すでに破綻したブッシュのイラク増派政策。これ以上許せない犠牲と破壊 ◎ブッシュはイラク新政策の破綻を認め、米軍を即時全面撤退させよ!
◎安倍政権はイラク特措法延長を撤回し、空自を今すぐ撤退させよ!
はじめに
(1)ブッシュ大統領が新イラク政策を発表した1月からまもなく半年が経過しようとしている。戦闘部隊の増派が2月から始まり、バグダッドを中心に段階的に2万1500人の兵士が配備された。だが、治安状況は一層悪化し、イラク民間人の犠牲者数は増大し続けている。米軍兵士の犠牲者数も拡大している。難民と避難民が波のように押し寄せている。これらの事実は、ブッシュ大統領の「最後の賭け」であったはずの新政策=増派が機能するどころか事態をますます悪化させ、事実上破綻したことを裏付けている。
ここに米国防総省や米軍関係者自身が明らかにした二つの事実がある。一つは今年2月〜5月のイラクでの民間人犠牲者数の一日あたりの平均が100人を越えたという事実である。昨年の同期の一日あたりの平均は60人未満であった。もう一つは米軍によるバグダッドの治安掌握率が6月はじめの時点で3割にとどまっているという事実である。この二つの事実から出てくる結論は、米軍の増派と掃討作戦が犠牲者を拡大しながら、治安は全く掌握できていないというブッシュにとって最悪の事態以外にない。
ブッシュのイラク政策・イラク作戦は発表以来二転三転し迷走した。宗派分断を固定化する壁建設、イランとの突然の対話とその膠着、主敵であるはずのスンニ派に武器を供与する「敵の敵は味方」作戦、作戦の意図が疑わしい「アルカイダを標的とした」1万人規模の掃討作戦、耳障りが良いだけで中身がない「韓国モデル」の提案等々。そしてすでにペース統合参謀本部議長が、イラク作戦の責任をとる形で異例の一期で更迭されることが確定している。もはやブッシュ政権にまともな戦略は存在しない。場当たり的な作戦が何の目算もなく繰り出され、犠牲と破壊だけが積み上げられていくという事態に陥っているのである。
最近ブッシュ政権からは、「治安改善」について過度の期待を戒める趣旨の発言が繰り返されている。ブッシュはイラク新政策の成果の中間報告提出の期限である9月にむけ、政権批判が噴出することへの予防線を張り始めたのだ。
(2)増派政策の破綻が明らかになりつつある中、大統領選を控えたワシントンも急に騒がしくなっている。5月26日ニューヨークタイムズ紙は、「ホワイトハウスは08年度におけるイラク駐留軍の50%削減を検討」との記事を掲載した。この記事の情報源は政権内の高官からのものとしているが、その直後ブッシュ大統領はもみ消しに躍起となった。重要な点は、近い将来のリアリティのある撤退論がブッシュ政権内部からリークされるほど、イラク新政策が行き詰まっているということである。しかし、石油産業と軍産複合体の代弁者であるブッシュ政権は、イラク、中東の石油利権を何とか掌握するためだけに、この地域における軍事的覇権を守り抜こうとしているのである。
※White House Is Said to Debate ’08 Cut in Iraq Troop by 50%(ニューヨークタイムス)
http://www.nytimes.com/2007/05/26/washington/26strategy.html?ex=1183089600&en=e23f58e95a7564b8&ei=5070
先のハイリゲンダム・サミットでは、イラク問題が主要な議題に上ることはなかった。それはイラク問題が、国際政治上の些細な出来事、米国一国の内政問題になったからではない。超大国米国はおろか、サミット参加国も、効果的な対案を打ち出せないからである。それも当然だ。アメリカに積極的に協力しているのは今や8ヶ国の中で日本だけという状況に陥っているのだ。
私たちは以下で、ブッシュのイラク戦争・占領政策の最新局面を具体的に分析し、破綻の事実を詳細に暴露する。それは同時にブッシュを支援しイラク戦争への協力をすすめる安倍政権に対する批判である。これ以上犠牲を出さないためには米軍がイラクから今すぐ撤退することしかない。日本は航空自衛隊の撤収を今すぐ行わなければならない。
※White House plays down report of Iraq troops cut(ロイター)
http://www.reuters.com/article/topNews/idUSN2520587820070526?feedType=RSS&rpc=22
2007年6月30日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
[1]もはや「解体国家」−−積み上がる犠牲者と破壊
(1)まず私たちは、イラク新政策の下で治安悪化、破壊と殺戮が進んでいる事態を明らかにしなければならない。図1は、犠牲者をともなう事件の月毎の発生件数を示した。加工したデータ元はイラクボディカウント(http://www.iraqbodycount.net/)によるものであり、あくまでもマスコミによって報じられた事件の総数である。実際は、この何十倍もの事件が埋もれているのは間違いないが、系統的に整理されたイラクボディカウントのデータは、非常に重要な、イラクの状況を伝える基礎的なものである。2006年5月〜2007年4月の一年間を見てみると、一年間を通して若干の上下変動があるとはいえ、大規模な部隊が投入された07年2月以降も、事件総数は高水準にある。4月の事件発生回数は若干下がっているが、ここでは表記できなかったが5月には再び上昇傾向を示している。また図2は、バグダッドにおいて発生した事件の割合を示したものである。バグダッドに集中的に配備された増派部隊によって「バグダッドの治安が回復した」等と喧伝されてきたが、全くのウソであることがわかる。
