[翻訳と分析]イラク占領経済の崩壊 シリーズその2:雇用崩壊
異常な失業率50〜70%が示す雇用崩壊、窮乏化と生活崩壊
◎米・傀儡政権による意図的な雇用破壊、雇用創出の放棄。
◎反米・反占領の闘いと反失業・雇用確保・生活防衛の闘いとの結合。新しい労働運動の復活・再生の息吹。


(1) ほとんど紹介されないイラクの労働者、勤労者の現状。
 今回はシリーズ第2回目、日本では言葉だけでほとんど報道されない、イラク労働者の極めて深刻な状態、とりわけ雇用崩壊の現状についての翻訳レポートを紹介します。異常に高い失業率と雇用崩壊は、労働者、勤労者の窮乏化と生活崩壊を意味しており、現在のイラクの未曾有の政治的社会的危機の根本原因を成すものです。ごく限られた一端でしかありませんが、イラク反戦に取り組む私たちが今後のイラク情勢を捉える際、知っておくべき重要な事柄です。

(english.aljazeera.netより)
 シリーズ第1回目は、総崩れ状態になっているイラク「復興支援」の現状、米石油メジャーと米系多国籍企業による経済収奪の壮大な計画とその破綻について報告しました。このようにイラク占領経済が崩壊しているということは、言うまでもなく膨大な失業者の大群が出現しているということなのです。


 私たちが以下に翻訳を紹介するレポートは、ジョン・ハウリー氏がイラク平和教育センター(EPIC)のウェブサイトに掲載したフル・レポートの要約版です。この要約版を編集したエリック・リーバー氏と政策調査研究所はイラク反戦で論陣を張る有数のリベラルな研究機関ですが、EPICは必ずしも徹底したイラク反戦の立場ではないようです。しかしほとんど知られていないイラクの労働者、勤労者の現状についての珍しいレポートなので、短く要約し広く知らせようとしたのではないでしょうか。私たちも同じ趣旨で紹介することにしました。
※レポート全文は8pからなる。「The Iraq Jobs Crisis」A Special Report by EPIC Education for Peace in Iraq Center ( EPIC ) http://www.epic-usa.org/Default.aspx?tabid=262


(2) 何と50〜70%、占領経済の完全な崩壊を示す驚くべき実質失業率。「基幹労働力の失業」の深刻な意味。窮乏化と生活崩壊。
 イラクの人口は現在2600〜2700万人、労働力人口は700〜800万人と言われています。全人口に占める労働力人口の割合が27〜29%と30%を切っており異常に低いのが特徴です(米国は49%、日本は52%、途上国でも40〜50%が普通)。これはイラン・イラク戦争、フセインの独裁と労働者流出、米英・国連の経済制裁、そして今回のイラク戦争・占領等々、イラク民衆の過酷な歴史を物語るものと言えます。

 レポートにあるようにイラク労働省の公式の失業率は28.1%ですが、この数字を信じる人は誰もいません。実質はレポートにもあるように50%、あるいは70%と言われています。つまり350万人〜560万人という膨大な規模の失業者の大群が生み出されているのです。
※「Iraqi unemployment reaches 70%」By Ahmed Janabi 01 August 2004, Makka Time
http://english.aljazeera.net/NR/exeres/A66151CB-2105-418B-BFAA-73211A631611.htm
※最近相次いで米が発表するイラクの雇用統計のデタラメとウソが発覚しました。数字の過大計上がばれてしまったのです。
−−「US job figures in Iraq overstated」01 October 2004, Makka Time
http://english.aljazeera.net/NR/exeres/B69EEA66-77D7-46FE-8610-14E76D58AEF4.htm
−−「U.S. Misstates Own Job Creation Figures in Iraq」(米abcニュース)Sept. 30, 2004? By Sue Pleming
http://printerfriendly.abcnews.com/printerfriendly/Print?fetchFromGLUE=true&GLUEService=ABCNewsCom

