[シリーズ]ブッシュと“復興利権”(その3)
反戦運動と反グローバリズム運動との結合
−−反グローバリズム運動が反戦運動に「企業監視」「企業告発」の新しいスタイルを持ち込む−−
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(1)今から約2ヶ月前の9月14日、カンクンで開催されたWTO閣僚会議が大混乱の中で決裂した。ブッシュ政権をはじめ米欧日の政府と多国籍独占資本による世界経済と世界貿易の独占的支配、南北の不平等貿易の更なる推進を“制度化”しようとする巨大多国籍企業の野望は再び挫折した。反グローバリズム運動は4年前のシアトルでの大勝利に引き続き再び勝利した。「第二のシアトル」と言われる。
今回紹介する論説は、9月10日に始まったWTO閣僚会議の翌日に書かれたもので、13日の反対運動のピークを前にして、反グローバリズム運動の新しい変化、新しいスタイルを論じている非常に興味深いものである。
(2)筆者が強調しているのは、反グローバリズム運動のダイナミックな復活・再生である。すなわち反グローバリズム運動が反戦運動に合流し、それと様々な形で結び付き、新しいスタイルを持ち込み結合し始めたことである。筆者も述べているように、反グローバリズム運動は4年前の1999年末の「シアトルの反乱」で大勝利した後、2年後の2001年、9・11と戦争への対応をめぐって分裂し低迷し後退した。しかし反グローバリズムのラディカルな部分は、そうしたスランプを乗り越え、ブッシュ政権によるアフガニスタン侵略、イラク侵略、とどまることのない戦争拡大政策に反対の態度を鮮明にし始め、再びそのエネルギーと勢いを回復したのである。
(3)筆者が言うには、この2つの運動の結合のきっかけは昨年9月にブッシュ政権が公表した「国家安全保証戦略」、いわゆる先制攻撃戦略=ブッシュ・ドクトリンである。そしてイラク戦争は、その先制攻撃の最初の具体化であった。軍国主義とグローバリゼーション、軍国主義と自由貿易=市場開放、軍事覇権と経済覇権は一つのもの、ブッシュ・アメリカの戦略目標になっているのだ。実際、このドクトリンは、テロを無くすには途上国の経済成長が必要だが、そのカギとなるのは貿易の自由化と市場開放だと位置付けている。ブッシュ・ドクトリンの強行こそが、反グローバリズム運動と反戦運動を結び付ける基盤になっているのである。
(4)新しく復活した反グローバリズム運動は、単にデモや集会に参加すると言うだけではなく、積極的攻勢的に反グローバリズム運動の独特の手法を反戦運動に持ち込み始めた。
特に「グローバル・エクスチェンジ(Global
Exchange)」はイラク占領支配を監視する「占領監視(Occupation
Watch)」運動を組織し、「政策調査研究所(The
Institute for Policy Studies)」は、ブッシュ政権の戦争政策に反対する調査研究とメディアへの働き掛けをしている。「公平な経済のための連合(United
for a Fair Economy)」は、軍国主義とグローバリゼーションについてのワークショップ運動を組織している。「コープウォッチ(Corpwatch)」、「
戦争に反対する米国労働者(U.S. Labor
Against
the War)」、「パブリック・シティズン(Public
Citizen)」、「公平な経済のための連合」、「世界政策研究所」は、ブッシュ政権とボーイング、ベクテル、ハリバートン、カーライル等との癒着関係を糾弾している。等々。−−ここに見られるのは戦争利権に群がり戦争で大儲けする軍産複合体や政商企業への鋭い告発である。
米の870億ドルを含めて世界中から集めまくった「復興資金」を、“戦争公共事業”、あるいは戦争利権にすり替えてしまおうというブッシュの狙いを暴くためにも、こうした戦争で金儲けを企む多国籍企業への「企業監視」「企業告発」は、今まさに重要になっている。
2003年11月7日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
2003年9月13日に、何万人もの人々が、世界中でデモンストレーション、ワークショップ、ティーチインに参加することによって、「軍国主義化およびグローバリゼーション」に反対する行動へのグローバルな呼びかけに応えるだろう。これは、そうしたグローバルな行動の日々に重要な段階を記す:戦争と貿易という2つの問題が、初めて一緒に提起された。
その呼びかけは、メキシコのカンクンに集合した草の根グループから発せられた。彼らは、通りに何千人もの農民と活動家を集め、強力な世界貿易機関(WTO)の第5回閣僚会議の外で抗議することを計画している。
軍国主義とグローバル化に反対する行動の最初の主要な呼びかけが、主としてラテン・アメリカに本拠があるグループからなされることは、驚きではない。ここは、軍が代々米国企業の利益を擁護してきた地域である:グアテマラのユナイティッド・フルーツ、チリのITT、ボリビアのベクテル、コロンビアのオキシデンタル・ペトローリアム、そしてメキシコでのNAFTA自身。
しかし初めて、反グローバリゼーション運動
―― より正確にはグローバルな公正運動と呼ぶべきかもしれない
―― のリーダーだった多くの組織は、今計画に沿ったやり方で軍国主義に取り組もうとしている。例えば、「グローバル・エクスチェンジ(Global
Exchange)」はその「占領監視(Occupation
Watch)」イニシアチブによって、常設の配置を組織している。「政策調査研究所(The
Institute for Policy Studies)」は、ブッシュ政権の勢力拡大計画についての、価値のある研究とメディアの仕事を提供している。また、「
公平な経済のための連合(United for a
Fair
Economy)」は、国中に広がる多数の教育者を組織し、軍国主義とグローバリゼーションについてのワークショップを指導した。
自らのキャンペーンに加えて、グローバル・エクスチェンジと政策調査研究所は、反戦連合である“平和と公正のための連合(United
