戦闘部隊派遣と戦闘体験、戦場での日米共同行動こそが真の目的−−
なぜ「人道復興支援」は隠れ蓑なのか?
○無理矢理殺し殺される状況を作る−−これが人道復興支援か!
○「水が欲しいなら宿営地に取りに来い」−−これが人道復興支援か!
○「人道復興」要員より多い戦闘要員−−これが人道復興支援か!
○米兵輸送、武器・弾薬輸送−−これが人道復興支援か!
○重火器を使い武力で「戦闘地域」を「非戦闘地域」に無理矢理変える−−これが人道復興支援か!
○劣化ウランの汚染と被曝を否定−−これが人道復興支援か!

(1)「派兵恒久法」体制へ向けた布石、「予行演習」。−−戦場での日米共同演習、戦場での殺し殺される体験こそが狙い。
 12月9日の自衛隊イラク派兵「基本計画」決定に続いて、同19日には「実施要項」が決定され、即座に自衛隊にイラクへの派遣命令が出されました。「年内に派遣」の「対米公約」を何としても守るために、26日には航空自衛隊の先遣隊が出発しました。1月早々には陸上自衛隊に派遣命令が発せられ、中旬には陸自先遣隊、2月中・下旬には陸自本体の派遣が行われようとしています。
 基本計画決定後の小泉首相の記者会見、および15日、16日両日の衆参両院閉会中審査、「実施要領」等を経て、小泉政権による戦地イラクへの海外派兵の「理由づけ」のでたらめさが益々明らかになりつつあります。ともかく海外派兵の既成事実を作りたい、「実績」を積み上げたい、憲法の根本原則「交戦権の破棄」を否定し集団的自衛権、戦地での米軍との共同演習に踏み込みたいという小泉首相の野望が露骨に透けて見えます。しかもあれこれのデマや「詭弁」を弄しながらも、憲法上、法律上の制約を「正面突破」しようという強硬な姿勢だけが見えます。

 小泉政権はなぜここまで強硬なのか。なぜ「人道復興支援」というウソ、ごまかしまでして、イラク派兵を強行しようとするのか。そこには単にイラクだけではない小泉首相らのもっと大きな、もっと長期的な狙いがあると思います。
 私たちが以前に紹介したように米軍の下請け部隊となって米国のグローバルな侵略戦争や軍事介入への参戦を可能にするための「派兵恒久法」が準備されているのです。「特別措置法」を継ぎ足していくのは面倒くさいと言うわけです。イラクでの経験はその「予行演習」のようなものなのです。小泉政権と自衛隊中枢、改憲派など保守反動支配層は、改憲前に改憲をやろうと政策転換をしたかのようです。
※「「恒久法」と日本軍国主義の新しい危険−−国際平和協力懇談会の「提言」について−−「自衛隊」のグローバルな侵略軍への変貌、ローカルな軍国主義からグローバルな軍国主義への拡大−−」(署名事務局)

 米軍指揮下のイラクで殺し殺される実績を積み、訓練を重ね、陸海空の三軍の戦場での統合を図る、いかなる指揮命令系統が必要になるか、如何なる兵器・装備体系が必要になるか、如何なる細かな法整備が必要になるか等々、今回の派兵を転換点として、形式的にではなく実態として米軍と共に「戦う自衛隊」=侵略軍への変貌を遂げようとしているのです。とりわけ自衛隊トップが主張しているのは実際の戦場での実戦不足です。当然でしょう。これまで日本は侵略を禁止されてきたのですから。彼らトップは戦場で自衛隊員に侵略軍としての戦闘体験を積ませようとしているのです。戦後反戦平和運動と平和憲法によって封じ込められ封印されてきた“軍隊の論理”が暴走を始めたのです。

 この暴走を助けているのが公明党です。公明党の神崎代表は、与党であり続けることを最優先し、創価学会の下部からの派兵反対や躊躇を無理矢理押さえ込むために自分がサマワに乗り込みました。そして「思ったより安全だ」とウソ八百を並べ、それを聞いた政府はこれ幸いと陸自の派遣日程を繰り上げました。自党を含む与党内の慎重論の「背中を押した」のです。文字通りの露払いです。しかし、たった3時間半の視察で、しかも自身が分厚い防弾チョッキを身につけながらどうして「安全」と言えるでしょうか。多くの護衛兵に囲まれて床屋にいくオランダ軍の指揮官のことを「単身で防弾チョッキも付けないで床屋に行ける」などとなぜウソまでついたのでしょうか。

 イラク派兵を強行する小泉政権の基盤は盤石ではありません。しかし、一方で派兵に関しては公明党の意外なまでの弱腰と腰砕けに意を強くし、また内政においても同党を抱き込み、改憲まで視野に入れた反動化と軍国主義化をこの際一挙に推し進めようという非常に危険な面が出ていることは事実です。私たちはこうした小泉政権の危険性を最大限警戒し、イラク派兵反対の闘いをしていく必要があります。いよいよ私たちの反対運動も正念場です。

 以下では、派兵の具体的な姿を明らかにした「実施要項」を中心にして、派兵の真の狙いを暴きたいと思います。イラクに派兵された自衛隊がどのような条件の下で、どのような活動をするのか、この間明らかになってきた現地での具体的活動を一つ一つ検証すれば、自衛隊の派兵が「人道復興支援」などではなく、イラクへの日本の軍隊の派兵実績作りであり、米英軍の占領体制を支援するためのものであることは明白です。


(2)「宿営地」という名の「要塞」。「人道復興」要員より多い戦闘要員−−「人道復興支援」の前提条件すらないところへ強引に派兵することの異常さ、滑稽さ。
 12月20日付の新聞各紙で報道された「陸自の活動像」を見ると、その異様さと「滑稽さ」に驚き、かつあきれると同時に、今回の戦地イラクへの自衛隊=「日本軍」の派兵が、まずは海外派兵の既成事実作りのために行われるものであることが容易に見て取れます。
 報道によれば陸上自衛隊はサマワから十数キロ離れた砂漠の真ん中に「宿営地」を設定しそこを活動拠点にするというのです。「宿営地」は数キロ四方を砂漠に囲まれ、2重の鉄条網と壕に囲まれ(そのうちCPAの施設のようにコンクリートの壁にも囲まれるでしょう)、赤外線センサーや監視カメラで厳重に警備された、まるで要塞のようなものです。

