2004年度「防衛」予算案批判――
“自衛隊の侵略軍化”を予算面から裏付ける
○米の対北朝鮮先制攻撃体制を補完する莫大なBMD導入費。
○「テロ対策」口実に国内の治安弾圧関係費全般を増額。


 私たちが来年度「防衛」予算政府案を見て真っ先に感じたのは、これはもはや「防衛」予算ではないということです。これまでも私たちは「防衛」予算という名の軍事費を問題にしてきましたが、どちらかと言えば、「軍事費GDP比1%枠突破」など、急増するその量的エスカレーションを批判してきました。しかし今回は全く異なります。今回は“量”つまり“額”だけの問題ではなく、最大の問題は“質”なのです。

(1)これはもはや「防衛」予算ではない。問題は予算の“額”だけではない。“質”の大転換が最大の問題に。
 12月24日午前、政府は2004年度予算を閣議決定しました。予算のうち「防衛関係費」は総額で4兆9030億円、対前年度比で0.1%の減となっています。4兆円という規模、“量”“額”も巨額であることに変わりはありません。一般歳出の他の項目が軒並み減になっている中で、この下げ幅は決して大きなものではなく、最も小さなものである位ですが、マスコミ各紙は「防衛予算」の減をことさら強調するか、まったく無視するか、いずれにしてもこの予算の「聖域」視、もしくはタブー視する傾向の強まりが感じられます。それは内閣によるBMD導入決定に対して批判するどころか、歓迎を示したマスコミの姿勢とも符合しています。警戒すべきことです。

 財務省の主計官は来年度「防衛関係予算のポイント」を次のように説明しています。「テロや弾道ミサイル等の新たな脅威への対応という重要課題に重点化を図りつつ、物価・賃金動向を適性に反映し効率的に努力して編成」というものです。「テロや弾道ミサイル等の新たな脅威への対応」――これこそまさしく今年度版『防衛白書』に記された柱です。来年度予算政府案は、きわめて政治的、イデオロギー的であった今年度『防衛白書』で宣言された防衛庁・自衛隊の今後の軍事戦略を、予算面で裏付ける第一歩となっています。

 今年度版『防衛白書』には周知のように2本の柱がありました。すなわちまず最初に、「米軍のグローバルな海外派兵」「有志連合軍」に参加するための「アメリカの三軍すべてと日本の全自衛隊との力強い協力」「平和維持・人道的救援活動への全面的参加」「用途が広く、機動性、柔軟性、多様性に富み、生存能力の高い軍隊づくり」。
 もう一つは「日本がアメリカの防衛技術を優先的に利用できるようにする」「米日のミサイル防衛協力の範囲の拡大」等々に含まれている、対北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)戦争の遂行、対北朝鮮の大軍拡。
これは、従来の対ソ連、「専守防衛」を念頭に置いた「基盤防衛力整備」という、どちらかというと戦力を「保有」する軍隊から、実際に目先の危機と「戦う」軍隊へという、軍事戦略の大きな転換を示すものでした。
 防衛庁・自衛隊はこの2本柱を実現するために、8月に概算要求を行い予算政府案もこれに応えるものになっています。

(2)「保有する軍隊」から「戦う軍隊」へ。−−侵略的攻撃的な戦略への転換を反映する来年度の「防衛」予算。
 まず来年度予算の目玉は何といっても「弾道ミサイル防衛(BDM)システムの整備」でしょう。19日の安全保障会議と閣議の導入決定を受けて来年度予算に即、盛り込まれました。防衛庁・自衛隊による取得費など1423億円の要求に対し、財務省原案では900〜1000億円を計上。結果として契約ベースで1068億円(正面922億円、後方146億円)が計上されることになりました。

 また軍事戦略の転換に伴う「その他の主な重点事項」として、核・生物・化学兵器への対応に契約ベースで69億円(昨年度43億円)、生活関連・勤務環境改善施設の推進に契約ベースで3億円(同1億円)、そしてイラク人道復興支援特別措置法に基づく対応措置(早い話が、イラクへの自衛隊派兵費用)に歳出ベースで135億円計上しています。

 さらに、軍事戦略の転換は戦車など正面装備の削減をもたらすかのように報道されていますが、来年度の予算に限っては、正面契約額は8,010億円と、むしろ対前年度比で言えば380億円の増額となっています。BMDを除く既存の正面装備は、今年度の7,630億円から7,088億円に減。後方予算も加えた後年度負担額は既定分をあわせ全体では2兆9,353億円(対前年度0.2%減)となっています。

