スペイン社会労働党の勝利と軍撤収表明を受けて−−−−
改めて自衛隊派兵の中止・撤収を求める
3・20国際反戦行動を機にイラク反戦の闘いをさらに強化しよう


3月12日マドリード 雨の中怒りと追悼のデモをする大群衆


T

(1) スペインで3月14日、下院選挙で野党社会労働党(PSOE)が第一党になり、8年ぶりに政権を奪回した。1週間前までは与党国民党(PP)の優勢と勝利が確実視されており、3/11のテロ事件以後も与党への支持票が増えるとの観測も流れていたため、スペイン国内、ヨーロッパはもとより、全世界がその突然のどんでん返しに驚いた。
※スペイン総選挙 野党勝利 8年ぶりに政権交代 社労党躍進 列車テロ政府に逆風(西日本新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040315-00000071-nnp-kyu
※スペイン総選挙、野党勝利 8年ぶり政権交代(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040315-00000124-kyodo-int

(2) 次期首相になる見通しのサパテロ社会労働党書記長は、「イラク駐留のスペイン軍は6月末までに帰国するだろう。これは選挙公約であり、テロ事件によって変わるものではない」と語り、早速公約に掲げたイラクからのスペイン軍の撤収を表明した。
※スペイン総選挙の与党敗北、連続爆破事件で形勢暗転(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040315-00000537-reu-int
 社会労働党は、「米政府がイラク人への主権移譲を計画する6月30日までに国連が主導権を掌握しなければスペイン軍を撤退させる」と公約。世論調査では、国民の90%がイラク戦争に反対との結果が出ていた。
※<スペイン>イラク駐留軍の撤退を表明 次期首相(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040316-00000063-mai-int

 また「ブッシュ大統領とブレア英首相は多くの過ちを犯した。虚偽の事実で物事を始めてはいけない。彼らは自己批判すべきだ」とも語り、イラク侵略を主導した米英首脳を厳しく非難した。更に、今後のスペインの外交政策は「伝統的な枢軸に戻る」とも語り、対米追随外交からの転換、欧州、中南米、地中海諸国を軸にした多角的外交政策に戻るなど、外交政策全般の転換を示した。
※<スペイン>次期首相、独仏との連携強化を表明(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00002120-mai-int

 もちろん、社会労働党の前途は非常に厳しい。いわば今回の政権奪還は、「ころがりこんできた」ものである。連立工作の行方、上院での議席数、イラク情勢を転換させる最前線に突如立たされたことによる動揺と内部対立がある。何よりも米英や「有志連合」からの猛烈な巻き返し工作はこれからである。しかしスペインの人民大衆のテロと戦争への厭戦気分、反戦・非戦気運が下から突き上げているのだ。社会労働党はこの人民の願いをそう簡単に裏切ることは出来ないだろう。
 

(3) アスナール政権の崩壊は、対米英軍事同盟を最優先にしてきた「有志連合」の支柱の一角が崩れたことを意味する。まさにこれは“政治的地震”である。スペインはイギリスと組んでEUでの“独仏枢軸”にくさびを打ち込んできた。これで、米英を筆頭にスペイン、イタリア、オランダ、ポーランドなど、イラク侵略を支持したEU内の親米諸国が付き従うラムズフェルドの「新しい欧州」創出とそれによる欧州分断の野望が挫折する可能性が出てきた。今回の政権交代は、ドイツとフランスのヨーロッパでのリーダーシップの復権につながるだろう。 

