<シリーズ憲法改悪と教育基本法改悪 その4>
戦争ができる国造り、グローバル企業のための国造りに反対しよう!
憲法改悪と教育基本法改悪に反対する5・1討論集会[補足]
日本経済のグローバル化と日本のグローバル企業のポジション
−−財界の9条改憲要求、軍国主義化・反動化の経済的基礎−−


(1)多国籍企業からグローバル企業への進化。

@ 1990年代から2000年代に入ってからの日本のグローバル企業は、1980年代までの多国籍企業とは量的・質的に異なるものである。あくまでも日本の国内市場を主たる販売市場と位置付け、製品企画・開発、購買・生産から流通・販売に至るまで日本を拠点にし、海外生産・海外販売を副次的なものとして位置付けるのが従来型の多国籍企業だとすれば、その多国籍企業の進化形態としてのグローバル企業は、日本への帰属を従来通り残し本社機能とごく一部の拠点を日本に置く以外は、まずグローバルな世界市場の制覇を目標に、企画・開発、購買・生産から流通・販売に至るまで世界の「最適配置」を目指し、世界のグローバル企業との熾烈な競争を戦い抜くためにコストダウンをギリギリまで追求することで国際競争力を飛躍的に高めようとしている。

A 従ってグローバル企業は“グローバル資本”として、世界市場で勝ち抜き世界全体で生産・流通・販売を行うために、一方では、グローバルな拡大・発展を邪魔するありとあらゆる制約を撤廃するよう要求する。国境障壁のない商品・サービス取引の自由、マネーと資本の移動の自由、アウトソーシングの自由、労働力の移動の自由等々。
 そこには、国際的な制約だけではなく、国内的な制約も含まれる。労働者の保護を規定した労働法や労働規制の規制緩和・解除、医療・年金・福祉・教育など社会保障負担の軽減、法人税の減税と人民への徴税強化等々、グローバル企業の重荷となる規制や財政的負担の撤廃を要求する。このような上にたって、グローバルな規模で、仕入れ面での世界最適地調達、市場・労働力・税制面での世界最適地生産を追求して、グローバルな競争を勝ち抜こうとするのである。

B 同時に他方では、グローバル企業は、「グローバルな安全保障」を追求する。自国だけではなく世界中の、特に途上国人民をギリギリまで露骨に搾取し収奪する自由を要求し、企業の経営を左右しかねないほど巨大化した膨大な海外資産の安全と保全を追求する。従って、世界各地に存在するグローバル企業の生産・流通・販売活動を邪魔し、膨大な資産を破壊したり麻痺させたりする動きに対しては武力を使ってでも防衛しようとする。暴力的で野蛮な本質をむき出しにする。
 もちろん、「グローバル企業の安全保障」と言っても、かつての19〜20世紀初めの帝国主義戦争の時代とは時代も情勢も異なる。手当たり次第の侵略戦争や武力攻撃というよりも「帝国主義秩序の維持」「米一極支配」全体とすれば、グローバル企業がやりたい放題に海外活動できる「世界秩序」、軍事力を背景にした軍事覇権を意味する。だから、世界各国のグローバル企業は、激しく相争っていると同時に、米の一極支配秩序、あるいは西側帝国主義秩序の維持を共通して要求し、世界の不安定化、途上国紛争に対しては帝国主義的グローバル企業として共通の「安全保障」の衝動力を持っている。

 以上の、ABから、日本のグローバル企業の利害・要求・戦略として、一方で国際競争力の強化戦略としての新自由主義的「構造改革」、「高コスト是正」があり、他方で「グローバル企業の安全保障」としての海外派兵=武力行使をも辞さない米一極支配維持への強い衝動力がある。その意味で、新自由主義と新軍国主義はグローバル企業の利害・要求・戦略として一体のものなのである。


(2)日本のグローバル企業の巨大化と日本の政治経済におけるポジション。

@ 小泉政権の中枢を占める。
 日本経団連の奥田会長を筆頭にトヨタをはじめ財界を牛耳るグローバル企業は、小泉政権の各種審議会・諮問機関など中央政府の内外政策を決定する機関を掌握し、「構造改革」の内容と方向性をリードし、マスコミに対する影響力を決定的なものとしている。

