イラク戦争劣化ウラン情報 No.3      2003年6月10日

アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 吉田正弘

[1]今回紹介するのはアメリカのクリスチャン・サイエンス・モニター紙の5月15日号に掲載されたモニター紙の記者スコット・ピーターソン氏の記事「有毒な弾丸の残骸がイラクに散らばっている」です。彼は劣化ウラン問題を追い続けていることで有名な記者です。
※「Remains of toxic bullets litter Iraq --The Monitor finds high levels of radiation left by US armor-piercing shells.」By Scott Peterson | Staff writer of The Christian Science Monitor
http://www.csmonitor.com/2003/0515/p01s02-woiq.html

(1)記事はアメリカ中央軍のスポークスマンからの情報として、イラク戦争でアメリカのA-10攻撃機が30万発の劣化ウラン弾を発射し、それは75トンに相当すると紹介しています。これは米軍当局が使用した劣化ウラン弾について初めて認めた数字です。ただしスポークスマンの名前は挙げられておらず、まだ国防総省から裏付けるような公式発表は何も行われていません。

 湾岸戦争ではA-10攻撃機は対戦車、対装甲車両攻撃の中心であり、これが発射した劣化ウラン弾が総量320トン(公式発表)のうち80%、250トン以上を占めたと言われています。もし、この数字が正しければ今回は前回と比べてA-10の発射した劣化ウラン弾はかなり少なかった(3分の1強か)と思われます。しかし、劣化ウランを発射したのはA-10だけでなく、航空機ではハリアーやアパッチヘリなど、戦車ではM1戦車に加えてM2ブラッドレー戦闘車両の機関砲からも大量の劣化ウラン弾が発射されたと思われます。これらの総量がどれほどになるのか、まだ何もわかりません。

 今回の戦争では精密誘導爆弾が大量に使われました。その数は1万8000発にものぼると言われています。この中にはフセインの命を狙ったバンカーバスターが含まれますが、今回の戦争での特徴は、バグダッドとその周辺の軍事施設、陣地、戦車や装甲車両などに対して大量の誘導爆弾が投下されたことです。A-10の発射弾数が相対的に少ないのも、その代わりに大量の誘導爆弾が使われたからだと考えられます。この精密誘導爆弾のうち、コンクリート施設などを破壊するための硬化目標攻撃用爆弾は、私たちが劣化ウラン製ではないかとの疑惑を追及している兵器です。これが大量に使われたのであれば、使用された劣化ウランの量は非常に大きなものになる可能性があります。今後も使用された劣化ウランに関する情報に注目したいと思います。

(2)ピーターソン記者の記事の最も重要な点は、バクダッドにおける劣化ウラン使用状況と汚染状況がいかにひどいものであるかを広く知らせたことです。町のど真ん中に劣化ウラン弾で打ち抜かれた戦車が放置されています。もちろんその戦車に命中した劣化ウラン弾は燃えて放射性のダストになって周辺に飛び散っているはずです。劣化ウラン弾の破片にガイガーカウンターを近づけた記者はバックグラウンド値の約1000倍の放射線を検出しています。しかもそこで子どもたちが遊んでいるというのです。また記者は「近づかないように」とアラビア語の手書きの警告(たった1カ所しか出ていませんが)のある場所で、残っていた戦車砲弾の劣化ウランの矢から1300倍もの放射線を検出しています。

 バグダッドのダウンタウンにあるイラク計画省はA-10に銃撃される様子がテレビで放映されましたが、ここでも多くの劣化ウラン弾が検出されています。モニター紙のチームはバックグラウンド値の12倍の放射線を検出しています。記事には出てきませんが、写真家の豊田直巳さんがモニター紙より早い時期に計画省に行ったときには300倍の放射線を観測しています。そして重要なことは、劣化ウランの弾芯が入っていたアルミケース(カートリッジ)の多くが中が空になった状態であったと言うことです。劣化ウランの弾芯はコンクリートにあたった場合にカートリッジから抜け出し燃えてしまった可能性が大きいようです。それだけ大量の放射性ダストが放出された可能性があるわけです。