 この数字は筆者ハウリー氏が例えるように、1930年代の世界大恐慌の時代の米国の失業率のピークである25%をも大きく上回るものです。早い話がこの数字の意味は、イラク経済が機能していないということです。イラク占領経済の崩壊を証明するに十分な数字だと言えるでしょう。そして雇用崩壊は貧困と窮乏化、生活崩壊に直結しています。50%、70%という異常に高い失業は、生活していけない、いつ「社会的破局」が爆発してもおかしくない、そういう重大な意味を持つ数字なのです。

 しかしこれでもまだ甘い評価です。事柄の一面しか反映していません。非労働力人口である約2000万人のうち本来なら労働力人口に加えられるべき人々が多数存在するという問題です。若年青年層、女性、中高齢者などのうち、戦争による破壊、行政機構や公的部門の崩壊で職場がなくなったり、働く場がなくなった膨大な「隠れた労働力人口」「隠れた失業者」のことです。これを含めると広義の意味での失業者は350〜560万人どころではありません、

 数少ない“労働力人口”がその他の多数の“非労働力人口”を養う。−−このイラク特有の労働=生活構造こそが、レポートにある「ほとんどの労働者は、自身だけではなく、子ども、配偶者、家族のその他の親類も養っている」という部分なのです。つまりごく少数の基幹労働力が多数の扶養家族・扶養親族の生活を支えている構図です。ところがこの大黒柱である“基幹労働力”の失業率が50〜70%にまで一気に高まったのが現在のイラクの実情です。それは、この大黒柱にぶら下がっていた多数の家族・親族が一気に貧困と窮乏のどん底に投げ込まれたことを意味します。
※それでも現在までのところ、まだ「社会的破局」には至っていない。その秘密を解くカギがフセイン時代から続く「食糧配給システム」である。食糧不足・栄養不足の下でも何とかやってゆけているのはここにその“秘密”があるのである。イラクの究極のセーフティネットという訳だ。これについては次回のシリーズ第3回目で触れたい。


(3) “雇用された幸運な労働者”もまた生活できない苦しい状態に。
 レポートは、膨大な失業者だけではなく、同時に教師や公務員を挙げ「職を得た極めて幸運な労働者」についても触れています。旧フセイン時代に公務員であった部分なのでしょうか。だとすれば一定の特権層だと言えます。しかし彼らも雇用されたとはいえ、旧賃金表に基づく賃下げ(ハウリー氏は“半減”したと書いています)や賃金の遅配もあるといいます。結果としては、雇用されたほとんどの労働者も、「典型的な家族を1ヶ月支えるには十分ではない」のです。
 また「短期雇用」、つまり幸運な労働者も多くは不正規雇用労働者です。もちろん事実上の軍事占領の下で、民主主義的権利などないに等しく、集会・結社の自由、賃金・労働条件など労働者の権利を獲得することなど容易ではありません。

 そして周知の通り「幸運な雇用労働者」の圧倒的多数は、警察と政府軍です。旧フセイン政府軍50万人は昨年5月ブレマーによって強権的に解雇されました。しかし治安悪化が一向に改善しないため、今年に入ってCPAが方針転換し再雇用を打ち出したのですが、すでに手遅れ。報道されているように、米軍や傀儡軍に協力する彼らは裏切り者として、抵抗するイラク民衆からの憎悪の対象になり攻撃にさらされ、いずれも長続きせず、特に政府軍は解体状態です。


(4) 米英占領軍・傀儡政府が意図的に雇用創出政策を放棄し雇用破壊政策を推進。
 レポートは、米英のイラク侵略戦争によるものだけではなく、占領統治下のイラク暫定占領当局(CPA)や傀儡政権、もちろんそれを引き継いだアラウィ暫定政府が、率先してイラクの雇用破壊を促進している現状を批判しています。ハウリー氏は、「復興資金」の石油部門への特化と使い尽くし、イラク人雇用を増大させる労働集約型産業を復興させる意義の無視、イラク企業にではなく米系多国籍企業への“くれてやり”、国内イラク人ではなく海外亡命者の雇用優先、等々をやり玉に挙げているのです。