@ 陸自はその中で主な活動である「浄水・給水活動」を行うというのです。肝心の給水はサマワ市の給水車に「宿営地」まで取りに来させるのです。市民への給水を直接行うのは危険だからだというのでしょう。
A もう一つの重要な活動である医療支援活動は、自衛隊の医官や衛生隊がサマワの病院を回り技術指導をするというものです。病院への移動は装甲車などを使う予定です。
B 第三の活動である「学校など公共施設の復旧活動」は、作業場所を安全確保のために塀などで囲った中で行います。もちろん周囲に警備部隊を配置し、銃を市民に向けて警戒しながらの作業になるのでしょう。

 発表された部隊の構成も極めて異常です。部隊の性格は構成に現れます。その意味でも「人道復興支援」は全く口実、アリバイ的なごまかしにすぎないことがわかります。なぜなら派遣部隊のうち最も多いのは戦闘部隊なのです。550人中130人が戦闘要員です。派兵の「目的」である「人道復興支援」のための浄水・給水、医療支援、施設復旧の要員を全部合わせても120人にすぎません。後は司令部要員や輸送、整備要員です。後で述べるように空自の輸送部隊も米軍の直接支援が主たる任務になるでしょう。人員数から見ても戦闘目的が「復興支援」を上回っているのです。

 この異常さは何なのでしょうか。「実施要項」は陸自が戦闘に巻き込まれることを極度に恐れ、極めて厳重な、異常とも言えるほどの「安全対策」をとっています。隊員が殺されたときの政治的衝撃を恐れているのです。しかし、この「安全対策」は過剰とは思われません。これだけの対策を取っても安全は確保出来ないでしょう。なぜなら比較にならない重装備で防衛しているはずの米軍兵士が毎日死傷しているのですから。犠牲が出ることは避けがたいと思われます。
 問題は、そんなに異常と思われる場所に自衛隊を送ることにあるのです。なぜこのような体制を取るのか−−自衛隊が「臆病」だからではありません。たぶんイラクに派兵している多くの軍隊が同様の体制を取っているのでしょう。これは現地が明らかに戦闘状態にあることを示しているのです。本来「人道復興支援」などまだ全く問題にならないこと、米軍の不当な侵略と占領に対する人民大衆の抵抗闘争が戦闘として続いていことを示しているのです。本来ここに「復興支援」部隊を送り込むなどできないのに、できないことを無理矢理しようとするから、このような異常な形になるのです。


(3)米占領下で「人道復興支援」など出来ない。出来るのは「やっているように見せる」ことだけ。
 この自衛隊の活動のどこが「人道復興支援」なのでしょうか。小泉首相が自衛隊派兵の口実に掲げる「人道復興支援」は、現地の人々の感謝どころか、期待を裏切り不満を高めるだけでしょう。侵略・占領とそれへ抵抗の下で、侵略・占領軍である米軍に奉仕しながらの「復興」などあり得ないだけでなく、元々自衛隊には本格的な「復興支援」などできないのです。出来ることは、アリバイ的に「人道復興支援をやっているように見せる」ことだけです。首相らは「人道復興」の旗印を掲げれば、国民の目をごまかせると考えているのです。本当に悪質だと言えるでしょう。

 真の「人道復興支援」を考えるなら、イラクの現地住民、現地技術者を雇用することですし、むしろ彼らの方が自分たちの国のこと、自分たちの地域のことをよく知っているのです、米英の占領支配を今すぐ廃止し、米英軍、そしてこれから行く自衛隊を含めて「有志連合」軍を撤兵させてから、真のイラク人民の政権が出来てから、彼らの再建計画の下で、人道復興支援をやるべきなのです。
 とにかく米占領下では人道復興支援など出来ない、不可能なのです。もしそれでも人道復興支援をやるべきだと主張するなら、真っ先に人道復興支援を妨害し潰している米軍の占領中止と撤兵を実現すべきなのです。その実現以前の「人道復興支援」などごまかし以外の何物でもありません。

●今必要なのは武装した自衛隊の給水活動ではなく給水・浄水のインフラ整備。
 陸自の最も大きな任務とされているのは浄水・給水活動です。しかし、沖縄の平和市民連絡会の平良夏芽さんが紹介しているように、「サマワのライフラインはバグダッドの何倍も整っている」「水道も完備されており、きれいな水が出ている」「郊外には水道がなく給水車に頼る地域があるが、それは戦前からそういう状況」なのです。戦争によって浄水のインフラが破壊されて、その修理・再建までの場つなぎならともかく、最大でも1年しかいない者が一時的に浄水・給水しても何の復興にも成りません。かえって引き上げた後に困るだけです。必要なのは制裁下で老朽化したライフラインの復興のための資金援助です。そのために必要な人員、技術者はそろっている国なのです。軍隊が行って一時的に水を供給しても何の役にも立ちません。
 しかも水が欲しいなら「宿営地」まで取りに来いというのです。これは「人道復興支援」ではありません。危険はそっち持ちというのでしょうか。こんな傲慢不遜なことはありません。

●武装した自衛隊医官でなければならない理由はない。
 医療技術指導はもっと役に立たないでしょう。現地に病院・施設が不足しているわけでも、医者や看護婦がいないわけでもありません。足りないのは薬であり薬品であり、故障した医療設備です。医官が訪問したところで言葉も通じず、自分が継続して診察するわけでもなく何の意味もありません。もちろん日本政府は現地の歓心を買うために、自衛隊の派兵とリンクさせて病院への資金援助をするだろうし、自衛隊は持って行った薬を提供したりするでしょう。しかし、そこには自衛隊の医官でなければならない何の理由もないのです。機関銃を付けた装甲車に乗って、武装した兵隊に護衛された医者が病人や子供が一杯いる病院に乗り込んでくることを誰が歓迎するでしょうか。彼らが来ることで、病院さえもが攻撃場所になり巻き込まれて被害をうける可能性さえ出てくるのです。

