は、まともに取り上げることさえはばかられるほどである。
 しかし、それがイラク戦争支持の根拠とされ、さらに米のイラク占領支配へ自衛隊を侵略軍として派兵する法案の唯一の根拠であるとするならば話は違う。以下で詳しく検討する様な支離滅裂な根拠、ウソとごまかしでしか答弁できないところに彼らの最大の弱点がある。「大量破壊兵器」保有問題はすべての出発点である。この問題を徹底追及することによって、イラク特措法そのものを葬り去る世論を作り上げることが必要だ。

■苦し紛れの“こんにゃく問答”、ウソ・ごまかしで逃げ回る。許せぬ小泉首相の無責任な政治姿勢。
 首相が答弁で語った内容は以下の通りである。
@「フセイン大統領が見つかっていないから、大統領は存在しなかったといえるか」
A「国連の査察等に対して、イラクは疑いを払しょくするような行動をしてこなかった。完全に破棄しましたという証拠を見せなかった。あるいは査察団が来ても追い返した。」
B「そういうことから見れば、ほとんど多くの国が、(イラクが)大量破壊兵器を保有している、化学生物兵器を保有しているということに対しての多くの危険性を抱いていた。」
C「大量破壊兵器も、私はいずれ見つかると思います」
D「イラクは破棄したことを証明しろということを証明しなかった。・・・今までの疑惑があることを認めてその説明責任はイラクが果たさなければならない。」
 
 以下、彼の答弁に沿って批判することにしよう。
@「フセイン大統領が見つかっていないから、大統領は存在しなかったといえるか」
 見ての通りこれは“こんにゃく問答”である。強気のように見えるが実は苦し紛れの逃げ口上。TVを見ると激高しうろたえているのがよく分かった。しかし彼の無責任さがこの発言に端的に出ている。
 石油が欲しい、中東を支配したい、と国際法を乱暴に破ってまで一個の主権国家を壊滅させたのである。俺に逆らうな、気に食わぬという理由でフセイン大統領をはじめ主要閣僚の暗殺を狙ったのである。罪もない子どもたち、一般市民や兵士たちを数万人も殺したのである。今なお数十万、数百万の人々を人道的危機に陥れているのである。こんな大それた侵略戦争に加担しておいて、真摯な態度をとらず問題を茶化すとは何事か!ここに首相の無責任極まりない政治姿勢が見事に出ている。

 しかしこの首相の論理、実は、「フセイン大統領が政権の座に着いていたのと同じ確実さで、大量破壊兵器が存在していた」と言っているだけである。結局は同じ質問に戻る。改めて問う。小泉首相は、イラクの大量破壊兵器の存在を断定した。断定して米英の侵略を支持した。今すぐその断定した証拠を国民の前に明らかにせよ。

A「国連の査察等に対して、イラクは疑いを払しょくするような行動をしてこなかった。完全に破棄しましたという証拠を見せなかった。あるいは査察団が来ても追い返した。」
 これはウソ。国連の公式評価は首相の評価とは正反対、イラク側の査察協力姿勢を基本的には肯定的に評価した。しかも今回の査察で国連査察団を追い返した事が問題になった事実はない。よくもこんなウソを平気で言うものである。

 イラクは戦争を避けるために、驚くほど真剣に慎重に対応したのである。まずイラクは昨年9月に「無条件査察受け入れ」を表明し、11月13日には「強制査察」を要求する国連決議1441を受け入れ、大統領宮殿を含むすべての査察を受け入れた。その中には、国家の主権を侵すとんでもない措置が多々含まれていた。にもかかわらずイラクは協力したのである。
さらにイラクは12月末には、期限内に12,000ページに及ぶ申告書を提出して回答をした。これを「重大な違反」と認定したのは米英だけである。UNMOVICのブリックス事務局長やIAEAエルバラタイ事務局長は一貫してイラクの査察協力姿勢を評価し、武力攻撃を回避し査察を継続するよう主張していた。

B「そういうことから見れば、ほとんど多くの国が、(イラクが)大量破壊兵器を保有している、化学生物兵器を保有しているということに対しての多くの危険性を抱いていた。」
 これもウソである。大多数の安保理理事国、国連加盟国は、米英がわめくイラクの危険性や脅威が理解できないから査察の継続を主張していた。米英が「イラクには大量破壊兵器がある→だから武力行使するしかない」という武力行使容認の新決議をありとあらゆる手段を使って世界に強要したが採択できなかった。それが事実なのだ。首相たる者、平気でウソを付いてはならない。