 とりわけスペインと同様の「有志連合」諸国は動揺と衝撃を隠せないでいる。
−−イタリアは現在2300人の部隊を派兵している。右翼ベルルスコーニ首相はあくまでも駐留継続を主張しているが、国内で急速に撤退を求める声が広がっている。最近の世論調査で67%もの人が撤退を支持した。
−−オランダのバルケネンデ首相は16日、ブッシュ大統領との会談で「国際社会が結束してテロと戦う姿勢を示すことが重要だ」と述べ、オランダ軍駐留の継続を再確認した。しかし野党労働党は「イラクでのオランダ部隊の駐留は十分長くなった。駐留を続ける必要がない」と語り、スペインと同様6月末まで国連への大幅な権限委譲がなければ撤退させるべきと主張した。
−−ポーランドはこの5月1日のEU加盟を機にスペインと「新たな枢軸」構築を目論んでいたのだが、アスナール政権の崩壊で夢に終わった。またポーランド政府はイラク駐留を継続すると表明したが、この2月の世論調査では派兵反対が6%アップの60%、派兵支持はわずか35%にとどまった。与党の支持率も11%とこれまでの最低を記録した。 スペイン軍の撤収問題はポーランド軍と無縁ではない。なぜならポーランド軍はイラクに2400人を派兵し、イラク中央部で24カ国の兵9000人で編成された師団を主導しており、このうち1300人がスペイン兵だからである。スペイン軍の撤退は同師団の再編成を促すことになるだろう。
※ポーランド、イラク駐留の継続を明言(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040316-00000672-reu-int
−−スペイン軍撤退の動きは、現地イラクでスペイン軍の指揮下にあるホンジュラス・エルサルバドル・ドミニカなどに波及している。ホンジュラスのマドゥーロ大統領は16日、6月末までに370人の軍を撤収すると発表した。またエルサルバドルの野党ファラブンド・マルチ民族解放戦線(FMLN)も選挙で勝利すれば380人の部隊を撤収すると公約した。カストロは、「イラクの中南米軍の若者達は消耗品となっている。」「スペイン軍の撤収に合わせて中南米軍1000名の若者達を撤退せよ」と要求した。
※ホンジュラスも「イラクから派遣部隊撤退」(東亜日報)
http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=060000&biid=2004031801688
※「Castro calls on S. American troops to quit Iraq」
http://sg.news.yahoo.com/040316/3/3itdn.html
−−オーストラリアでも、派兵をめぐる与野党の対立が鮮明になっている。最近の世論調査で与党・保守連合より高い政党支持率を得た野党・労働党が、約850人の豪兵の早期イラク撤退を主張している。
※<豪州>スペインにイラク残留要請(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00001017-mai-int

(4)イギリスでは、それでなくてもブレア首相による「イラクの脅威」でっち上げ問題で、「戦争の大義」が問われ続けている中で、痛打を受ける格好となった。フィナンシャルタイムズは3/16、「ホワイトハウスは戦争同盟の支柱を失った」と述べ、社説でも「スペインは我々に民主主義の教訓を与えた」として、選挙結果は表面的にはアルカイダの勝利に見えるかも知れないが、2000年選挙を10%も上回る投票率はスペイン民衆の民主主義の確信を示したと述べた。
 政府与党首脳はイラク反戦、イギリス軍撤退論のうねりを打ち消すのに必死である。ストロー外相は、「もし、アルカイダの関与が明らかになれば、イラク戦争を支援したためと早急に結論づける者もいるが、それは完全な間違いだ」との苦しい弁明を行った。
※スペイン爆破事件、イラク戦争と関連させるのは誤り=英外相(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040315-00000596-reu-int


U

(1) 選挙結果を受けて、スペイン国内のメディアも、世界のメディアも、こぞって3/11のテロが情勢を変えたと報道している。200人の死者、1500人の負傷者を出した大惨事である。しかし何を、どう変えたのか。その真実を日本に伝える報道は皆無と言っていいだろう。
 そして無差別テロに抗議し追悼する1200万人もの大群衆がスペイン全土で地鳴りを引き起こすかのようなデモンストレーションを行った。しかも雨の日、スペインの人口の4分の1以上が街頭に出たのである。それ自体、私たちには想像を絶するような出来事である。一体何が起こったのか。特に運命を決した3/11〜3/14の4日間、事態はどう展開していったのか。その実情について掘り下げた報道はない。
※史上最大800万人が抗議デモ=バスク過激派は犯行を否認−スペイン列車爆破(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040313-00000906-jij-int
※テロ抗議に空前の1100万人 欧州首脳も参加(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040313-00000069-kyodo-int