 それだけではありません。今夏以降イラクで急浮上した新しい形の外国人誘拐・拘束事件が何を示すか、です。反米・反占領武装グループが相次いで、海外からの“出稼ぎ労働者”を拘束したのです。私たちはこれらの事件を通じて、米英軍や民間請負会社、傀儡政権、米系多国籍企業、石油メジャーや石油サービス・修理会社、米系エンジニアリング土建会社等々が、技術者や管理者に米欧人を雇用するだけではなく、多数の下請け労働者、運転手、雑役夫を海外からかき集めていたことを知ったのです。周辺のヨルダン、トルコは言うまでもなく、遠くフィリピンなど東南アジアからも集められたのです。これら出稼ぎ労働者はイラク人労働者の雇用を結果的に食い荒らしたのです。
※今年7月末、イラクでフィリピン人運転手が武装勢力に拉致された。フィリピン国内で一大政治問題になり、ブッシュの猛反発にもかかわらずアロヨ大統領はフィリピン軍を撤退せざるを得なくなった。対米同盟を後回しにしても、自国の労働者を保護したのだ。この背景にはフィリピンの「出稼ぎ大国」事情がある。フィリピンは現在イラクに、米英軍関係の仕事を中心に、4000人もの出稼ぎ労働者が職を得ていると言う。「イラク撤兵選んだフィリピン出稼ぎ事情 190カ国に740万人渡航」(東京新聞)http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040723/mng_____tokuho__000.shtml


(5) 必要な抜本的雇用対策。労働者の権利獲得と労働組合結成など労働法整備。−−しかしその大前提は米英・多国籍軍の撤退。
 筆者ハウリー氏は、最後に「前進するための一つの道」「なされるべきこと」として幾つかの要求を提示します。
−−雇用対策をメインとする経済復興政策。
−−食糧配給システムの改革、燃料価格の値上げの延期。
−−経済政策、労働法起草に労働組合を参加させること。
−−復興資金調達の国連管理。
−−女性の経済、社会参加の促進。
−−国際労働組合組織の支援。等々。

 しかし、ここで最大の問題は、氏が米英軍の即時無条件の撤退を主張していないことです。上記の一連の政策についても基本的には現在のアラウィ暫定政府に要求しているもので、ただし「意味のある労働および経済改革は、主権を持つイラク人の政府によって着手されるべき」と述べて、一般的に「イラク人の政府」という制約を付けているだけです。
 しかしもはや言うまでもなく、米英軍・多国籍軍の傍若無人と殺戮と破壊の下では、そして米英に忠実な傀儡アラウィの下では、イラクの未来はないというのはもはや誰の目にも明らかでしょう。ブッシュが躍起となっている来年1月の総選挙ですが、米英軍支配の下での民主選挙などあり得ません。イラクに真の民主政府、人民政府を選ぶにためにも、米英軍の撤退がその前提なのです。残念なことですが、イラクのこの軍事占領支配の問題、政治権力の問題を欠落させていることは、このレポートの根本的な欠陥と言えるでしょう。


(6) 反米・反占領のもう一つの流れ−−反米・反占領の闘いと反失業・雇用確保・生活防衛の闘いとの結合。
 最後に、失業者と労働組合に関して本レポートが触れていない側面を指摘しておきたいと思います。これ以上我慢できない、生活できない、と大勢のイラクの失業者が、かつてはCPAに対して、現在では暫定政府に対して、命がけで抵抗闘争に立ち上がっているという現状です。

 現在イラクの反米・反占領勢力には、2つの大きな潮流があります。一つ目は、私たちがこれまで注目しフォローしてきた、ファルージャやナジャフでのスンニ派、シーア派の宗教的な反米武装抵抗闘争、更には旧フセイン政権の与党バース党グループ、旧警察・旧政府軍による反米武装闘争です。最近はこれにイスラム原理主義グループが加わったと言われていますが、わずか数%というのが現地の評価です。
 しかし宗教という衣をまとった部分も、実態は窮乏化し没落した農民、都市の貧困層、失業者や半失業者による「武装防衛」の戦いです。米軍による激烈で残虐な武力弾圧と虐殺にやむなく抵抗しているのです。彼らを「テロリスト」と一喝して批判することは誤りだと思います。