図1 事件発生件数(イラクボディカウントをもとに作成)
図2 バグダッドで発生した事件の割合(イラクボディカウントをもとに作成)
6月25日にはバグダッドのホテルや北部バイジなどで自爆攻撃などが相次ぎ、40人以上が死亡した。19日にもバグダッドのシーア派モスク近くでトラックが爆発し、75人が死亡、約130人が負傷している。これらは米の新たな掃討作戦に対する対抗である。その中でも象徴的な事件は、4月半ばに起こったグリーンゾーン内での大規模自爆事件であった。コンクリート壁に囲まれ、出入りの際厳重な身分チェックが行われるはずの「米軍の要塞」内で起こった自爆攻撃は、米軍を震え上がらせた。これらの統計と事件が物語っている事実は、バグダッドに5戦闘旅団、アンバール県に海兵隊4000人、合計2万1500人の戦闘部隊を配備したにもかかわらず、イラクの「治安回復」がまったく達成されていないどころか、反米攻撃が高水準で持続しているということである。
米軍関係者が6月4日に明らかにしたところでは、バグダッド首都圏457地区のうち、米軍やイラク軍が治安を掌握しているのは約30%の146地区にとどまり、7月までに治安改善を目指すという当初目標の達成には程遠く、米軍にとって誤算だったという。
※U.S., Iraqi troops control only a third of Baghdad(米ABCニュース)
http://abcnews.go.com/US/wireStory?id=3242719
※グリーン・ゾーン内で自爆、占領体制を揺るがす 2007/04/13(URUK NEWS)
http://geocities.yahoo.co.jp/gl/uruknewsjapan2006/view/20070413/1176466387
※バグダッドのホテルなど4カ所でテロ、40人以上死亡(朝日新聞)
http://www2.asahi.com/special/iraq/TKY200706250365.html
(2)言うまでもなく多発する事件の最大の犠牲者は民間人である。月毎の民間人犠牲者数もまた、この間を通して依然高い水準にある。図3からも分かるように、月毎の民間人犠牲者数はこの一年間、2000人を大きく超える数値で推移している(事件発生件数同様、4月は若干減少しているが、5月には再び上昇傾向にあると見られている)。民間人犠牲者をめぐる統計もまた、増派政策が機能していないことを裏付けている。民間人の犠牲者の要因別として、マスコミで頻繁に報じられる自動車爆弾による無差別大量殺戮だけでなく、煽られる宗派間抗争と「死の部隊」による惨殺もまた増大傾向にある。5月第一週における「死の部隊」によるものと見られる遺体数は234体であった。その数は、4月第一週の137体と比較して70%も上昇している。明らかに、宗派間対立は、「沈静化」どころか、拡大しているのだ。
※Iraq's Militias Under the US Surge(Counterpunch)
http://www.counterpunch.org/patrick05312007.html
(邦訳は「米軍の『サージ』下でのイラク民兵:好き放題の殺人」http://teanotwar.seesaa.net/article/43736292.html )
図3 各月ごとの民間人犠牲者数(イラクボディカウントをもとに作成)
米国防総省は6月13日に発表した定例報告において、米軍兵士と民間人の犠牲者から評価したイラクにおける治安状況が、さらに悪化し続けていることを認めた。先述のように、今年2月から5月にかけ、民間人犠牲者の数が1日平均100人を超え、2004年以来最悪の水準に達しているという。昨年2月から5月にかけての民間人犠牲者は1日平均60人未満だった。ブッシュが年初から始めたイラク新政策が犠牲者を拡大しているのである。さらに報告書はバグダッドでの激しい掃討作戦によって地方都市へと反米勢力を追い立てる形となり、ディヤーラやニネヴェのような北・東部のこれまで比較的平穏であった地域にも反米闘争を拡大させ、治安を悪化させていると報告している。米軍が治安を安定化しているのではなく、まさに憎悪を煽り、混乱を飛び火させているのだ。
※Death squad activity up over up 70 percent in a month(07/05/14 Rawstory)
http://rawstory.com/printstory.php?story=6080
※Pentagon : Iraqi violence still rising(Yahoo)
http://news.yahoo.com/s/ap/20070614/ap_on_go_ca_st_pe/iraq_pentagon_report
※民間人死者、1日100人超す イラク治安、最悪水準に(共同通信)
http://topics.kyodo.co.jp/feature40/archives/2007/06/post_231.html