●自衛隊工兵部隊が武装して学校建設するなど滑稽。現地イラクの技術者や建設労働者に任せるべき。
 学校や公共施設の復旧作業で自衛隊は何かできるでしょうか。確かに自衛隊には工兵部隊や施設部隊がいます。しかし、彼らの装備や訓練は戦争遂行のための工事です。陣地の構築や応急の橋や道路の復旧など、どれも戦闘になるのを前提にしており、長期にわたって使えるものを作るのではありません。カンボジア派遣の時でさえ道路補修工事は道をならしただけで、本格的な舗装をできませんでした。50人程度の施設部隊にできる工事はたかがしれています。しかも、イラクと現地サマワにこれらの復旧工事をする技術者がいないのではありません。技術者はいるのです、彼らを雇って仕事をさせるシステム、資材を供給するシステムを米国が戦争で殺戮し破壊したから復旧できないのです。自衛隊が行って武装警備しながら「修理」することは、軍隊に対する不信を植え付けるだけでなく、彼らの仕事を取り上げることを意味し、現地の人々の不満を燃え上がらせることになります。


(4)ねじ曲げられた現地サマワの「歓迎」報道のウソと虚構。−−本当のことが分かれば、強い不満、激しい怒りに一変するだろう。
 現地サマワからの報道は、まずは意図的にねじ曲げられています。NHKや民放で頻繁に流される「歓迎」報道の偏向姿勢は呆れ返るほどです。典型的なのは「自衛隊歓迎」の垂れ幕をめぐるウソです。これはすでにウソと「やらせ」であることがばれてしまいました。政府も報道各社も本当のことを言わずにインタビューしているのです。幾つかの報道でありましたが、実際には、米軍に加勢して軍隊を送ると伝えられると、彼らは「自分達のことは自分達で守る」と怒ってはっきり主張するのです。彼らは日本が仕事を持って来ると期待しているのです。良好な対日感情にはその期待があるのです。そこに軍隊がやってきて、今や厳しい弾圧者になったオランダ軍と一緒に行動するとすれば、また現地の人の仕事を奪えばどうなるか。強い不満、激しい怒りに転化することは容易に想像が付くことです。

 これが「人道復興支援」の実態なのです。どこに自衛隊でなければできない活動があるというのでしょう。また国連による経済制裁、湾岸戦争、今回のイラク戦争およびその後の占領統治の中で、インフラや民生部門まで破壊され、大量の失業者が出て生活苦にあえいでいるイラク人民、とりわけサマワの人々の真の「復興」に役立つ活動がどこにあるというのでしょう。

 今サマワでは何が必要なのか。−−先ず第一に職なのです。サマワではなぜ職を求める群衆がデモ行進をするのかをちょっと考えれば分かるはずです。ところがこの職を求める人々のデモに、治安を担当するオランダ軍が発砲し、激しい怒りと反感を買っていると言われています。最近ではデモ隊がオランダ軍に発砲する事態まで起こっています。自衛隊が直接治安活動を担わないとはいえ、同じく迷彩服を着た他国の軍隊がやって来て、アリバイ的な活動をして、あなた方のお役に立っているとふんぞり返り、なおかつ自分たちの職も保証しないと知ったら、その怒りが土足で踏み込んできた他国の軍隊に、オランダ軍と自衛隊に向かわないという保証はどこにもありません。現にサマワでは、自衛隊=「日本というハイテク国家の象徴」がやって来て、なお自分たちの職も保証されないなら(日本企業が進出してくると誤解している人々もいるという)、自衛隊に対する暴動が起こるだろうという噂さえ広まっていると言われています。


(5)大規模掃討作戦=治安弾圧作戦への直接支援−−武器・弾薬を含めた米軍物資・米軍兵士を輸送する航空自衛隊の活動。
 もう一つの問題は空自の活動にあります。彼らの活動は陸自のような「人道復興支援」などアリバイや隠れ蓑はないのです。政府は空自の活動のためにまともな調査もせずにバグダッド、バラド、モスル、バスラを「非戦闘地域」と認定しました。バグダッドは米軍輸送機をはじめ航空機が何機も被弾している戦闘地帯そのものです。その他の都市も「非戦闘地域」などと呼べたものではありません。しかしそんなことはどうでもいいのです。米軍に奉仕するためにはこれらの場所に乗り込むことが必要なのです。

 はっきりしていることは陸自が進出するサマワとこれらの地点は何の関係もないことです。最も近い南部バスラでさえ、サマワへはバスラ経由よりもクウェートから直接陸路を取る方が近いのです。空自が行うのは陸自の支援ではなく、米占領軍への軍事支援そのものなのです。
 そしてその米軍は今何をやっているか。−−それは「スンニ派三角地帯」を中心に、イラク全土で繰り広げている大規模掃討作戦、治安弾圧作戦なのです。それは“フセイン拘束”以来、残虐さと激烈さを一段とエスカレートさせているのです。一気呵成にここでゲリラ勢力の息の根を止めてしまおうとしているのです。航空自衛隊の輸送は、この「再戦争」状態の中に飛び込んで、イラク民衆の抵抗運動せん滅に加担するというのです。

 小泉首相は、記者会見では「武器・弾薬は運ばない」と断言しました。「実施要項」にもそう記しました。ところが国会答弁では「米軍に対しても、たまたま腰に弾薬を持っていた時、小銃を持っていた時、それをはずせと言えますか。それは武器・弾薬に入らないんじゃないか」「自衛隊活動に協力してくれる場合、一人も輸送してはいけないとはならない」とふざけた答弁を繰り返し、兵員の輸送は行うと言う風に変わりました。つまり「武装した米兵は運ぶ」、だから「米兵が持つ武器・弾薬は許される」とまで言い出したのです。もちろん元々、「一般の荷物と武器・弾薬の区別はできない」と言い逃れしようとしていたことは想像できたことですし、米軍側が命令する輸送物資を日本側が勝手に梱包を開封し検品することなど考えられないことでした。

 要するに空自は、米占領軍のためにクウェートからバグダッド、あるいはバラドやモスルなど「スンニ派三角地帯」で戦闘を続ける部隊に物資を届けるために活動しようと言うのです。もちろん、イラクの抵抗運動にとっては侵略者の軍事攻勢を支える活動ですから、許し難い敵対行為です。空自は、米軍の戦闘に必要な物資、交代や追加の兵員などの輸送を買って出たのです。イラク国内では道路は危険が伴い大部隊でしか移動出来ません。航空自衛隊は、空の便利屋、運送屋をして、地上での米軍の人殺しを支えようというのです。