 「劣化ウランの量はほんのわずか」「住民にはできるだけ危険を与えない」(3月26日中央軍の発表)と言う米軍の公式発表が全くでたらめであることがよくわかります。今も町中に劣化ウランで打ち抜かれた戦車や装甲車両、それに燃えた米軍の戦車と弾薬輸送トラックなどが放置されているのです。劣化ウラン弾の残がいも転がっているのです。そしておそらく放射性のダストが各所で発生し、周辺の住民に被害を与えているに違いありません。このように大量の劣化ウラン弾が多数の住民が住んでいる場所で使われたことは前例がありません。湾岸戦争でも一部の都市の施設は劣化ウランで攻撃されましたが、ほとんどは市街地から数10キロ離れた砂漠の中で使用されたのです。今回はバグダッドや周辺都市の住民が直接劣化ウランのダストや霧を吸い込まされています。当然湾岸戦争とは比較にならない大量の被曝をしているはずです。
 
(3)米軍の非人間性を暴露しているのは、米兵は明らかに劣化ウランに被曝しないように指示を受けているとピーターソン記者が書いていることです。米兵は高濃度の被曝が起こるようなところ、すなわち劣化ウランで燃えている戦車、車両などには近づかないよう指示されていました。兵士はそのような場合「ハッチを閉めて」「口を閉じて」車を加速して通り抜けるようにしていたのです。米軍当局は劣化ウランによる被曝が健康に被害を与えるとすればそれは自軍の砲火に攻撃されたような燃える劣化ウランを直接吸い込む環境だけだと危険性を過小評価していますが、湾岸戦争で多くの兵士が劣化ウランで破壊された戦車に近づいたり中に入ったりしたことを教訓に、今回はあらかじめ警告をしていたようです。

 しかしこの事実は、自軍兵士には近づくなと警告せざるを得ないような兵器をたくさんの住民の住んでいる大都市のど真ん中で使用したことを意味します。イラクの人々がこれを吸い込んでどうなろうと構わないのです。45億年という気の遠くなるような長い半減期をもつウランが今後も長期間にわたって住民に放射線を浴びせ続けても構わないのです。これが「イラクの自由作戦」だったのです。ブッシュ大統領はイラクの人々がフセインの圧政から解放してもらって感謝していると嘘っぱち宣伝を繰り返していますが、ブッシュが実際にやったことは劣化ウランという危険極まりない放射性物質を大都市に大量にばらまくことだったのです。「自由」や「解放」などはデタラメもいいところ。こんな非人間的な扱いはありません。

(4)バグダッドの人々は未だに劣化ウランの危険を知らされないままです。ピーターソン記者が見た「危険」の張り紙はたった1カ所でした。バックグラウンド値の数百倍、千倍という異常に高い放射能を持つ劣化ウラン弾の破片や残がいが放置されたままです。市民には何の警告も行われていません。

 ピーターソン記者の書いているように、国際機関や専門家達はイラク国内で使われた劣化ウランの使用場所の詳細の公表、クリーンアップの実施を要求しています。これは劣化ウラン弾が放射性物質であるかぎり当然のことです。占領軍としての米英にはイラクの住民の生命と健康を保障する義務があるのです。しかし、彼らはそれをサボタージュしています。アメリカは使用場所の公表も、クリーンアップも拒否しています。健康への被害などないと言うのが理由です。アメリカ国内では劣化ウランは厳重に管理された物質です。アメリカ人に対しては危険で、イラク人にとっては危険でないものなどありません。この非人間的扱いを糾弾しなければなりません。イギリス政府は国内の世論に押されて、使用場所を公表し、クリーンアップ協力するとの声明を行いましたが、現実にはまだ何もされていません。