(2) アスナールは3/11テロ直後の演説で、「これはスペインの9・11だ」と述べた。彼はこのテロ事件を政治的に利用しようとした。何の根拠もなく首謀者をETA(バスク祖国と自由)と決め付け、「民族的統一」を呼びかけた。選挙を目前に控えて愛国ムードを一気に盛り上げ、勝利に結び付けようとしたのである。
 しかしこれが完全に裏目に出る。ETAの再三のテロ否定声明、アルカイダ筋と言われる再三の犯行声明を無視したからだ。「首相は情報操作をした」とスペイン民衆から厳しい弾劾の声が上がった。ブッシュ、ブレア、小泉と違わず、戦争屋はどこでも、ウソとでっち上げを政策の基本にしているのだ。
※3月16日には次のような裏話まで新聞でリークされた。首相自らが報道機関に電話をかけ、「疑いを持つ必要はない。ETAの仕業だ」と語ったというのだ。しかもご丁寧にも、内相が記者会見で、「あらゆる可能性を排除せずに捜査する」と表明した後にも、わざわざ再度首相からある新聞編集責任者に電話があり、「ETAが犯人だ」と強調したという。首相、報道機関に直接電話=ETA犯行説伝える−スペイン紙(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040316-00000553-jij-int

(3) 実は、3/12、3/13の大デモンストレーションの最中に、“歴史の弁証法”と言ってもいい大転換が起こっていた。各地のデモは自然発生的に膨れ上がったのは確かだが、与党国民党が中心となって呼びかけたものである。アスナールの頭の中には「9・11」があったはずだ。「テロとの戦い」を前に出せば国内世論を与党に結束させることができ「挙国一致」を図れる。対米英同盟強化、イラク戦争支持、スペイン軍のイラク派兵など、アスナールがこれまで進めてきた軍事外交政策が支持される。こう踏んで、与党があえて自らの政治的主導権と選挙の勝利を確実にするために反テロのデモンストレーションに打って出たのである。
 現にマドリードではアスナール首相やサパテロ書記長のほか、ラファラン・フランス首相、ベルルスコーニ・イタリア首相、フィッシャー・ドイツ外相ら欧州各国首脳が230万人に膨れ上がったデモの先頭に立って行進した。

(4) しかしこのアスナールの思惑は、首相自身によるテロ犯ねつ造、情報操作で大きくつまずくことになる。「犯人はETAではない。アルカイダだ」−−これを証明するビデオや声明が、まさに燎原の火の如くあっという間にスペイン中に広がったことで、3/12のデモ行進当日になって首相の思惑は崩れ始めたのだ。大規模テロによる人民大衆の茫然自失、悲嘆、混乱、欲求不満、怒り等々の様々に矛盾した気分が、一夜にして政府そのものへの激怒となって集中し爆発する。事態はアスナールの予想を超えてスペイン史上最大の人民大衆が街頭に進出する大規模デモンストレーションとなった。ありとあらゆるところで泣き叫ぶ民衆は「誰の責任だ?」と口々に怒りを爆発させて行進した。
※「Revolting Developments−The Reign in Spain Falls Mainly on the Pain?of Terror and a Cover-Up」Mondo Washington by James Ridgeway March 17, 2004 http://www.villagevoice.com/issues/0411/mondo1.php
この記事によれば、一連の出来事は「人民蜂起」「民主的反乱」のようだったという。そしてどのようにして3/11から3/13に至る過程で政府や翼賛報道が間違った報道を繰り返し、どのようにして真実が海外や左翼系メディアを通じて国内に浸透していったかを時間単位でフォローしている。決定打は土曜日の朝、遂に左翼系TVCadena SERが、99%イスラム原理主義であるとのスペインの情報機関からのリークを放送したことであったという。


3月13日国民党本部前を包囲するデモ隊
 3/13の土曜日に更に状況は一変する。国民党によって呼びかけられたデモはどこでも反国民党デモに転換していった。土曜日には、デモは国民党への攻撃の形態を取り始めた。怒ったデモ隊が国民党の党本部や各地の党事務所を包囲する抗議デモに発展した。アルカイダ犯人説が流れる中で、ETA犯人説を何の根拠もなく早々と打ち出した政権への追及が始まった。「政府はウソを付いた」「真相を証せ」「誰の責任だ」「それはお前の戦争だ、我々は死んだ」と、テロ事件の真相究明、テロ事件の責任を求める、反政府、反国民党の一大デモンストレーションに文字通り劇的変化を遂げたのである。親政府・官製運動の反政府運動への急変、わずか1日、2日のことである。
※「The lessons of Spain」By Alan Woods
http://www.marxist.com/Europe/lessons_of_spain0304.html

