対北朝鮮戦争挑発の“道具”としての自衛隊法改悪に反対する |
◎「現場指揮官」の“暴走”、米軍への戦争権限の白紙委任を法制化
◎どう取り繕っても文民統制の完全な否定
◎対北朝鮮戦争挑発、東アジアの緊張激化を煽る「ミサイル防衛」 |
[1]今回の自衛隊法改悪は、日朝関係全体、東アジアの平和と安全全体の観点から捉えねばならない。 |
(1) およそ信じがたい危険で愚かな法改悪が行われようとしている。政府は2月15日の閣議で、弾道ミサイルをミサイル防衛システムで撃ち落とす権限を、防衛出動前に、しかも現場の指揮官に与える「自衛隊法改正案」を閣議決定したのである。公明党は与党としてこれを自民党と一致して国会に提出した。野党第一党・民主党も原則的に今回の改悪に賛成、有事法制の時と同様、またもや閣外協力で小泉政府を救済するつもりである。私たちは非常に危機感を持っている。反対の世論喚起を強めたい。
報道によれば同法案は、@弾道ミサイル等が我が国に飛来するおそれがある場合、防衛長官は首相の承認を得て破壊を命じる事ができる、A緊急の場合には、首相の承認を得ることなく部隊に破壊を命じる事ができる、と規定している。この法律案は露骨すぎるほど露骨に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を標的としている。しかも、どさくさ紛れに米軍の海外派兵に自衛隊が連動して行動できるように指揮系統を統一する統合幕僚監部創設も滑り込ませている。私たちはこの法案が極めて異常で、戦争を煽る危険な法案であると考える。
※自衛隊法改正、賛成で意見集約へ=民主(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050213-00000357-jij-pol
※民主、ミサイル迎撃、法案修正要求も=共産、社民は反対(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000747-jij-pol
※<自衛隊法改正>事後の国会承認が必要 民主・岡田代表(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000118-mai-pol
(2) まず私たちは、この法案を現在の日朝関係、東アジアの平和と安定の観点から、そしてイラク情勢を含めて考えなければならない。要は、今北朝鮮が米国との関係で、どのような位置に置かれているのか、である。
確かに北朝鮮は2月10日、「核保有」を宣言し、6カ国協議の無期限「中断」を発表した。しかしこれは第二期ブッシュ政権による「世界十字軍宣言」のような戦争政策に根本的原因がある。ブッシュは第一期に引き続き、就任演説や一般教書で相次いで米に付き従わない国を先制攻撃戦争で壊滅させる戦略を打ち出した。スローガンこそ「自由の拡大」「圧政の打倒」に変わったが、本質は第一期の「悪の枢軸」と全く変わらない。イラクが一段落すれば、今度は北朝鮮攻撃を仕掛けてくると考えるのは当然である。ブッシュ政権はあと4年も続くのだ。
朝鮮半島と東アジアの平和と安定のカギは米国が握っている。解決への課題は明らかだ。米が北朝鮮に侵略しない、金正日体制を力づくで打倒しない、国際法や国連憲章に違反してまで攻撃しないという当たり前のことを、要するにイラクのようにはしないということを米国が認めることである。ブッシュが北朝鮮攻撃の野望を捨てることである。北朝鮮は色々な奇策・術策を繰り返しているが、目的は「自国の安全」ただ一点なのだ。
6カ国協議を言いさえすれば「平和的解決」を意味すると考えるのは大間違いだ。6カ国協議は万能ではない。それが真に米朝間の友好善隣関係を目指すものであればいいのだが、北朝鮮に一方的に米への屈服を強いる圧力機関であれば間違いなく失敗する。現に米は口先で6カ国協議を持ち出しているだけで、本気で米朝対話を目指してはいない。イラク情勢が安定するまでの米の時間稼ぎの場にしているのである。米の政策転換なしには6カ国協議も前進しないことは目に見えている。
