[シリーズ]ブッシュと“復興利権”(その2)
ブッシュが世界中から集めた「復興資金」は誰のポケットに入るのか?


■「それを誰が得るのか?」(who will get it?)
 今回紹介するのはワシントン・ポストの10月9日付に載ったもので、現在のイラク復興事業に群がる米系多国籍企業の姿を“ゴールドラッシュ”に見立てている面白い記事です。ブッシュが提示した870億ドルという巨額のイラク占領費負担をめぐる対立は、残念ながら総額を根本的に削るといったものにはなりませんでしたが、「それを誰が得るのか」(who will get it)という形で政治問題になっています。特に、莫大な税金がどのように多国籍企業に還流しているのか、それに対してどの程度妥当なものなのか、政権は特別に一部の企業を優遇しているのではないか、資金の流れが不透明である、等です。

■「外交政策の商業化」(the commercialization of foreign policy)
 870億ドルだけではありません。すでに表明されている月間40億ドルという巨額の駐留費用のうち約3分の1が、民間の軍事請負企業への“くれてやり”に消えていることです。
 この記事で紹介されているのは、主として、警察や軍、民間警備、刑務所などの軍事・弾圧機関の創設に関わる民間請負業者です。こうした新興の請負企業は、いずれもペンタゴン出身者が主導的な役割を果たしており、軍人や議会や兵器ロビイストや軍産複合体のトップや役員連中の「天下り先」、「再雇用先」になっています。いわゆる「戦争の民営化」と言われる新しい現象です。

 しかし戦争が起こり拡大して初めて儲かるようなこうした血生臭い“死の商人”の新しい勃興とブッシュ政権との癒着は、古くからの軍産複合体や政商企業と絡み合いながら戦争推進の物質的な推進力になるのです。非常に危険な傾向なのです。
 イラクでの“ゴールドラッシュ”は、米政府が納税者のお金のコントロールを失うのではないか、再建の任務が政府の手から営利目的の民間請負業者に移されるのではないか、政府や議会の監督権限が縮小されコスト管理が弱まるのではないか、新生イラク政府の内外政策全体がその結果に金銭的な利害関係をもつ人々の手に落ちるのではないか等々、米議会や支配層の間で深刻な懸念を生み出しています。デボラ・D・アヴァン(ジョージ・ワシントン大学の政治学者で、新興の民間軍事企業の専門家)は、イラク政策がイラク利権をめぐる政権の一部と企業の癒着構造に牛耳られる懸念を「外交政策の商業化」(the commercialization of foreign policy)と呼んで警告しています。

2003年10月29日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



イラクへの支出がゴールドラッシュを引き起こす
Spending On Iraq Sets Off Gold Rush
ジョナサン・ワイスマン、アニサ・レディ
ワシントンポスト October 09, 2003
http://www.occupationwatch.org/article.php?id=1298


下院は本日、ブッシュ大統領のイラクとアフガニスタンに対する870億ドルの支出要請を取り上げた。その法案に関する議論でより焦点となったのは、費用の総額についてではなく、それを誰が得るのかという点であった。

すでにイラクで費やされている月40億ドルのうち、ほとんどその3分の1が、イラクに殺到した民間請負業者に支払われている、とデボラ・D・アヴァン(ジョージ・ワシントン大学の政治学者で、新興の民間軍事企業の専門家)は語る。議会がブッシュの要請を承認すれば、金銭の流れは大幅に増えるだろう。

必要とされているサービスの多く−−警察の訓練、非人道的犯罪の調査および刑務所建設の専門技術を含む−−は、高度に専門的なものだ。状況は危険である。専門家たちは、古典的な売り手市場の中でアメリカの納税者らが請負業者に法外な手数料を払うはめになることが予想される、と指摘している。

提案中の多数のプロジェクトの中に、新生イラク警察のための大きな訓練施設を建造するという国務省の8億ドルの計画がある。運営費用だけで毎月2600万ドルがかかる見込みである。一方、警察トレーナーが1,500人であれば年間24万ドル、一月当り2万ドルしかかからない。レストンのダインコープ(DynCorp)がその契約を受注するだろう。

「それは肝をつぶすようなものだとしか、言いようがない。」ボスニアで以前、軍の下請業者をしていたジェームズ・リオンは、民間請負業者の好機について語った。「人々はよだれを垂らすだろう。」

アヴァンの話によれば、イラクおよびクウェートに展開するアメリカ人10人に1人−−おそらく計2万人−−は請負業者で、これはイギリスとそれ以外のアメリカの同盟国が配備している軍隊よりも大きな集団である。チェイニー副大統領の前の会社でヒューストンに本拠を置くハリバートンの子会社ケロッグ・ブラウン&ルート(KBR)は、イラクの石油インフラ再建の独占契約を手に入れている。サンフランシスコが本拠のベクテルはインフラ再建の多くで主契約者となっている。

イラクのゴールドラッシュは、政府が納税者のお金のコントロールを失っているのではないかとの懸念を米議会で引き起こした。再建の任務が政府の人間の手から営利目的の請負業者に移るに従って、議員らが心配しているのは、彼らの監督権限が縮小され、コスト管理が弱まり、新しいイラク政府の治安、訓練及び形態までもが、その結果に金銭的な利害関係をもつ人々の手に落ちるだろうということである。アヴァンはそれを「外交政策の商業化」(the commercialization of foreign policy)と呼んでいる。

連合軍暫定行政当局(CPA)は、ワシントンからの金銭の流れを順調に消化していくためその契約のやり方を支持している、と議会補佐官らは述べている。しかし政治家らは、入札を行って契約を請負および下請けに与える過程が、もっと透明化され筋道だったものにされる必要がある、と不満の声をあげている。