(3)イラクの社会基盤、生活基盤の崩壊に関する様々な報告が改めて出始めている。最弱者である子どもたちへの犠牲が集中している。イラクでは湾岸戦争以来の経済制裁、2003年の侵略戦争、その後の占領支配において、子どもに対し甚大な影響が出ているとする報告書が出されている。『セーブ・ザ・チルドレン』がまとめた最新の報告書によると、1990年以降今日に至るまで、イラクの幼児死亡率は125パーセントも急上昇しているという。それはまさに、世界で最も高い上昇率であり、5歳未満の子供たちの死亡を示すその指標は、アフリカの最貧国の一つであるモーリタニアと同程度であるという。
また乳児死亡率についても、1990年では、新生児1000人の中死亡した割合は50人であったが、2005年には125人に急増しているという。この面における指標の悪化も他のどの地域よりも際立っている。イラクに対する経済制裁は、社会基盤と公共医療に破壊的な影響を及ぼし、その結果、多くの子供たちの生命が失われることになったが、その後の米占領支配下において、医療はますます崩壊し、新生児死亡率、乳幼児死亡率はますます悪化しているのである。
※Infant mortality in Iraq soars as young pay the price for war(インディペンデント)
http://news.independent.co.uk/world/middle_east/article2521681.ece
※US attack 'kills Iraqi children'(BBCニュース)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6637307.stm
外交政策マガジンと平和のための基金がまとめた「解体国家白書2007」では、イラクは世界で第二番目に不安定な国家と認められた。一番目は、ダルフール紛争で破壊が進むスーダンである。
社会指標、経済指標、政治及び軍事の指標すべてにわたって低下し、最貧国レベルにおとしいれられているのだ。
※Iraq Now Ranked Second Among World’s Failed States(ロイター)
http://www.reuters.com/article/topNews/idUSN1837426420070618?feedType=RSS
さらにイラクで膨大な数の難民、避難民が生み出されている。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によると、イラク国内避難民は約200万人にも達し、各地で次々と難民キャンプが作られているという。また、イラクからの国外難民は、シリアの150万人をはじめ周辺諸国で250万人にも登っている。シリア国境へは一日数千人単位で押し寄せており、UNHCRは、生命や健康、安全が危機にさらされていることに対して強い警告を発している。
※Millions of Desperate Iraqis Stream into Syria(コモンドリームズ)
http://www.commondreams.org/archive/2007/06/18/1960/
※イラクで「国内避難民キャンプ」発生 200万人規模と(CNN)
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200706160013.html
[2]ブッシュのイラク新政策の迷走と分断支配の犯罪性
(1)私たちはブッシュが1月にイラク新政策を発表した時点で、その作戦遂行がマリキ政権との深刻な対立を生み出し政権を不安定化するだろうこと、そもそもその戦略目標がシーア派強硬派のサドル派をたたきつぶすことにあるのかスンニ派をターゲットにしているのかが明確ではないこと、イランとの対話を拒否した強硬路線は行き詰まりを見せること、2万数千人という増派がバグダッドの「治安回復」にとって決定的に少なく、過小戦力問題が深刻な問題として浮上してくることは間違いないこと等々を指摘した。
※シリーズ:ブッシュのイラク新政策と戦争拡大の危険(その1)イラク新政策=米軍増派とブッシュの暴走
改めてここで強調しなければならないのは、イラク新政策の分断支配戦略の犯罪性である。宗派対立をあおり、シーア派とスンニ派、シーア派内のSCIRIとサドル派、スンニ派内の反米勢力と親米勢力などを互いに反目させ、けしかけ、各派の勢力を弱め、分断することによって「治安回復」を目指そうとしていることである。このようなやり方が安定化に向かうはずがない。これこそがイラクを破壊と殺戮のどん底に陥れている元凶の一つなのである。
(2)6月18日、米軍はアンバール県バグバ市に対する大規模掃討作戦を開始した。米軍当局はこの作戦の目的を「同県におけるアルカイダの影響力を壊滅させ、住民への危険を排除する」としている。作戦は、兵員1万人、武装ヘリ、戦車などを動員し、あらかじめ「武装勢力」の逃走路を先回りして封鎖し閉じ込め、武装勢力を捕縛あるいは殺害する作戦である。このようなやり方は、大量の犠牲者を生み出した2004年11月のファルージャの掃討作戦を想起させる。侵攻した米軍は、自らの犠牲を最小限に止めるために、爆弾が仕掛けられているかもしれない箇所を航空機、ヘリからの爆撃によって徹底的に破壊していると言われている。多くの住民を巻き込んだ虐殺が繰り広げられるのは間違いない