※北に降伏迫るのがブッシュ戦略=前統一相、米を批判−韓国紙(時事通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050218-00000478-jij-int この記事によれば、丁世鉉前統一相は、北朝鮮核問題に関連して「6カ国協議で米国は高濃縮ウラン計画にばかり固執した。交渉や妥協ではなく、北朝鮮を圧迫して降伏させるのが米国の基本戦略だ」などと述べ、ブッシュ政権の姿勢を批判したという。
※北朝鮮の資金源締め付け強化=ブッシュ政権が検討−米紙(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000583-jij-int
ところが小泉政府は、軍事も外交も対米追随しか出来ない状況に陥っている。口先では「対話と圧力」というが、やっていることは「圧力」ばかりである。今回の自衛隊法改悪も、拉致問題の遺骨鑑定を巡ってエスカレートしている経済制裁発動準備と一体のものである。国際的にも歴史的にも経済制裁とは戦争行為である。しかし政府与党も、大手メディアも、戦争行為に突き進んでいるという認識なしに、まるで素人のようなやり方をして平気で舞い上がっているのだ。
真偽が問われている政府の「遺骨鑑定」を鵜呑みにした与野党一致した経済制裁論議の沸騰、改正船舶油濁損害賠償保障法の施行、北朝鮮への送金・貿易の制限、北朝鮮籍船舶の入港制限、北朝鮮人権法制定策動等々。相も変わらず、毎日毎日、テレビ・新聞は反北朝鮮報道、経済制裁扇動で溢れている。このような北朝鮮敵視・封じ込め政策とワンセットで、ミサイルの発射攻撃体制を法制化すれば一体どうなるのか。まさにそれは戦争挑発同然の、軍事的緊張激化政策である。
今からでも遅くはない。政府は北朝鮮政策を根本的に転換し、日朝国交正常化交渉を即時無条件に再開すべきである。拉致問題の解決はそうした平和的外交的交渉の中で解決していくべきである。
※北、6カ国協議「無期限中断」 中韓通じて米、圧力強化(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050218-00000009-san-int
※日本自民党、北朝鮮人権法案骨格を確定(東亜日報)
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2005020522008
※経済制裁 貿易停止なら北GDP最大12億ドル減 自民試算(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050216-00000003-san-pol
[2]ありもしない「迎撃システム」に発射権限?!
経済制裁発動準備と連動する反北朝鮮キャンペーン。 |
(1) 今回の閣議決定は極めて異常で奇怪なものだ。法案は日本に飛来するおそれのあるミサイル等を撃ち落とす権限を防衛長官が現場の部隊指揮官に与えるというものだ。しかし、そんな迎撃システムは現在存在していない。現在存在しないだけではなく、今後数年間に確立し、稼働する事などあり得ないシステムである。
日本の自衛隊が導入しようとしているミサイル防衛の迎撃システムはイージス艦から海上発射するスタンダードミサイルSM−3と陸上発射のパトリオットミサイルPAC−3である。しかし、まだ導入は行われていない。陸上発射のPAC−3は2006年度から配備予定、SM−3は2007年度から開発開始にすぎない。現在迎撃できるシステムはないのである。
またPAC−3は射程範囲がわずか25km、空自に6個ある高射群に配備すると言うが、こんなもので「防衛」出来る範囲はたかが知れている。しかも政府はPAC−3が導入されるまでは現在のぺトリオットPAC−2で迎撃するというが、このミサイルがまともなミサイル迎撃能力を持っていない事は湾岸戦争で証明済みである。つまり「ミサイル防衛」とは、純技術的に言っても日本と国民を守るものではない。相手を挑発するためのものなのである。
※ミサイル防衛、配備前は現有のパトリオット2で迎撃(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050216-00000301-yom-pol