 イラク全土で使用された劣化ウランの被害は国際的な調査が大至急に行わなければなりません。しかし、アメリカは国連のIAEAやUNMOVIC査察団の調査さえ拒否し、イラクは大量破壊兵器を持っているという自分たちの主張のウソが世界中に明らかになることを防ごうとしています。UNEPの紛争後アセスメントグループの入国も認められていません。

 本来劣化ウランの汚染状況を至急に解明し、住民に警告すること、劣化ウランに被害を避ける方法を教えること、さらには市街地に転がる劣化ウラン弾の残がいを除去し、安全化することが必要なのです。それを米英は全面的に拒否しています。イラクの原子力施設から持ち出された酸化ウランによる住民の深刻な被曝の調査さえ妨害している有様です。私たちは国際機関、公正な機関、専門家による全面的な汚染の調査を要求します。そしてクリーンアップの徹底と住民への周知による被害の防止が必要だと考えます。そしてこれらに第1義的に責任を負うべき米英政府と軍の責任を追及することが必要だと考えます。


[2]UMRC(ウラニウム・メディカル・リサーチ・センター)のアサフ・ドラコビッチ博士の最新のインタビュー(5月19日付け)が「トラップロック平和センター」のサイトで聞くことができます。UMRCのアフガニスタン第2次調査の結果(速報)について話しています。
※Traprock Peace Center www.traprockpeace.org

アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局 吉田正弘
事務局ホームページ http://www.jca.apc.org/stopUSwar/
吉田eメールアドレス masayo@silver.ocn.ne.jp





クリスチャン・サイエンス・モニター 2003.5.15
http://www.csmonitor.com/2003/0515/p01s02-woiq.html

有毒な弾丸の残骸がイラクに散らばっている
モニターの記者はアメリカの装甲貫通用弾丸が残したハイレベルの放射線を発見した
スコット・ピーターソン;クリスチャン・サイエンス・モニターのスタッフ・ライター


バグダッド発 −− バグダッドの郊外の道ばたにある食べ物を作るスタンドで、ラティファ・カラフ・ハミドさんは忙しく仕事をしています。イラク人の運転手たちは車を止めて、パセリ、ミントの葉、イノンド、タマネギの茎などの新鮮な束を先を争って買ってパクつきます。

 しかし、ハミドさんのスタンドは燃え尽きたイラクの戦車からほんの4歩のところにあります。そしてその戦車は論争の的になっているアメリカの劣化ウラン弾によって破壊され、汚染されています。近所の子どもがその戦車の上や通りの向う側にあるもう1台の戦車の上で「一日中」遊んでいる、とハミドさんは言います。

 色あせてすり切れて糸目が見える黒いガウンのこの物売りに、有毒で放射性のほこりが作った食べ物に付かないようにしなさいとは、誰も警告しませんでした。子どもたちは、放射性の残がいで遊ばないようにとは言われませんでした。訪れた記者が鉛筆消しほどの大きさもない劣化ウラン弾の破片に、持ってきたガイガーカウンターを近づけて、カウンターがガリガリ鳴り始めたとき、彼らは周囲に集まってきました。ガイガーカウンターは、デジタル表示の数値で通常のバックグラウンド値のほぼ 1,000倍の値を記録しました。

 モニターの記者は、バグダッド市の4カ所を訪れました−−それは、ランダムに選んだ2両の破壊されたイラクの装甲車輛と、一群の焼けたアメリカの弾薬トラック、および都市計画省の建物でした。そして記者は、バグダッドをめざしたアメリカの戦争がもたらした著しいレベルの放射能汚染を発見しました。

 イラクで使われた劣化ウランの量について、国防総省の初めての部分的開示の中で、アメリカ中央軍司令部のスポークスマンはモニターの記者に、A-10ウォートホッグ攻撃機−−イラク計画省を攻撃したのと同じ飛行機−−が300,000発の弾丸を発射したと話しました。30ミリ機関砲弾の通常の戦闘用の混合比率は6発に5発の劣化ウラン弾であり、イラクに約75トンの劣化ウランを残したことになります。