A 日本のグローバル企業の日本経済における地位と影響力
 米欧のグローバル企業と肩を並べて日本のグローバル企業も、一国のスケールをはるかに超えて、世界的なスケールで、すでに飛躍的な発展を遂げている。規模・売上高も急速に拡大しているが、利益や株式時価総額、資金力は、それらをさらに凌ぐ勢いで、著しく巨大なものになっている。
−−海外現地法人の売上高は144.6兆円。対GDP比は29%(経済産業省「海外事業活動調査」03年度実績)。
−−日本の輸出額は60.4兆円。対GDP比は12%。これらを足せば205兆円、対GDP比は41%にもなる。
−−製造業の海外生産比率を海外進出企業ベースで見れば29.8%。これは進出企業の国内生産に対する比率では何と42.5%。
−−日本経団連の会長・副会長企業の25社の海外生産比率は平均で53%(「経済」04年2月号)、したがって25社に限れば海外生産の国内生産に対する比率は113%と、輸出向け生産を含めた国内生産をすでにかなり凌駕している。
−−自動車の海外生産比率が50%を越えた。 2004年の日本の自動車メーカーの生産台数は、国内が1051万台、海外が950万台。この10年間で国内は横ばいだが、海外はほぼ倍増した。主要5社では、国内生産が782万台、海外生産が783万台と、海外生産比率が50%を越えた。
−−製造業の海外現地法人従業員数は308万人。海外進出企業の国内従業員数が分からないので、第一生命経済研究所の04.9.22レポートの「業況がずば抜けて良い大企業製造業の就業者は労働力人口の4.6%」を利用すると306万人となり、何と国内と国外ほぼ同数になる。
−−海外を含めた連結営業利益ではトヨタ、日産、ホンダは、輸出を合わせると、「7割前後を北米で稼ぎ出している」(日経05.1.6)。上場企業の利益は、リストラ推進効果もあって、空前のものとなっている。
−−製造業の海外現地法人の売上高経常利益率はすでに国内を上回っているだけでなく、さらに上昇して過去最高となっている。
−−大企業製造業の海外投資の国内投資に対する比率は03年度予測で43%(日本政策投資銀行、朝日03.10.23)にもなっている。しかも中期的(概ね3年後)な設備投資についても、海外で増加させようという企業が、国内で増加させようという企業よりもはるかに多い(日本政策投資銀行04.11)。


(3)日本のグローバル企業の劣位・弱点と更なる海外進出・グローバル化への衝動。「東アジア経済圏」の追求と小泉の対米従属の軍事外交路線の行き詰まり。

@ 日本市場の規模の劣位。日本市場の規模は、米・EUの経済・人口に比べて、格段に小さい。経済規模は米・EUの1:1に対して、日本は0.4、人口は米を1とすれば、EUは1.35だが、日本は0.45にすぎず、グローバル企業の拠点としてはあまりにも小さい。米国がNAFTAを作り、ヨーロッパがEUを創設、それを拡大しているのに対して、日本は帝国主義の3つのセンターの中で最も立ち後れている。
 しかしこの立ち後れと弱点は、同時に日本のグローバル企業が、「東アジア経済圏」を必死になって作ろうとする衝動力にもなっている。言うまでもなく、この経済的衝動力と相反するのが、日本の小泉政府のアジア外交の行き詰まり・破綻である。
 
A 円の対ドル従属通貨、「ドル圏」としての政治的に低い地位。世界基軸通貨ドルに次いで、EUも基軸通貨ユーロを持った。日本の円だけがなおドルの従属通貨となってドル圏にとどまり、しかも「アジア共通通貨」へのどんな展望も持っていない。「東アジア経済圏」は「アジア共通通貨」あるいは、「アジア共通の通貨戦略」なしには構築できないのである。

B 軍事外交面での対米従属とアジア外交の行き詰まり。小泉政権は、米一辺倒の対米従属政策を取り、ブッシュ政権の軍事戦略にますます深く組み込まれ、日米軍事一体化を強めている。韓国・中国に対しては、侵略戦争と虐殺の歴史を真摯に反省・謝罪せず、靖国参拝と教科書改悪を続け新たな対立関係に入っている。とりわけ日本は、「2+2」の「日米共通戦略目標」において中国を初めて「仮想敵」と位置付け、中国の最も政治的に敏感な問題、台湾問題に言及するまでに至っている。中国との政治的軍事的な対抗関係にはまり込んでいるのである。

 従って日本のグローバル企業と小泉政権は、あくまでもこのまま対米従属路線を強化し、日米同盟最優先で政治外交・軍事・経済に至るまで全面的に米国に依存し続けるのか、中国をはじめアジアと友好・協力関係を強め、さらに経済的な一体性を深めていくのか。それ以外に道はない。しかし現在のところ日本のグローバル企業と小泉政権は、前者の道を突っ走っている。そして、今ようやく、小泉の内外政策の行き詰まりとともに、その対米従属路線の諸矛盾が顕在化し始めたのである。

2005年5月1日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


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