 政府スポークスマンは、選挙前日のデモは「非合法だ」と主張し、更に民衆の反発を買う。確かに法律では選挙前の政治的行為は禁止されている。しかし民衆は驚くべき戦闘性を見せた。デモを犯罪扱いする政府の出方は火に油を注ぐことになり完全に失敗に終わった。「人民がやることは非合法ではない!」「国民党こそ非合法にせよ!」、更に「嘘つき」「人殺し」「我々に真実を言え」、そしてそこではいつも「戦争をやめろ!」がスローガンになった。

(5) 今回の史上空前のデモで決定的役割を果たしたのは学生や青年である。そして携帯とインターネットが決定的な役割を果たした。これまで政治に無関心だった若者達が目覚め、大挙してデモに参加した。アスナール政権を支持する翼賛的な大手企業メディアは、前述したように首相の言うがまま、ウソばかり垂れ流し続けた。しかし若者達は、携帯メールとインターネットで、あるいは独立系メディアを通じて、「犯人はアルカイダの可能性が高い」「首相はウソを付いている」「真相を隠している」「列車テロはイラク戦争加担が原因」等々、素早く情報を交換し合い、全国で一斉に立ち上がったのである。
 またマドリードのデモ行進で、国民党支持派の右翼がスペイン国旗を威嚇的に振り回して前に出ようとしたとき、それを阻止したのも学生達だという。
 選挙結果を大きく動かしたのも若者達だ。社会労働党は2000年の投票を280万票上回る1090万票を獲得し、国民党は70万票落とした。それに寄与したのが選挙権を得て初めて投票する若者達だったという。
※「Liars Lose -- The Lessons of Regime Change in Spain」March 15, 2004 by CommonDreams.org by Jeff Cohen http://www.commondreams.org/views04/0315-13.htm
※「Spain: Aznar routed as a result of mass anti-war sentiment」WSWS By Chris Marsden 16 March 2004 http://www.wsws.org/articles/2004/mar2004/spai-m16.shtml

(6) 3/11の無差別テロだけで今回の事態を捉えるのは間違いである。それは「最後の一押し」に過ぎなかった。国民の9割もがイラクへの侵略に反対し、対米追随外交を続けるアスナールに不満と怒りをうっ積してきたことが背景にある。わずか数日で状況を一変させたのは、一昨年、ブッシュがイラク侵略を表明しアスナールがこれに同調して以降のスペイン国内の大衆的で粘り強い反戦平和運動の蓄積がある。そして昨年2月、3月にはスペインでも何十万人、何百万人もの多数の人民大衆が参加したイラク戦争反対の運動がある。突如降って湧いたかのように見える今回の“質的転換”には、長い長い反戦平和の地道な取り組み、“量的蓄積”があったのだ。それを忘れてはならない。


V

(1) 今回のスペインの政権交代は、アスナールの敗北であるだけではない。ブッシュの敗北でもある。「スペイン発の撤退ドミノ」−−ブッシュ政権の前に突如、イラク占領体制を根底から動揺させ崩壊させかねない事態が浮上した。ブッシュ大統領は3月16日、オランダ首相との会談で、「有志連合」諸国が軍を撤退させないよう呼びかけ、スペイン軍離脱を牽制、必死になってイラク軍事占領体制の崩壊を避けようとしている。
 切り札は今回もまた国連だ。新たな国連決議で「有志連合」の綻びをつなぎ止めようと動き出した。これまでの繰り返しである。石油は離さない。主要な人事権も離さない。軍の駐留は維持する。要するにイラクは離さない。自分が血で奪い取ったもの。絶対離すものか。−−こんな植民地宗主国の振る舞いをして、どうして国際世論が認めるだろうか。
※<ブッシュ大統領>「有志連合」諸国に派遣継続訴え(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00001053-mai-int
※米大統領がイラク駐留継続要請、新たな国連決議模索(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000789-reu-int