※ミサイル防衛 迎撃に民有地使用不可避 地対空 改正案に想定なし(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20050216/mng_____sei_____001.shtml
更に、今後導入予定で、米軍が現在配備しているシステムはミサイル迎撃用としては能力が全く足らず、用をなさない。そのためにSM−3では日本が「ミサイル防衛」で米軍と協力して開発しているのであり、「ミサイル防衛」のためのシステムはすべてまだ開発途中なのである。従って今後数年間、おそらく10年にわたってこの法律が想定する事態(迎撃)はやろうにもできないのである。たとえ将来ミサイル防衛の技術が進んでも、仮にミサイル迎撃の能力を持つようになったとしても、上昇のブーストが終わってから数分間に軌道を割り出し、目標を割り出す事は不可能に近い。技術的に非常な壁があり現実性があるのか大いに疑問視されているのだ。
できもしない法律を今なぜ、何のために作るのか。実行できない法律は通常は作らない。それをあえて作るのは異常と言うほかない。唯一考えられる目的は、経済制裁発動準備と並んだ、反北朝鮮キャンペーンの一環ということである。そして、それを口実に軍拡を進め、憲法第9条はおろか、シビリアンコントロール、はたまた首相のコントロールさえ取っ払い、自衛隊が勝手に武力行使=軍事行動を開始できるようにしようとしているのだ。
[3]現場の指揮官に“戦争権限”を与える危険。「軍部の独走」を法制化する異常な事態。「常時迎撃命令」という名の対北朝鮮戦争挑発。 |
(1) 自衛隊の「現場の指揮官」に“独走”権限を与える、戦争権限を与えるというのは明らかに文民統制の否定である。どう取り繕おうとも「現場の暴走」を法制化するような法律は作ってはならない。北朝鮮を持ち出せば何でもあり、の滅茶苦茶な論理である。
もう忘れたのであろうか。「軍部の独走」「現地関東軍の暴走」−−今こそ、戦前・戦中に天皇制軍国主義による朝鮮や中国への侵略戦争で必ず問題になったこの危険を想起しなければならない。「満州事変」のきっかけとなった柳条湖事件、日中戦争の引き金となった盧溝橋事件、いずれも関東軍の独断や陰謀が絡んでいるのだ。後述するように、現在の対米従属的な自衛隊の現状からすれば、「現地司令官」とは米軍のことである。今度は日本の戦争と平和を巡る運命が、関東軍の陰謀・謀略ではなく、米軍の陰謀・謀略の手玉に取られることになるのである。
※ウィキペディア 満州事変、日中戦争 http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E7%89%B9%E5%88%A5:Whatlinkshere&target=%E6%BA%80%E5%B7%9E%E4%BA%8B%E5%A4%89
法的に考えれば、この法律は「最高指揮官」である首相の承認なしに、「部隊指揮官」に武力行使の権限をなし崩しに与えようとするものである。日本国憲法は武力行使を禁じている。自衛隊法においてさえ武力行使は自衛のために、しかも首相が防衛出動を閣議と国会承認を得て宣言して後に初めて認めているにすぎない。過去の戦争の反省の上に立って、様々な制約が加えられているのである。この制約を一気に破ろうというのだ。たとえ文書の上で規則があったとしても、「現地指揮官」に武力行使(ミサイル発射や発砲)の権限をあたえることは、憲法違反であり、従来の政府見解や法律の体系を大きく覆すものである。
何を根拠に防衛長官や現場指揮官に武力行使権限があたえられるのか。政府や与党の説明では、「ミサイルは10分で飛んでくる」「緊急の際には首相の判断、防衛出動を待っている時間はない」ということだ。この説明は奇妙極まる。10分では間に合わないというが、現状では法律を作っても迎撃することはできないのだ。将来に向けて法律を整えると言えば聞こえはいいが、結局残るのは北朝鮮がいつミサイルを撃って攻撃してくるか分からないという不安と恐怖を煽り、国民を世論操作で脅すだけである。ブッシュは国民に恐怖を植え付けるやり方で、巧妙に戦争体制に釘付けにしてきた。「アルカイダが攻撃するぞ」「今度こそ本当にテロがあるぞ」「9・11を忘れない」等々と、米国市民をテロの恐怖でヒステリー状態にさせて戦争に協力させてきた。小泉政府が今やろうとしている事はまさにブッシュと同じ事なのである。