 もう一つは、これら反米武装勢力とは別の部分、すなわち非武装・平和的・政治的手段で米英占領軍、傀儡政府に抵抗する勢力です。その代表的な主体の一つが、失業者を労働組合に組織し始めた労働運動なのです。彼らは反米・反占領闘争を反失業・雇用確保・生活防衛の闘争を結合しようとして、米軍や傀儡政府の弾圧に逆らって奮闘しています。

 昨年4月9日のフセイン政権の崩壊、5月1日のブッシュによる「戦争終結宣言」以降、私たちはバグダッド、キルクーク、ナシリヤ等々において、旧フセイン政権時代の警察官や軍人、官僚らによるデモ行進や座り込み行動を映像やメディア報道で見聞きしました。この多くがイラク失業者労働組合(UUI)によるイラクの失業者の抗議行動と言われています。UUIは2003年5月1日、かつてフセイン政権時代に迫害され弾圧されてきた共産主義者の労働者と政治活動家のグループによって結成されました。現在組合員数は25万人と言われています。

 その要求は「全ての者に仕事か失業手当てを」であり、イラクの全労働者の失業手当て要求を中心に展開、今では更に雇用確保と生活保障を要求する闘いに取り組んでいます。
 UUIの政治的立場は、米軍占領・傀儡政府に反対すると同時に、イスラム主義者や民族主義者にテロリズムにも反対ということです。米占領の下で「自由選挙」などあり得ない、と現在の暫定政府の下での総選挙にも反対しています。
※「失業者労働組合とそのイラクの政治環境形成における役割」2004年1月15日 イサム・シュクリ[Issam Shukri](UUIの国際関係責任者、イラク労働者共産党(WPIraq)中央委員)http://homepage2.nifty.com/mekkie/peace/iraq/hahei/document21.html (「爆弾はいらない 子供たちに明日を」より)
※イラク失業者組合サイトhttp://www.uuiraq.org/ イラク労働者共産党サイトhttp://www.wpiraq.org/english/

 労働運動の復活・再生の息吹は、失業者労働運動だけではありません。多数の産業部門、例えばタバコ工場、皮革工場、絨毯工場、綿工場、パン工場、家具工場、保健部門、石油公社、ガス公社等々、広範囲に広がっています。今年初めにはCPAによる「新職階賃金体系」に抗議する大衆行動が打たれました。
 反米・反占領のこの2つの流れ、共に現在のイラクの深刻な矛盾に根ざした2つの潮流、ファルージャやナジャフでの反米武装抵抗闘争と失業者の組織化や労働組合運動の復活・再生に奮闘する新しい労働運動が、今後どのように発展していくのか、注意深く注目していきたいと思います。

2004年11月1日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局



[翻訳資料]
イラクの雇用危機:労働者は自らの主張を掲げる

ジョン・ハウリー 2004年9月8日
編集者:エリック・リーバー、政策調査研究所(IPS)
フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス


イラクの最も価値のある財産は、石油ではなくその国民――戦争と制裁によって倍加された独裁政治の数十年間に耐えた才能、勇気、覚悟を持った人々──である。しかし、イラクの労働者が直面する難題は深刻だ。サダム・フセインの悪政と戦争および制裁によって既にひどく圧迫されていたイラクの労働者世帯は、米国の侵略以来、経済的条件が一層悪化した。

高水準の失業と広範囲の貧困は、社会のすべての面を脅かしている。政治的安定はむしばまれ、イラクにおける民主主義の前途は暗くなった。さらに、悪化する暴力、法と秩序の崩壊、頻繁な停電、保健衛生事情の貧弱さにより、イラク人は仕事に完全に復帰し、国を再建することができなくなっている。


