シリーズ:ブッシュのイラク新政策と戦争拡大の危険(その2) イラク開戦4周年に向け、ブッシュのイラク新政策に立ち向かうアメリカの反戦平和運動 −−戦争予算に反対する占拠プロジェクト、戦争を止めるためのキャンプ行動から3.17ペンタゴン行進へ−−
はじめに
(1) 一体どうすれば、巨大な戦争マシーンの歯車を止め、イラク戦争を終結させることができるのか。どうすればイラクからの米軍の撤退を勝ち取ることができるのか。どうすればイランに対する攻撃を未然に阻止する事ができるのか。この最大・最重要のテーマに向かってアメリカの反戦平和運動が再び動き始めた。
中間選挙での歴史的な大敗北にも関わらず、ブッシュ政権はイラク新政策を打ち出し、バグダッドへの増派と軍事対決路線を鮮明にした。それは、イラクの破壊と人民の犠牲を極限にまで推し進めるだけでなく、米国民の忍耐と米兵の犠牲の増加を強いる、いつ果てるともない泥沼の強硬政策である。アメリカと世界の反戦運動は重大な局面を迎えることになった。とりわけアメリカの反戦運動は、再び大規模な反戦行動を波状的に提起し、最大の焦点であるイラク戦争開戦4周年に向けて、真に有効な力を持つ闘いを模索し、試行錯誤しながら闘いを再構築しようとしている。
(2) 共産主義・労働者政党と緊密な関係にある「今すぐ米軍の撤退を」連合(TROOPS OUT NOW COALITION、TONC)や「国際行動センター」(IAC)など先進的な反戦運動団体は、すでに昨年11月の米中間選挙の前から、ブッシュ政権と米支配層に中東支配と石油利権確保の衝動がある限り、選挙でどちらが勝利しようとも戦争は継続されること、戦争と占領に対する闘争を再び街頭で形成する必要があることを訴えていた。TONCはその声明の中で、イラク戦争と占領支配を集結させるための方程式に2つの解があるとした。一つはイラク人民の抵抗闘争による米軍の軍事的敗北であり、それは事実上遂行された。しかし、この方程式のもう一つの解である米国の反戦運動は「ウィークポイント」であると表現し、イラク、中東および全世界の人々は、米国の人々が立ち上がり、戦争を止めるのを待っていると呼びかけている。TONCは、そのための課題として、反戦運動内のより大きな統一のために働き闘うこと、政治的な要求や戦術についての完全な合意を持つのではなく、それぞれの違いを前提とした上で、共同行動を追求する事を訴えている。
それは、アメリカの二大反戦センターであるUFPJ(平和と正義のための団結、United for Peace and Justice)とANSWER(戦争を止め人種差別を終わらせために今こそ行動を、Act Now to Stop War & End Racism)が、2005年9月の大規模なワシントン行動を統一して共催したのを最初で最後として、再び分裂傾向を強めていたという情勢認識を背景にしているのは間違いない。
※Summit maps out strategy opposing U.S. wars at home, abroad http://www.troopsoutnow.org/summit.html
昨年11月8日にニューヨークのハーレムで行われた反戦サミットには、反戦運動、共同体運動、移民労働者の運動、労働運動等の50以上の団体から150人以上が参加し、3.17のペンタゴン行動に向け統一した反戦行動を作り上げために奮闘することが確認されている。
※An International CALL From The TROOPS OUT NOW COALITION http://www.troopsoutnow.org/backtothestreets.html
※International Action Center http://www.iacenter.org/
(3) 私たちは、二大反戦センターがアメリカの反戦運動の中で果たしている積極的な役割、その統一行動を妨げている根底にあるもの、そしてそれがあたえている否定的な影響などを詳しく知ることはできない。もっとも、重要ことは、4周年に向かって、またそれを契機としてアメリカの反戦平和運動が具体的にどのような闘いを構築していこうとしているのかを明らかにすることである。
