「教育改革タウンミーティング」で「やらせ」発言を組織的に計画 安倍自身が関与。内閣府・文部科学省が教基法「改正」支持の世論をでっち上げ −−政府の不当な介入を禁じた教基法10条違反そのものだ−−
(1)発言者の依頼、発言の内容や方法、発言者の指名まで計画的に組織
9月2日に八戸市で開かれた「教育改革タウンミーティング」で内閣府、文部科学省などが教育基本法の「改正」案に賛成する内容で発言者を依頼し、発言内容や発言の仕方まで指導し、さらに確実に指名し発言できるように現場での席の確認まで指示していたことが明らかになった。政府の教育基本法改悪案があたかも国民から支持を受けているように「やらせ」発言で世論をねつ造しようとしたとんでもない行為だ。安倍政権が、およそ教育や「規範意識」を語る資格がないことを見事に示すものである。野党は直ちに政府の責任を追及する姿勢である。他のタウンミーティングを含めて徹底した調査を行うよう要求している。
政府は事実そのものを認めざるをえなかった。土肥原洋・内閣府大臣官房総括審議官は11月1日の同特別委で「参考資料は内閣府が作成したもの」と答弁した。塩崎官房長官も事実の調査を命じた。安倍首相は2日、「国民との対話の場であり、双方向で意見交換できる大切な場だから、誤解があってはいけない」と記者会見で答えた。
しかし、その程度のことですませられるような問題ではない。ことは極めて重大な問題である。やらせで「世論」をねつ造しようとしただけではない。教育基本法改悪について青森県教育庁、三八教育事務所、さらには中学校長という政治的中立を保つべき教育行政が、内閣府、文部科学省の「やらせ発言の組織」「世論のでっち上げ」に全面的組織的にに協力したということである。教育基本法改悪という自分の政策の目玉をごり押しするためには何でもやる安倍首相と内閣府、文部科学省、さらには関与した教育行政、校長らの責任を全面的に明らかにさせなければならない。
(2)安倍首相(当時の官房長官)自身も深く関与
何よりも安倍首相の「誤解があってはならない」等という言い逃れを許してはならない。9月2日の教育改革タウンミーティングは小泉内閣下で行われたのであり、内閣府の責任者は当時官房長官であった安倍自身である。自分自身で「やらせ発言」を組織しておきながら、他人事のように「誤解があってはいけない」などというのは許されない。当然、直接の責任者として事実を認めさせて謝罪させ、責任を取らせなければならない。
この事件は内閣府の指示に基づくFAX2通が暴露されたことから発覚した。一通は三八教育事務所(三戸八戸教育事務所か)からある中学校の校長に対して送られたものであり、もう一通は青森県教育庁教育政策課情報広報グループが同じ校長に送付したものである。そのFAXをみれば、土肥総括審議官が言いつくろっているような「出席予定者に参考として」流したような代物でないのは明確である。まず、二つめのFAXでは「このたびは、タウンミーティング開催にあたって発言者を選んでいただき誠にありがとうございます」と、この校長が、青森県教育庁の指示か要請に基づいて「発言者」を選定し、出席と発言を依頼したことが明らかになっている。要するに教育行政と校長の組織ぐるみで「やらせ発言」をでっち上げたわけだ。第二に、はじめのFAXは校長宛だが、「この選定された発言者」(この中学校のPTA会長)に対して「タウンミーティング八戸質問項目案」として三つの項目について質問内容を詳しく書き、その上で「当日Aの質問をお願いします」「質問者のお名前をお知らせください」として、この「発言者」に2番目の質問にそって発言するように指示を出し、それを校長に伝えるように依頼しているのである。とうてい参考にどうぞというようなものではない。
*内閣府「やらせFAX」の全文を読む−−保坂展人のどこどこ日記(2006年11月2日)
http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/892f6decbde7a57b756cb5d6dd7aa115
(3)2通のFAXが示す、詳細に作成された「台本」と役回り
このFAXを読めば、当然の疑問として@とBの質問項目については他の「発言者」をでっち上げ、割り振ったのではないかと疑わせるが、その疑い通りの「やらせ」が行われたことはタウンミーティングの議事要旨を見ればわかる。
