[投稿]6.23慰霊の日に沖縄を訪れて
〜改めて、沖縄戦教科書検定の異常さを思う〜


 たびたび6月23日の慰霊の日に沖縄を訪れている友人から投稿があった。彼によると、今年は例年と非常に違った雰囲気であったという。慰霊の日は沖縄では特別の意味を持ち、皆が黙祷をし、静かに時が流れる。しかし今年は、ラジオやテレビ番組の冒頭は必ず、あの集団自決を削除した教科書検定問題に言及していたというのだ。
 沖縄県議会の6月定例会は7月11日、最終本会議において、沖縄戦の集団自決をめぐる教科書検定の撤回を要求する意見書を全会一致で再び可決した。すでに沖縄の全市町村議会が同様の決議を行っている。
 沖縄の人たちには当たり前であった歴史的事実、被害者や遺族の心の中に深く刻み込まれている真実−−旧日本軍による住民への集団自決強制を教科書から削除し歴史を歪曲することの異常さをあらためて浮かび上がらせる。
※県議会、撤回要求再び可決 「集団自決」検定(琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/modules/news/article.php?storyid=25362
改めて戦争責任を追及する[シリーズその3]政府・文科省が沖縄戦「集団自決」の日本軍関与削除を強制(署名事務局)

2007年7月15日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




 今年も沖縄に慰霊の日が訪れてきました。今年は休日と重なったことで7年ぶりに私もこの日に沖縄を訪問することが出来ました。沖縄に関連する課題に取り組もうとするとき、沖縄戦は明らかに原点のひとつです。けれどもそれだけでなく、この日の沖縄は人の心を清らかにしてくれる力があるのです。

 15年戦争末期、日本では唯一一般住民を巻き込む壮絶な地上戦が繰り広げられた沖縄。20万人を超える戦死者のうち、94000人あまりが一般住民でした。この沖縄戦で牛島満司令官が自決し日本軍の組織的戦闘が終結した日が沖縄慰霊の日として制定されています。けれども、この壮絶な沖縄の地上戦が本格的に繰り広げられたのが6月23日以後であることもよく知られています。


 慰霊の日、糸満市の魂魄(こんぱく)の塔には早朝から訪れる人が絶えません。
 慰霊の日の沖縄は例年梅雨明けのころです。今年も例に漏れず20日に梅雨があけ、早朝から生まれたての夏の日差しが真っ青な空にまぶしく輝きます。糸満市米須の魂魄之塔には早朝からお参りにくる人々がたえません。ここは敗戦直後、地元の人々が、周囲の丘といわず、森といわず、畑といわず、いたるところに散らばっていた沖縄戦の犠牲者の亡骸を集めて弔った場所です。静かに、ほんとに静かに時が流れ、線香の煙と香りが一面に漂います。花を手向け、酒瓶のふたを開け、料理を献じ、つらかったであろう犠牲者への冥福を祈ります。おじいさん、おばあさんが孫たちと一緒にお祈りし、その意味を言い伝えています。そして沖縄の民主勢力はこの碑の傍らにある広場で「6・23国際反戦沖縄集会」を行いました。

 同時刻、摩文仁の平和祈念公園では沖縄県主催の沖縄全戦没者慰霊祭が行われます。資料館の前に広がる「平和の礎」にも家族づれで、それぞれの近しい人のお名前を訪ねては手をあわせます。訪ねたお名前の前で正座し、お祈りし、話しかけるおばあさんやおじいさん。ここでも、子どもたちにお名前の人との間柄から、なぜここにお名前が刻まれることになったのかの事情を話しする大人たちの姿がいたるところで見受けられます。子どもたちの顔は真剣です。皆が改めて今日がどういう日なのかを思い返しています。

 今年の沖縄全戦没者慰霊祭には安倍首相も参加しました。7年前の慰霊の日、小泉前首相が総理大臣として始めて参加しました。首相に就任し人気上昇中だった小泉氏は数人のSPを携えてはいるが、自信満々の素振りで平和祈念公園を闊歩していました。今年、安倍首相は公園内を出歩くこともなく、白バイに警護されながら黒塗りの公用車で公園内を猛スピードで余裕なく移動し、静かに時間の流れる慰霊の日をかき乱します。この慰霊の日に「基地負担軽減」と「沖縄振興」を強調し、「基地を受け入れた分だけ援助する」出来高払いを沖縄の人々に求めることを哀悼の辞としました。

 今年の沖縄全戦没者慰霊祭では、2000年に稲嶺前知事が初めて招待し参列してきた米4軍調整官が米軍関係者として初めて献花しました。沖縄県も保守県政を重ねるにつれ米軍を「よき隣人」として関係を強めようとしています。自衛隊も正装の軍服で参列します。いかに県主催の慰霊祭だといえども、日本の平和を祈念する場には軍服は似合いません。

 正午、カーラジオから黙祷を促す放送が流れます。AMといわずFMといわず、民間、公共の区別なく、どの放送局もすべてが黙祷を促します。ラジオでは沖縄戦の歴史的事実を題材にしたラジオドラマが流れています。人々の証言が息づいています。続くバラエティー番組でもディスクジョッキーの方が、「みんな〜!ちゃんと黙祷しましたか?」と番組の冒頭から問いかけます。電話をしてくるリスナーも「黙祷したよ〜!」と答えています。この日のニュースや番組の冒頭は「集団自決に関する教科書検定問題にゆれる今年の慰霊の日・・・」が決まり文句のようでした。

 沖縄の県議会、全市町村議会が、「軍命による集団自決」を教科書から削除する教科書検定の撤回を求める決議を行い、国に対する要請行動も行われました。参議院選挙への影響などを懸念を指摘する声も聞かれます。けれども、この問題はそんな目先の問題ではありません。

 沖縄の友人のお子さんが友人に話しかけます。「おとうさん、今日、ちゃんと黙祷したよ!」。友人は本当にうれしそうにわが子の話を聞いています。教科書問題についても友人はさらりと言います。「子どものころから当たり前のことなんだよ。常識なんだよね。そんなこと沖縄の人間で否定するやつなんかいないんだよ」。慰霊の日の沖縄はそんな言葉を静かに裏付けているようです。
(N)