UFPJが提起した1月27日の反戦行動が全米で50万人、ワシントンで15万人を結集したのは、ANSWERが直前になって行動への合流を呼びかけたことが影響していることは間違いない。また、ANSWERが提起する3月17日のペンタゴン行進と、TONCなどが3月12日から提起するワシントンでのキャンプ行動に対しては、UFPJは「4周年を最後の記念日にしよう」という2月26日に出された声明の冒頭で紹介し、結集をよびかけている。同時にUFPJは、「創造的非暴力のための声」(VCNC)が提起する「占拠プロジェクト」という上下両院議員事務所への実力行使のキャンペーンを各地で展開し、4周年行動については各地で行動を行う方針をとっている。これらの動きの中に私たちは、統一行動はやらないものの、互いの行動を尊重し、競い合いながらアメリカの中で全体として大きな反戦運動を再形成していくという姿勢を読みとることができるのではないか。二大反戦センターが、そしてまた民主党系リベラルから社会主義、共産主義の部分まで、その傘下にある様々な政治的色合いも持った米国の反戦運動団体が、どのような形で闘いを前進させていくのか、私たちは、注視したい。
※4 Years Far Too Many -- Help Make This the LAST Anniversary http://www.unitedforpeace.org/
(4) 今年に入って、1月11日グァンタナモ基地収容開始5周年を糾弾する国際連帯行動、1月27日の全米反戦行動とワシントンデモ、2月15日〜17日にかけて行われたニューヨークやデトロイトなどでの戦争予算反対の全米行動、2月5日から2ヶ月にわたって行われている「占拠プロジェクト」、3月12日からワシントンで行われる「戦争を止めるためのキャンプ行動」、ANSWERが呼びかける3月17日ペンタゴン大行動、UFPJがイラク戦争開戦4周年に全米各地で呼びかける反戦行動等々、米国の反戦運動はかつてない規模と広がりでブッシュ政権のイラク新政策に立ち向かおうとしている。
私たちは、到底アメリカの反戦運動全体を捉えることはできないが、その主要な行動と特徴を明らかにすることによって、闘いの再構築のために奮闘するアメリカの反戦運動を紹介し、連帯していきたい。
日本においても、東京をはじめ各地でイラク開戦4周年の行動が行われる。安倍政権は、はやくもイラク特措法の2年程度の延長方針を明確にし、イギリスをはじめ「同盟国」がイラクからの撤退に動き、ブッシュの「対テロ戦争」から距離を起き始めたまさにその時期に、アメリカの戦争加担と日米同盟強化路線を鮮明にしている。それだけでなく、安倍政権は、ここに来て本来持つタカ派路線への回帰を鮮明にし、憲法改悪の直接の第一歩=国民投票法の今国会成立方針など、戦争できる国造りの整備を加速しようとしている。安倍政権の右翼反動政策、日米同盟強化、基地再編、戦争準備政策と対決する日本の運動の意義はますます高まっている。
2007年3月8日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
[1]ブッシュ政権と対峙し、大統領の弾劾と辞任を要求し始めたアメリカの反戦運動
(1) ブッシュのイラク新政策発表と共に、米国内では激しい批判と怒りが湧き起こり、ブッシュの戦争政策をストップさせるための闘いが再び始まった。
新政策発表の翌1月11日は、ちょうどブッシュが「対テロ戦争」の名の下にキューバの米グァンタナモ基地に不当な拘束を行い収容を開始してちょうど5年に当たる日であった。グァンタナモには今も400人近くが不当に拘束され、拷問や虐待を受けている。このグァンタナモ基地収容開始5周年に抗議し、収容所の閉鎖と収容者の即時釈放を求める行動が、ブッシュのイラク新政策の反対の要求と合わせて、ワシントンをはじめロンドン、マドリードなど全世界20ヶ国以上の主要都市で展開された。この中で象徴的な役割を果たしたのがシンディ・シーハンさんである。彼女はキューバに渡り、グァンタナモ基地につながる検問所付近を先頭に立って行進した。