 また、おもいやり予算としての在日米軍駐留経費負担は、労務費(人件費)のみが結局減らされたことによって対前年度19億円減の2441億円(歳出ベース)となっています。また「SACO(沖縄に関する特別行動委員会)最終報告に盛り込まれた措置を着実に実施するため」、対前年度比1億円増の266億円が歳出ベースで計上されています。

(3)対北朝鮮先制攻撃戦略を支え挑発する攻撃的BMDシステムの整備。
 政府案は「現有のイージス護衛艦、地対空誘導弾パトリオットの能力向上及びその統合的運用により、BMDシステムを構築」する名目で予算を計上しました。そもそもこのシステムの導入は、『防衛白書』にも「防衛力のあり方検討」の「大きな課題」としてあげられているものでした。

 このシステムは、ブッシュ米政権が推進する「ミサイル防衛」と不可分一体のものです。それは、「(米)本土や海外駐留米軍に対する報復の危険を恐れることなく軍事作戦を遂行することができる」ことを狙ったものなのです。つまり、「ミサイル防衛」によって在日米軍も含め米軍を守ることで、ブッシュ政権の先制攻撃戦略を支える役割を日本が担うことになるのです。それだけではありません。日本自身が先制攻撃能力を今後獲得するきっかけともなるのです。北朝鮮がBMD導入を挑発とみなし、中国も警戒感を強めているのも理由のないことではありません。

 防衛庁・自衛隊はこの8月に来年度予算概算要求の際、このシステムを日米で共同技術研究する経費を加え、初期費用として1423億円。また同システム構築のための見積もりとして、07年度までに少なくとも総額5000億円を必要とする全体構想を明らかにしています。要するに単年度の負担に終わるものでなく、今後も確実に負担を続けなければならないものだということです。
 防衛庁のBMDシステムの全体構想は、04〜07年度に5000億円を投じ、@米国が独自開発したイージス艦発射型の迎撃ミサイル「SM3」と地上発射型の迎撃ミサイル「パトリオットPAC3」の購入A現有イージス艦4隻の改修B現有パトリオット発射システム(4個高射群分)の改修C地上レーダーの開発――などを順次行うというものです。07年に一部が稼働し、すべてが配備されるのは早くて11年度の見込みとされています。

 防衛庁はパトリオット3(PAC3)(=弾道ミサイルが着弾する直前に迎撃する)を、航空自衛隊の四高射群に導入し、大都市圏の部隊を中心に配備する将来構想を描いています。
 PAC3は2007年に首都圏の防空を担当する第一高射群の入間(埼玉)、習志野(千葉)、霞ヶ浦(茨城)、武山(神奈川)各基地に導入。その後、静岡(浜松基地)の高射教導隊に配備されます。このほか、大都市圏や在日米軍基地の所在地などを考慮して配備先を決めるとしています。

 全体の完成までに膨大な予算を確実に食いつぶすであろうこのシステム導入については、政府内からさえ「費用対効果」について疑問の声があがっていたのですが、内閣の決定・予算措置はこれらを踏みつぶしてしまったということです。

(4)自衛隊の侵略軍への転換の地均し、実績作りとしてのイラク派兵とその予算措置。
 イラクへの自衛隊派兵の費用として来年度予算案には135億円が計上されています。しかし、派兵費用の実際はこれに留まるものではありません。事業を早く進めることのできる補正予算にも含まれています。
 さらに諸外国への日本の戦略的援助であるODA中の、イラク復興支援や紛争予防のための予算もあわせて派兵の環境づくりに使われると考えねばなりません。イラク復興支援などの緊急無償支援に95億円増の317億円。紛争予防・平和構築のための無償支援に45億円増の165億円が充てられています。またイラクやアフガニスタン向けや感染症対策の技術協力も増額されています。自衛隊をその任にあてるべきではないかと議論になった在外公館の警備強化費には、常駐警備員を倍増するために16億8000万円(うちODAは約7億円)が計上されています。

 予算措置を受けて実施を強行しようとしているイラクへの派兵は、まさに『防衛白書』にいう「米軍のグローバルな海外派兵」への参加そのものです。それが戦地への派兵、公然たる戦闘への参加、他国への侵略行為であるに関わらず、「平和維持・人道的救援活動」という粉飾が凝らされているのも白書通りです。この間の小泉首相の記者会見、関係閣僚の国会答弁を聞いていると、何が何でも海外派兵の実績を作り上げたいという意図が露骨です。実際の派兵のみならず、「恒久法制定」さらには改憲まで射程に入れて一層強まるであろう攻撃に、真正面から闘いを挑むことが重要となってきています。