(2) ブッシュは「スペイン発の撤退ドミノ」を恐れている。自らのイラク占領体制がかつてない危機に立っているからである。以下のような最近の占領事情を概観するだけで十分だ。イラク民衆のうっ積する不満や怒りはいつ爆発してもおかしくない。スペインの政変は直接的か間接的か、最後の一撃を与えるかも知れない。
−−統治評議会=傀儡政権は3月8日、基本法に署名した。署名したのが傀儡政権なのだから広範なイラク人民の信任はない。しかもその基本法そのものからして米英軍政当局(CPA)製の作文に過ぎず、全く実態を伴わないものである。
−−ブッシュは大統領選挙までにイラクでの成功を宣伝しなければならず、形だけでも6月末には主権委譲が必要だ。しかし宗派抗争、部族抗争の複雑な現実の中で、直接選挙の進め方や日程を含めて全くメドが立っていない。ブッシュ政権の戦略はおそらく、拡大統治評議会など、新たな傀儡政権を「主権委譲」とでっち上げ、その実、今の軍政を継続することだろう。
−−イラク民衆のレジスタンス運動はますます先鋭化している。スンニ派三角地帯を中心に、米軍がイラク全土で無差別虐殺・無差別弾圧を展開しているために、反米感情が膨れ上がっている。その米軍指揮下のイラク人警察やイラク人治安部隊は裏切り者として、米軍以上に攻撃対象にされている。国家権力の根幹である軍事機構が成り立たないのである。
−−しかしその軍事機構を支える米軍の能力が限界を超えている。侵略後1年近くを経過して、戦死や負傷だけでなく、肉体的精神障害、自殺やレイプ、何よりもデタラメな戦争目的、大義の欠如から来る士気の低下等々、米兵が消耗しきってしまった。脱走や帰還拒否や兵役拒否まで出始めた。
−−今年に入って大規模ローテーション(兵士の交代)が始まった。ところが交代要員の多くは訓練不足や人を殺したことのない州兵や予備役で、訓練を積んだ戦闘要員ではない。イラク戦争の泥沼化は米軍を内部から蝕み始めている。
−−イラクの一般市民の犠牲者が増え続けている。米軍や有志連合軍の攻撃で多数の罪なき市民が虐殺されているのだ。最近ではカルバラでの自爆テロが明らかにしたように、宗派間・部族間の内戦を煽る動きが活発化している。
−−米英軍政当局にも米国にもイラクを支配する予算はほとんどない。彼らはそれを石油資源の略奪から盗もうとしている。それだけではない。6月末までに、経済復興を軌道に乗せるとして、国有企業の解体・民営化など、ロシアや中南米で失敗したIMF式の資本主義的・市場原理主義的なショック療法を強行しようとしている。それはイラク民衆の更に大規模な失業であり、米多国籍企業への売却とくれてやりに過ぎない。等々。

(3) スペインの政権交代はイラク占領体制を揺さぶっているだけではない。ブッシュの軍事外交政策全体をも、更にはブッシュ政権そのものをも根底から揺さぶるだろう。イラクを争点から逸らせるため、やっとのことで「同姓婚問題」を持ち出したのだが、これで再びイラクが争点に復活してしまった。
 アメリカでの政権交代、ブッシュ落選の動きは見通しがつくところまで来ている。すでに始まっている大統領選では、民主党のケリー候補の大躍進で、世論の支持率でブッシュ支持率が徐々に、しかし確実に落ち込んでいる。今ではケリーは、52:44、8ポイント差で優位に立っている。米国では「ABB」"Anybody But Bush"、つまり「ブッシュだけはゴメンだ」が合い言葉になっているという。
 もちろんケリーも帝国主義的覇権では本質的にブッシュと変わりがない。ブッシュ型共和党型覇権主義とケリー型民主党型覇権主義、単独行動主義型帝国主義と多極行動主義型帝国主義、途上国を帝国主義的植民地主義的に支配するその本質は同じである。しかしとにかくまずは目の前のブッシュを政権の座から引きずり降ろさねば、世界は破局へ転がり込んで行くことだけは間違いないのだ。
※ケリー氏、8ポイント上回る CNN世論調査(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040309-00000050-kyodo-int


W

(1) 私たちはもうすぐイラク開戦1周年の3/20国際反戦行動に合流する。スペインでの今回の劇的な政権交代は、3/20行動に結集する全世界の反戦平和運動に、この上ない激励を与えてくれた。「スペインに続け!」おそらく全世界でこの合い言葉が響き渡るだろう。そしてこの日は、ブッシュ・ブレアと小泉を筆頭にそれに追随する戦争勢力を打倒し追放する新たなスタートを切る日になるだろう。そしてブッシュの軍事外交政策全体にノーを突き付ける全世界の反戦包囲網は、今年秋の米大統領選でのブッシュ再選を阻止するために、着実に狭められて行くだろう。