(6)「ラマダン攻勢」以降、一段と強まったイラク人民大衆の抵抗闘争、ゲリラ戦争。−−自衛隊員に死傷者が出る可能性が飛躍的に高まる。
 これだけ厳重に砦(宿営地)の中に閉じこもっても、イラクの抵抗勢力が攻撃を決意すれば被害を免れることはできません。政府はそのことを認めた上で、つまり攻撃されれば犠牲が出るのはやむを得ないと初めから分かった上で自衛隊員達を送り込もうとしているのです。
 砂漠のど真ん中に「宿営地」を作って鉄条網に囲まれたところに引きこもっても、夜間に迫撃砲で攻撃されればどうすることもできません。しかもこの種の攻撃はイラクでは日常茶飯事なのです。たとえ移動を装甲車で行ったとしても、外に出なければ活動出来ません。そして外に出ればいつでも狙われる危険があります。更に陸上の輸送の場合、先頭と最後尾に装甲車を配置しても、中間の車両の多くは非装甲のトラックであり、これまた携行型のロケット砲で攻撃されたり銃撃されれば被害が避けられません。空自の輸送機が対空ミサイルで撃墜される危険に常にさらされているのは言うまでもありません。

 イラク全土が戦闘地帯であるが故に攻撃される危険を避けることはできないのです。単に一般的な危険だけではありません。10月〜11月にかけての「ラマダン攻勢」以降、イラク民衆の反占領闘争は一段と拡大強化され、従って占領軍側の死傷者も激増しています。自衛隊派兵はこのような新たな局面の中で行われようとしているのです。以前に比べて自衛隊員が殺される可能性が飛躍的に高まっています

 小泉首相や石破防衛庁長官は「危険はどこにでもある」「消防士だって危険だ」と例え話をしました。本当に腹が立ちます。戦場へ自衛隊を派兵する政治軍事問題、憲法問題、国際法問題等々、色々な問題をはらんだ出来事を、一般的な純国内的出来事と同列視することは許されないことです。全く次元が異なります。質の違う問題を、まるで同じ問題であるかのようにすり替えるのは、典型的な詭弁のやり方です。自衛隊員の命がかかっているのです。こんな形でふざけて、おどけてみせることしかできない政治指導者は失格です。

 政府と自衛隊が唯一頼っていると思われるのは(米軍でも、現地の治安を担当するオランダ軍でもなく)地元シーア派の自治組織です。現地はほとんどがシーア派住民です。不審な人物の発見、逮捕は地元頼みです。そして地元住民の歓心を買うために何でもしようというのです。新聞報道によれば政府はイラク復興資金1600億円の一部をサマワにつぎ込むと言います。そのカネで住民を雇い、地域住民の占領軍に対する不満を緩和し、貴重な雇用主になることで住民に守ってもらおうというのです。「復興支援資金」といえば聞こえがいいですが、カネをばらまくことで命を守ってもらい、軍隊の存在に目をつぶってもらおうと考えており、札束で横っ面を張るやり方をしてまで、政府はともかく自衛隊を送り米軍に協力したいのです。


(7)武力で「戦闘地域」を「非戦闘地域」へ変える−−重武装で踏み込む本当の意味。
 しかし、それでも自衛隊が攻撃されることは避けがたいと私たちは考えます。第一に、米軍の占領に協力し支える軍隊だからです。“フセイン拘束”後も反米・反占領の武力闘争は勢いがやみません。多くの人々は親フセインで戦うのではなく、反米・反占領のために、民族自決・民族解放のために戦っているのです。米英軍の占領の続く限り抵抗闘争は持続し強まるでしょう。最近の空爆まで含む大規模な「掃討作戦」(実際には大規模無差別攻撃)の横暴極まりないやり口を見ていればイラクの人々の怒りが高まるのは当然です。その米軍に協力する自衛隊はやはり敵なのです。

 第二に、シーア派の協力を取り付けられるかどうかも政治的には極めて不安定です。米軍自身がシーア派の多数派には権力を渡さない計画です。シーア派の「穏健派」、忠実な親米派にしか権力に関与させない。こんな状況下では権力委譲をめぐって米軍とシーア派の対立が深まることは必至です。シーア派の人民大衆の米軍への憤激も高まるでしょう。そんな下で、いつ自衛隊にシーア派の反感が向いてもおかしくはありません。それに失業や生活苦に対する、それをもたらした米英軍の占領に対する不満はすでに治安を担当するオランダ軍に発砲する程度に高まっています。

 自衛隊の安全をシーア派に依存するという政府の方針は極めて脆いと思われます。その破綻の結果として自衛隊が直面するのがイラクの武装闘争であり、更にはイラクの人民大衆と対峙する事態です。文字通り自衛隊がイラクの人々に武器を向け、公然と占領軍に転化する危険性が大きいのです。シーア派住民、イラクの人民と米英占領軍との関係が緊張すれば、自衛隊も緊張の矢面に立たされるでしょう。イラクの人々が敵意を持って見つめ、その人民の海の中からゲリラ的攻撃が行われれば防ぐすべはありません。そうなれば、自衛隊員にとって周囲全部が敵に見え、少しでも怪しいものは先に撃ち殺さねば自分が殺されるという恐怖に支配されるでしょう。いま、米軍兵士が陥っているのと全く同じ状況に立たされるのです。米兵が「解放者としてきたのに、なぜ襲われるのか」と落胆し嘆いたのと同じように、自衛隊員は「人道復興支援に来たのになぜ襲われるのか」という事態に直面するでしょう。

 これを加速しているのが自衛隊の重装備です。自衛隊はイラクへ最新式の装甲車両、機関銃、無反動砲、対戦車ロケット等を持ち込めるだけ持ち込もうとしています。その目的は石破長官が言うように、派遣された地域を「自衛隊の権限、能力、装備を持って、危険が抑止されて回避できる」地域に変えるために、ということです。何のことはない、「イラク特措法」が言う自衛隊活動地の前提は「非戦闘地域」ではなくて(長官は前置きに必ず「非戦闘地域」と唱えますが、結局は)自衛隊が派遣された地域を武力でもって「非戦闘地域」にしてやるということなのです。重装備になればなるほど自衛隊に攻撃をしかけるものは減るから安全だというのです。これは米英をはじめとする他国の軍隊の占領、横暴と闘おうとするイラク人民への暴力的弾圧、抑圧宣言に他なりません。米英軍と一体となってイラク人民への治安・弾圧を行うと言っているに他なりません。
 石破長官はまた、重装備の米軍でさえ狙われているのだから、装備を強化しても危険抑止の効果はないのではないかとの質問に、「相手が大きな破壊力を持っているなら、それを持っていかなければ抑止にならない」と答えています。武力はどこまでエスカレートさせてかまわないと言っているに他なりません。危険極まりない重大発言というべきです。

