[シリーズ]ブッシュと“復興利権”(その4)
イラク占領財政の破綻と占領軍当局による石油収益流用疑惑
盗んだ石油収益で米系多国籍企業に大盤振る舞い
◎ブッシュ・ネオコンの超楽観的石油略奪構想の壮大な破綻。
◎占領財政ひっ迫の中、再び石油略奪に重点を移す。 |
(1)イラク石油収入を蓄積する唯一の「預金口座」である「イラク開発基金」の預金50億ドルのうち約8割、40億ドルもの巨額の資金が管理者である占領軍当局(CPA)とブッシュ政権の手によって横領・流用されるという重大疑惑が発覚した。もし本当なら前代未聞のスキャンダルである。
しかもその疑惑が、マドリードで10月24日に閉幕した「イラク復興支援会議」に照準を合わせて公表され、会場の内外で政治問題になっていたと言うのだ。EUの閣僚の一部はこの疑惑に答えるよう会議で発言し、会場の外ではこのスキャンダルを暴露するNGOが盛んにブリーフィングを行った。ところが日本ではほとんど報道されなかったのである。
今回紹介するのは、[シリーズその4]で反グローバリズム運動がイラク反戦を担い始めたその典型的な組織「国際監視センター」のレポート「支援者、それとも強盗?
支援、それとも支配?」である。同レポートの情報源は、この資金流用疑惑を発見したイギリスのNGO「クリスチャン・エイド」の調査報告書「イラク:消えた数十億ドル−戦後イラクの変遷と透明性」と題する20ページのレポートだ。
※(Iraq: the missing billions - Transition
and transparency in post-war Iraq /23.10.03)
http://www.christian-aid.org.uk/indepth/310iraqoil/iraqoil.pdf
(2)なぜ米占領軍はイラクとイラク民衆のカネを盗む破目に陥ったのか。そこには、米英占領財政が破綻してしまったという実情がある。ブッシュやネオコンの当初シナリオでは、戦後すぐに石油生産・輸出が立ち直るはずだった。その石油収入を当てにして占領統治を開始したにも関わらず、その超楽観的な構想がたちまち崩れてしまい、米本国からの、あるいは国際社会からの資金援助もままならず、ブレマー総督が今夏に米議会で証言したように、占領財政は急迫していたのだ。おそらく「禁断のカネ」に手を付けずにはおれない状況だったのだろう。
そしてこの急性的な財政ひっ迫が、ブッシュ政権に大慌てで今回の870億ドルもの莫大な財政資金投入を急がせた理由であり、日本を含め世界中に「資金提供」圧力を掛けまくらせた理由であり、また翼賛政党化してしまった民主党がブッシュのこの弱みを選挙戦で利用するのではなく、まるで共和党と示し合わせたように870億ドルを議会で承認した理由ではないか。米議会の承認で、当面の資金ショートは避けられたかもしれないが、いずれ近いうちに次の資金ショートがやってくることは間違いない。
いずれにしても、米英の占領=植民地支配の下では、イラク民衆の反米・反占領、民族解放闘争は止むことはない。従って石油施設への攻撃も止むことはない。イラク民衆は決して自国の石油資源を米英に売り渡すことはないだろう。そうである限り、占領支配が長期化すればするほど占領財政は繰り返しひっ迫するし、米国の国家財政を食い潰し続けるだろう。
(3)ブッシュ政権にとって、最近のイラクの石油動向は悪いニュースばかりである。
−−生産量は、戦争終結宣言から5ヶ月が経った10月時点で、ようやく戦争前の143万バレルの水準に達したが、石油輸出が思うように進まない。
※石油輸出増量を目指すイラク(10月平均、130万B/Dを志向)(2003年10月16日更新)
http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei031016.htm
−−石油輸出の大半を占めるはずの「キルクーク−トルコ」ルートは、ゲリラのサボタージュ攻撃によって断続的に破壊され、計画的な輸出ができない状況である。
※フィナンシャル・タイムズ(10/4付)によれば、南部経由のパイプラインに輸出ルートを変更し輸出拡大を図る予定だという。
−−従って石油収入も思うように入らない。パウエルは10月25日、2005年には年間50億ドル、2007年まで150億ドルを石油収入で稼ぐと見通しを立てたが、その目標からは程遠いのが現状である。
(4)イラク侵略前にブッシュ政権、ペンタゴンやネオコンたちが描いていた超楽観的なイラク石油略奪計画は、今や完全に破綻している。彼らは、まずはイラクの石油利権を独占し、次にはこの資金を使ってイラク石油施設の修復や近代化を行い、イラク経済そのものの再建を実現するだけではなく、自国の石油メジャーや石油エンジニアリング企業をガッポリ儲けさせ、米英の占領費用や自国の戦費までをも賄おうとしていたのである。