そして、対北朝鮮戦争挑発を煽り、戦争の危険性を高めた上で、結局最後に残るのは現場の指揮官が勝手に武力行使をできるという危険極まりない既成事実だけなのである。
(2) 更に、防衛長官は調子に乗ってとんでもない挑発的発言を行った。「常時迎撃命令」という名の対北朝鮮戦争挑発である。まず下記の自衛隊法改正案に盛り込まれた「弾道ミサイル破壊措置」(82条の2)の要旨を見てほしい。防衛庁は、この内の第3項すなわち、「おそれ」はないが、「事態が急変」する「緊急の場合」を例外的措置と説明している。しかし、大野長官は閣議後会見で「365日24時間(命令を出したまま)が理想だ。すき間がなるべくないようにやるのが長官の務め」と、3項による命令を出したままが望ましいとの考えを示した。つまり、この法律が成立すれば、防衛庁長官はすぐさま自衛隊の現場の制服指揮官に命令を出す、そして命令を出しっぱなしにして、いつでも迎撃ミサイルを発射できる状態を永続させるというのだ。
1 防衛庁長官は、弾道ミサイルなどが我が国に飛来するおそれがあり、落下による我が国領域での人命または財産に対する被害を防止するため必要があると認める時は、首相の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイルなどを我が国領域または公海上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。
2 長官は、前項に規定するおそれがなくなったと認める時は、首相の承認を得て速やかに命令を解除しなければならない。
3 長官は、1項の場合のほか、事態が急変し、首相の承認を得るいとまがなく我が国に向けて弾道ミサイルなどが飛来する緊急の場合における我が国領域での人命または財産に対する被害を防止するため、あらかじめ長官が作成し、首相の承認を受けた緊急対処要領に従い、自衛隊の部隊に同項の命令をすることができる。この場合において長官は、その命令にかかわる措置をとるべき期間を定める。
4 緊急対処要領の作成、及び首相の承認に関し必要な事項は政令で定める。
5 首相は、1項または3項の規定による措置がとられた時は、その結果を速やかに国会に報告しなければならない。
しかし「常時迎撃体制」とは「常時緊張体制」のことである。北朝鮮からみれば、日本海で演習下にあるイージス艦が、いつ迎撃ミサイルを発射するかわからない事態が生まれることを意味するのである。弾道ミサイルの対処は従来、交戦状態にあたる防衛出動発令下の迎撃が想定されている。現場の指揮官の判断でミサイルを発射できるという自衛隊法改悪は、北朝鮮に対する緊張を著しく高めるだろう。
※<自衛隊法>ミサイル迎撃手続き盛る改正案を閣議決定(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000029-mai-pol
※<防衛庁長官>「常時命令」状態が望ましい ミサイル防衛で(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000031-mai-pol
[4]誰が判断するのか−−隠されているウソ。「現場指揮官」とは米軍のこと。要するに米軍にミサイル発射=戦争権限を白紙委任するに等しい。
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(1) この法案を巡っては形式と実質にの間に大きなウソが隠されている。「現場の指揮官」とは一体誰なのか、ということである。政府はもちろん自衛隊のしかるべき責任者であると答えるだろう。しかしそれは真っ赤なウソである。実質は自衛隊の指揮官ではない。現在の軍事的常識から言えば、米軍のことに他ならない。新聞やTVでは決して暴露されない事実である。しかしここに重大な問題があることを知らねばならない。