シーハンさんは、日本のメディアでは、戦死者家族の母として知られているが、その鋭い国際的感覚についてはほとんど紹介されていない。戦死した自分の息子や米兵の戦死者問題だけでなく、「対テロ戦争」によるアラブ・イスラム系の人々に対する不当な弾圧や拘束、そして何よりもイラク戦争によるイラク市民の大量殺戮に対して厳しい批判を展開し、メディアで積極的に発言している。イラク人の犠牲者数に関するAP通信の最近の報道を巡って、シーハンさんは、「イラク人も我々と同じ人間だ」という記事を発表した。そこで、65万人というイラク人の犠牲者数を強調しイラクの被害の大きさを訴えると共に、米兵の犠牲者のみを取り上げるメディアの対応を厳しく批判した。シーハンさんはその中で、イラクの被害の甚大さを知らせることが、米国民の反戦機運を高める大きなきっかけになると語っている。
※Iraqis are People, too http://www.commondreams.org/views07/0225-26.htm
※Cindy Sheehan, George Will, and Loving Your Enemies http://www.smirkingchimp.com/thread/5736
(2) 1月27日には、アメリカ全土で、イラク増派に反対し米軍の即時撤退をもとめる大行動が、反戦センターUFPJなどの呼びかけで行われた。これは、ブッシュがイラク新政策を発表して以降最初の大規模な反戦行動となった。反戦センターANSWERは直前になってこの行動への合流をよびかけ、全米各地で50万人以上が参加する大規模な行動となった。首都ワシントンでは15万人が参加する大集会とデモが開かれた。行動では、「米軍はイラクから即時撤退せよ」「息子たちを返せ」「グァンタナモを閉鎖せよ」「占領ではなく、教育に予算を回せ」などの要求が掲げられた。また、危険が高まるイラン戦争に反対するスローガンが中心の一つとなった。
イラクからの帰還兵、息子や家族を亡くした遺族たち、身内がイラクに派遣されている家族、さらには、現役兵までもが行動に参加している。1月17日には、将校らを含む現役兵による1000人を超える撤退請願署名が議会に提出されている。増派要員の確保とローテーションを困難にするための、高校や大学での新兵募集勧誘活動を阻止する闘いなど、各地で多様な形態の抵抗闘争が闘われている。
運動の大きな特徴は、昨年秋の中間選挙でのブッシュの敗北をうけて、大統領を弾劾し、辞任を要求するスローガンが大きく掲げられ始めたことである。「インピーチ・ブッシュ」のシュプレヒコールがホワイトハウスに響き渡った。ブッシュをこのまま大統領の椅子に座らせ続けたらアメリカと世界は取り返しのないことになる、犠牲者はますます拡大しイラクはますます泥沼化する、事態はブッシュをやめさせるのかどうかというところまで来ている、等々。ブッシュとチェイニーの弾劾は、「変化のための弾劾運動」、「弾劾07キャンペーン」、「ブッシュに弾劾を」などの運動が立ち上がり、3.17のペンタゴン行進に向かって集中しようとしている。
※ImpeachForChange http://www.democrats.com/taxonomy/term/7929
※Impeach07 http://www.impeach07.org/
※ImpeachBush http://www.impeachbush.org/site/PageServer?pagename=homepage
※Vermont Votes to Impeach Bush/Cheney http://www.commondreams.org/views07/0307-22.htm
ブッシュの弾劾決議は以下の都市で決議されている。Bristol, Burke, Calais, Craftsbury, Dummerston, East Montpelier, Greensboro, Guilford, Grafton, Hartland, Jamaica, Jericho, Johnson, Marlboro, Middlebury, Montgomery, Morristown, Newbury, Newfane, Peru, Plainfield, Putney, Richmond, Rochester, Roxbury, St. Johnsbury, Springfield, Stannard, Sunderland, Townshend, Tunbridge, Vershire, Warren, Westminster, Wilmington, and Woodbury