 アメリカは最初、安保理決議1441で侵略に踏み出そうとした。ところが1441は“自動開戦”を認めていないと安保理各国から拒否された。次にアメリカはイラク攻撃のために武力行使容認の新しい国連決議を採択しようとした。しかしまず国連安保理常任理事国の中で割れた。米英だけが採択を求め、フランスとロシアは反対、中国は態度を留保した。米英は、姑息な手段を使って非常任理事国の「査察継続派」や「中間派」を切り崩そうとしたが失敗に終わった。日本がODA=札束をちらつかせてウルグアイ、カメルーンなど途上国の非常任理事国に対する恫喝外交を繰り広げた。しかしそれら全部が失敗した。「イラク脅威論」「イラク大量破壊兵器保有」に真実味がなかったため、どの国も信じなかったのである。「査察継続派」が多数となり、態度を保留した中間派とあわせて、不採択が不可避となり、米は最終的に新決議採択を断念したのだ。

 ところが米英、そして日本は、国連決議1441が武力行使のお墨付きを与えたかのようにでっち上げ、ねじ曲げてまで侵略戦争を一方的に開始したのである。「ほとんど多くの国」は武力行使ではなく、査察継続を求めたのである。武力行使への支持についても、あれだけ恫喝したにも関わらず最大限で40数カ国にとどまった。世界の国のわずか1/5しか支持しなかったのだ。フランスやドイツなど「同盟国」も反対した。

C「大量破壊兵器も、私はいずれ見つかると思います」
 これは、理由ではなく小泉首相の個人的観測である。私たちは彼個人の印象や見通しを聞いているのではない。事実と科学的根拠を問い質しているのである。米英は「パウエル報告」に基づいて大捜索したと言うが、どこを捜索したのか。なぜあれだけ「存在する」と豪語し侵略までしたのに未だに見つからないのか。それでも「存在する」という根拠はどこにあるのか。いつ見つかるのか。等々。

 しかし私たちが今すぐに開示するよう要求しているのは、今、イラクで大量破壊兵器が見つかったかどうかではない。小泉首相が開戦前に断定した大量破壊兵器保有の根拠を示せと言っているのである。これは「いずれ見つかるでしょ」では逃げられないはずである。

D「イラクは破棄したことを証明しろということを証明しなかった。・・・今までの疑惑があることを認めてその説明責任はイラクが果たさなければならない。」
 これは、「イラクは説明責任を果たさなかった」と言っているのだが、実はこれは侵略の口実に過ぎない。米英は、「初めに戦争ありき」で事を進めてきた。最初から聞く耳を持たない者にとっては、どこまでも難癖を付けることができる。イラク側がいくら説明しても「説明が足りない」と言い続ければいいのだから。
 説明責任を果たしていないという場合、2つの方向が出てくる。だから査察を続けるという場合。だから攻撃するという場合。軍事的解決を最初から決めている米英(そしてそれを支持する日本)と平和的外交的解決を求めている大多数の国々とは、「説明責任」の捉え方が正反対なのである。そして大多数の国々は、問題ありとしながらも、基本的にはイラク側の説明努力を認め査察継続を支持したのである。
 
 米英は最初、国連査察を開戦の口実にしようとした。イラクは攻撃を回避しようと必至に査察に協力した。自らの国家と民族の尊厳を抑えてまで、主権侵害の「強制査察」を受け入れた。米英が横やりを入れ、偵察機を認めろ、ミサイルを廃棄せよ等々、無理難題を押し付けた。イラクはそれも全て受け入れた。しかし、イラクが協力すればするほど米英は戦争の口実がなくなってくる。音を挙げたのは米英の方だ。ここまでイラクが譲歩するとは思っていなかったのだ。米英は、すでに戦争を前提にイラク周辺に派兵している何十万もの膨大な軍隊を「手待ち」状態にさせてしまう。いつまでも待たせると士気も低下する。そこで無理矢理「武力行使容認決議」で決着を付けようとした。しかしこの「新決議」にも失敗した。結局、国際世論の多数はもとより国連安保理、国連加盟国の多数の反対を押し切って、「イラクが悪い」「イラクが協力しなかった」「イラクは隠している」などと、濡れ衣をかぶせて一方的に侵略したのである。