 イラク占領の中心である米軍は一体イラクで一体何をしているのか。それはゲリラせん滅を口実としたベトナム型、またはイスラエル軍型の大規模掃討作戦です。空爆やヘリ攻撃の再開、村や農地の破壊・焼尽、一般住民の家への虱潰しの家宅捜索、大量逮捕と拘束等々、つまり破壊と殺戮です。スンニ派デモ隊への無差別発砲など米軍の攻撃はますます無差別性、凶暴性を増しています。「再戦争」の声さえ聞こえます。米軍がこうした「作戦」を続ければ続けるほど、イラク住民の憤激は爆発し、米軍へのレジスタンス攻撃は激しさを増さざるを得ません。また「主権委譲」を前にしてイラク人同士の主導権争いも起こらざるを得ません。


(8)本気でゲリラとの戦いを覚悟するのか。−−「テロリストとの戦いは戦闘行為ではない」とうそぶく防衛庁長官の危険な発言。
 こうした戦争状況の中に割り込んできた自衛隊はイラク人民にはどう映ることでしょう。自分たちの国と国土の「復興」のために来てくれたなどと見る者はいません。米軍の支援部隊が増えただけ、占領軍への増援部隊が増えただけと映るでしょう。しかもこの部隊の顔は米軍の方にだけ向いており、全くイラク人民に向いていないのです。

 米軍がイラク人民への殺戮を続ける中で、石破長官は「戦闘行為は、国または国に準じる組織が、主体だから、テロリストの場合は戦闘行為にはならない」と、もし自衛隊に刃向かってくる者があっても「テロリスト」に過ぎないのだから、それに「反撃」しても憲法9条の禁止する「交戦権の放棄」規定を破っているわけではなく、それは「正当防衛」「緊急避難」の範囲だとうそぶいています。またそうした現場で撃つ、攻撃する、の判断は「指揮官が現場にいる時は指揮官の判断」で構わないというのです。こうして、他国軍隊の侵略・占領支配と闘うイラク人民の抵抗闘争・レジスタンスへの弾圧を易々と容認し、憲法9条をいとも簡単に破棄しようとするのです。ここには危険極まる小泉政権の本性が暴露されています。
 このように見ていくと自衛隊は一体何のためにイラクに行くのか。他でもない、やはり米軍と一体となって、イラク人民の治安・弾圧の一翼を担いに行くのだ、戦争をしに行くのだということなのです。


(9)「人道復興支援」を言うなら劣化ウラン弾使用による放射能汚染を認めるべき。放射能戦争への加担を今すぐやめるべき。
 政府が「人道復興支援」を言うなら、何よりもまず、米軍でさえ認めているイラクでの劣化ウラン弾の大量使用の事実を認めるべきです。サマワとイラクの人々の命と健康を破壊している深刻な現状を認めるべきです。そして放射能汚染、被曝の実態調査をやるべきです。放射能兵器の使用禁止、放射能戦争を即刻停止させることに率先して取り組むべきです。ましてや自衛隊を派兵して米軍のやった放射能戦争に加担することではない。被爆国の政府としてそれは当然の義務であり責任ではないか。私たちはそう考えます。

 ところが今ここに至っても政府はそれらに取り組もうとしていません。報道では、石破長官は依然として、@イラク戦争での米軍による劣化ウラン弾の使用は確認されていない、A国際機関の報告書についても、ガンなどとの関連は科学的に証明されていない、B世界保健機関(WHO)の報告によると、環境への影響は着弾地点の数十メートル四方に限定されている、と主張しています。(詳細は「イラク劣化ウラン情報No10」を参照してください)
※「イラクでの劣化ウラン使用を否定し続ける政府答弁−−自衛隊の「放射能測定器」携行のごまかし」(イラク劣化ウラン情報No10)

 石破長官がどう言おうと、私たちが最近招請したUMRCのドラコビッチ博士が語るように、イラク全土が劣化ウラン/ウランで汚染されています。しかもかつての湾岸戦争と違い今回の激戦地は砂漠ではなく都市部です。かつてと比較にならない大勢の劣化ウラン/ウラン被曝者がイラク全土に生み出されています。米政府に対して、劣化ウラン/ウラン弾の使用場所と使用量を明らかにさせ、その撤去と汚染除去、住民の健康調査、医療・治療と補償を要求することが必要となっています。

 言うまでもなくサマワも汚染されています。自衛隊員は行けば確実に被曝するでしょう。しかし、まだはっきりしませんが、政府は陸自に持たせる装備の中に、いわゆるポケット線量計を示唆しているだけです。被曝測定・被曝防護・被曝医療の体制を構築してから行かせるつもりは全くありません。この劣化ウラン対策の根本的欠陥についても、詳細は「イラク劣化ウラン情報No10」を参照してください。

 いずれにしろ小泉政権は衆院両院での閉会審査でも「はじめに派兵ありき」の態度に終始し、ウソ、詭弁を使ってでも派兵の実績を作り上げようと強硬姿勢をエスカレートしています。私たちは、国際法に違反し、憲法に違反し、さらには「イラク特措法」にさえ違反したイラク派兵を認めるわけにはいきません。

2003年12月29日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




■■付属資料■■■■■■■■■■■■

<12月15日 イラク支援衆院特別委での主な論点>

【首相の説明責任】
久間章生氏(自民);日本の国益とは何か。
小泉首相;多くの国がテロの脅しに屈して手を引いたら、イラクは民主的な政権として立
ち上がれるのか。日本はカネだけ出す、人的支援は勘弁してという状況ではない。国際社
会、米英と協力しながら、イラク人への支援を日本がしていくのは国益にかなう。