「私たちが目の当たりにしているのは、納税者らに数十億ドルを負担させ、現実にイラクの復興のペースを遅らせている一方で、ハリバートンとベクテルを儲けさせている浪費と金メッキだ」と、政府の対イラク政策を先陣にたって批判しているヘンリー・A・ワクスマン共和党員(D-カリフォルニア州)は言う。「もっと透明性が必要だ。」

これらの懸念に突き動かされ、上院は先週、大統領が要請した法案に対して、戦争で不当に暴利を得る行為に対する罰則の増大、より開かれた競争的な入札システムを求める条項を付け加えた。

下院政府特別支出金委員会議長のC・W・ビル・ヤング(共和党-フロリダ州)は、戦争支出法案の下院案に、非競争的入札を制限する条項を含めた。

連合軍暫定行政当局の行政官L・ポール・ブレマーの上級アドバイザーを務めるダン・セノールは、そのような懸念は誤りだと断じている。彼は、請負業者間の競争がコストを抑えるだろうと述べている。

「我々は、これらのプロジェクトに関心を持つ請負業者、下請業者が大量にでてくるだろうと信じている」と彼は言う。「それは私たちの経験が示している。」

しかしセノールは同時に、連合軍暫定行政当局の契約に関する現在の主な関心事は、スピードであり、可能なところから米軍を請負業者に置き換えることで、米兵へのプレッシャーを減らしていくことにある、とも強調している。

例えば、フェアファクスに本拠を置くビネルは、ノースロップ・グラマンの子会社で、7月に新生イラク軍の訓練を始めるという4800万ドルの契約を勝ち取った。この総額はブッシュの870億ドルの要求に含まれている軍契約の訓練のための1億6400万ドルより縮小されたように見える。ビネルは、同様に、アレキサンドリアに本拠を置くミリタリー・プロフェッショナル・リソースおよびその他複数の会社と下請契約を結んだ。

エリニュスは、中東と南アフリカにオフィスを置くイギリスの会社で、破壊活動家らから油田とパイプラインを守っている。

カスター・バトルス・LLCもフェアファクスの会社である。社長のスコット・カスターの話では、バグダッド国際空港の警備サービスの提供、地上輸送の護衛、および米、ネパール、イギリス、フランス、オーストラリア軍に仕えている他の請負業者の250人の従業員の警護を、300〜400人のイラク人と一緒になって行っている。その数は、彼の言によれば「指数関数的に増えている」。

「イラクでの活動は今では我々のビジネスの大部分を占めている」と昨日、カスターは述べている。

これらの契約はほんの手始めである。建設機械会社キャタピラーの防衛・政府向け製品部門のマネージャー、エドウィン・E・ブロックウェイは、彼の会社の機械のうちの500〜600が既にイラクにあると言う。彼は、キャタピラー社がイラクの下水道設備、浄水場および道路再建の契約を勝ち取った民間企業として、もっと多くのブルドーザーやパイプ施設機の注文を受け取ることを期待している、と述べている。イラクで兵士らが使用するブルドーザーの価格は、だいたい10万ドルから100万ドル位である。また軍は、そのブルドーザーなどの部品をを修理しメンテナンスするためのサービス会社も雇っている。

エンジニアリング・サポート・システムは、軍はイラクで、自社の持ち運び可能なテント用大型エアコン、ヒーターおよび持ち運び可能なシェルターを4,000台使用していると見積もっている。各設備一式で1万1千ドルで、数千平方フィートの空調が可能である。

「陸軍からも空軍からも『さらにどれだけ製造可能か?どれだけ速く製造できるか?』との問い合わせがきている」、とセントルイスの企業向けのフィールド・マーケティングのディレクターを務めるブルース・ギブンスは語っている。

両政党の議会補佐官らは、彼らの懸念の例証として、警察訓練プログラムを指摘している。カリフォルニア本拠のコンピューター・サイエンス社の子会社であるダインコープは、この夏に最初の警察訓練契約を獲得した。8億ドル分すべてが承認された場合、契約はさらに大幅に拡大しうるというものであった。国務省は常時3,000人の新人と1,000人の教官およびサポート・スタッフを受け入れられる訓練キャンプを設立する構想を描いている。キャンプは2年ちょうどで35,000人のイラク警官を輩出する予定である。

ダインコープは、法執行機関または刑務所の現場で少なくとも10年以上の経験があり、「無垢な背景」「優れた健康」を持った1,000人の「警官アドバイザー」を募集し始めている。支出は? ダインコープは、最低賃金75,076.92ドルよりも高い153,600ドルの給料支払いを予定している。

ダインコープは、その契約についてのコメントを拒否し、国務省へ聞くように述べた。

「金額はかなりいい」とアレキサンドリアに本拠を置く民間軍需企業の貿易グループである国際平和オペレーション協会会長ダグ・ブルックスは語る。「しかしリスクもある。」

ブルックスは、暴利を得る価格は峠を越してしまったことを恐れている、と話している。エリニュスはイギリスの油井設備警護会社で、3000万ドルで警護契約を勝ち取ったが、それは競争で見積もりより1000万ドルも安く価格設定したからだ、と彼は言う。

「そうだ、そこにはたくさんの警備会社がいる」と彼は話す。「しかし、まだ契約を待っているのはほんのわずかであるということを私は知っている。もしある会社が暴利を得る価格を要求すれば、列をなしている他の企業もそうするだろう。」