今日のイラクの労働者

わずか20年前、イラクはアラブ世界の中で、より繁栄し、教育が高く、健康状態がよい国家の1つだった。幼児の死亡率は、目標を設定された健康プログラム、および健康管理と教育への適度の投資により、急速に低下していた。その時以来、戦争の連続、はびこる汚職、包括的な経済制裁、おろそかにされた医療サービスにより、それらの進歩は逆転された。

サダム・フセイン政権が倒れたことで、イラクの労働者世帯の経済状態が改善したわけではない。米国の占領下で、2003年にはイラクの公式の経済は3分の1縮小した。職を得た極めて幸運な労働者には、今でもサダム・フセイン政権によって押し付けられた賃金表によって賃金が支払われている。しかし、一部の労働者の実際の手取り給料は、ボーナス、手当て、利益分配金がなくなったため半減した。以前フセイン政府によって雇用されていたイラク人は、米国の占領が始まってから、賃金が定期的に支給されていないと、不満を訴えている。ほとんどの世帯は、毎月現物の食糧を配給され続けている。しかし、これは典型的な家族を1ヶ月間支えるには十分ではない。

一部のイラク人の状況は好転している。輸入規制がなくなったので、商業活動は盛んになっている。教師その他の公務員は、かなりの賃上げを受け取った。2004年4月の蜂起の前、シーア派聖地への巡礼者が増加したことは、経済的利益をもたらした。また、一部のイラク人企業家は、経済関係の法律および条令がほとんど施行されていないもとで、経済的に有利な立場を得る方法を見つけつつある。しかし、この活動のどれも、失業の危機を緩和するには十分ではなかった。

数ある問題の中でも、復興資金支出の大幅な遅延と増大する不安定は、雇用の創出に重大な後退を引き起こした。4月前半時点で、昨年10月に議会によって確保された180億ドルのうち、支出されたのは20億ドルだけだ。4月時点で、連合国暫定当局(CPA)は、概算395,000人分の雇用を創出することしかできなかった。これは、ブッシュ政権が発表していた目標の850,000人分を、大幅に下回る。これらの職の半分以上は、法の執行に伴うものか、あるいは安全保障と防衛に関するものだった。

雇用の保障もまた問題だ。占領下のイラクのどこでも、創出された雇用のあまりにも多くが短期雇用であり、対外援助のドルと私的な保障契約に依存している。イラク人はこれを知っており、2004年2月に行われたABCニュース世論調査によると、70%が雇用の保障に対する危惧を表明している。

合法的で民主的な政府が存在しないため、職を得た幸運なイラク人が、有効な独立した労働組合を組織することも妨げられている。継続的な不安定と政治的暴力は、労働者が自らのニーズや利益を表明するために、政治的組織、市民組織、組合組織を作るのを妨げている。その上、労働者が団体交渉を設定したり、職場での権利を擁護するための、法的な仕組みはない。そのような権利が欠如しているため、適正な賃金、よりよい労働条件──労働者が活気に満ちたイラクで役割を果たすために不可欠なステップ──について交渉するイラク人の能力が抑えられている。


失業は安定と民主主義の前途をむしばむ

失業は、経済的安定を世帯から奪うことによって、社会という織物を引き裂く。ほとんどの労働者は、自身だけでなく、子供、配偶者、さらに大家族で他の親類も養っている。米国では、世界大恐慌中に失業率が25%のピークに達した。経済的に現役の大人の4分の1が求職しても仕事が見つからないことを意味するそのレベルにいったん到達すれば、社会的破局が訪れる。

2003年末にイラクの労働省が行った調査では、全国失業率は28.1%と見積もられた。いくつかのニュースレポートは、この数値が50%以上だと推測している。これは、7〜800万の労働人口の中に、少なくとも200万人のイラク人失業者がいることを意味する。