中谷元氏(自民);イラク問題での日本の国益とはどのようなものか。
首相;中東が安定すれば日本の貿易条件も改善する。

前原誠司氏(民主);大義なき戦争だ。(未発見の)大量破壊兵器についてどう説明するのか。
首相;国連憲章にのっとって大義名分があるということで米英を支持した。イラクが過去
大量破壊兵器を使用し、国連の調査団を妨害したことで、十分大義があると思っている。

岡田克也氏(民主);首相は国民に説明せずに、衆院選が終わったら(自衛隊)を出す、と決めていた。それが「説明責任を果たしていない」というのだ。
首相;選挙が終わって調査団が帰ってきた。報告を聞くと自衛隊が活動できる分野は十分
ある、ということで派遣を決定した。
岡田氏;米国が言うならどんどん自衛隊を出す。日米同盟がいままでと違ってきているこ
とに首相は説明責任を果たしていない。
首相;日米同盟を否定して民主党が本当に政権を取れるのか。それは非常に面白い議論だ。

【自衛隊の活動について】
西田猛氏(自民);自衛隊による大使館や邦人の防護はできるのか。
石破長官;憲法上全く許されないわけではない。国会の議論を踏まえ、勉強したい。

西田氏;自衛隊の国際平和協力に対する法整備の検討状況はどう進んでいるのか。
福田長官;国際平和のためにという枠組みの中であれば、かなりの活動ができる。来年中
じっくりと国会でも論議をいただいた上で、法整備を進めていきたい。

渡辺氏;自衛隊に脅威があった場合、どの時点で活動を休止するのか。
福田長官;(活動地域が)戦闘地域と判断されるようになれば駄目だ。非戦闘地域という判断が継続したとしても与えられた権限、装備、能力をもってしても、その危険を避け得ないということになれば駄目ということになる。

末松義規氏(民主);自衛隊が攻撃された場合、相手が分かるまで活動は続けるのか。
石破長官;抑制的に動くことになる。
末松氏;サマワで事件が起こった場合、撤退して南東部の他の地域で活動するのか。
石破長官;「実施要項」にABCDEFGと地域を書いたとすると、ABで活動を休止しても、CDでは
活動を行う余地はある。
末松氏;国内や海外の日本人を狙ったテロが起こった場合、自衛隊派遣をやめないのか。
石破長官;そういう判断はあってはならない。脅しを受けたから活動をやめると全部の国
が言い始めたらイラクはどうなるのか。

【なぜ自衛隊派遣なのか】
遠藤乙彦氏(公明);なぜ多くの危険を冒してまで、この時点で自衛隊が行くのか、国民は大半は納得できない。
福田長官;危険が予知される場合、法律上撤退するということもある。

【武器・弾薬の輸送について】
岡田氏;首相は武器・弾薬は輸送しないといい、官房長官は武装した兵員の輸送はやると
言った。
首相;自衛隊の諸君も武器を持っている。自衛隊を運ぶのに「小銃下ろしなさい」はでき
ない。米軍に対しても、たまたま腰に弾薬を持っていた、小銃を持っていた時、それをは
ずせと言えますか。それは武器・弾薬に入らないんじゃないか。
岡田氏;武器を携帯した米兵は運ぶのか。
福田長官;武器・弾薬を運ばないというのは、首相が人道支援、復興支援に重点を置きた
いということで明確に言った。運用上できるし、そうしたい。武器を運ぶのではなく人員
を運ぶのだ。武器・弾薬のために輸送しているのではない。兵員を運んだとしても、首相
が言う武器・弾薬を運ばないという趣旨に反するものではない。
岡田氏;米軍の運ぶ荷物をチェックしないのか。
石破長官;人道支援物資を中心に輸送する。武器・弾薬は運ばないときちんと言う。「ではそのニーズを日本に与えよう」「日本はそのニーズに応えて」となる。それがコアリション(調整)だ。それに合った仕事が回ってくる。お互いの信頼関係で担保されているのであり、日本として(武器・弾薬の輸送を)行わないときちんと言うことに何の問題もない。

穀田恵二氏(共産);掃討作戦を展開する米軍の兵員や物資を自衛隊が輸送すれば、米軍への支援活動になるのではないか。
首相;日本の物資が米英軍兵士に使われる可能性はあるだろう。安全確保の後方支援活
動としては物資の支援もあり得る。
穀田氏;人道復興支援活動であっても、占領軍と一体にみられ、自衛隊が標的にされると
の認識があるか。
首相;自衛隊であろうと民間人であろうと、テロリストはとにかくイラクを混乱させよう
という意図をもって無差別に攻撃している。

【非戦闘地域】
西田氏;米国などが戦闘行為を行っている地域でも自衛隊は活動できるのか。
石破長官;非戦闘地域で行われ、武力行使・威嚇に当たるものでなければ、理論的には
行い得る。

末松義規氏(民主);自衛隊が派遣されるサマワは、非戦闘地域という認識か。
石破長官;基本計画ではイラク南東部と記してあり、サマワと特定していない。例えていえば、サマワの現状は非戦闘地域である。自衛隊の権限、能力、装備を持って、危険が抑止されて回避できる地域になる。
末松氏;テロリストが乗り込んできて、ミサイル攻撃があった場合は戦闘地域になるのか。
石破長官;戦闘行為は、国または国に準じる組織が主体だから、テロリストの場合は戦闘行為にはならない。しかし、一時、活動の休止、待避の判断はある。

久間氏;イラクにはテロはあるが戦争状態ではなく、非戦闘地域はたくさんある。
石破氏;@戦闘地域で危険な所A戦闘地域だが安全な所B非戦闘地域で安全な所C非戦闘地域で危険な所――がある。戦闘地域すなわち危険であると混同するから、多くの混乱が生じた。

前原氏;イラクで戦争は終わっているのか。
首相;主要な戦闘は終結したが、完全に戦闘状況が終わっているふうに見ていない。危険な地域もあるだろう。
前原氏;戦闘地域があるということか。
首相;非戦闘地域は存在すると思っている。
前原氏;戦闘地域はあるか。
首相;非戦闘地域があるということは、戦闘地域はある。
石破長官;国または国に準じる組織の、組織的、計画的な武力行使があるかどうかで判断する。それがなければバクダッド空港であれどこであれ、非戦闘地域と評価されることはありうる。
前原氏;「実施要項」を出す時にどこが非戦闘地域かを明らかにすべきだ。
石破長官;どこまでの範囲で書くかを検討している。地名という形で区域を区切った形の定め方になるのは当然あり得る。