(3) さらに2月15日〜17日は、「すべての戦争予算の削除を要求する日」と名付けられ、大小さまざまな取り組みが、一斉行動として全米各地で繰り広げられた。ニューヨーク、ボストン、デトロイト、ロサンゼルス、アトランタ、クリーブランド、フィラデルフィア、マサチューセッツ、ジョージア等々。この行動は、TONCなどが呼びかけたもので、米議会の535議員への公開書簡を送り、議員への圧力をかけ、戦争予算に反対投票することを要求した。
※Vote No War Funding http://www.votenowarfunding.org/votenowarfunding.shtml
※Across the US - the People Demand "No More Money for War" http://www.troopsoutnow.org/feb17report.html
公開書簡は、「今人々は、それを実行するためにあなた方に権限を与えたのだ」と語り、とりわけ民主党議員を問いつめる。上下両院で民主党が多数派になった11月の中間選挙の結果を受けて、大統領の弾劾さえ提起できる有利な議会条件が形成されたにもかかわらず、多くの保守的で動揺的な民主党議員たちが、戦争には反対するが、軍隊を支援するために資金を提供することには賛成し、戦争の拡大を支持するという対応をとっていることを痛烈に批判している。そして、米兵と彼らの家族が必要とする実際の支援は、戦争資金調達の道を断ち切り、皆が生きて帰還できるように断固として行動することだと呼びかけている。
カリフォルニア州では、セントバーバラから3000人を越える学生がデモ行進を開始し、そのうち数百人がハイウェー217に座り込み数時間閉鎖するという実力行使を行った。ニューヨークのタイムズスクエアの集会では、多数の参加者が、即時撤退を政策としないヒラリー・クリントンの事務所に向かって行進し、圧力をかけた。ウェスト・ハーレムのコロンビア大学では、300〜400人の学生がデモ行進を行った。フィラデルフィアでは、 SEIU(サービス従業員国際労働組合)からの活動家、平和のためのベトナム退役軍人会、IACらのグループが、センターシティに結集し、反戦集会を開催した。失業者が街にあふれるデトロイトでは、予算を戦争にではなく生活と雇用、教育や福祉に回させるための活動が各地で行われた。等々。
戦争予算の削除を要求するこの行動には、学生や労働組合の組合員、移民労働者などが結集した。これは大きな特徴である。二極化と格差拡大、移民労働者に対する差別、貧困層の増大、ワーキングプアの増大など社会矛盾が先鋭化する中で、反戦運動と人種差別問題、貧困問題、対外侵略と国内抑圧問題に対する闘いがますます結びつく傾向を強めている。まだ少数ではあるが、翼賛的傾向の強かったアメリカの労働組合運動の中にあって、反戦を掲げ、米軍のイラクからの撤退を公然と要求する労働者の組織も取り組みを強化している。
※US Labor against the war http://www.uslaboragainstwar.org/index.php
[2]戦費の承認を許さない実力行動「占拠プロジェクト」
(1) ブッシュと対決し、ブッシュが要求しているイラク戦費の追加の議会承認を阻止することによって、イラク戦争の遂行を実際に不可能にしようという運動が、各地で闘われている。そのもっとも先鋭化した形態が、VCNCが提起し、UFPJなどが呼びかけている「占拠プロジェクト」(The Occupation Project)である。
※The Occupation Projectは、イラク占領支配を皮肉ったキャンペーンで、直訳すれば「占領計画」であるが、戦争に反対しない議員事務所の占拠を内容としているので、ここでは「占拠プロジェクト」と訳した。