若い男性の失業率は、平均の2倍かそれ以上だ。これら失業した若者に残された、数少ない実行可能な選択肢は、民兵組織に加入することだった。ABCニュースによって2004年3月15日に行われた世論調査で、イラク人の91パーセントは、次のように言った。治安の改善には、より多くの警察官を採用したり、パトロールを増やすというような選択肢より、「失業者のために雇用機会を作ること」の方が、はるかに上回って「非常に有効だろう」。

イラク軍を解散するという、あまり考え抜かれずになされた決定は、50万人を無収入で路上に放り出し、テロリストや犯罪の組織に即戦力の新兵のプールを供給することとなった。当時英国の軍指導者はこの決定に反対しており、この決定はその後「巨大な誤り」であると見なされた。

失業の危機はまた、イラクの女性が得ていた利益――制裁とそれ以前の戦争によって既に攻撃されていた利益――を脅かしている。国内の文盲の根絶を命じた1979年の法律は、子供と若者における読み書き能力の男女差をほとんどなくした。しかし、悲惨なイラン・イラク戦争(1980−88)は、イラクの経済に巨大な圧力をかけ、身体強健な男性の不足は、労働人口に多くの女性を引き込んだ。その戦争の終了までに、女性は公式の労働人口の5分の1を占めるようになった。


誤った復興は必要な経済の上昇をもたらさない

復興のための資金は、米国からの180億ドル、国際的に供与された170億ドル、イラク開発基金(資金は、イラクの石油とサダム政権の資産によって提供された)の200億ドル、少なくともこれだけの資金が集まった。このカネがどう管理され費やされるかが、次の10年のイラクの形を決めるだろう。

CPAの下では、復興によって提供された大規模に雇用を創出するための機会を、米国はみすみす逃した。米国の基金はわずか2%が、2004年6月までに費やされただけだった。これらの基金は、250,000人分の雇用が創出されるだろうという米国の公約にもかかわらず、15,000人のイラク人を雇用しただけだった。

米国は、イラク開発基金のカネははるかに気前よく使い、この基金はほとんど使い尽くされている。基金は米国のカネとは異なり、競争入札や透明な尺度を要求しなかった。開発基金を使うプロジェクトは、石油採掘や公共事業のような産業――それらは雇用をほとんど創出しない――に復興活動を集中させて、迅速に多くのイラク人を雇用できたはずの住宅修繕、道路補修その他の労働集約型の仕事を怠った。

戦争と制裁から20年以上たち、イラク人労働者は、再建と復興の広範囲な経験を持っている。米国占領当局は、イラク人労働者を雇用するイラクの企業に復興業務を宛てるのではなく、米国と選ばれた国々の短いリストに載っている大きな会社に肩入れするために、プロセスを不正に操っている。さらに問題を大きくしているのは、今ほとんどの外国企業が、熟練及び非熟練の両方のポジションに、国内のイラク人労働者を雇用するのではなく、帰国した国外在住イラク人を雇用するよう決めているように見えることだ。一部のイラク人は、これに強く憤慨している。

ミシガン大学のジュアン・コール教授は、上院で最近次のように証言した。「50,000ドル以下の小さな入札がすべてイラクの企業に自動的に行くように、復興事業入札の仕組みが作られた。より多くのイラク人を復興に関係させ、地方の仕事をより多く創出することを保証するために、この上限は引き上げられるべきだ。主として米国企業を採用することにより米国にカネを送ることは、イラクに大きな利益を与えず、そこでの深刻な失業問題に取り組むことにならないだろう。」


前進するための道:労働者に発言権を与えること

イラクから出て来る悪いニュースはすべて、良いニュース――労働組合が組織されつつあるというような――を圧倒している。イラクには、石油セクターに英国が投資を始めた時期までさかのぼる、労働組合活動の長い歴史がある。反サダム・フセインの闘いに参加し、追放されたり地下に潜ったりした多くの老活動家は、合法的な組合が盛んだった時期を覚えている。彼らは、若い活動家と共に労働者を組織している。若い活動家の大部分は、おそらく非常に困難な状況下以外での労働組合運動の経験を、ほとんど持っていない。国際労働組合の代表団は最近イラクを訪れて、「我々は、活発で力強い(論争的でさえある)労働組合の草の根に出会った」と報告した。

