米軍=イラク軍はバグダッドでの大規模掃討作戦を即刻中止せよ!
◎米占領軍=「移行政府」は無差別の不当逮捕・不当拘束を今すぐ中止せよ!
◎小泉政権は無法で非道な占領支配にこれ以上加担するな! 自衛隊を今すぐ撤退させよ!



T

(1) 米軍と「移行政府」は5月29日、首都バグダッドに4万人のイラク治安部隊を投入し、武装勢力を一掃するという口実で「稲妻作戦」なる新たな軍事作戦を開始した。米軍の1万人と併せて5万人を動員する大規模な軍事作戦である。2003年5月の大規模戦闘終結後最大の軍事作戦、首都で初めての大規模な軍事作戦であり、イラク治安部隊が主体となる初めての大規模軍事作戦である。昨年8月の2000〜3000人規模のナジャフ作戦、昨年11月1万数千から2万人規模を動員し6千人を殺戮したファルージャ作戦とは比べものにならない。
 イラクは今なお非常事態令下、軍事独裁の下にある。とりわけ首都は、すでに戦車や装甲車が動き回り、あちこちで米兵やイラク兵が暴虐と横暴を極めている。その中で、さらに異常な軍事弾圧と恐怖政治が新たに開始されたのである。無差別摘発により大量の不当な逮捕・拘束者が出ている。殺された市民がどれだけいるのか、非常に心配である。欧米のメディアも、今回の被害実態について詳細を報道していない。被害が拡大する前に絶対やめさせなければならない。私たちは、作戦の即刻の中止を断固要求する。

(2) 「稲妻作戦」はサマワの自衛隊と無縁ではない。否、むしろ直接つながっている。バグダッドはシーア派サドル師派の拠点でもある。この5月27日にはサマワで、サドル師派の聖職者が「市民を怒らせたくなかったら、占領軍は市街の中にまで入るな」と自衛隊に警告した。25日には、移動中の陸自車両に石が投げ付けられた。その前には、×印を付けた日の丸や、日本を中傷する落書きが見つかった。確実に、日本政府と自衛隊に対する住民の反発が増大している。
 今回の首都での軍事弾圧はサマワの住民の間でも反占領感情を高めずにはおかないだろう。イラク市民に多数の被害が出れば、多国籍軍として占領軍の一翼を担うサマワの自衛隊もその加害者になる。私たちは、占領支配への加担をやめ、自衛隊を今すぐ撤退するよう要求する。


U

(1) 今回の大規模軍事作戦は、窮地に立たされた米軍と「移行政府」が、政治的賭けに打って出たものだ。4月28日の「移行政府」の成立にもかかわらず、米占領軍とこの傀儡政権をめぐる政治的・軍事的状況は悪化の一途をたどっている。この1ヶ月でイラク市民の犠牲は720人を超えた。140件もの自動車爆弾が爆発した。米軍とイラク軍・警察に対する襲撃は1年前の水準に戻った。ふたたび1月の選挙直前の騒然たる状況が再現し始め、70名もの米兵が殺された。武装抵抗闘争は勢いを止めることができず再びピークを迎えつつある。
 米占領軍と「移行政府」の権威は、武装抵抗闘争の強化とともに地に落ちている。スンニ派抜きを確定した「移行政府」に対するスンニ派大衆の怒りと不満は強まっている。傀儡の大臣たちは石油収入の分捕り合いと金権腐敗にまみれ、利権あさりと権力ゲームに明け暮れ、復興をサボタージュしている。現に前「暫定政権」時の大臣が利権の私物化容疑で逮捕直前・出国停止状態にある。

(2) ブッシュ政権は、このままでは占領も傀儡政権も到底持たないと判断したのだろう。強権発動により武装抵抗勢力に打撃を与え、何の勝算もなしに局面打開を図るしかない、というところまで追い詰められたのである。マイヤーズ統合参謀本部長は「この作戦は米軍が治安問題から解放される準備ができるかどうかの重要な指標になる。それは米軍の出口戦略にとって重要な部分だ」と語っている。やっかいな治安活動はイラク軍に任せる。現在の15万人体制を削減し、恒久基地を建設し、5〜10万人体制でイラクを永続的に占領支配する。イラク駐留米軍の任務は、油田の「防衛」と石油利権の確保であり、同時に中東全域を睨む橋頭堡の役割を果たす−−このような自己に都合の良いシナリオを実現するための賭けである。
 イラク軍の中で治安軍としてまともに役に立つのは15万人の内の4分の1程度と言われている。とすれば、4万人のバグダッド動員は無理をしたギリギリの数である。イラク軍の機能する全軍を動員していることになる。今回の作戦が失敗すれば、米軍によるイラク治安機構の再建は決定的なダメージを受けるに違いない。それは「出口戦略」の挫折となり、米軍の部分撤退シナリオにも重大なダメージを与えるだろう。