更には、こうして親米政権が出来て、ショック療法によるロシア的な急進的市場経済化・資本主義化が達成された後には、サウジとOPECを掘り崩し、中東の石油支配と世界覇権を中東から世界に拡大する「拠点」にしようと、ウソみたいな戯画的な壮大な“ドミノ構想”を描いていたのである。
ブッシュ政権は最初から目算が外れたわけではなかった。開戦と同時に南部から北上しながら油田や石油関連施設を次々と最優先で接収し、そこをまるで「軍事要塞」のように軍事力で支配して行った。そしてブッシュの「勝利宣言」直後には安保理決議1483をめぐる安保理内での政治抗争を推し進め、イラク石油収入を独占的に管理・運営する根幹中の根幹である「イラク開発基金」をCPAとブレマーの支配下に置くことに成功した。そこまではうまく事が運んだのである。
(5)石油関連で米多国籍企業が莫大な収入と莫大な利潤をポケットに入れているのは、油田消火作業や、油田や石油精製設備やパイプラインなどの修復や警備をほとんど独占的に受注しているハリバートンやその子会社KBR、つまり副大統領チェイニーの政商企業、更には伝統的な共和党の資金源であるベクテルくらいである。
私たちが「ブッシュ政権と復興利権」シリーズで扱い、占領支配が行き詰まり破綻をきたしている中でもボロ儲けしているのは、何よりもまず兵器や弾薬を製造する軍産複合体、そして現地の「掃討作戦」で現在も続く戦闘に一緒に参加する兵站請負企業、治安弾圧を担う民間請負企業、「復興」ビジネスの中でも、軍や警察や刑務所など軍事弾圧機構の再建を担う企業等々に限られている。
その意味で、イラク戦争によってボロ儲けしようとした“戦争ビジネス”の未来は決して明るくない。占領支配そのものが行き詰まり破綻しているからである。「今のうちに食い逃げろ!」これが彼らの今のスローガンであろう。
(6)米英連合軍暫定政権(CPA)とその傀儡政権の元亡命者たち、米石油アドバイザーと石油相らは、最近再びイラクの石油生産量を急ピッチで増産させようと躍起になり始めている。10月初め、暫定内閣は今年12月にバグダッドで米英の石油メジャーや日本の商社を集め「石油国際会議」を開催すると発表した。−−なぜ今石油なのか?それは先の「イラク復興支援国会議」の無償総額が必要額に遠く及ばず、ブッシュ政権の援助も今後頼りにならなくなったからである。
※2003年12月末までに開発を含む石油政策の策定を目指すイラク(2003年10月21日更新)
http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei031021.htm
この会議を事実上仕切るのはイラク石油省の上級顧問ロバート・マッキー氏である。彼はブッシュのお膝元テキサス州ヒューストン出身。米石油メジャーコノコ・フィリップスの役員を勤め、ハリバートンとシェル石油の合弁会社エンベンチャー・グローバル・テクノロジーの会長である。ブッシュ−チェイニー、ハリバートン−コノコ−シェルの利権を確保する絶好の人物なのである。もちろんエクソン・モービルやシェブロン・テキサコも利権略奪に必死だ。民主党のワックスマン下院議員は警告する。「ハリバートンと深い関係にあるマッキー氏がイラク石油省の顧問になったことは、ニワトリ小屋にキツネを入れたようなものだ。ブッシュ政権は税金を払っている国民にちゃんと説明する義務がある」と。
※フィリップ・キャロル・イラク石油省顧問の後任にロバート・マッキー三世・コノコ・フィリップス前副会長が就任へ
(2003年9月25日更新) http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei030925.htm
※予備的な協議のはじまったイラクの石油開発プロジェクト(2003年9月30日更新)
http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei030930.htm
治安維持を肩代わりさせるためにブッシュが世界中に圧力を掛けまくった派兵要求も各国の面従腹背でメドが立ちそうもない。忠実なのは小泉の日本だけという状況だ。ブッシュが5月1日戦争終結宣言をしてから半年を目前に控えたバグダッドで連続爆破攻撃が起こった。イラク民衆やアラブ民衆による反米・反占領闘争がその力を見せつけ、米軍の存在を覆い隠してきた国連や赤十字がついに全面退去を決定、ますますイラク占領の主役が米英軍であることが鮮明になっている。
カネも集まらず、兵も集まらず。もしここで石油輸出や石油収入もこのまま低迷すれば米英の占領支配はいよいよ最後的に破綻するしかない。おそらくブッシュは、石油をモノにするためになりふり構わず軍事力と強権的手段を使って露骨な石油増産・輸出を試みるだろう。しかしイラク民衆は、ブッシュとその傀儡のそうした自分勝手な目論見を必ずや打ち砕くに違いない。その意味で、“石油”をめぐる攻防は、イラクの将来、更にはブッシュの命運をも決めることになるだろう。