ブッシュは、イラク戦費を中心とする「対テロ戦争経費」を2448億ドル(2008年度予算として1452億ドル、2007年度末までの追加予算として996億ドル)上乗せする予算を要求した。これによってアフガン、イラク戦争の経費は8000億ドル近くに膨れ上がり、6000億ドルであったベトナム戦争(インフレ調整済み)を大幅に上回り、第2次世界大戦に次ぐ規模の途方もない戦費となることが明らかになった。
「占拠プロジェクト」は、この追加予算措置への反対を誓約することを拒絶する上下両院の議員の事務所を占拠し、反対を迫るための大規模な行動である。この行動は、2007年2月5日から始まり、2ヶ月に渡って続けられる。平和のための帰還兵の会や発言する兵士家族の会、CODEPINKなど有力な反戦団体が賛同し、行動に参加している。
この行動は、参加を表明した個人やグループからなる正式団体によって、各州の法律に基づき非暴力の行動として遂行されるが、「占拠」を伴うため、逮捕を覚悟した行動である。以下のような行動が展開されている。すなわち、オフィスを「占拠」し、この戦争で犠牲になった米兵およびイラク市民の名前をひとりひとり読み上げ、議員が追加予算措置への反対を制約するまで、やり続ける。犠牲になった米兵とイラク人のために、オフィスの中で一分ごとにベルを鳴らし続ける。何人の犠牲者が出たのかは明らかになっていないが、何十万人に登ることは間違いない。まる一日で60×24=1440人分、それを続ける。さらに、議員事務所で祈りをささげる行動、死者の名前を事務所のポストに投函する活動、犠牲者の写真を張り付ける活動などが提起されている。
※The Occupation Project http://vcnv.org/the-occupation-project-a-campaign-of-sustained-nonviolent-civil-disobedience-to-end-the-iraq-war
(2) 「占拠プロジェクト」は2月5日から全米の上下院議員事務所で活動が開始され、メディアでも大きく取り上げられる一方、各地で次々と逮捕者を出している。
※Anti-war effort means jail for some protesters http://pressherald.mainetoday.com/news/state/070223arrests.html
3月5日ウィスコンシン州ウォーソーの共和党議員デイブ・オーベーの事務所では、4人が逮捕された。2月28日には、オハイオ州のボイノビッチ共和党上院議員の事務所で、占拠と読み上げ行動などが行われ3人が逮捕された。2月27日には、ミズーリ州のカーナハン共和党上院議員の事務所を、平和のための帰還兵の会と発言する兵士家族の会のメンバーらが訪れ、イラクに駐留する米兵からの手紙を読み上げ、2人が逮捕された。2月21日、オレゴン州ボートランドのトム・アレン民主党下院議員事務所では13人が逮捕された。アレン議員は、2003年にイラク戦争の開戦に反対し、撤退を要求しているにもかかわらず、追加予算措置に対する反対を表明していないことから執拗な行動が計画されている。ミズーリ州セントルイス大学では20日に民主党議員レーシー・クレイが講演のあとの質疑で、イラク増派に反対しながら追加予算には対しては言葉を濁していたため、反対であれば反対の声明を発表せよと迫られ、クレイは反対のプレス発表することを約束させられた。12日、オレゴン州では、ゴードン・スミスの事務所で2人が逮捕された。2月8日カリフォルニア州のマイクホンダ議員の事務所へ約25人のおばあちゃんたちが押し掛け、歌や踊りで訴え、逮捕された。2月5日アリゾナ州マケイン上院議員の事務所での行動、ミネソタ州では毎木曜日に議員たちの事務所前で平和の「ビジル」を開催、アイオア州チャールズグラスリー共和党上院議員への行動、カリフォルニア州ロサンゼルスでのワクシマン議員に対する行動等々。
※以下に各地の行動地図が掲載されている
http://vcnv.org/occupation-project/campaign-descriptions