V

(1) 今回の作戦は、「移行政府」そのものの傀儡的性格を如実に示した。イラク政府は今回の作戦で半日だけで500人を拘束し、数件の家から武器が押収されたと大本営発表を行っている。露骨にブッシュを支持する米フォックスニュースは「私たちが待ちに待ったことが起こる」と大はしゃぎだ。
 この作戦はイラク「移行政府」のドレイミ国防相とジャビル内相が26日に明らかにした。わずか一ヶ月前に成立した「移行政府」が、他ならぬ首都バグダッドでイラク市民をターゲットに、家宅捜索、拘束、殺戮を大規模に展開する−−これは全くの異常事態である。米と結託して自国人民を徹底弾圧する軍事作戦が「移行政府」の初仕事になろうとしているのである。つまりこの政府がイラク人民のための政府ではなく、ブッシュと米国のため、石油メジャーと軍産複合体のための政府であり、イラク人民の命を奪い生活を破壊する反人民的な政府であることを自己暴露したのである。

(2) 「稲妻作戦」は、「ファルージャ型」の皆殺し作戦とは異なる作戦である。「ファルージャ型」の攻撃をやろうにも、巨大人口を抱える首都では、抵抗する大勢の住民を巻き込んだ大量虐殺作戦・徹底壊滅作戦は事実上不可能なのである。軍事力を背景にした強権的な“警察行動”という方が分かりやすいだろう。確かに5万の兵力投入は、ファルージャ攻撃時を大きく上回る規模である。しかし、ファルージャのように、病院とマスコミを完全に制圧・排除して外界から隔離し、好き勝手に殺戮などできない。5〜10万人の市民が残っていたファルージャの皆殺し作戦に1万5千人の兵力を要した。その比率からすれば、500万人とも600万人とも言われる首都バグダッドの制圧には50万単位、100万単位の兵力が必要になる。5万の兵力では到底何もできないのである。従って、ここからも、今回の作戦が、大量の逮捕・拘束を狙った警察的な軍事行動であることが推察できる。

(3) しかし、今回の作戦は早晩失敗に終わるだろう。第一に、作戦そのものが入念に考えられたものとは到底思えないものだからである。すでにスンニ派の中の親米派イラク・イスラム党の党首を自宅から連行するというちぐはぐを露呈した。そもそも反米武装勢力の拠点を摘発し、大量逮捕・大量拘束をするにも、5万の兵力では決定的に不十分である。
 米軍は「稲妻作戦」の目標を、@首都にある自動車爆弾製造工場・武器・弾薬貯蔵所の摘発・壊滅と武装勢力の摘発、A外国人戦士の首都への流入阻止、に置いている。そのために首都に入る道路に675カ所の検問所を設け、首都を外部から分離し、首都内部で集中的な家宅捜査、無差別逮捕・拘束で成果を上げようとしている。また、首都をチグリス川の東のカーク地区と西のリサーファ地区に分け、更に前者を15区、後者を7区に細分化、500〜600万人が現に生活している住宅密集地の首都バグダッドを、軍事作戦用の区画に分割し、その上でイラク治安部隊が一斉にローラー作戦をかけ、徹底的な家宅捜索でしらみつぶしに反米派住民を手当たり次第に摘発、逮捕・拘束し、逆らう者は虐殺し掃討する計画という。
 米軍は今回の作戦に先立ってシリア国境付近の掃討作戦を実行した。彼らは国境から入る武器・弾薬と外国人戦士を遮断し、更にバグダッドを封鎖して内部の武器工場と拠点を摘発し、外部からの流入を止めれば首都バグダッドの治安を回復できるとの超楽観的見通しに立っているのである。
 しかし、こんな目論見は机上の空論に過ぎない。米軍やイラク軍が常駐していない西部・シリア国境近くでは、米軍が引き揚げた途端に住民の武装抵抗が復活している。バグダッドで675カ所もの検問所を24時間維持するには、交代要員を含め数万人の兵力が必要になる。残った兵力で広大なバグダッド市街を徹底的に家宅捜査し、抵抗勢力を包囲・補足することなどできない。結局、時間が経過すれば息切れし、体制を解除するか、作戦の練り直しをするしかなくなるだろう。

(4) 第二に、反米武装勢力とはいったい何か、如何なる部分から構成されているのかという作戦の前提となる認識が根本的に誤っているからである。米軍は、武装勢力をごく少数の「外国人」「イスラム過激派」としか見ていない。しかし実際には抵抗勢力は、占領軍に弾圧され、政権からも排除されたイラク人民なのである。百人、千人ではない。武装抵抗勢力とは、何十万、何百万の“人民の海”の中に潜り、その中から出てくる地元の住民そのものなのだ。住民そのものを根絶やしにしたり壊滅したりすることなどできない。
 自動車爆弾工場のような目立つ施設は摘発されるかも知れない。しかし、別の場所でまた同様の工場が作られるだろう。住民は一旦武器を隠した後、再び米軍に立ち向かってくるだろう。ありとあらゆる抜け道を使って武器・弾薬が流れ込むこともまた止められない。そもそも米軍も「移行政府」も、“人民の海”の中のどこに爆弾工場があって、誰が抵抗戦士であるか全くつかんでいない。情報もないのである。だから攻撃の急増を止められないのだ。そんな状態で人民自身の武装抵抗闘争をつぶせるはずががない。失敗は初めから明らかなのである。