 モニターの記者は、イラク人に近づかないようにとアラビア語で書かれた手書きの警告を米軍が貼り出した場所を、たった一カ所見かけただけでした。そこでは、90センチの長さの120ミリ戦車砲弾の劣化ウラン製の矢がバックグラウンドレベルの1,300倍以上の放射線を出しているのが発見されました。それは、カウンターのとぎれとぎれの音を安定した連続音にさせました。

 「もしあなたが周りに劣化ウラン弾の破片、あるいは貫通砲弾そのものを持っていたとします、そうすることでは急性の健康障害は起こらないでしょうが、しかし放射線防護基準を上回る被曝を受けていることは確かです」と、ワーナー・バーカートは言います。彼はウィーンの国連国際原子力機関(IAEA)の原子物理学応用局次長です。「重要なことは、どんな戦場でも−−特にそれが住民の多い市街地の場合には−−誰かがこれらの場所をクリーンアップする必要があるということです。」


危険の最小化

 工場から出荷されたての戦車用劣化ウラン砲弾は普通手袋で扱われます。それは健康への危険を最小にするためです。そしてそれらの砲弾は薄いコーティングで遮蔽が行われています。劣化ウランによって放出されるアルファ線は1インチ以下しか飛ばず、布あるいはティッシュペーパーでさえ止めることができます。しかし、劣化ウランが燃えたときには(普通は着弾の時ですが、ダストの形では自然発火することがあります)、保護シールドはなくなり、吸い込んだり摂取したりできる危険な放射性酸化物が作り出されます。

 「(危険は)あなたがそれをどのように取り扱うかに非常に大きく依存しています」と、ストックホルムのスウェーデン放射線防護委員会のヤン・オロフ・スニスは言います。子どもたちが有毒で放射性の土を食べたり劣化ウラン酸化物を手で持ったりしない限り、大部分の場合危険性は低い、と彼は言います。

 スニス氏によると、放射性粒子は、「戦争に関連する特別の危険」です。「当局者は当然このことを知っているはずです。だから不必要な危険を避けるために、このような場所から有害物を取り除くことを試みるべきです。」

 国防総省の当局者は、劣化ウランは相対的に無害で近代戦に不可欠な一部分だ、と言います。彼らは、劣化ウランが永久的な汚染によって周辺住民に癌のリスクや障害をもたらすことを示す湾岸戦争前の研究は新しいレポートに取って代わられた、と言います。

 「少なくとも私たちが知る限り、イラクの人々にとって実際にはどんな危険もありません」と、米軍第5軍団の軍医副官で陸軍中佐のマイケル・シグモンは、先週バグダッドでジャーナリストに言いました。彼は、使用済みの戦車砲弾で遊ぶ子どもが障害を受けるためにはDU砲弾の残存物を食べる必要があって、そうすれば実際には窒息するだろうと主張しました。

 しかし、何人かの西側の科学者だけでなく、国連や救済機関の職員の間でも、劣化ウランへの関心が高まっており、この科学者たちは劣化ウランで汚染された場所を他の場所と区別し、そこを安全なものにすることを求めています。

 「(劣化ウランの)貫通弾の命中した場所周辺の土地はひどく汚染されているだろうし、もし子どもが飲み込んだら危険だろう」と、ブライアン・スプラットは言います。彼はイギリスで最も権威ある科学協会、王立学士院の劣化ウランに関する作業グループの議長です。


重金属のおもちゃ?