真っ先に北朝鮮のミサイルを撃つのは海自のイージス艦である。海自ほど米海軍に従属した軍隊はない。アフガン戦争、イラク戦争では、自衛艦が米海軍の「給油所」になっていることは記憶に新しい。いつ、いかなる時に、いかなる形で、北朝鮮へのミサイル攻撃を行うかの判断をやるのは米軍なのである。最初から最後まで米軍が指揮するということだ。
もう少し詳しく検討しよう。法案には、「弾道ミサイル等が我が国に飛来するおそれがある場合・・・首相の承認を得ることなく部隊に破壊を命じる事ができる」とある。しかし、一体誰が「飛来するおそれがある」と認定するのか。現場の指揮官に武力行使(ミサイル発射)の権限を与えても、現場の指揮官はおろか、防衛長官さえそれが日本に飛んでくるかどうか判断する能力は持っていない。判断する能力がないのだ。
仮に北朝鮮がミサイルを発射する事態になったとする。その場合、具体的にはどうなるのか。シミュレーションすればこうなる。
@ 北朝鮮のミサイルに燃料が注入され、いつでも発射できる状態になる。−−これは米国の偵察衛星が判別する。
A 北朝鮮がミサイルを発射した。−−これは米国の早期警戒衛星が察知する。
B その後ミサイルは上昇し始めた。−−これはイージス艦等は判別する。
C 上昇段階が終わって軌道が確認され、目標地域が予測できる。−−これは米国の計算センター。
この最後のC段階で初めて、日本に向かっているのか日本を超えていくのかが分かる。あるいはミサイルか人工衛星かが予想できるのだ。こうした一連の軍事監視・偵察・判別能力を持っているのは誰か。日本ではない。米国だけが探知と予測のシステムを持っているのだ。日本の持つイージス艦やレーダーなどはそのごく一部の機能を受け持つだけだ。だから政府・防衛庁が「日本に飛んでくるおそれがある」といっても、それは米軍がそう言っているというにすぎない。これでどうして日本の国民に責任のある判断ができるのか。しかも一連の過程は全て私たちが知らないところで行われている。日本政府すらが知らないところで。全てが軍事機密で片付けられている。@〜Cまで、米政府は陰謀と謀略のやりたい放題である。日本政府に知らされるのは、結果と脚色が付け加えられた「情報」だけである。その意味では本当かどうか分からない「米軍のフィルターを通した情報」でしかない。
そこで次に考えねばならないのは、戦争権限の“白紙委任状”を託す、その意味で日本とその国民全体の運命を委ねる米国という国は一体どういう国なのかということだ。恐ろしいことに米国は軍事覇権と経済覇権を維持するためなら、ウソやでっち上げ、陰謀と謀略、果ては侵略や大量虐殺を平気でやる国である。私たちは今回のイラク戦争で嫌というほどこのドロドロとした卑劣さと傲慢さを見せつけられたではないか。ファルージャの悲劇を挙げるだけで十分だ。子どもや女性を何百人、何千人殺しても、それを「自由」や「解放」と言ってのける野蛮さである。「イラクの脅威」「大量破壊兵器」が全くのウソであったことは今では証明済みである。
こんな米国が、北朝鮮のミサイル問題についてだけ正直であると考える方がおかしい。北朝鮮を攻撃すると決断すれば、ブッシュは全てを正当化するだろう。撃ってもいないミサイルを撃ったというウソをつくくらい朝飯前である。しかし、一旦、自衛隊法を改悪してしまえば、「現場指揮官」という名の米軍に日本と北朝鮮の運命を託すことになるのだ。
「米国は嘘はいうまい」などというお人好しは、イラクの「大量破壊兵器」のウソで懲りたはずだ。それとも騙されても騙されても、“下駄の根雪”のように付き従うというのだろうか。朝鮮半島全体が廃墟と化すかもしれないのだ。日本とアジアが戦場になるかもしれないのだ。何をするか分からないブッシュ政権に白紙委任状を出すのは危険極まりない、あまりにもばかげたことである。後悔する前に、今回の自衛隊法改悪を何が何でも阻止しなければならない。
(2) 言うまでもなく、もしミサイルが米軍の艦船や他の地域を標的としていた場合に迎撃すれば集団的自衛権の行使になり、政府見解でさえ憲法違反となる。まして、ミサイルではなく人工衛星の発射実験であったりすれば、日本側の迎撃が新しい戦争の引き金を引く可能性がある。