岡田氏;バクダッド空港は非戦闘地域か。
石破長官;非戦闘地域になるかならないかということは、国または国に準ずる組織の組織的、計画的な武力の行使が行われているか否かで判断する。非戦闘地域と評価されることはある。

岡田氏;バクダッド空港は7月以降に4回も攻撃されている。
石破長官;基本計画に書いてあるからといって、「実施要項」に必ず書かれるものではない。

赤嶺政賢氏(共産);バクダッド国際空港などはミサイル攻撃が繰り返されている。どのような状況で非戦闘地域と設定するのか。
石破長官;攻撃が極端に減れば非戦闘地域と考える要素になり得る。

【安全対策(装備を含む)】
小野寺氏;派遣される自衛官の安全確保は万全か。
石破長官;自爆テロは抑止力が効かない。(対応は)極めて困難だ。

久間氏;大掛かりな武器を持っていくことが武力行使になるとの誤解がある。
石破長官;自己を守るために必要な装備を持っていく。向こうが何を持っているか分からず、対戦車弾を使わなければ自分の身を守れないときに持っていかない方がよほど危ない。

太田昭宏氏(公明);特に陸自の派遣には慎重のうえに慎重を期すべきだ。
首相;基本計画を策定して「実施要項」は防衛庁長官を中心に検討している最中だ。いつどのような部隊を派遣すべきかは、政府のみならず与党とよく協力関係が維持できるように十分理解いただくよう努力したい。
石破長官;隊員が現地の人を不法に傷つけることがあってはならないが、迷い、ためらい、遅れで自分に被害が生じないようにしなくてはならない。

照屋氏;自衛隊が武器を携行するのは、武力行使を予想しているからではないか。
首相;危険な目に遭う準備はしないといけないが、武力行使をする、戦闘行為に参加するということと混同してほしくない。
照屋氏;重装備の米軍も狙われている。装備を強化しても危険抑止の効果はない。
石破長官;相手が大きな破壊力を持っているなら、それを持っていかなければ抑止にならない。

【自衛隊派遣と憲法、国際法】
前原氏;国連加盟国が他国を攻撃してよいのは、自衛権の行使と国連決議のあったときの二つだ。それ以外の先制攻撃は認めないという日本の立場は変わりないか。
首相;国際法上違法な武力行使を支持しないのは当然だ。

照屋氏;憲法前文と九条の武力行使の禁止との関係についてどう考えるか。
首相;前文は個々の条文の指針や理念を表す。九条と前文の理念をどう両立させていくかが日本に課された使命だ。国際社会の一員として責任を果たそうと考え、自衛隊派遣を決断した。

【劣化ウラン弾による放射線被害】
石破長官;@イラク戦争での米軍の使用は確認されていないA国際機関の報告書でも、がんなどとの関連は科学的に証明されていないB世界保健機関(WHO)の報告によると、環境への影響は着弾地点の数十メートル四方に限定される

【日米関係】
前原氏;米国が小型核開発に踏み切ろうとしている。
首相;いろんな議論があるのは結構だ。
前原氏;軽々しく答弁する話ではない。日本は大量破壊兵器をなくすという国連決議の提案国だ。米国に核は使ってはいけないとしっかり言うのが日本の首相のあるべき立場だ。
首相;懸念を持っていると表明している。
前原氏;ブッシュ米大統領に直接言ったのか。
首相;(米大統領と)話し合ったことはないが、外務省を通じて米国の国務省に日本の懸念を表明している。
前原氏;米大統領に直接言うべきだ。
首相;米国も核実験停止に協力している。どういう話題になるかはその時々で判断したい。
前原氏;米国に協力しない国は復興支援から外すという米国防副長官発言をどう思うか。
首相;米国一流の外交的駆け引きもあると思う。国際協調態勢をつくるため、ほかの国を排除することには感心しない。

岡田氏;いつ日米同盟の範囲を拡大したのか。
首相;日米同盟は大事だ。民主党は日米同盟を重視しなくて政権をとろうと思っているのか。日米同盟を否定して本当に政権をとれるのか。
岡田氏;国際社会を巻き込んでイラクを立て直さないといけない。
首相;国際協調をつくるよう日本は努力している。どうしろというのか。国連中心といっても国連が手を引いている。


<12月16日 参院外交防衛委員会での主な論点>

【復興支援】
佐藤昭郎氏(自民);イラク人道復興支援活動の意義は。
首相;資金的、物的、人的支援を主体的に考えていかなければならない。人的支援は、自己完結的な自衛隊しかできない。復興支援をすればテロをするという脅しに屈したら、一番喜ぶのはテロリストだ。テロリストの温床にしないためにも対決は覚悟しないといけない。

月原茂白告氏(自民);イラクにおける陸上自衛隊の給水活動は。
石破長官;サマワでは十二万の人口のうち五万人程度が水に困っている。人が一日に必要とする浄水を四・五リットルとすれば自衛隊は七十トンの浄水能力を持っているので一万六千人のニーズを満たすことができる。

【自衛隊派遣の意味、なぜ自衛隊派遣なのか】
若林秀樹氏(民主);カンボジアでの国連平和維持活動(PKO)の際、当時郵政相だった首相は「PKO協力法の国会審議では、血を流してまで国際貢献しようという議論はなかった」と言っていた。今とは百八十度違う。
首相;カンボジアに派遣された自衛隊は血を流す覚悟はしてなかったはずだ。汗を流すPKO活動に行くので、戦闘部隊と闘う想定はしてなかった。国内の一部から警官の方が亡くなった時に「自衛隊なんだから戦うのは当たり前だ」という議論が出た。その時、私は「話が違うじゃないか。協力法の趣旨は汗は流しても、血を流すという覚悟を持って自衛隊に行けとは言っていないはずだ」と。だからそういう話はおかしいと言った。
若林氏;なぜカンボジアの時はだめでイラクはやる必要があるのか。
首相;今回も戦闘行為に参加するとは言っていない。カンボジアの際は「死者まで出したが、自衛隊は血を流すのは当然だ」という議論があったから、私はそういう議論で出したのではないと閣僚として発言した。
若林氏;どういう心境の変化なのか。
首相;できることはやるというのが、一貫した私の考え方だ。