※「イラク石油省で高まる資源ナショナリズム」(FORESIGHT
november2003 畑中美樹)。
石油増産、石油産業の再建の前に立ちはだかるのは、反占領勢力や武装ゲリラだけではない。イラクの石油資源をめぐっては民族主義的な反米傾向が存在する。畑中氏のこの分析によれば、CPAとイラク石油省の間で、石油産業の再建や石油開発の推進をめぐって対立が生じているという。サーマル・ガドバン石油省第一次官を筆頭とするイラク人民族派のテクノクラートは「統一され中央集権化された石油部門が不可欠である」と主張しており、石油省顧問になったマッキー氏や米石油メジャー、CPAに送り込まれた米政府官僚達の外資導入政策、民営化=市場開放政策との間には根本的な違いがある。
2003年11月8日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
支援者、それとも強盗? 支援、それとも支配?
イラク支援国会議、40億ドル消失のスキャンダルに動揺、怒りの街頭抗議行動
「Donors or Robbers? Donation or Domination?−−Iraq
donors’ conference rocked by missing $4
billion scandal, angry street protest」
http://www.occupationwatch.org/article.php?id=1537
ハーバート・ドシーナ
国際占領監視センター(International
Occupation
Watch Center)
2003年10月24日
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マドリード、10月23日: アメリカが召集したイラク支援国会議は本日当地で、米英暫定行政当局(CPA)が説明できない、行方不明のイラクの石油収入40億ドルについての疑いの真っ只中で開幕された。
アメリカが復興資金の360億ドルを嘆願し始めた際、支援予定者の代表者たちのほとんどにとって大きな疑問であったのは、「我々はいくら拠出するのか?」ということよりも、「あの数十億はどこへ行ったのか?」であった。
イギリスのチャリティー機関クリスチャン・エイド(Christian
Aid)は、戦争後にCPAへ委譲された40億ドルもの全資金が「事実上、金融ブラックホールの中に消えた」と主張するレポートを毎日配信し始めた。
ブラックホールは誰のポケットの中に?
戦争前の国連「食料・石油交換プログラム」の残金である10億ドルに加え、CPAは差し押さえたサダム・フセイン政権の資産25億ドルとともに、戦争後の石油収入として15億ドルを受け取ったことになっている。「いまだ、信じられないことに、これら数十億ドルについて公式な説明は一切されていない」とクリスチャン・エイドは述べた。
この機関はこの費用について少しでも明るみに出させようとしてCPAと国連を追っかけていたが、いかなる回答も得ていなかった。彼らはある上級外交官の言を引用した。「私達はこの資金がどのように使われたのか一切知らない・・・私は知りたいとは思っているが、でも私達には全くわからない。私達は全く知らない・・・」
当地のプレスセンターにおけるインタビューで、クリスチャン・エイドのドミニク・ナッツは、CPAの長官ポール・ブレマー(100人程度のイラク人代表者らと一緒に会議に出席していた)が彼らの暴露に非常に動揺していた、と話した。「今、彼らは、私たちの主張についての記者らからの質問に答えようとさえしない」とナッツは言った。
希望の時
交渉が進行しても、40億ドルの消失を巡る疑問は、支援予定者らの占領に資金を提供することについての疑念を静めることはできなかった。EU対外委員のクリス・パッテンは、アメリカが他の国にもっと資金を出すよう説得できるためには、まず消えてしまった資金について説明する必要がある、と述べた。
既に、アメリカの国務長官コリン・パウエルは、調達される額への期待を引き下げようと努力していた。58ヶ国が参加している一方、上級あるいは高級官僚を派遣したのはわずか17ヶ国にすぎないという事態は、おそらくあまり彼に自信を取り戻させるものではなかったであろう。4分の1の参加者は、マドリード在住の大使で、ちょっと顔を出すよう命ぜられただけだった。;フランスとドイツは低級官僚を派遣した。
この会議をイラクにとっての「希望の時」と宣伝していた国連のコフィ・アナン国連事務局長は、イラク人が最終的には主権を返還される日を期待するが、「復興の開始をその日まで延期することはできない」と主張して会議の議論を始めた。米国に代わって、彼は支援を提供する国々に「寛大に与え、さらに与える」よう催促した。
支援者、あるいは強盗?