(2) 今回の政権交代は、もちろん直接的には、スペイン国内の反戦運動、人民運動が牽引したのは確かである。しかしスペインの政変は孤立して捉えるべきではない。今回の激変をもたらした背景には、全世界各地、各地域、各国における反米・反ブッシュ、反帝国主義の反戦平和運動の地道な積み重ねと広がりがある。
 とりわけブッシュやブレアがイラク侵略を強行する際に、その根拠とした「イラクの脅威」「大量破壊兵器」をめぐる粘り強いウソ・デタラメの追及、「大義なき戦争」の暴露活動は、今なお続いている。今年1月、米大量破壊兵器捜索チームを指揮したデビッド・ケイ前団長が「大量破壊兵器はなかった」と爆弾発言を行い、米英政権に衝撃を与えた。つい最近も、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス前委員長は、ブッシュとブレアが戦争の大義をでっち上げるためにイラクの大量破壊兵器保有疑惑を誇張したことを暴露した。別のところでは彼は「イラク戦争は違法だ」と語った。
※イラク戦争は違法 ブリクス前委員長(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040305-00000068-kyodo-int
※米英首脳、イラクの疑惑誇張を認識=前国連査察委員長(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040308-00000982-reu-int
※イラク破壊兵器の証拠なし 国連査察委が定例報告(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040303-00000022-kyodo-int
※英首相「辞任を」が過半数 大量破壊兵器で「うそ」(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040207-00000097-kyodo-int
「戦争の大義」、派兵の前提は崩れた!(署名事務局)

 またイギリスで最近、イラク開戦前、「アナン事務総長と国連をイギリスが盗聴していた」と前閣僚が爆弾発言を行った。更に米国がイギリスの諜報機関に「国連安保理の非常任理事国を盗聴するよう要請していた」と暴露された。

 スペインの政変は、こうしたイラク戦争の無法性と不当さがスペイン民衆の中に深く浸透していたことを示している。一昨年の9月から始まる国連安保理を舞台にした米英と「査察継続派」の激しい対立、開戦を挟んでスペインをも巻き込んで幾度も行われた国際反戦行動等々、これら全ての積み重ねがスペインと世界の世論に深く広く浸透していったのである。
 スペイン人民の勝利は世界の人民の勝利である。実際、世界の反戦運動は、2001年の9・1以来、2年半にわたり、幾度となく闘いを挑んだがなかなか切り崩せなかった。そのブッシュの世界覇権支配の有力な部分、「有志連合」の支柱の一角を掘り崩すことにようやく成功したのである。21世紀の人類の平和と共存にとって、これほど歴史的な出来事はない。


X

(1) 小泉首相ら政府与党首脳は、今回のスペイン選挙の結果について、「日本とスペインは事情が違う」「イラク復興の認識は同じはず」等々とはぐらかし、自衛隊派兵方針に変わりないことを強調した。聞く耳を持たず、である。派兵を撤回させるには、スペインと同様、彼を政権の座から引きずり降ろすしかない。アスナールと小泉−−恥ずべきほど同じ対米追随政策で突っ走ってきた者同士、衝撃を受けたことは確かである。
※<小泉首相>「日本とスペインは違う」 自衛隊派遣堅持を強調(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040316-00002071-mai-pol
※スペインもイラク支援で認識は同じ=福田官房長官(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040316-00000366-jij-pol

(2) 今回の政権交代を受けて企業メディアは異様なほど興奮し、「テロに屈するな」の大合唱をしている。大手新聞のどこもが今回の政権交代を正しい選択だと認めなかった。それどころか、こぞってスペイン民衆の選択を「テロに屈した」と非難したのである。これはスペイン史上最悪の悲劇に見舞われ、アスナールの戦争政策にノーを突き付けたスペイン民衆への侮辱である。全く許せない、恥を知るべきである。
 一体、メディアの世界で何が起こっているのか。今新聞、TV、雑誌を信じることは危険である。企業メディアを信じないこと、紙背に徹すること、ここから出発するしかない。そこまでメディアの堕落は落ちるところまで落ちてしまった。