経済政策の決定と新しい労働法の起草は、政治的な、地域的な、宗派的な事柄とともに、すべてイラクの労働組合の姿に影響を及ぼすだろう。イラクは、フセイン時代の法に取って代わるための新しい労働法を必要としている。既存の労働法を修正することの微妙さは、それが組合の権利を包含するだけでなく、すべてのイラクの労働者の賃金、利益、労働条件を決めるという事実によって、一層強められている。

労働組合は、新しい労働法を作り出す過程全体に関わらなければならない。AFL−CIOが促したように、これは、イラク労働省、イラクの雇用者側組織、および国際労働機関(ILO)と協議するイラク労働組合の三者を含むプロセスという環境の中で行われるべきだ。CPAの下では、新しい労働法を検討する過程が米国に支配されていて、イラクの組合は大部分、わきへ追いやられていた。

民主的な政府と有力な労働組合は、大規模なリストラクチャリング――民営化を含む――についてのいかなる議論にとっても、必要な前提条件である。国有企業に雇われていた500,000人の人々はまさに、フセインの1987年の労働法改正で、組合の権利を奪われていた労働者だ。民営化の支持者は、組合が自らを有効に組織するより前に、民営化のプロセスを速く遂行することを、志向しがちだ。これはリストラクチャリングのプロセスを困難にし、不安定をもたらすだろう――しかしインサイダーには、おそらくより迅速に利益を与えるだろう。これは、許されてはならない。

民主主義、安定、独立した労働組合は不可分だ。活気に満ちた、独立した組合の成長は、保護され奨励されなければならない。ICFTUの声明の中に、こう書かれている。「結社の自由を含む労働者の権利の尊重が保証されることは、民主主義的なイラクを築くことの、および持続可能な経済的社会的発展を保証することの、中心となるに違いない。」


なされるべきこと

経済改革は、雇用レベルを増加させて、貧困を縮小し、民主主義の支配を促進することを重視して、設計され実施されなければならない。食糧配給システムの改革および燃料価格の引き上げは、経済的安定まで待たなければならない。労働および経済における重要な意味を持つ改革は、主権を持つイラク人の政府によって着手されなければならない。

包括的な労働改革は、イラクの人々によって選ばれた政府を待たなければならない。その間、暫定政権法(Transitional Administration Law、TAL)によって約束された労働者の権利は尊重され、公務員、特に国有企業の公務員に拡大されなければならない。暫定政府は、イラク人の労働者の権利を縮小したり、既存の労働基準を弱める処置を講じてはならない。

労働法の改革は、労働者、雇用者、公の利益を反映する、三者のプロセスの中で行われなければならない。そのプロセスは、新しい労働法を起草する際に、イラク人の労働者組織に重要な役割を与えなければならない。

米国の復興プロジェクトにおいて失策や腐敗がはびこっている下では、復興資金の調達はすべて国連が監督する公共事業計画に向けられるべきだ。そうした事業は、人々を直ちに仕事に就かせるだろう。復興は、制度上の能力を鍛えあげ雇用を促進するために、イラク人の管理者と労働者の雇用を重視するべきだ。

イラクの労働者は、自ら選んだ独立した労働組合を通じて、国の経済リストラクチャリングの完全なパートナーにならなければならない。テロリストの暴力、ゲリラ戦、無法状態、軍事占領は、独立した労働組合の成長にとって、呪いのようなものだ。民主主義、人権の尊重、安定は、独立した労働組合運動の本質的な前提条件である。

女性の経済、社会への関与を促進するためのステップを、すぐに取らなければならない。労働組合は、女性がリーダーシップの技量を身につける機会を提供する。

イラクの労働組合員は、干渉や操縦ではなく、物質的な支援と助言を必要としている。国際労働組合は、率直で多面的で独立した連帯を目指して進むべきだ。




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