しかしなぜ今になって「敵はアルカイダ」なのか。イラク新政策の最大の目的はスンニ派武装勢力あるいは反米強硬路線をとるシーア派サドル派の掃討ではなかったのか。米国防長官は、増派に当たって、@武装勢力によるイラク政府や米軍への攻撃、A国際テロ組織アルカイダの活動、Bイスラム教シーア派とスンニ派の抗争、Cシーア派の内部抗争という4つの紛争が同時並行で進行しているがAの比重がますます低くなり、@が前面に出始めていることを認めていたのではなかったか。軍事作戦の行き詰まりの中でブッシュは再び「アルカイダ」を持ち出し、大規模掃討作戦を行うでっち上げの大義をつくり、その中で適当な「成果」をでっち上げることで、イラク新政策の進展を演出しようとしているのである。
(3)それだけではない。実は米軍がアルカイダを持ち出すのは、もう一つの重要な目的がある。この作戦は、スンニ派を分断し親米派部族を懐柔するという分断戦略を含んでいる。「敵の敵は味方」作戦、「アンバル・モデル」などと言われている。すなわち、スンニ派部族を、米軍に従順か否かだけを基準に敵味方を区別し、従順とみなされた部族には資金と武器を供給し反米勢力と闘わせるというのである。その際米軍がスンニ派部族に迫るのが、アルカイダを支持するのかどうかという「踏み絵」なのだ。アルカイダを支持しないことをもって米軍に忠誠を誓ったと見なし、その部族らにアルカイダに反対する集会などを開かせ、その証にするのである。しかし米軍に忠誠を誓った部族が「裏切り者」として反米勢力の攻撃の対象となるのは目に見えている。最近頻発している大規模「テロ」には、米軍への協力を明確にしたスンニ派部族が狙われている例が増えているのである。
※米軍「敵の敵は味方」作戦 イラクスンニ派に武器供給(6月19日読売新聞朝刊)米軍は、@部族長との交渉で米軍に忠誠を誓わせる、A物資を供給し警察予備隊のような組織をつくらせる、B実績が認められれば政府の治安部隊に統合する−−という筋書きを想定している。
※自爆テロで15人死亡 イラク、反アルカイダ集会(共同通信)
http://www.sannichi.co.jp/kyodo/news.php?genre=World&id=2007060501000920.xml
このような米の方針は、スンニ派とシーア派だけでなく、スンニ派内の部族対立や反目をあおり取り返しのつかない宗派抗争へと発展させる危険がある。マリキ首相自身が「米軍は彼ら(スンニ派部族)の正体を理解していない」と不快感を示しているだけでなく、「部族の市民軍を形成することは、イラクの中央軍創設の方針に対立する」と露骨に批判しているほどである。
※U.S. tries to temper expectation on Iraq progress(ロイター)
http://today.reuters.com/news/articlenews.aspx?
storyid=2007-06-13T222523Z_01_N13377627_RTRUKOC_0_US-IRAQ-USA.xml
※'Anbar model' under fire(クリスチャンサイエンスモニター)
http://www.csmonitor.com/2007/0626/p01s02-usfp.html
(4)アメリカによる露骨な分断支配の意図、イラクの実状や人民の生活を全く無視した軍事支配をもっとも表しているのが、分離壁の建設である。4月22日、マリキ首相が米軍の進める壁建設に反対する声明を発表し、突如この問題が脚光を浴びることになった。米軍はバグダッドの各地域において、イスラエルがパレスチナ住民を隔離・分断する壁とまったく同じようなような高さ3mの巨大なコンクリート壁を各所に建設している。壁の建設理由について米軍は、対立する宗派間を沈静化させるためとしているが、本当の狙いはまったく異なる。壁が建設された主要な場所として、アダミヤ地区がある。この地区はスンニ派地域であり、スンニ派の反米武装勢力の出撃拠点があると見られてきた地域である。米軍はこれまで幾度となく反米武装勢力を攻撃しようとも、逃亡され、捕縛、殺害することができなった。まさに新たに作られた壁は、スンニ派の攻撃を封じ込め米軍を攻撃から守るためのもの、反米部族を狙い打ちにし、徹底的な掃討作戦をおこなうためのものなのである。
壁の建設は、世界中からの非難の的となっている。そして、イラク民衆もまたこの米軍の暴挙に対して、怒りの声を上げている。まさにイラク民衆にとっては、屈辱の壁である。しかし逆に見れば、イラク民衆の怒りを掻き立てる壁建設に頼らなければならないまでに、現地米軍は行き詰っているのである。この壁建設もまた、米軍の占領支配が行き詰っていることの証左である。この壁建設は、さらなる民族分断、憎悪を拡大させるものである
※U.S. forces erect wall between Shiites, Sunnis(AP)
http://www.msnbc.msn.com/id/18227048/
[3]米軍のイラク支配の迷走を根底で規定する過小戦力問題
(1)米兵の犠牲も拡大している。5月における米軍兵士の犠牲者数は127人にも上った。これは、開戦以来、3番目に高い数値である。この米軍兵士の犠牲者の急拡大は、苦境に立たされたイラク駐留米軍の実情を雄弁に物語っている。また、図4からも明らかなように、米軍兵士の犠牲者数はこの一年間を通して増加傾向にある。直近の犠牲者の拡大については、米軍が治安維持のための作戦行動の最前面に立つことが増えたことが主因であるが、この一年間を通しての増大傾向については、米軍が武装勢力の巧みな攻撃の前に、次々と犠牲を拡大させているといった事情がある。その最たるものが、IED(Improvised Explosive Devices:即席爆発装置、あり合わせの爆発物と起爆装置に組み立てられた即席爆弾の総称)による米軍兵士の犠牲者の拡大である。