 さまざまな破片や貫通弾は除去されるべきです。なぜなら「子どもが、それらが魅力的なものだと思って、ポケットに入れて持っていくことができるからです」と、スプラット教授は言います。「科学的にはこれらの物体はある程度の危険が−−たぶん非常に危険とまでは言えないかもしれませんが−−あります。...これらのものが安全だとは言えないのはまちがいありません。浄化が重要だと言えます。」

 イギリス国防省は、劣化ウランに被曝した疑いのある兵士に集団検診をするよう提案し、イギリス軍がイラクで使用した劣化ウラン−−それはアメリカ軍の発射した量と比べると少量ですが−−の発射場所と発射量の詳細を公表するだろうと言いました。

 アメリカ国防総省は伝統的に劣化ウランについて口を固く閉じています;1991年の湾岸戦争やボスニア紛争で使用した劣化ウランの量の公式の数字は数年経ってから、1999年のコソボ戦争での数字は1年近く遅れてからしか公表されませんでした。私たちが連絡をとったアメリカの当局者の誰も最近のイラク戦争での劣化ウラン使用量の見積もりを言ってくれませんでした。

 「私たちがアメリカ軍に最初にしてもらいたいことは、ただちに劣化ウランを取り去ることです」と、バグダッドの国連児童基金(ユニセフ)のカレル・ド・ローイは言います。そして、さらに彼女は国連の高官が放射線への被曝をさけるための緊急のアドバイスをする必要があると付け加えます。

 国連環境プログラムUNEPは、先月、現地での調査を要求しました。劣化ウランは、「依然として一般の人々全体にとって大きな懸念となる問題です」と、UNEP主任のクラウス・トッパーは言いました。「早期にイラクで調査研究すれば、これらの不安を鎮めることができるか、ほんとうに危険の可能性があると確認するか、どちらであるのかをはっきりさせることができるでしょう。」


アメリカ軍部隊は残がいを避ける

 最近のイラク戦争の間に、米軍の運搬手段のうちでエイブラムス戦車、ブラッドリー戦闘装甲車、およびA-10ウォートホッグ攻撃機、これらすべてが砂漠での交戦地域からバグダッドの中心部へ至るまでの場所で劣化ウラン弾を発射しました。他に敵の戦車に対して効果的な装甲貫通弾はありません。米国防総省がバグダッド住民にはいかなる危険もないと言う一方で、アメリカ軍の兵士達はイラクで自分達自身は用心しています。そしていくつかのケースでは警告の小冊子を配り、標識まで立てました。

 「劣化ウラン弾で何かを撃った後に、それを見て回らないことになっています。なぜならガンになるかもしれないからです」と、ニューヨーク出身でブラッドレー戦闘装甲車に配属された軍曹がバグダッドで言います。彼は、これ以上身元を公表しないよう頼みました。

 「我々は、それがどんな影響をもたらすかわかりません」と軍曹は言います。「もし我々の車輛、あるいは弾薬トラックの一つが劣化ウラン弾を乗せたまま燃えたら、その中にどんな重要な書類があろうと近づかないでしょう。我々は安全に気をつけて行動します。」

 1991年に劣化ウランの「友軍の砲火」で攻撃された6台の車輛は、本国に持ち帰るにはあまりに汚染がひどいと考えられて、サウジアラビアに埋められました。他に16台がサウスカロライナ州に特別に建てられた施設に持って帰られましたが、そのうち6台は低レベル放射性廃棄物の処分場に埋めなければなりませんでした。

 先月の戦争のテレビ報道は、燃えているイラクの装甲車輛のそばをアメリカ軍の車列が通り過ぎる様子を写しましたが、それは劣化ウランの命中を示す共通の特徴を示していました。劣化ウランは相手に命中したときに装甲を突き抜ける間に燃え始めます、そしてしばしばターゲットの車輛に積んである弾薬にまで点火します。

 「我々は、その横を通り過ぎるときには口を閉じていた−−そしてハッチは全部閉められていた」と、アメリカ軍の軍曹は言います。「もし燃えている何かを見たら、我々はそれの近くにはちょっとたりとも止まらないだろう。我々は進み続けるだろう。」