 早くも米軍・イラク軍は激しい反撃に遭っている。イラク軍が前面に出て、検問・封鎖を行うことは、逆に武装抵抗勢力にとって格好の標的を作り出すことでもある。バグダッドでは石油省庁舎で自爆攻撃により警備員2人が死亡したほか、バグダッド西部ではイラク警察部隊が攻撃を受け隊員3人が死亡、イラク治安部隊と武装勢力の間で頻繁に戦闘が発生しているという。更にファルージャの時に起こったように、当のバグダッド以外の各地で手薄になった米軍・イラク軍に対して同時多発の反撃が行われている。南郊のマフムディヤ地域でイラク兵9人が、また南部アマラで英兵1人が殺害されている。等々。


W

(1) 米軍の手先としてのイラク軍は、今回の作戦でイラク民衆との敵対関係を決定的なものとするだろう。クルド人とシーア派から主に構成されているイラク軍はすでに、スンニ派だけではなく、米占領軍に批判的で反米感情を高めているイラク民衆一般から嫌われ、一部の情報機関に所属する特殊部隊は恐れられている。乱暴狼藉を働き略奪や暴行を繰り返し、「米軍の犬」と見られている。掃討作戦の写真をみれば一目瞭然だ。全面マスクをした異様なイラク兵が市民を拘束している。昨年のファルージャ攻撃の際に最前線で残虐行為を働いたのも、こうしたイラク軍である。またアブグレイブで米兵と一緒になって収容された人々に拷問やレイプを行ったのも、イラク軍兵士や情報機関員である。

(2) 今回の作戦は、新たな内戦の危機を生み出す危険性を持っている。シーア派・クルド人から成るイラク軍とスンニ派主体の反米武装抵抗派との間で激戦になれば、それが一歩現実のものとなりかねない。
 アルジャジーラは5/29の記事で「スンニ派とシーア派のデタント」という一項を割き、スンニ派のイスラム宗教者協会の職員がイラク最大のシーア派組織「イラクイスラム革命最高会議」軍事部門の代表と会談し、宗派間の抗争をおさえ、緊張を緩和させるよう話し合ったという。「シーア派とスンニ派の宗派間抗争」を煽る欧米メディアとは裏腹に、現地では危機感を背景に真剣な対話への動きが進んでいることになる。
 しかし、今回のバグダッドの新たな作戦は、このような動きを水泡に帰し、イラク人によって構成された4万人の治安部隊をイラク市民に襲いかからせることで、修復不能な憎悪と報復の連鎖を生み出す危険性を作り出しているのである。

(3) 「稲妻作戦」はイラク民衆の堪忍袋の緒が切れる寸前の状況のもとで強行されている。これまで米軍に踏み荒らされてきたスンニ派三角地帯とは違い、首都バグダッドが大規模な軍事作戦の“戦場”になるのは初めてである。ローラー作戦による強権的弾圧は、市民の不満を高めずにはおかないだろう。バグダッド市内の交通、周辺から市内への交通は検問・封鎖で混乱するだろう。市内での米軍=イラク軍と武装抵抗戦力との戦闘に拍車をかけるだろう。このことは、経済崩壊と復興の立ち後れ、失業への不満と苛立ち、破壊されたインフラ基盤への不満と不便、悪化するばかりの日常生活への怒り、一向に約束を果たさず横暴と傲慢を強める米占領軍への憤怒を一気に強めるだろう。
 こうして「稲妻作戦」は、目論見とは裏腹に、抵抗を鎮圧し弱めるのではなく、スンニ派のみならずシーア派を含むバグダッド市民、イラク民衆全体の反米抵抗を決定的に強め、占領支配崩壊を米軍自身が切り開く皮肉な結果に終わるだろう。

2005年6月1日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局


<参考情報>
※「Iraqi Forces Target Insurgents; 27 Dead 」(AP)http://p103.news.scd.yahoo.com/s/ap/20050529/ap_on_re_mi_ea/iraq_050529180539
※「Attacks pierce Baghdad security net」(EnglishAljazeera)http://english.aljazeera.net/NR/exeres/C2E3360E-CE92-437E-96CA-113E2C3FC57F.htm
※「イラク政府、4万人投入、首都の武装勢力一掃目指す」(朝日新聞)http://www.asahi.com/international/update/0529/009.htm
※「Operation Lightning Targets Sunnis: Leaders」(IslamOnline) http://www.islamonline.net/English/News/2005-05/29/article03.shtml
※「最新の掃討作戦「マタドール作戦」が示すもの−−米軍の異常な残虐さと軍事占領の限界・破綻」(署名事務局)
※「Analysis: Bush bets on battle of Baghdad」By Martin Sieff
UPI Senior News Analyst Published May 31, 2005
http://www.wpherald.com/storyview.php?StoryID=20050531-022902-3781r
※「US 'losing its grip' on Baghdad's political process」By Guy Dinmore in Washington
Published: May 31 2005 The Financial Times
http://news.ft.com/cms/s/9506bdfe-d1ff-11d9-8c82-00000e2511c8.html