図5 IEDによる米軍兵士の犠牲 (Joint Improvised Explosive Devise Defeat Organizationより)
ブッシュ大統領が増派政策を打ち出し、力による武装勢力一掃に乗り出して以来、米軍の犠牲者は2倍近くまで急増した。1月〜5月中旬の段階で377人の米兵の命が失われたが、その内の70%に相当する265人がIEDによるものである(国防総省、5月22日公表)。しかもその傾向は、過去2ヶ月の(表中の4月と5月に相当)IEDの犠牲者総数は78%に急増している。1月のIEDによる犠牲者が39人であったに対して、4月には78人へと急拡大しているのだ。また図5中の黄色で示されたIEDによる攻撃回数は05年から07年にかけて、大きく増大していない。しかしながら、犠牲者が急拡大していることの原因として、武装勢力が「米軍のへの打撃拡大を狙いトラックにIEDをしかけている」と国防総省筋は説明しており、より巧妙に米軍の損耗を狙った攻撃が実行されているのである。国防総省は、悩まされ続けているIEDへ対処する方策を模索し続けてきたが、米軍兵士が敵と接近せざるを得ない現場では機能していない。
※US losses in Iraq spike from IED attacks(クリスチャンサイエンスモニター)
http://www.csmonitor.com/2007/0523/p01s04-usmi.html
(2)バグダッドに米軍兵力が集中する中、スンニ派が多数を占めるバグダッド周辺地域でも、米軍兵士の犠牲者が拡大している。その中の一つであるディヤラ県では、特に激しい抵抗に遭遇している。昨年一年間におけるこの地域における犠牲者は20人だったにもかかわらず、今年に入ってからすでに61人が犠牲となっている。なんと、年度途中にもかかわらず、すでに300%以上も犠牲者が増大しているのである。現地司令官は、部隊数が不足していることを嘆いており、ますます激しくなる反米闘争に対して米軍の戦線は、延びきった状況におかれているのである。強行一辺倒では、もはや米軍の占領支配が維持できないことは明らかである。そのような中、米兵拉致事件も発生している。5月12日、米兵3人が武装勢力に拉致される事件が発生した。救出作戦に米軍を割かざるを得ない状況となっており、兵士の任務負担もより重いものとなっている。このような拉致事件は、ブッシュ政権に対する撤退を求める圧力ともなっている。また、米軍ヘリも次々と撃墜されている。米軍の作戦は、陸、空が一体となって展開されており、武装勢力はそのヘリをターゲットにしている。撃墜されるヘリの数は増え続けており、軍事作戦の遂行面においても何らかの対応が迫られているのである。
※U.S. blames Iraq helicopter crash on enemy fire(MSN)
http://www.msnbc.msn.com/id/18945789/
(注) 主要地域別の米軍兵士の犠牲数は、次の通りである。バグダッド:992人、アンバール県:1231人、バビル県:181人、カルバラ県:33人、ディアラ県:177人。驚くことに、バグダッド以上にスンニ派武装勢力の活動が活発なアンバール県が多い。しかし今年に入ってからアンバール県(昨年:365人)における犠牲者が縮小し、ディリア州が異常に増大している。
(3)米軍兵士の犠牲の拡大、兵士拉致、作戦面における行き詰まり等々、現地司令官からの嘆きが伝えられている。統合作戦本部のある指揮官は、武装勢力がヘリ撃墜と兵士攻撃を巧みに組み合わせて攻撃を仕掛けていることを指摘している。
現地司令官からは、さらなる増派を求める声も上がり始めた。様々な憶測が飛び交う中、ブッシュ政権がさらに戦闘旅団を拡大すること、派遣期間を延長することで増派を狙っていることも報じられている。それによると、1月段階におけるイラク駐留の戦闘部隊5万2500人を、今年の終わりには9万8000人にまで拡大しようというのである。もしこれが実現するならば、兵士総数は、16万2000人から20万人という、これまでの最大規模にまで拡大されることになる。純軍事的視点から評価すれば、「イラクを支配するならば、この戦力は必要だ」と見られているのだ。
しかしことはそう簡単ではない。果たして今の米軍、とりわけ陸軍において、増派要請に対応できるのかということである。すでに米陸軍の戦力は、「オーバーストレッチ」=延び切った状態にある。多くの部隊が3度目のイラク派遣となる。その部隊もまた、通常の“任務(派兵)−休息−訓練”のサイクルが正常に回転せず、“任務(派兵)”の期間が引き延ばされているのである。そうしなければ、イラク駐留米軍15〜20個旅団を維持できなくなっているのだ。当然のこと、兵士の質、士気は低下する。米国で休息中の兵士が逃亡し、部隊に戻らない事例が増えている。ただでさえ、毎月100人を越える兵士が倒れ、300人の兵士が負傷している。陸軍の新兵充足率は、この数年間、目標を大きく下回っている。そのため米軍は、不法移民の軍への受け入れを加速させている。イラクに従軍する米軍兵士の20%近くが不法移民であり、グリーンカードを目当てに入隊しているのである。また入隊時における能力基準を引き下げる。そして、指揮官となる士官学校卒業生達は軍を見限り、別の職業へと去っている。このような状態で、長期にわたって大部隊をイラクに貼り付けることが可能なのか。世界最大の軍事大国は、イラクの地において、自らの力の限界と向き合うことを余儀なくされている。このような側面とあわせ、軍事予算の問題もまたブッシュ政権の選択肢を狭めるものとなるであろう。