月原氏;自衛隊派遣は、わが国にとってどんな国益になるのか。
川口順子外相;一つは中東の大国であるイラクが不安定になると中東、世界の不安定を呼び起こす。二つ目はテロリストが暗躍し、近隣諸国や世界にテロが輸出され、テロリストの脅威が増大する。三つ目は石油の九割近くを中東に依存しているわが国の経済にも大きな影響を及ぼす。四つ目は中東和平へのマイナスの影響がある。

高野博師氏(公明);北朝鮮の核と拉致の問題が存在しなかった場合、イラクに自衛隊を派遣するという選択肢はあったのか。
福田官房長官;日米同盟関係が揺るぎないものだというメッセージを発することは大事だ。イラクの復興支援は国益に沿ったもので、国際的な合意に基づいた目標を達成するためのものだというのが基本だ。

【自衛隊の派遣時期】
佐藤氏;自衛隊派遣に向けた手続きは。
石破長官;判断はプロである自衛官が行う。責任は政治が取る。現場に赴く人がいろんな情報から判断して、(自分たちの)権限、装備、能力で行けると判断した時期だ。

山口那津男氏(公明);自衛隊派遣に関する自民、公明両党の覚書の趣旨をどう生かすか。
首相;与党との緊密な調整が、与党・政府一体として国民に理解を求める観点から極めて大事だ。

【自衛隊の活動範囲】
佐藤氏;近隣で活動するオランダ軍から救援の要請があった場合の自衛隊の対応は。
石破長官;どの国も自分の部隊は自分で守るのが当たり前だ。日本は人道支援に行く。オランダから要請があっても任務が違うので実際にそんなことは生じ得ない。
佐藤氏;自衛隊以外の日本人が誘拐された場合、自衛隊は救出できるのか。
石破長官;政府復興職員は安全が確保された地域で活動する。現地の治安機関に相談してどのように安全を確保するか議論をまず詰めるべきだ。

若林氏;専守防衛の観点から、自衛隊が大使館を守ってもおかしくない。
首相;どういう議論が起こるか考える必要がある。

【自衛隊派遣と憲法問題】
若林氏;なぜ憲法の前文の一部を派遣の論拠にしたのか。
首相;前文は憲法の理念、指針を示している。憲法に合致した大義名分のある自衛隊派遣だと言いたかった。

大田昌秀氏(社民);イラクに武装した自衛隊を派遣することは海外派兵に等しい。日本の戦後史における一大事件だ。
首相;今や裁判所の判断を待つまでもなく、大方の国民は自衛隊は憲法違反でない、合憲だと判断しているのではないか。自衛隊派遣も大方の国民の賛同を得て定着してきた。自衛隊を派遣することは憲法違反だと思っていない。

【安全対策】
佐藤氏;武器使用基準を緩和する必要はあるか。
石破長官;我々が行うのは治安維持活動でなく人道支援だ。正当防衛でも緊急避難でもなく、武器を使用しなければならない必然性があるとは思えない。
佐藤氏;自衛隊の安全確保策は。
石破長官;部隊行動基準(ROE)を定め、任務の確実性を図る。

榛葉賀津也氏(民主);現場で撃つかどうかの判断は可能か。
石破長官;現場に指揮官がいる時は指揮官の判断だ。実施区域を変更することになれば、防衛長官の判断を待つことになるが、避難する時に判断を仰ぐ必要はない。
榛葉氏;イラクの治安状況をどう認識するか。
首相;かなり厳しい状況にある。フセイン元大統領の拘束が、イラクの治安安定に向けての大きな一歩であると期待する。

小泉親司氏(共産);自分で安全確保できない復興支援職員がイラク全土で活動するのに、自ら安全確保できる自衛隊の活動がイラク東南部に限定されるのは理屈として反対ではないのか。
福田長官;確かにごもっともな話だ。今後具体的な活動は調整していく。治安状況を十分に見極め活動の性格などを考慮した安全対策を講じ、活動する職員の安全確保を前提に慎重かつ柔軟に実施する。

田村秀昭氏(民主);自衛隊は危険な所に出ていくべきだ。
福田長官;指摘の通りで、だからこそ(自衛隊は)色々な攻撃、危険に備える訓練をし、自衛を中心とした武器を持っている。

【政治責任】
榛葉氏;自衛隊員が死傷した場合の政治責任は。
首相;イラク人から必要とされる任務を立派に果たし、無事帰国してもらうのが私の責任だ。

【武器・弾薬の輸送】
小泉氏;自衛隊は武器・弾薬も輸送するのか。
首相;基本計画では輸送できるが、「実施要項」でしない(ことを明記する)。政策判断として運ばないと宣言している。兵員が武器を携行している場合、兵器を輸送する時まで武器・弾薬の輸送とは言えない。
石破長官;現地では自衛隊がどのようなものをどれぐらい運べるかを提示する。「それならばこういうものを運んでもらおう」となる。それが信頼関係に基づくコアリション(同盟関係)だ。それを信用していかねばコアリションはそもそも成り立たない。
小泉氏;拳銃、ライフル、小銃は米兵とともに輸送できるのか。上限は何か。迫撃砲や無反動砲も運ぶのか。
石破長官;米兵が自らの身を守るためにというものであれば拳銃、小銃、ライフルまで含むというのが軍事的な常識の範囲だ。何が上限かというのは議論があり、今、答えられる段階ではない。

【日米関係】
高野氏;日本は日米同盟にがんじがらめにされず他国との同盟も考えるべきだ。
外相;米国と引き続き同盟を維持するのは重要だが、必ずしも常に追随するということではない。フランスのように表で「意見が違う」と言うやり方もあるが、日本としては米国の傍らに立って意見の違いを伝え、方針を変えてもらうという選択をしている。

斎藤氏(民主);米国の小型核兵器の研究に対し、日本は抑制する立場でなければいけない。
外相;米国からは開発、生産につながらないと説明を受けている。「国際社会が持っている様々な懸念を認識してほしい」と米国には伝えている。

【イラクの現状】
月原氏;今、復興に携わる各国がイラクから引き揚げたら、どうなるか。
外相;中東の重要国であるイラクの安定に問題が起きれば、中東全体の安全にも影響が及ぶ。テロリストの暗躍を更に悪化させ、わが国の平和や繁栄にも大きな影響が及ぶ。