 それは店主のハミドさんにはできない選択です。

 彼女は、アメリカが一般市民を爆撃しないという約束を破ったと言います。彼女は、自分の家の庭でいくつかのクラスター爆弾の子爆弾を見つけました。劣化ウランはもう一つの危険な重荷です。戦争の中で彼女は、劣化ウランについてずっと疑わしいと思っていました。

 「[フセインが倒されたら]私たちは楽園になるだろうと言われました。ところが今では劣化ウランが私たちの子どもを殺しているのです」と、劣化ウランの危険についての一般的なイラク人の認識を代弁して、彼女は言いました。「アメリカ人は、私たちにここが汚染された地域だということを警告することさえなかったのです。」

 バグダッドの南の郊外のドーラ交差点に、一枚の警告が今あります。首都が陥落する前に、4台のアメリカ軍弾薬供給トラックが幹線道路から離れる斜道の列のところで密集しているところを攻撃されました。そして積んでいた劣化ウラン戦車砲弾が発火しました。

 防護のための顔面マスクをつけている米軍部隊が数日後にやってきて、そして汚染を限定するためにその場所の周りの表土をブルドーザーで動かしました。

 その軍部隊は、焼けた車輛に手書きのアラビア語の警告書をテープで貼り付けました。それには以下のように書いてありました。「危険−−この地域から離れて下さい。」これらは、街中に散らばった何十もの破壊されたイラクの武装車輛の中で、記者が見た唯一の警告でした。

 「彼らのすべてはマスクを付けていた」と、アッバス・モーシンはアメリカ軍の汚染除去クルーについて話しました。彼は50ヤード離れた所で飲み物を売っている人の10代のいとこです。「彼らは、この地域には有毒物質があると人々に言いました。...そして私のいとこに、この地域でペプシとソフトドリンクを売らないように忠告しました。彼らは、我々の安全を心配していると言いました。」

 その軍部隊が焼けた車輛から汚染された土をブルドーザーでどかしたにもかかわらず、まぎれもない劣化ウランの灰と粒子の黒い山がその場所にまだ残っていました。もし吸い込むか飲み込むかすれば、有毒な残留物は劣化ウランの最も危険な形であると、科学者たちは考えています。

 真っ黒なほこりの1つの山は、ガイガーカウンターで平均のバックグラウンドレベルの300倍以上、1分間に9,839回の放射線のカウント数を示しました。もうひとつのほこりの山は、1分間に11,585回のカウント数に達しました。

 バグダッド陥落の次の日、4月10日に近くで一夜を過ごした西側のジャーナリストたちは、道を渡ってこの場所にやってこないようにアメリカ兵から警告されました。なぜなら劣化ウランの汚染とともに、死体や爆発していない弾薬も残っているからでした。モニターの記者が「ホットな」劣化ウランの戦車砲弾を見つけたのはここでした。

 この焼けた矢は、放射線メーターの針を「レッドゾーン」一杯まで押し上げました。

 同様の劣化ウラン製の戦車砲弾は1991年にサウジアラビアでも回収されました。その砲弾は、アメリカ陸軍の放射線チームによって1時間に260〜270ミリラドの放射線を出しているのが見出されました。彼らの安全メモには、「非放射線従事者への現行の制限値[アメリカ原子力規制委員会の]は、1年当たり100ミリラドである。」と記載されていました。

 アメリカでは、また世界の多くの国でもそうなのですが、一般人の被曝制限値は1年に100ミリレムです。核関連産業に働く労働者は、その20〜30倍高い被曝線量が制限のガイドラインになっています。

 劣化ウランの弾丸は、核燃料および核兵器の製造で残った低レベルの放射性廃棄物を材料にして作られています。それは、鉛の1.7倍の密度があり、装甲を貫通するときに簡単に発火します。しかし、45億年の半減期−−それはわれわれの太陽系の年齢です−−をもって汚染の跡を残すので議論の的になっています。


この戦争で使われた劣化ウランは少なかった?