※Bush could double force by Christmas (SFGate)
http://sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/c/a/2007/05/22/MNG7QPV65N1.DTL
※[シリーズ米軍の危機:その1 総論]ベトナム戦争以来のゲリラ戦・市街戦、二巡目の派兵をきっかけに顕在化した過小戦力、急激に深刻化し増大し始めた損害
(4)目玉のイラク国軍の訓練も計画倒れ 戦争請負人の犠牲も拡大している。 現在のイラク軍、警察等の治安部隊の現状について、米軍の指揮官ですらその失望ぶりを隠そうとしていない。バグダッドへ派遣されている部隊の充足率は75%にとどまっている。米軍に訓練された警察官の1/6が殺害されるか、負傷しており、また同数程度が職場放棄、消え去ったという。米軍に変わって矢面に立たされるイラク軍兵士の犠牲者の総数は、米軍を大きく上回る8000人を超えると見られている。当然、軍隊の士気も下がってこざるを得ない。このような実態を前に、イラク軍、警察等の治安部隊の訓練、自立といった、米軍撤退に向けた前提条件の確立は、まさに画餅になろうとしている。この実態に危機感を持つブッシュ政権からは、9月における米軍の撤退に言及することを避け始めているのである。
※Beyond Baghdad(The American Conservative)
http://www.amconmag.com/2007/2007_05_21/article.html
※General : Iraqi Forces Fall Far Short (SFGate)
http://sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/n/a/2007/06/13/national/w114930D81.DTL
また、米軍の占領支配を支える「コントラクター」=傭兵の犠牲者も拡大している。現在、傭兵の犠牲者数は一週間当たり9人のペースであり、この割合は昨年と比較してもおよそ3倍である。この背景には、武装勢力が「ソフトターゲット」に標的をシフトさせているとも言われている。しかし米軍兵士の犠牲の拡大と同時に傭兵の犠牲も拡大している事実から、武装勢力は自由にターゲット、場所、時間を選び、攻撃を繰り返していることを示している。この面からもまた、ますます米軍の実効支配が脅かされていることを裏付けている。
※Contractors dying in increasing number in Iraq(CNN)
http://www.cnn.com/2007/US/05/23/iraq.foreigners.reut/index.html
[4]軍事的だけでなく政治的にも行き詰まりが見え始ている
(1)米国は、政治、軍事、経済面などでマリキ政権との対立を深めている。しかしブッシュ政権は、「イラク民主化」の旗を掲げ続ける限り、自分達の思うように動かないマリキ政権に苛立ちながらも、脅迫し、懐柔し、表面的なイラクの平和と安定の実現にむけて共同歩調をとらざるを得ない。今ブッシュ政権がそのマリキ首相に迫っているのが、民族融和のための旧バース党員の政府要職、軍隊への復職を進めること、石油法の一刻も早い制定である。
旧バース党員の復帰は、ブッシュ政権のイラク政策が着実な前進を遂げていることを示すために、イラク国内の各派と協調する「国民融和策」の目玉である。しかし旧バース党員の政府要職、軍隊への復職については、マリキ政権は進める気はなく、のらりくらりとただただ決定を引き延ばしているだけだ。
そしてもう一つの目玉は石油法の制定である。これについても、各派の利害対立を受け、内閣での承認は得たものの、議会で採決されるには程遠い現状である。議会内で1/5の勢力を占めるクルド人勢力は、中央政府に石油収入、油田開発の利権を集中する現在の法案を頑なに拒否している。21日政府とクルド系勢力が石油・ガス法案の修正で合意したと伝えられているが先行きは不透明である。北部油田地帯を自らの勢力地域に組み込み、その開発利権をクルド地方政府が事実上握っている現状において、この「既得権益」を手放す気がないのである。すでにクルド人地域では、油田の開発をめぐり外国企業と取引し、石油収入によって繁栄を謳歌しているのである。そこにまた、南部の石油利権の独占を狙うシーア派勢力が存在する。また、マリキ政権を支えるダアワ党すらもが、「この法案は過去のものである」、「石油部門の外国資本への全面開放に向けて進もうとしているのではない」として、修正に言及している。民族間の対立が深まれば深まるほど、この石油利権をめぐる対立も強まらざるを得ない。