(3) この行動は、民主党議員を主要な対象としている。民主党は、米軍の安全確保のためという理由で、訓練や装備が十分でない戦闘部隊のイラク派兵を認めない法的措置の実現を目指すとしているが、増派阻止やその予算措置反対については曖昧である。そして増派に反対し米軍の撤退を一般的に要求しながら、その根拠となる予算措置には反対しない議員が存在している。民主党員の党派性をあぶり出し、徹底して追及することにこの行動の目的がある。
※Iraq war protesters target Democrats http://www.michaelmoore.com/words/latestnews/index.php?id=9244
すでに民主党は、2003年のイラク開戦法を改正することによって、イラク戦争遂行を不可能にするという計画から後退しただけでなく、ブッシュの追加予算措置を容認する方向に動いているという報道も出始めている。
※Democrats back away from Iraq plan http://www.cbsnews.com/stories/2007/02/27/ap/politics/mainD8NHNME80.shtml
※Dems to add billions to Iraq war bill http://news.yahoo.com/s/ap/20070307/ap_on_go_co/us_iraq
[3]ベトナム反戦闘争を再来させるペンタゴン行進と「戦争を止めるためのキャンプ行動」
(1) ANSWERは、3月17日に、ワシントンからペンタゴンへの大規模な行進とそれと連動した全米各地での反戦運動を構築を呼びかけている。
このペンタゴン行進に先駆け、予算審議が始まる時期、3月12日からワシントンで大規模なキャンプを設営し、議会に圧力をかけようという行動、「戦争を止めるためのキャンプ行動」が行われる。これは上で述べた2月5日から全米で行われている戦争予算反対の「占拠プロジェクト」の成果を大衆的なものとし、「ペンタゴン行進」と事実上結合させていく試みである。
※http://encampmenttostopthewar.blogspot.com
※http://www.troopsoutnow.org/summit.html
キャンプ行動では、ワシントン内のモールや公園で24時間のキャンプ設営が目論まれ、移民労働者の権利のための集会、帰還兵・兵士家族たちのキャラバン隊の到着、米軍のリクルート活動を学校から叩き出す若者のグループなどの集会、イラン戦争への反対集会などが計画されている。
そして、戦争への追加予算措置に関する議会での採決が行われる場合には、議会に対する直接行動も予定されている。
(2) 3月17日のペンタゴン行進を呼びかけるANSWERのポスターは、ペンタゴンをあらわす巨大な五角形の歯車と戦争予算を表すドルの歯車が人々を引き込みドクロを排出していくというデザインで、イラク戦争の長期化が人民の多大な犠牲を強いていることを訴えている。
ANSWERは以下の点を主張する。イラクの戦争が、1990〜2003年の経済制裁によって殺された100万人の上に65万5千人を加えるというジェノサイドをもたらしていること、イスラエルに供与された米国のミサイルがパレスチナとレバノンの人々の犠牲を生み出していること、米のグローバル企業や石油メジャー、金融資本が世界覇権のために全世界130ヶ国に714の軍事基地を張り巡らしていること、米軍が韓国を占領し、北朝鮮を射程に入れた核を持ち込んでいること、キューバやベネズエラに対して軍事的恫喝を加えていること、ブッシュは「対テロ戦争」の名の下に、米国民へのスパイ行為や監視活動をほしいままにし、アブグレイブやグァンタナモなどの収容所や拷問設備で人権侵害を行っていること、米国民の4700万人以上が福祉厚生から排除され、4人の子どもの内1人は極貧の中に生まれていること、そして、イラクの戦争は石油のための戦争であり、何千もの米兵が犠牲になっているにもかかわらず、多くの米企業が莫大な利益を得ていること等々。そして、アメリカ帝国主義の軍事覇権と戦争犯罪を糾弾し、以下の3点に主張を集約する。
1. アメリカはイラクから今すぐ出ていけ! イラクはイラクの人々のものだ!
2. 仕事と教育にお金を回せ!戦争と占領につぎ込むな!
3. 戦争を遂行する者を投獄せよ!