Bの項目については「教育の原点はやはり家庭教育だと思います。・・・」とはじまるFAXの文面そのままに「教育の原点は家庭教育だと思いますが・・・」とはじまり、そのあとも「教育基本法(改悪)案には家庭教育の規定が追加されており、大変期待している」「教育は学校、家庭、地域がその役割を明確にし取り組みをしなければならない」とBの項目の内容に即して「主婦」(この方もPTA関係者なのだろうか)が発言している。
「時代に対応すべく、教育の根本となるべき教育基本法は見直すべきだ」という@の「質問項目」についても「法はぞれぞれの分野で、時代に即して変えていくべきだと思う」「現行の教育基本法も、見直すべきところは見直して、早急に変えて欲しい」と建設業でPTAの役員と称する人が発言している。
FAX暴露の契機となったAの項目(公共の精神、社会の形成者などの視点が必要、個の尊重は「わがままかってで、教育のあり方を見直すべきという内容)を割り当てられた中、この学校のPTA関係者は急用ができたために会場に遅れ、入れなかったために発言できなかった。
内閣府のタウンミーティングイン八戸議事要旨を見る限り、内閣府の指示に従ってはじめから政府を支持するやらせ発言が準備されたでたらめなタウンミーティングであったことは明らかである。会場からの発言では現行教育基本法を守るべきだという声もあったが、形だけ記録に残す程度であり、政府、与党の主張の口移しと思われる「愛国心教育が必要」などの発言があるが、これらも上から作り上げられた翼賛タウンミーティングの可能性さえありうるのである。
*教育改革タウンミーティングイン八戸議事要旨
http://www8.cao.go.jp/town/hachinohe180902/youshi.html
さらに深刻なのはもっと周到な、手の込んだ工作が行われていたことである。発言内容を指定した発言者が準備されただけではない。更に、内閣府や文科省によるやらせであることがわからないように、あたかも一般の人の発言であるかのように見せかけるために、発言者にはどのように振る舞うべきかまで指図されているのである。
「文部科学省(内閣府経由)での発言依頼者について、内閣府から以下の通り発言の仕方について注意がありましたので、発言を引き受けてくださったPTA会長さんにお伝えいただきたいと思います」
「○依頼発言についての注意事項について
・できるだけ趣旨をふまえて自分の言葉で(せりふの棒読みは避けてください)
・(発言していただく内容は別紙の通りで、Aについてです)
・「お願いされて・・・」とか「依頼されて・・・」というのは言わないでください。(あくまで自分の意見を言っている、という感じで)」
と、詳細にわたって注意が与えられている。ここまで露骨にやられると、よくもここまで市民をこけにしたものだとあきれ果てるばかりである。この文面を見ると、発言依頼を行ったのは文部科学省で、それがタウンミーティングの主催者である内閣府(その責任者は当時の安倍幹事長)を経由して、県教育委員会、築教育委員会、さらには中学校長を通じて発言者の選定が行われたことがわかる。そして、このルートを通じて内容や振る舞い方に関してまで指示がなされているのである。
青森県教育庁教育政策課が送った第2のFAXは、文科省の依頼の発言者が会場で確実に指名されるように周到な指図がなされていることを暴き出している。「また、当日の受付で本人を確認し、文科省依頼の発言者については文科省の担当者が後を追っていき、座席の位置を確認します」「なお○○さん(出席できなかった前述のPTA関係者)は「文科省依頼」に該当していますので、よろしくお願いいたします」となっている。発言者がどこに座っていて、いつ指名すればいいかまで台本ができあがっているのだ。このあきれ果てるばかりの茶番劇が安倍の言う「国民の意見を聞く機会」なのである。
(4)徹底的な真相究明と責任者の処罰を−−安倍は責任をとれ