そのような中、石油労働者は、油田の国外資本への売却に反対する戦いを続けている。2万6000人の石油労働者を組織するイラク最大の石油産業労働組合「イラク石油労働組合連合」は、石油法が施行されれば多国籍石油メジャーによってイラクの石油資源が今後30年間にわたって吸い尽くされると警鐘をならし、民営化反対を掲げ闘っている。米国がマリキ政権に押し付けた石油法に反対するこのようなイラク民衆の抵抗、闘いもまた、米国の思惑通りにイラク占領支配を進めることを許さない力となっている。
※イラク人労働者が石油を守るためストを実行(益岡賢のページ)
http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/places/zmag070612.html
※クルド人地域の異様な繁栄については、昨年の12月14に放映されたNHKクローズアップ現代「イラク分裂の危機〜始まった石油争奪戦〜」の中で詳しく紹介されている。
(2)米軍の撤退をめぐるイラク国内における激しい鞘当が始まった。現在のイラクにおける台風の目となっているのがサドル派である。反米強硬派としてのスタンスを保ち続けてきたサドル派は、今やイラク民衆から広範な支持が集まりつつあると言われている。マリキ政権を支えていたサドル派は4月16日、自派の閣僚を辞任させ、マリキ政権と距離を取る姿勢を明らかにした。もともとマリキ首相は、出身政党のダアワ党とサドル派の支持の上に成立した。政権基盤が弱く、サドル派の離脱によって、実質的な力は完全に削ぎ取られているといっても過言ではなかろう。存在できる理由は、米軍の意向を反映していること、拮抗する各派のバランス、この点である。
マリキ政権からのサドル派離脱と呼応する形で、米軍のイラクからの撤退を求める議会内の動きも出てきた。イラク議会では5月、米軍の撤退要請決議を144人の議員(275人が半数、その中でサドル派は30人)で採択した。これまで幾度となく米軍撤退を求める決議が審議されてきたが、採択されたのは初めてのことである。また、6月には多国籍軍の駐留に対してイラク議会が拒否権を発動することができるという法律も採択されている。もちろん、これによって一気に米軍の駐留反対に向けた流れが加速するわけではないが、ブッシュ大統領の増派政策の失敗が明らかになりつつある中で、イラクの政界の中で反米の動きが拡大しているのである。
※多国籍軍の駐留期限延長 イラク議会に拒否権(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2007061002023067.html
※Majority of Iraqi Lawmakers Now Reject Occupation(Alternet)
http://www.alternet.org/waroniraq/51624/
(3)一方ここにきてブッシュ政権内部から、「韓国モデル」なる構想が聞こえてくるようになった。6月9日、スノー米大統領報道官は、「米軍のイラク駐留は韓国がモデルになる」と語った。このスノー報道官と同様の発言は、その他の政府高官からも上がっていた。ゲーツ国防長官は、1950年代、朝鮮戦争終結後に韓国と結んだ協定と同じような方法でイラクにおける長期的な駐留を検討していると語った。「韓国モデル」は、@米軍がイラクに長期的に駐留し続ける。在韓米軍と同様、軍事的主権は米軍が保有する。A緊張の度合いに応じて段階的に部隊を削減していく。Bイラク軍を育成し米軍の役割は相対的に後景に退く。最前線にイラク国軍を立たせる。これらがその内容である。その本質は、イラクへの米軍の軍事的プレゼンスを恒久化することにあり、50年に渡って主権を侵害し駐留を続けてきた朝鮮半島での米軍のプレゼンスの中東版である。韓国では、朝鮮戦争終了後50年後には3万人まで部隊数を削減できた。だからイラクにおいても、情勢に応じて段階的に部隊数を削減していくのだ。このレトリックによって、削減要求の高まる米国世論をなだめようというのである。しかし、当面の駐留はやむを得ない、この言葉がセットである。
だがこの「韓国モデル」なるものは全く新しいものがない。当面の掃討作戦がにっちもさっちもいかなくなったことから、あたかも長期戦略が存在するかのように振る舞うために持ち出してきたものにすぎない。「韓国モデル」に基づく新たな政策は、現在の延長に過ぎない。かねてより、米は掃討作戦を展開し、その前進を前提にした恒久基地建設をすすめている。しかも1950年代の韓国と現在のイラクが異なっている最大の点は、韓国での主敵は北朝鮮であり、正規軍を持つ国家と敵対していたが、イラクでは国内の民衆に支持された反米勢力であることである。また、韓国軍は北朝鮮軍と対峙しえたかもしれないが、イラクでは国軍すらもいつ何時、米軍に刃を向けてくるかもしれない、不安定な存在でしかない。
アメリカは今後50年間も、イラクで「見えない敵」とゲリラ戦を闘うというのだろうか。
※イラク米軍:「長期駐留は韓国がモデル」と大統領報道官(毎日新聞)
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/news/20070610k0000m030106000c.html
※US signals permanent stay in Iraq(クリスチャンサイエンスモニター)
http://www.csmonitor.com/2007/0612/p01s01-woiq.htm
[5]安倍はブッシュと手を切り、航空自衛隊を撤収させよ!