 最初の湾岸戦争では、アメリカ軍は320トンの劣化ウランを使いました。そのうち80パーセントは、A-10攻撃機によって発射されました。いくつかの見積もりは、1,000トン以上の劣化ウランが今回の戦争で使われたことを示唆しています。しかし、約75トンのA-10劣化ウラン弾が使われたというペンタゴンの水曜の情報開示は、今回のイラク戦争では劣化ウランの総量が相対的に少ないことを意味しています。

 最初の湾岸戦争後に開発されたアメリカ軍のガイドライン−−その後かなり緩められましたが−−は、劣化ウラン弾が命中した戦車の50ヤード以内に近づくすべての兵士にガスマスクと全身防護服の着用を要求しています。今日、兵士たちはどんな劣化ウランも避けて通るように言われていると言います。

 「もし戦車が劣化ウランで破壊されたら、そこにはあなたがたが吸い込みたくない酸化物があるかもしれません。我々はいかなる被曝も最小限に、少なくとも可能な限り低いレベルにしたいと思っています。」と、ペンタゴンの保健衛生の最高責任者であるマイケル・キルパトリック博士は、戦争が始まる直前の3月14日にジャーナリストたちに話しました。「もし誰かが劣化ウランで破壊された戦車の中に入る必要があるなら、劣化ウランから防護するためには、ほこり防止のマスクとハンカチがあれば十分です−−それに後で手を洗うことです。」

 戦場のみんなが劣化ウランの扱いに熟達していなければならないというわけではありません、とキルパトリック博士は述べて、彼のより大きい懸念は放射能ではなく劣化ウランの化学毒性の方だということに特に注意を喚起しました。「我々が心配していることは、住宅建設現場のペンキに入っている鉛のようなものです−−子どもはそれを取り上げてなめたり食べたりする−−。つまり、手に持ったり摂取したりすることなのです。」

 アメリカでは、厳しいNRC規則は、劣化ウランのいかなる扱いにも適用されます。劣化ウランは法律上は低レベル放射性廃棄物処理場に捨てることができるだけです。アメリカ軍は、劣化ウランを扱うために1ダース以上ものNRCの免許状を保持しているのです。

 イラクでは、劣化ウランは装甲目標だけに発射されたわけではありませんでした。

 戦争の最後の何日かのビデオ映像は、バグダッドのダウンタウンにあるイラク計画省をA-10 −− 30ミリ・ガトリング銃を発射する目的のために作られた航空機−−が機銃掃射しているのを映しました。

 この場所を訪問すれば、数ダースの使用済みの放射性劣化ウラン弾と特有の二つの白いバンドがついたアルミのケースを見つけることができます。それは、建物のタイルや後ろのコンクリート壁に穴を開けました。命中箇所の劣化ウラン残留物は、ガイガーカウンターでは比較的低いレベルで、バックグラウンドレベルの12倍でした。


熱い弾丸

 しかし、手の指のサイズの弾丸それ自体が−−略奪者や職員達が歩き回っている地面に散らばっているのですが−−、イラクでモニターの記者が測定した中で「最もホットな」物体で、バックグラウンド値の1,900倍のレベルでした。

 この地点は、米軍が警備している共和国宮殿の正門からちょうど300ヤードのところです。そして、この宮殿はイラク再建の仕事をしているアメリカ人およびイギリス人の職員の宿舎になっています。

 「放射能だって? ええ、本当に?」と計画省の前長官は尋ねます。彼は先週上着とネクタイを付けて戻ってきたときに、汚染のレベルがガイガーカウンターで爆発的レベルを記録するのを聞きました。

 「昨日、1,000人以上の従業員がここに来ました。そして、彼らは放射能について何も知りませんでした。」と元政府高官は言います。「我々はアメリカ政府の言うことを信じなくなり始めました。私の認識では、占領軍は汚染を取り除き、彼らが侵略した国の国民の世話をしなければならないということです。」