しかし、この問題を茶番劇に終わらせてはならない。文部科学省、内閣府の指示の下に、政府・与党が進める教育基本法改悪について、発言者の選定と依頼、発言者への内容の指定、発言者への注意まで県教育庁、地区教育事務所、中学校長が組織的にかかわって行ったのである。FAXは個人名でなく、すべて教育庁教育政策課情報広報グループ名、三八教育事務所名でその事務所から当該校長に行われている。当該校長も教育行政からの指示か依頼に基づいて個人ではなく、その地位にあるものとして行動しているのである。
まず、文部科学省、内閣府は「国民の意見を聞く」体裁を取りながら、実際には国民に政府・与党の教基法改正は必要であるという見解を押しつけるためにやらせ発言を組織した責任を取らなければならない。安倍自身が当時の内閣府の最高責任者として責任を取らなければならない。民主主義とは政府が世論を工作し、勝手に世論を作り上げ、国民をないがしろにして自由自在に引き回すことであると考えているのか。安倍政権は、今回の事件だけでなく、NHKに拉致問題で放送を命令するやり方など、メディアや世論操作で国民など何とでもできるという傲慢な態度が何度も何度も顔を出している。国民を愚弄し、民主主義の根本を破壊した責任を首相自ら取らなければならない。そもそも最初に誰が指図・命令したのか、途中で誰が関わったのか、どの範囲に働きかけたのか。でっち上げを組織したのは「八戸」だけなのか。それとも全国で行われたタウンミーティング全てで計画されたのか。等々。−−これら一連の事実関係の全体を明らかにし、それに伴う責任をとらせ処罰しなければならない。中でも、当時の内閣府の責任者である安倍の責任は重大である。
(5)露骨な教基法第10条違反。教基法改悪を阻止しよう
県教育庁、教育事務所、中学校長は当然地方公務員として政治的中立の立場を厳正に遵守しなければならない。政府案と言うだけでまだ成立もしていない法律案を勝手に国民に押しつける、そのためにまるで教基法改正が「世論」であるかのようなタウンミーティングをねつ造することは明白な中立違反である。これにかかわった職員がすべて地方公務員法に違反する疑いがある。同時に、単に公務員であるというだけでなく教育公務員である校長は、更に厳正な中立性が要求されるのに、それに違反している。教育行政どころか政府・文部科学省自身が学校現場に介入し、その責任者である校長に教基法改悪の立場に立って、発言者の選定、依頼、発言の指定、注意まで行い、あるいは仲介している。これは現行教育基本法第10条の禁止している「不当な介入」そのものではないのか。生徒に対する教育に今回はかかわらなかったというだけで、この校長の行動は保護者に対して校長として特定の立場から働きかけており、その行動は教育活動の一環として校長という地位にあるものが行ったことは明白である。個人が学校から離れて個人的に行ったのでは絶対ない。校長は教育現場にあるものとして、「不当な介入」と闘わず受け入れた責任を明らかにすべきであり、教育行政、政府は現場に対して教基法に反して不当な介入を行った責任を自ら明らかにしなければならない。個人の行為などとごまかすことは許されない。
行政の上意下達のラインを通じて、政府の望むとおりの内容−−愛国心や政府への忠誠、政府の考える規範意識など−−を教育現場で教えさせようというのが、右翼思想に貫かれた安倍首相の望みであり、教育基本法改悪の狙いである。現に改悪案ではこの10条は全く骨抜きにされ、国家権力=教育行政が学校現場を全一的に支配する道が開かれている。今回の「やらせ発言」事件こそ、間違いや偶発的な事件ではなく、安倍政権が望んでいること、目標としていることそのものなのである。学校を政府と教育行政の言うがままにさせておけば、このような事件が日常茶飯事となって繰り返され、市民はそれに踊らされ、洗脳されることになる。
安倍政権は臨時国会の最大の目玉として念願の教育基本法改悪を強行しようとしている。今週中にも「審議時間は十分取った」と強行採決に進もうと狙っている。しかし、この事件こそ教育基本法改悪をめぐる政府のやり方がいかに汚いものか、またそのために使った手段が学校を政府の支配の道具にする改悪案がいかに危険かを示している。こんな教育基本法改悪案を絶対通させてはならない。思わず本音が暴露されたこの事件を徹底的に全面的に追及しなければならない。
2006年11月5日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局