(1)ブッシュ政権は、9月の「成果報告」に向けて言い訳を探り始めた。9月に米軍から報告される進捗報告において、情勢が好転したのかどうかの判断への過度の期待を鎮めようとしている。スノー大統領報道官は6月中旬、「来る9月、何か劇的なことが起こるような期待に対して、初めから警鐘を鳴らしてきた」、と語り、成果の見極めを先送りすることも示唆している。
ペース統合参謀本部議長を1期2年で異例の更迭することがそもそも予防線である。ゲーツ国防長官は記者会見で、「ペース氏を再指名すると、上院の指名承認公聴会で過去のことで議論が百出し、国のためにならないと考えた」と正直に語っている。泥沼化するイラク戦争の責任者の1人だったペースを再任すれば、任期中に行われたイラク新政策の総括が問題になり紛糾するから更迭するというのだ。全く新しい人物をすげれば、民主党も追及のしようがないだろうと。こんなマンガのような事態が、イラク政策の中枢人事で起こっているのである。ペースはあまりの理不尽に怒って辞任要求を拒否し、更迭の道を選んだのである。
※米統合参謀本部議長、大統領が事実上の更迭(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4500/news/20070609it02.htm
(2)米国の軍事外交政策の混迷振りは、ことイラクだけではない。中東の各地域においてブッシュ政権の思惑が、ことごとく破綻する事態が進行している。パレスチナでは、ハマスがガザを制圧し、サウジアラビアとともに作りあげた穏健派ファタハ主導の統一内閣が崩壊した。代わりに米・イスラエルが露骨に介入する形で、親米・親イスラエルの非常事態内閣が設置された。解任されたハマスのハニヤ首相はハマス政権の存続を主張している。
またレバノンでは昨夏、ヒズボラを中心とした反米・反イスラエルの民族解放戦線が力でイスラエルの侵攻と暴虐、その目論見を打ち砕いた。アフガニスタンでは、タリバン勢力の攻勢が開始され、多国籍軍による占領支配が揺らいでいる。
シリア、イランの影響力を排除することを企図したブッシュ政権の中東政策は、次々と挫折している。
※Israeli troops move into Gaza; 13 Palestinians killed(latimes)
http://fairuse.100webcustomers.com/fairenough/latimesA75.html
※Taleban 'shifting focus to Kabul'(BBC)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/6224900.stm
ブッシュ政権がいかなる政策の修正、新政策を打ち出そうとも、問題の根本的な解決の唯一の道は、米軍のイラクからの即時全面撤退である。米軍の存在そのものがイラクを混迷させ、対立と流血を生んでいることを思い知らねばならない。
大統領選挙を来年に控え、「ブッシュ後」を見据え、共和党内部からもブッシュのイラク政策に対して批判が吹き出し始めた。また民主党はブッシュ政権に対して撤退期限を明確にする圧力をかけている。しかしその民主党もまた、即時全面撤退には及び腰である。無条件の撤退を求めているわけではない。せいぜい良くて、ベーカー・ハミルトン委員会の線にとどまるであろう。目新しいものとして、「穏健イスラム諸国への支援強化」「国際協調の重視」程度のものを付け加えるだけである。
ブッシュ政権に対してイラクからの即時全面撤退を押し付けることができるのは、唯一、反戦平和運動の力、大衆の力だけである。
※Senators' dissent over Iraq might trigger a different surge(CNN)
http://www.cnn.com/2007/POLITICS/06/27/iraq.gop.dissent/index.html?section=cnn_latest
※米国のイラク戦略、失敗しつつある=共和党の有力上院議員が警告(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/a?g=afp_int&k=20070627013096a
(3)安倍政権は、6月20日、イラク特措法延長を強行採決し、2年間もの航空自衛隊によるイラク戦争加担継続を決めた。米のイラク占領支配が泥沼化し、ブッシュの新政策の破綻が明確となった下での延長決定は極めて犯罪的である。
航空自衛隊が行っているのは「復興支援」などではない。昨年7月の陸上自衛隊のサマワ撤収後、航空自衛隊が担うクウェートからバグダッドなどへの輸送業務は、ほとんどが米軍物資、武装米兵である。従ってこれは、あからさまな侵略戦争への軍事的加担である。一方では、テロ特措法のもとで、海上自衛隊がアラビア海、インド洋において多国籍軍への補給活動を続け、アフガニスタンへの攻撃にも加担している。
航空自衛隊をイラクに駐留させ続ける意味は、海外派兵を恒常化させ、日本がアメリカの戦争に協力していること、財政的にだけではなく、戦闘地域に自衛隊員を送り出していることをアピールし続けたいという狙いに他ならない。だからこそ日本政府にとっては、人道物資ではなく、また国連支援でもなく、米軍物資や武装米兵を、絶えず輸送し続けることが重要なのである。
※4月20日の民主党岡田克也議員の質問に対する答弁書において、政府は、現在航空自衛隊による輸送回数はおおむね週4、5回程度であり、このうち、バグダッドへの運航(2006年7月31日開始)がおおむね週1回程度、バグダッド経由のエルビルへの運航(同年9月6日開始)がおおむね週一回程度となっており、その他はアリ(タリル)飛行場への運航であるとしている。なお、国連に対する支援活動は月4、5回程度である。これからすると、国連向けは申し訳程度で、7〜8割が米軍向けということになる。また4月の26日の衆院イラク特別委員会で、防衛省の山崎運用企画局長は、共産党赤嶺政賢議員への答弁として、イラクで活動する航空自衛隊の空輸実績(1〜3月)を輸送物資の重量でみた場合、約93%が米軍中心の多国籍軍支援になることを明らかにした。
※自衛隊の活動に関する質問に対する答弁書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b166172.htm
安倍政権は、防衛省への昇格に続き、集団自衛権行使解禁のための諮問会議の急ピッチでの開催、米軍基地再編法の強行成立と辺野古基地建設事前調査強行、米第1軍団司令部のキャンプ座間への移転と陸海空の統合指令部の設置、ミサイル防衛への協力等々、日米軍事同盟一体化を最優先課題とする政策を次々と打ち出し、自衛隊をアメリカの世界戦略に組み込み、より実質的に先兵として侵略戦争に加担する体制を構築しようとしている。安倍が公約と掲げる日本国憲法の改悪もその一環である。
アメリカの戦争だという理由だけで、情勢の検討も出口戦略もなく底なしに付いていけばどうなるのか。その危険性は、泥沼化するイラクの現状を見るだけで十分である。安倍は今すぐブッシュと手を切り、航空自衛隊を撤収させるべきである。