(3) ペンタゴン行進は、ベトナムからの撤退へと世論が向かう大きなきっかけの一つとなった1967年の対ペンタゴン行進40周年にちなみ、その大デモンストレーションを再来させようという計画である。
それは、現役兵士、イラクで任務に就く兵士の家族、イラク帰還兵や退役軍人、学生と若者、労働者、アラブ・イスラム系の組織、ラテンアメリカ出身者たちのグループなどが結集する歴史的な行動になるだろう。
すでに、全米200カ所を越える地域から、バスをチャーターした大規模な移動が予定されており、自動車、キャンピングカー、キャラバン隊、飛行機などでの結集も予定され、また、交通や地下鉄の大混雑さえ予想されている。大行動の準備は着々と進んでいる。
※http://answer.pephost.org/site/News2?page=NewsArticle&id=8137
行動には、1000人を越える呼びかけ人が名を連ねている。3月6日には、シンディ・シーハンさんら著名な呼びかけ人が記者会見を行い、結集を呼びかけた。戦死者家族の会のメンバーとして、UFPJの行動に参加してきたシーハンさんがANSWERの行動を呼びかける先頭に立っていることに私たちは、アメリカの運動の新しいうねりを感じずにはいられない。まさしくイラクは、ベトナム戦争と対比させられる局面に入り、ブッシュ弾劾の大きな流れが生み出されようとしているのである。
[4]早くも行き詰まりを見せ始めたブッシュのイラク新政策 反戦運動の真価が問われる局面に
(1) ブッシュのイラク新政策は早くも行き詰まりを見せ始めた。米軍の掃討作戦によってバグダッドでのスンニ派によるとみられる「テロ攻撃」が頻発し治安の悪化に歯止めがかからない一方、シーア派のサドル派からは侵略軍としての米軍に対する批判が繰り返されている。そして、イラク現地の司令官から掃討作戦に対する悲観論、懐疑論が噴出し始めた。
米軍の司令官であるデービッド将軍に助言する立場にある将校のエリートチームは、この作戦が時間との闘いであると明言した上で、米の陸上部隊の数が不十分であること、国際的な同盟が崩壊しつつあること、英軍の撤退によって南部の暴動が増加するおそれがあること、犠牲者増によって兵士の士気が低下すること、そしてなによりもワシントンとバグダッドの政治的意志決定が誤っていることを重大な障害として上げている。特に、彼らは、米軍の反暴動フィールド・マニュアル(FM 3-24)改訂版に従い、バグダッドの治安対策を徹底するための「最適な比率」は兵員12万人であると主張し、米軍の決定的な欠如を問題にしている。これは、イラク全土に派兵されたほとんどすべての米兵をバグダッドに集中することを意味する。そして、ますますベトナム戦争末期の崩壊過程に似てくると警告している。
※US commanders admit: we face a Vietnam-style collapse http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,,2023865,00.html
(2) 一方、ペンタゴン自身が、21500人に加えて、7000人もの追加増派を検討し始めていることが暴露された。1月半ばから始まった増派がまだ終了していない段階で、追加増派の動きが出るという、全くの異常事態である。
※'Surge' needs up to 7,000 more troops http://www.usatoday.com/news/world/iraq/2007-03-01-surge_x.htm
※Pentagon raises estimate of troops for Iraq http://news.yahoo.com/s/nm/20070306/pl_nm/iraq_usa_dc_2
アメリカの反戦運動が最大の標的にしているように、イラク戦争を巡る議会における焦点は、議会が追加増派を容認するのか、そのための戦費の追加予算措置を認めるのかどうかに移ることになる。民主党とその議員は、口先だけで増派反対とイラクからの撤退を言い、大統領選挙で優位に立つことだけを関心に置くのか、本当にイラク戦争に反対し、米軍の派兵の財政的根拠を堀崩すのかが問われることになる。
アメリカの反戦運動は、ブッシュ大統領に対して、また民主党が多数派となった上下両院の議会に、これを押しつけていくことができるのか、真剣に問われる局面に入った。イラク開戦4周年は、これまでになく緊迫した政治情勢の中で迎えることになった。