ところが、その憲法違反になる集団自衛権の行使が、あろうことか今回の自衛隊法改悪案の中に巧妙な形で組み込まれている。集団自衛権の行使がわざわざ法制化されているのである。それは、「ミサイルを迎撃する要件」に秘密がある。「弾道ミサイルなどが我が国に飛来するおそれがあり、落下による我が国領域での人命または財産に対する被害を防止するため」という“抜け道”である。ミサイルやその部品が“飛来するおそれ”“落下の被害”があると想定されれば迎撃するというのである。だとすれば結果的に米国に向け発射されたミサイルでも、日本の領空を通過するだけで迎撃できるということになる。まさしく集団自衛権の行使そのものである。
※自衛隊法 自民、改正案を了承 ミサイル防衛 国会には事後報告(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050209-00000003-san-pol
[5]問題は「ミサイル防衛」そのもの。対北朝鮮攻撃、対中国軍事対決のエスカレーション−−日米軍事同盟が危険な段階に。
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(1) なぜ「ミサイル防衛」(MD)なのか。私たちは、今回の自衛隊法改悪に関する国会審議では、政府にMDの根本的な危険性を問いただすよう求めたい。MDは欠陥だらけであり、まだ実現可能かどうかもはっきりしない未完成の軍事技術である。本家本元の米国でも、その実現可能性については多くの科学者が疑問視している。現につい先日2月14日も、米の地上配備型迎撃ミサイルの飛行実験が失敗、これで連続して3回も失敗している。イラク戦費でMD関連予算の削減も重なり、MD体制の整備は大幅に遅れることは必至である。
※<米ミサイル防衛>迎撃実験、3回連続で失敗(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000018-mai-int
※日本のMD計画に影響ない 米国実験失敗で大野長官(共同通信)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000067-kyodo-pol 防衛長官や官房長官は、米が失敗したのは弾道が高いICBM型のもので、日本が導入を予定している短距離型のものは実績があると強弁するがとんでもないウソ・ごまかしである。MDの技術的脆弱性は、ブースと・フェーズ、ミッド・コース、ターミナル・フェーズの全段階に及んでいる。
にも関わらずブッシュはなぜMDに固執するのか。こんな訳の分からぬ兵器体系を開発し配備しようとするのか。それは第一に、MDに異常な肩入れをするラムズフェルドやチェイニーと巨大軍需産業の利益と繁栄のためである。MDは長期に渡り巨額の軍事費を投入する。計画さえ決まれば、それがどんなガラクタであっても米国の軍需産業と軍産複合体は長期に渡って潤すという訳だ。かつての冷戦時代のように米に対抗するソ連社会主義のような巨大軍事大国が存在しない現在、軍産複合体が巨額の利益を稼ぎその巨大な図体を維持するには、未完成でも何でも「カネの成る木」が必要なのだ。しかしこんな「死の商人」の金儲けのために世界の平和と安定が掘り崩されるのである。デタラメだと放置しておけない理由がここにある。
しかし第二に重要なのは、揺らぎ始めた米軍事覇権を維持し同盟国をつなぎ止める手段になるからである。そしてそこに、対米追随のチャンピョン小泉が食い付く“秘密”もある。デタラメでも未完成でも構わない。未来永劫、日本を対米従属国として米の内外政策に釘付けにし、その軍事力を米軍の「下請け」部隊に組み込む。そのためには米のMD体系に自らを進んで組み入れ、忠実な召使いのように、せっせと米のために働くことが重要なのである。
今から4年前、ブッシュは第一期政権誕生と同時に、米国への忠誠度を測るために世界各国にMDの受諾の是非を強要して回った。日本は一昨年末、2003年12月に自衛隊イラク派兵をほぼ期を一にしてMD開発・配備の閣議決定を行った。
日本とその軍事力である自衛隊を米と米軍にがっちりと組み込み、帝国主義的な対米従属同盟を一層危険で野蛮なものにエスカレートさせる−−これが“小泉MD”の狙い目である。だから私たちは、自衛隊法改悪に反対するだけでなく、「ミサイル防衛」そのものに反対しなければならないのである。