■小泉首相は、「大量破壊兵器の保有」を断言していた。私たちが知りたいのは自信を持って首相が断言した根拠なのだ。
 以上見てきたように、首相は一貫してウソとごまかしを連発して問題の核心を避けている。そうすることで、どこに問題があるのか、何が問題になっているのか訳が分からないようにしているのである。ある時は“なぞなぞ問答”、ある時はイラクの国連査察への協力・非協力問題、ある時はイラクの説明責任、等々。

 彼が避けている問題の核心−−それは、彼が戦争前にイラクの大量破壊兵器の保有を断定した証拠についてである。首相は確かにイラク戦争直前に、「大量破壊兵器を持っているイラク」「イラクの大量破壊兵器が・・・重大な脅威」という表現で、イラクの大量破壊兵器の保有がイラク戦争を始める根拠であり、首相が支持した根拠であることを断言しているのである。以下にその証拠を示そう。

●「このイラクの大量破壊兵器が世界の平和に対する重大な脅威になっているのです。」
 「この問題は・・・『全世界対大量破壊兵器を持っているイラク』の問題である」
※以上3月13日小泉内閣メールマガジン http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2003/0313.html

●「イラクは12年間、国連の決議を無視し、大量破壊兵器の破棄をしてこなかったのです。・・・大量破壊兵器、あるいは毒ガスなどの化学兵器、炭疽菌などの生物兵器が独裁者やテロリストによって使われたら、何万人あるいは何十万人という生命が脅かされます。フセイン政権がこれらの兵器を廃棄する意思がないことが明らかになった・・・」
※以上3月20日小泉内閣メールマガジンhttp://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2003/0320.html

●「国際社会は一致結束して、大量破壊兵器、あるいは化学兵器、生物兵器、即時無条件、無制限に査察に協力して誠意を示すべきだという最後の機会を与える決議を国連は採択いたしました。・・・残念ながらイラクはこの間、国連の決議を無視というか、軽視というか、愚弄してきました。十分な誠意ある対応をしてこなかったと思います。私はこの際、そういう思いから米国の武力行使開始を理解し、支持いたします。
※以上3/20小泉首相記者会見「イラク問題に関する対応について」http://www.kantei.go.jp/k/speech/2003/03/20_1.html

■「大量破壊兵器」証拠問題で追及し、イラク特措法の根拠を崩そう
 「イラク人道復興支援特別措置法」は、法案の冒頭にあるように、「イラク特別事態」を大前提に、米英占領軍を支援する法律である。法案によれば「イラク特別事態」とは、一連の安保理決議にあるイラク大量破壊兵器の査察・破棄を言うのだが、しかしこの大前提がウソと虚構で塗りたくられているのである。
 第一に、法案が前提としている大量破壊兵器が、実はイラクにはなかったことが明らかになってきた。そして第二に、法案は米英の行動が国連安保理決議を踏まえているようにウソを付いている。しかしご存じのように今回米英は、国連査察をぶっ潰してまでイラク大量破壊兵器の存在を一方的に断定し、安保理の承認も決議もなしに単独で侵略を強行したのである。

 「大量破壊兵器はどこへ行ったのか」−−米英の議会やマスコミでここへきて急速に疑問が投げかけられている「イラク大量破壊兵器の保有」「イラク脅威論」。世界中で、しかも米英という侵略国内部からわき上がっている重大な疑義と疑問。小泉首相と政府与党が今強行しようとしている「イラク特措法」は、その法案の第一条の前提条件がウソとでっち上げであることが明らかになってきたのである。そのような法案は成立し得ないし、上程することにさえ重大な疑義が浮上しているのである。否、こんなデタラメな法案が与党や内閣で可決されたこと自体が大問題である。

 イラクは大量破壊兵器を使わなかっただけではない。保有さえしていなかった。−−この事実は小泉政権の最大の弱点であり、この「イラク特措法」の最大の弱点でもある。大量破壊兵器のウソ・デタラメを徹底して追及し、同法案の廃案を勝ち取ろう。

2003年6月15日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局