一方、その日の仕事が終わると、約2,000人の労働者と学生らがマドリードのダウンタウンに−−彼らの仕事場や教室から直行して−−集まり、厳重に警戒されたカンポ・デ・ロス・ナシオネス、街の中心から約12キロ離れた会議施設で行われていたこの会議の交渉に抗議した。
「この会議はペテンだ」と、行進していた人々のうちの一人、ウーゴ・カステリは話した。「それは、イラクの人々のために使うと主張しながらアメリカとスペインの企業にそのお金を支出することを正当化するものだ。」
イラクは再建されなければならない、とカステリは言った。イラクの人々はあらゆる支援を与えられるべきだと。「しかし、それはアメリカ人らが代価として支払うべきものだ。彼らが破壊の責任を負っているのだから。」
オルネラ・サンジョバンニは、バグダッドに居を構える国際占領監視センター(International
Occupation Watch Center)所属のイタリア人である。彼女は、占領軍が撤退しない限りはイラクへいかなる資金も提供しないよう政府に求めるため、マドリードへはるばるやって来た、と話した。
クリスチャン・エイドの暴露は、彼女の話では、アメリカが采配を握っている間は透明性はありえないということを単に証明しただけだ、とのことである。サンジョバンニはインタビューで、この支援国の会議が示すことができたことといえば、唯一、単独行動の侵略から多国の企業による侵略への移行の兆候だけだ、と語った。
いい奴?
「強盗は支援者じゃない!(“Robbers
not Donors!”)」「レジスタンスはテロリズムじゃない!」とコールしながら、抗議者らが振っていた横断幕には「私たちは国連いらずの諸国民連合だ(“We
are the United Nations without the
United
Nations")」、「支援=支配(“Donation
= Domination”)」、「ブッシュ、略奪者の寄付集め、出て行け!」そして「別の世界は実現できる!」とあった。アスナール政権が会議に3億ドルの拠出を約束したのに対し、抗議者らは「3億ドルは年金に。占領には使うな!」と大声を出した。
抗議者らがダウンタウンのマドリードの混雑した狭い通りを行進している間、スペインの機動隊の長い一列の隊列も彼らの横の歩道を行進した。5,000人もの警察が、ブレマー、パウエル、アナンといった注目の人物が出席している会議の警備に動員された。抗議者らと警察は歴史的なプラザ・デル・ソル−−1803年以来スペイン人らが政治集会を開催してきたところ−−に集中した。上空には、警察のヘリコプターが旋回していた。
「彼らは自分たちのことを、イラク人に金銭を与える大変親切ないい奴だと偽っている」と、抗議者の一人であるネベンカ・フラニッシュは憤慨した。「実際上彼らがそこから利益を得るだろうという時にそれらの困窮したイラク人らに資金を与えないことについて、心では彼らは悪いことをしていると感じているのだから、彼らは人の弱みにつけこんで金品を奪う恐喝者だ。」
フラニッシュは、普段はデモンストレーションへの参加を敬遠しているが、イラク人たちが他人の破壊の代償を支払うことを強要されているのに憤慨して今回の行進に参加することを決めた、と語った。「人々を殺した上に、彼らから収奪までする権利など誰にもない」とフラニッシュは言った。
ハーバート・ドシーナはフォーカス・オン・グローバル・サウス(Focus
on the Global South)と国際占領監視センター(the
International Occupation Watch Center)に所属している。
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