※ここではあえてMDの戦略的意味については詳しく触れないが、「ミサイル防衛は防衛的だ」というごまかしについて言っておかねばならない。この問題はすでに1970年代に米ソ間のABM条約で激しくやりとりされた軍事的常識に属する論争である。相手が発射するミサイルを迎撃するのだから「防衛的」というのがごまかしのミソである。しかしそれは攻撃ミサイルを保有していない場合にのみ成り立つ論理である。米軍は大量の攻撃ミサイルを持っている。そんな攻撃的侵略的で危険な世界最大最強の軍事大国が、迎撃ミサイル体制を完備すればどうなるか。完璧な「盾」を持った「槍」はその攻撃性を倍加するのである。従って米にとって「ミサイル防衛」は攻撃とワンセットなのである。「北朝鮮よ、お前のミサイルは全部落とせるぞ」「こちらの方からは自由に攻撃できるぞ」「言う事を聞け」という訳だ。日本のミサイル防衛が、米に加担し、その攻撃力を高めるためのものである事は明白である。米軍の攻撃力を倍加するために日本は米の片棒を担いでいるのである。
(2) 実は、以上のこれまで展開してきた話は、事柄の一面でしかない。しかし、問題は「戦時」である。今回の自衛隊法改悪のシナリオは全て、北朝鮮が先にミサイルを発射し、それを迎撃するという図式であった。「平時」に突如、北朝鮮からミサイルが飛んで来るという想定だ。朝鮮半島で、日本海で、東アジアで何が起こっているのかは触れられていない。しかし米国による対北朝鮮戦争はミサイルだけが問題になる生やさしいものではない。私たちはそれを2002年夏から2003年3月に至るブッシュの対イラク戦争の準備過程で目の当たりにしたではないか。
ブッシュの先制攻撃戦争戦略が対北朝鮮戦争でも問題になってくる。私たちは断言できる。米国は絶対に待たない。北朝鮮からミサイルが飛来するまで、軍事力の行使を待つような国ではない。もしあり得るとすれば、相手をトコトンまで追い詰め、開戦の「口実」にするために先に相手にミサイルを撃たせるという意図的な挑発の場合だけである。
−−「大義名分」は自由自在に決められる。今では北朝鮮自身が認めたのだから「核保有」が最も有効だろう。「北朝鮮の避難民保護」でも何でも構わない。何せ何もない所から「イラクの大量破壊兵器」をでっち上げたのだから。「しびれが切れた」とブッシュが戦争する決断をすれば、戦争マシーンは動き出す。
−−「即時無条件で核兵器を廃棄せよ」を目標に、まず第一段階で経済制裁、経済封鎖でどんどん追い詰めていく。
−−第二段階は軍事制裁である。期限を区切って、バンカーバスターで地下の核兵器工場を破壊すると脅す。
−−あるいは相手が屈服するまで軍事的包囲網を狭めていく。在沖縄・在日米軍基地は出撃態勢に入る。在韓米軍も韓国軍も出動態勢、緊急事態態勢に入る。日本海も、韓国沖も米日韓の艦船で一杯になり、全てが北朝鮮を取り囲む。
−−日本では先に強行成立させられた有事法制が動き出す。米軍が日本全体、日本国民全員を対北朝鮮戦争に総動員する。米軍が従順な日本政府を手玉に取り、自衛隊の指揮権も事実上持つ。反戦運動は弾圧され、在日韓国・朝鮮人の人々の動きも監視され弾圧される。そしてここで米日の、すでに翼賛化した大手メディアがフル回転する。好戦的な扇動、「大本営発表」で、北朝鮮戦争を煽り立てる。日本の全国民を思う存分扇動する。ヒステリー状態の一丁上がりである。
−−ここまで来ればあとは米によるちょっとした軍事挑発と陰謀・謀略で、開戦は可能になる。かかる米日韓軍事同盟による対北朝鮮戦争の非常態勢の下で、北朝鮮が挑発に乗って、ミサイルを発射しさえすればしめたものである。それを口実に一斉に襲いかかればいいのだ。しかし発射しなくてもいい。「米軍筋情報」として翼賛化したメディアにリークすれば十分だ。発射しなくてもこれで発射したことになる。
−−今回の自衛隊法改悪は、このような時に、政治的意味を持つかも知れない。米軍は「現場指揮官」の後ろで糸を引き、実際には日本政府・自衛隊と北朝鮮とのミサイルを巡る緊張激化をエスカレートさせる。開戦に向けた舞台装置になるかも知れない。その場合、それほど数も多くない北朝鮮のミサイルをまずは、日本海のイージス艦で迎撃し、次いで東京周辺の短距離ミサイルで迎撃できるという「仕組み」を国民に「説得」すればいい。たとえそれが「虚構」であったとしても。