 「テロに屈するな」−−これは侵略戦争のスローガンである。企業メディアは露骨に侵略戦争を煽っているのである。ところがメディアは全く逆のことを信じ込ませようとしている。侵略戦争を侵略戦争と思わせない“殺し文句”、それが「テロとの戦い」「テロに屈するな」なのである。
 言うまでもなくブッシュが打ち出した「テロとの戦い」とはアフガン侵略でありイラク侵略である。シリアやイランへの軍事的恫喝である。ハイチへの軍事介入でありベネズエラへの内政干渉であり、軍事力で世界覇権を奪い取ることなのである。メディアはそういうことを全て知った上で、いわばこうした帝国主義戦争を扇動しているのである。そして、この不正義の大義なき帝国主義的侵略戦争を拒否したが故に、逆鱗に触れスペイン民衆を糾弾したのである。
※大手紙の社説は以下の通りである。日経は「スペイン政権交代で重み増す国際協調」、これを機に自衛隊増派を要求する。その他はまるで歩調を合わせたように「テロとの対決は変わらない」(毎日)、「テロにひるまぬ政策貫け」(産経)、「反テロ国際戦線を緩めるな」(読売)等々、背筋が寒くなるような「テロに屈するな」の大合唱である。これら「テロに屈するな」と煽る日本のメディアは、「ブッシュは侵略を続けろ」「スペインのこの悲劇を日本でも繰り返せ」、「日本の民衆も死ね」と主張しているのである。自国民衆に死を覚悟させるメディアとは一体何なのか。無責任を通り越した暴論だ、血迷ったとしか思えない。ただ朝日の社説だけは異なる主張をしている。「スペイン政変――テロと戦う国民の選択」(朝日新聞)http://www.asahi.com/paper/editorial20040316.html

(3) スペイン民衆の選択は無条件に正しい。スペイン民衆は私たちに実例を持って教えてくれた。ブッシュの戦争政策への追随を阻止し軍を撤退させるには人民大衆の運動の高揚を背景に政権交代させるしかない、と。私たち日本も、自国の軍隊を撤収させるためには、反戦平和の大衆的圧力でもって小泉の対米追随政権を交代させねばならない。7月には日本でも参議院選挙がある。反戦・非戦世論を強め、公明党のつっかえ棒でかろうじて政権を維持している自公の戦争政権を何としても倒そう。

 日本の平和運動の責務は大きい。スペインに続いて、ブッシュ連合、「有志連合」の戦争同盟の支柱の一角、アジアの支柱日本を離脱させることである。もしそうなればスペインの政権交代どころではない。今年11月にはアメリカで大統領選挙がある。来年春にはイギリスで総選挙がある。ブッシュとブレアは「イラクの脅威」「大量破壊兵器の脅威」のウソとでっち上げがばれ、「戦争の大義」が崩れ、それでなくともすでに窮地に立っている。ここで小泉政権を崩壊させ、あるいは痛打を与えることができれば、世界中に重大な衝撃を与えるだろう。

 もちろん楽観しているわけではない。スペインと日本では野党の力量も大衆運動の実情も全く異なる。野党第一党民主党は腰砕けで、自公の与党と軍事外交政策で根本的な差はない。何十万人、何百万人を動員する反戦平和運動のうねりはまだない。何から何までスペインとの違いは歴然としている。
 しかし、それでも私たちは主張する。「スペインに続け!」と。とにかくイラク侵略同盟、“有志連合軍”の支柱の一角が崩れたのだ。スペイン軍の撤収の動きは、日本の私たちの運動にとってもまたとないチャンスである。粘り強く取り組みを積み重ねればそれだけ確実に前進するはずだ。
−−私たちはスペイン民衆の歴史的な選択を断固支持する!
−−反戦運動の高揚と政権交代で自国軍を撤収させ、侵略戦争への加担を拒否しよう!
−−小泉政権は、自衛隊派兵を即刻中止し、すでに派兵した部隊を撤収せよ!
−−米英のイラク戦争・占領支配への支持・加担をやめよ!
−−3/20国際反戦行動を機に、イラク反戦の闘いを更に強化しよう!


2004年3月17日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局