for Peace and Justice)”を設立する上で、重要な役割を果たした。名前が示すように、その連合は、社会的公正を目指す組織と、2001年9月11日のテロ攻撃後現われた新しい反戦グループを、結集している。
「 平和と公正のための連合」は、歴史的な2003年2月15日のグローバル反戦デモンストレーションの日の、米国でのデモについて多くの賞賛を受ける資格がある。連合の組織者の多くは、シアトルや他の反グローバリゼーション抗議行動の経験豊富なベテランである。彼らは、50を越える米国の都市が、カンクンでのWTOデモンストレーションに合わせて、2003年9月13日に反戦・反グローバリゼーションのイベントを開催するだろうと予想する。
反グローバリゼーション運動は、さらにグローバル経済についての理解をもたらし、その企業分析を新しい方法で軍国主義問題に適用している。「コープウォッチ(Corpwatch)」、「
戦争に反対する米国労働者(U.S. Labor
Against
the War)」、「パブリック・シティズン(Public
Citizen)」、「公平な経済のための連合
」、「世界政策研究所」、その他の団体は、企業プロフィールを呈示し、ブッシュ政権と、ボーイング、ベクテル、ハリバートン、カーライル・グループといった戦争の主要な受益者との深い関係について、証拠資料を提供している。
米国外の有名な反グローバリゼーショングループも、同様に反軍国主義プロジェクトを始めた。ヨーロッパの「トランスナショナル研究所(Transnational
Institute)」、カナダの「ポラリス研究所(Polaris
Institute)」、東南アジアの「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス(Focus
on the Global South)」は、すべて新しい研究を提出しており、グローバリゼーションと軍国主義とのつながりに関して、市民グループへの支援を組織している。
軍国主義に焦点を当てることは、反グローバリゼーション運動にとって重要な時に現れている。その運動は、2001年9月11日のテロ攻撃以来の2年間不振の中にあり、その存在感と政治的力の衰退を被った。
9月11日のテロ攻撃の後、反グローバリゼーション運動は動揺し、街頭デモを一時停止するべきかどうか、および続いて起こったアフガニスタンとの戦争への対応を巡って、運動の穏健な分派とラディカルな分派との間に分裂が生じた。
その上、この運動の経済と企業への批判は、米国と世界中の政府が、国家安全保障と軍事の特権を中心にしてそれら自身を再編成するという、安全保障国家("national
security state")が再び主張されることに対する備えができていなかった。米国政府当局者はそれを単純に要約した:「安全保障は貿易に勝る」と。
しかし、2002年の終わりに発表されたブッシュ政権自身の「アメリカ合衆国国家安全保障戦略(National
Security Strategy of the United States
of
America)」は、国家安全保障の概念を、先制攻撃軍事力と自由貿易拡大に明白にリンクしたことにより、その運動に大きな恩恵を施している。フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウスのハーバート・ドシーナ(Herbert
Docena)がブッシュドクトリンについて書いたように、「米国の外交政策の最も重要なゴールは、世界で経済的および軍事的優位を維持することであるということは明白である」。
「平和と公正のための連合 」は、9月13日の行動を呼びかけている何百人ものメンバーへの手紙で、言った:「先制攻撃と恒常的な戦争というブッシュ・ドクトリンは、『自由貿易』を通じて経済を支配する計画と一緒に進んでいる。そして、偶然ではなく、悲惨な米国の経済状態を覆い隠している」。
多くのグループがこの反軍国主義の分析を採用しているとはいえ、すべての反グローバリゼーショングループがこの方向へ移動したと言うと、誇張になるだろう。当然、いくつかのグループは、問題をはっきり分けて考え続けている――特に、貿易問題に単一の焦点を当てて作られたグループは。
しかし、2つの問題のリンクは、少なくとも2つの戦略上の理由で重要である。第一に、グローバリゼーションと軍国主義の分析を含むことは、運動の批評をさらに前進させるだろう。何人かが議論したものを取り扱うことは、2001年9月11日の前にさえ盲点であった。第二に、それは、反グローバリゼーション運動が、世界を吹きぬけた巨大な反戦の動員と接近し、グローバルな平和と経済的公正を求めるより広い運動に新しい活動家を引き込むことを許す。
シアトル以来、反グローバリゼーション運動は、環境保護論者から労働組合員まで多様に広がる、多くの社会運動から構成されてきた。この興味深い集合は、シアトルで1枚のビラで要約された:「海亀とトラック運転手:ついに手を組む(“Sea
Turtles and Teamsters: together at last.”)」。
(訳注:"Sea Turtles and Teamsters"
1999年シアトルのWTO反対大行動の主要な参加団体に、環境保護グループの"Sea
Turtle Restoration Group"、米最大の労働組合"Teamsters
Union"(全米トラック運転手組合)が含まれている。)
グローバリゼーションと軍国主義のリンクの実現は、反グローバリゼーション運動を強くするだろう。新しい国家安全保障アジェンダが、劇的に国際関係、それ故にグローバルな経済に影響を及ぼすこと、来る数十年間にわたって影響し続けるであろうことは、明らかである。成長しつつある、有効な、グローバルな公正のための運動が、この破壊的なアジェンダに反対することは、重要である。
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スティーヴン・ステープルズは、ポラリス研究所の、企業と国家国家安全保障に関するプロジェクトの指導者である。ポラリス研究所は、オタワに本拠がある公益研究グループである。
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