 アメリカ軍当局は、ほとんどの人々が日常生活の中で自然放射線あるいは「バックグラウンド」の放射線を浴びているとよく言います。例えば、アメリカ大陸横断の往復飛行をすれば宇宙線の放射から5ミリレム被曝します。また、胸部X線撮影をすれば数秒間のうちに10ミリレムの被曝をします。

 米国防総省は、劣化ウランは「劣化(減損)」していて、普通のウラニウムより40%ほど放射能が低い、従って危険性も低いのだと言います。

 しかし、劣化ウランの専門家たちは、劣化ウランが戦場で燃えた後にどうやってアルファ粒子を出す有毒な酸化物のほこりに変わるのかに、最も関心があると言います。アルファ線は皮膚で簡単に止めることができる一方、一度体の内部に入れば、柔らかい細胞組織の中で細胞を破壊することができることを研究結果は示しています。ネズミについての一つの研究は、筋肉細胞組織の中の少量の劣化ウランがガンのリスクの増加に結びついているとしていますが、人体の健康への影響については結論に到達していないままです。

 イラク戦争が始まる5日前に、米国防総省当局者は、1991年の湾岸戦争の間に劣化ウランに最も激しくさらされた軍部隊の中の90人の兵士たちに今のところいかなる健康上の障害もなく、また彼らは医学上の詳しい緊密な調査のもとにおかれ続けている、と言いました。

 しかし、発表された文書および過去に軍当局が行なった告白は、約900人のアメリカ人が劣化ウランに曝されたと評価しています。ごく一部分が観察されたにすぎません。そして、それらの人々の間で、今までに一件のリンパ腺ガン、および一件の片腕腫瘍の診断事例があります。以前の記事で報告されたように、モニター紙は、深刻な健康上の障害の責任が彼らの劣化ウラン被曝にあると追及しているアメリカ人元兵士らに話しを聞きました。


劣化ウランをめぐる政治

 しかし、劣化ウランの健康に関する懸念は、しばしば政治にすっかり包み込まれてしまいます。サダム・フセインの体制は、1991年に使われた劣化ウランを、イラク南部での癌発生率と先天的欠損症の急上昇を引き起こしたと非難しました。

 そして、ダン・ファーヒーによれば、国防総省はしばしば事例を誇張します、−−戦場での劣化ウランの有効性という点で、あるいは健康問題は存在しないと宣言して。ダン・ファーヒーは、1990年代中頃以降両方の側からのカン高い議論をモニターしてきた元帰還兵の代弁者です。

 「劣化ウラン弾は、ペンタゴンの宣伝家によって推奨されるような慈悲深い驚嘆すべき兵器でも、おおげさな反劣化ウラン活動家が非難するような大虐殺の道具でもありません」と、ファーヒーは3月のレポートで書いています。そのレポートは、「科学とSF:劣化ウラン兵器をめぐる論争における事実と神話とプロパガンダ」というものです。

 それでもなお、ワシントン州選出のジム・マクダーモット下院議員(民主)は−−彼は戦争前にイラクを訪問した医師ですが−−、アメリカ国内の劣化ウラン汚染の健康と環境に関する調査研究と除染を要求する法案を先月議会に提出しました。彼は、劣化ウランが先天的欠損症の増加にかなり関係があるかもしれないと言います。

 「劣化ウラン弾の健康および環境への影響よりも、劣化ウラン弾使用の政治的影響の方がより明白だ」とファーヒーは書いています。「人々が住み、働き、食物を育て、水を引くような場所に大量の有毒物質をばらまくことは愚かなことであると、科学と常識は指示しています。」

 イラク政府がこの問題を周知させたために、イラク人は劣化ウランを心配しています。

 「それは、重要な関心事です。...でも我々はそれについて何も知りません。どうすれば私は家族を守ることができるのでしょうか?」と、イラク人の医師であるファイズ・アスカールは尋ねます。「我々は戦争は終わったと言っています。しかし、未来は何をもたらすのでしょうか?」