(5)対外侵略機能強化と一体の国内抑圧機能強化。−−治安弾圧費全般の増額。
 来年度「防衛」予算を考える際、見逃してはならない予算部門があります。それは警察・公安等治安弾圧関係予算、隠れた軍事費としての軍人恩給等です。一般的に言っても他国・海外への軍国主義の強化と、国内における治安弾圧体制の強化・反動化は不可分一体のものです。イラク派兵への反対運動の強化は、政府・支配層にとっては「社会不安」の始まりです。彼らはそれを反テロ、反テロリスト対策とすり替えて国内弾圧の強化に結びつけます。

政府は治安弾圧費用の増額を、イラク派兵にこじつけて「合理化」し、政府に迎合し付和雷同するマスコミもこれについて無批判です。この予算の増額の意図を隠そうとしません。すなわち、「アルカイダを名乗るグループによるテロ予告や自衛隊のイラク派遣などの治安に対する不安が増す中で、テロやハイジャックを水際で阻止する“防波堤”の強化に力点が置かれた」(日経)。
−−まず警察官が全国で3150人増え約23万9800人となります。警察庁は国際テロ特別機動展開部隊を新設します。
−−税関も185人増加し、検察官など法務省治安職員が902人(今年度は554人)増員されます。
−−施設・設備面では留置場など警察施設設備に322億円(同上312億円)が計上され、新たな刑務所の整備費として今年度補正で350億円、16年度予算で179億円、合計529億円が計上されました。本予算より補正予算で計上されたのは、補正の方が事業が早く進められるためです。
−−また海域では、船舶自動識別装置(AIS)が海上保安庁の全巡視船に搭載されます。AIS搭載船同士は、船名や航行目的などを識別できるため、不審船への立ち入り検査が直ちにできるというのです。空港には新型X線装置で不審な手荷物をふるいにかけた後、CTスキャンを応用した爆発物検査装置に送る検査システムを導入するとしています。テロ未然防止・緊急事態対処費が224億円から338億円に増額されます。

以上のように「テロ」「ハイジャック」「不審船」等を口実に、他の予算は削減一途であるに関わらず治安弾圧予算だけは着実な伸びをしています。これは全般的な反動化・軍国主義化の予算面での現れという他ありません。
 また恩給関係費としては、総額1兆1321億1400万円が計上されています。前年度比5.9%減と、他の歳出項目と比べて決して小さくない減ですが、恩給受給者の数が年々減ってくることを考えると決して大幅減というわけではありません。

(6)軍事費の特別扱いを主張する防衛庁長官。「聖域化」、「タブー」視化を許さず、軍事費削減を要求しよう。
 以上概観したように来年度「防衛」予算は、防衛庁・自衛隊の戦略転換を色濃く反映したものとなっています。「テロ」、「大量破壊兵器の拡散」と闘うというアメリカの軍事戦略と一体になると同時に、その中で、対北朝鮮の日本独自の軍国主義を追及するという、政府・支配層の軍事構想を予算面で裏付ける、その第一歩の案といった様相を呈しています。もちろん政府・支配層の反動化・軍国主義の強化は治安弾圧予算の増額となっても現れています。

 ここで一つ気になる報道があります。それは、石破防衛庁長官が、「防衛関係予算」を公共事業関係費など他の政策的経費と同列に概算要求基準で縛る現行の査定方法について、「このままのやり方でいいのだろうか」と疑問を呈したというものです。要するに石破長官は「防衛費」を一般施策と同列に扱うな、特別扱いせよ、国会の審議にかけるようなものにするな、「聖域化」せよ、と言っているのです。戦前のように、軍事費に対して一般国民が口出しできないものとせよ、軍部と一部官僚のみが与り知るものにせよと要求しているのです。

 もはや有事法制もできた、海外派兵も「正面突破」を図った、軍隊を予算も含めて自立させよと要求しているのです。これほど危険で敵対的で不遜な要求はありません。この先にあるものは侵略国家、軍国主義国家への道です。国民には何も知らせず秘密ばかりで保護された軍隊が戦争の論理でもって国内外で暴れ回る未来でしかありません。警戒すべきです。平和を愛し、戦争に反対するものは、MD配備反対、海外派兵反対、軍事費削減等とあわせて、このような不当な要求を批判し、断固排斥すべきです。

2003年12月26日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局