以上に述べたシミュレーションはあくまでも事柄を単純化した一例に過ぎない。しかしいずれにしても、「ミサイル防衛」も今回の自衛隊法改悪も、米による対北朝鮮戦争の先制攻撃体制の一環をなすものであり、先制攻撃の敷居を大幅に低める危険を持つものなのである。
(3) だから、今回の自衛隊法改悪を、自衛隊法だけ、文民統制だけの問題で捉えてはならない。対北朝鮮戦争準備の一環、将来的には対中国軍事対決の軍事的テコとして危険極まりない役割を持つ「ミサイル防衛」という名のブッシュの先制核攻撃戦略を全面的に批判する中で批判しなければならない。MDは日本の将来の軍事外交政策の手を縛るものとなる。今一度、今回の自衛隊法改悪を通じて、ブッシュ戦略への加担の意味、日米軍事同盟全体のあり方、その将来を根本から問い直さなくてはならない。
ブッシュの戦争政策に追随し対米従属同盟を強化し続ければ一体どうなるか。簡単に決着は付かないにしても、イラク情勢が一段落した時が正念場である。ブッシュの攻撃対象がいつ何時北朝鮮に向かわないとは限らない。“一度惚れれば地獄まで”とでも言うのであろうか。無責任極まりないことだが、小泉政府は、なし崩しで事を進めようとしている。MDがあたかも機能するかのようにごまかし、こんな危険で曖昧なものに1兆円とも2兆円ともいわれる巨額の軍事費をつぎ込み「配備」を進めようとしている。そしてまだシステムの影も形もないのに、早くも発射権限を現場部隊にあたえる悪法を作り、「打つなら打ってこい」と相手を挑発する。現実からかけ離れたありもしない「北朝鮮脅威論」を騒ぎ立て、日本の一般民衆を騙して恐怖を植え付け政治的緊張を激化させる。等々。−−しかしブッシュが北朝鮮攻撃を決断した時、事態は急変する。まさにその時、自衛隊法が改悪されていれば、米軍が日本海と北朝鮮の目と鼻の先で軍事的プレゼンスを強化すると同時に、日本が率先してミサイル迎撃体制に入ることで、一気に日本と北朝鮮との政治的軍事的緊張は激化する。そして「現場指揮官」と言う名の米軍の指揮下で、日本は対北朝鮮戦争挑発の“先兵”にされるだろう。
それでなくとも日本政府と日本社会は、対北朝鮮問題については、極めて脆弱な局面にある。拉致問題を口実に侵略戦争と植民地支配の謝罪と補償は切り捨てたと思い上がっている。未だに在日韓国・朝鮮人に対する差別・抑圧は深刻である。
極右改憲論者である安倍・自民党副幹事長は次期総理・総裁候補と持ち上げられ、彼を中心とする対北朝鮮強硬派は政府与党の中枢を握っている。大手メディアも強硬論をぶっている。防衛庁・自衛隊では「北朝鮮脅威論」を煽れば軍拡でも海外派兵でも何でも通るという「学習効果」が生まれており、日本軍国主義復活の最も都合のいいテコになっている。等々。非常に際どい状況なのである。
だからこそ、対北朝鮮敵視政策、反北朝鮮キャンペーンは危険なのであり、反戦運動が譲ることの出来ない一線なのである。朝鮮半島、中国など周辺諸国、アジア諸国との対話と協力、いかなる問題も武力による威嚇や戦争ではなく、政治的対話と平和的外交的手段で解決する方向でしかアジアでの、日本周辺での平和と安定は生み出せない。軍事力で相手を叩くやり方は、平和も安定ももたらさず、際限のない戦争でしかない。ブッシュも小泉ももうそろそろイラクから学ばなければならない。
※迅速な迎撃体制整備 自衛隊法改正案を閣議決定(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050215-00000019-kyodo-pol
※<政府>自衛隊法改正案を了承 15日に閣議決定(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050214-00000109-mai-pol
2005年2月18日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
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